10話 使い方と事件
「部屋まで案内するからついて来い。カボチャ野郎は庭でもいいだろ?」
3人は建物内を歩きながら会話している。
「ヒトとして扱ってくれよ…………」
シャトーの主であるキャロルはジャックを人として扱う気はないようだ。
「冗談だ。ちゃんと部屋も用意してある」
「案外優しいんだな。ありがとう」
「案外とはなんだ!案外とは!私は慈愛に満ちてるだろ!讃えろ!讃え祀れ!」
「キャロル様は我等が神ですぅ〜」
ジャックはワザとらしく褒めた。
「貴方達ホント子供よね」
カトレアが茶々をいれる。
「「うっさい!!」」
「口を揃えて……やっぱり子供ね」
「「だから子供って言うんじゃなああああい!!!」」
人間らしいやり取りができてジャックはとても満足そうな顔をしている。
「話している間に着いたぞ。ココがお前達の部屋だ。鍵は渡しとくからどっちか選んどけよ。後で声をかけるからそれまではゆっくりしとけ。トイレとかに関しては部屋に見取り図が置いてあるからそれを見ろ」
廊下の1番奥の2部屋へ案内された。
「じゃあ私はこっちで」
カトレアがそそくさと部屋に入って行った為、ジャックは部屋を選べなかった。
「フフ……残念だったなカボチャ頭。選べなくて」
キャロルが不敵な笑みを浮かべている。
「別にいいさ。執着ないから」
「フフフ……まぁがんばれ。じゃ、また後で」
てくてくとキャロルは部屋を後にした。
「さて、オレも入るとするか」
ジャックは貰った鍵で部屋のドアを開けた。
窓もベットも机椅子もあるが、埃が1センチは積もっている。
「掃除道具もないしな…………そうだ!」
ジャックは埃を手でかき集め、6つに分けて袋に入れた。
「これでよし。で後は……あった」
ジャックは机に置いてある見取り図を見た。
(この館は3階建て。ここは本館2階の1番端の部屋……庭もある!)
「じゃあやってみるか」
ジャックは袋を持って階段を降り、庭に出た。
庭はしっかりと手入れされおり、植物が輝いている。
「よいしょっと」
ジャックはゴミ袋を3つずつ重ね、人ぐらいの大きさのオブジェを2つ作った。
「さて…………練習だ!」
ジャックは能力を発動し、片方のオブジェにいつも通りの炎を発生させた。
オブジェはいつも通り灰と化した。
「じゃあ今度は!!」
残ったオブジェにも炎を放った。
炎は先程よりも小さく高温をイメージして発生させた。
オブジェは激しい光と音と共に瞬く間に燃え尽き、大量の灰が残った。
「高温にすればするほど灰が多くなって早く燃え尽きるのか。じゃあ低温にして試したいが……もう無いしな」
灰だけが残り、その灰も風で何処かへ飛んでいってしまった。
「また今度にするか…………ん?何だ?」
頭の中で前回とは違う声が聞こえる。
((カボチャ頭聞いてるか!さっさと本館3階の私の部屋に来い!カトレアはもう来てるぞ!早くしろ!))
キャロルの声だ。恐らく能力によるものなのだろうとジャックは推測し、駆け足で指定の場所まで行った。
【本館3階 キャロルの部屋にて】
「すまんキャロル!遅れた!」
息を切らせながらジャックは謝罪した。
「遅刻だぞ。カトレアの横に座れ」
すでにソファにはカトレアがコーヒーを飲みながら足を組んで座っている。
カトレアは黒いシャツにジーンズのカジュアルな服装をしている。
ジャックは言われた通りその横に座った。
「能力の研究も程々にしなさいね。いつ副作用が出るかも分からないんだから」
「分かってるが、やっぱり練習が必要だと思ってな。ところでその服は?」
「普段着よ。いつまでもライダースーツのままじゃ変でしょ?」
「話は済んだか?私が話してもいいかな?」
キャロルが呆れ顔で言いながら反対側のソファに座る。
「ああすまない。で?どうしてここに集まったんだ?」
「理由は簡単だ、ジャック。君には我らが『レジスタンス』の一員になってもらいたい。もちろん強制はしないが」
キャロルはジャックに告げた。
「あーそのレジスタンスってのは何だ?」
「ここに来る前に見ただろ?ディバイ地区の現状を」
「確かにヒト達は幸せそうじゃなかったな」
「そうだろう?2年前突如放棄され、人間扱いされなくなった人々が幸せなわけない。その現状を変える為のレジスタンスだ」
「そう聞くと参加以外にないが、具体的にはどうやって変えるんだ?」
キャロルはコーヒーを一口飲んで話を再開した。
「この国は軍の最高指揮官が政治をしていて、さらにギャング達と繋がってるんだ。それを民衆に確信させ、今の政府を失脚させるんだ」
「失脚させてからはどうするんだ?」
「最高指揮官の弟に政治を任せる。あの弟は人権を重んじる人格者だからな。うまく問題を解決できるだろう」
「なるほど……賛成だ。オレもレジスタンスに入れてくれ」
「もちろんだ。ようこそレジスタンスへ、ジャック」
キャロルは立ち上がり、ジャックと握手を交わした。
「ちなみにカトレアはどうなるんだ?」
「私は所属済みよ。じゃないと君を連れて行く理由がないじゃない?」
確かにとジャックは頷く。
「じゃ今日は解散、各自部屋に戻って朝まで過ごしてくれ。また呼ぶから」
「じゃあ私は戻るわ。おやすみ」
カトレアは部屋から出て行った。
「それじゃあオレも」
ついていくようにジャックも部屋から出ていった。
「なかなか複雑なヤツを連れてきたわね、カトレア」
キャロルは1人だけの部屋でほくそ笑む。
新たな出会いと同じ日に、犯罪集団では事件が起こっていた。
【ノウリミット 某所】
そびえ立つ摩天楼の何処かのビルの最上階に、バースデイアリスのメンバーが何人か集まっていた。
「なぁタトル。暗殺担当のトュイー兄弟が帰ってねぇけどどう思う?」
金髪の派手な少年がはきはきと話す。
「あー……多分カボチャ頭と戦いになって負けたんじゃないか?」
スキンヘッドで筋肉質な男は首を傾げながら答える。
「まぁ後でラビに聞けば分かるか。でさ、マーチヘア。そいつと戦ったんだろ?ぶっちゃけ強いの?」
「俺の前でそいつの話をすんじゃねぇ…………」
マーチヘアはイライラしながら殺意剥き出しで答えた。
「そんな顔すんなよ。ご自慢の髪型が乱れるぞ?」
「うるせぇぞグリン…………」
七三分けの髪を直しながら嫌そうに話す。
「いいじゃん!次は倒せるって!」
「いい加減しにないと殺………………」
「大変だ!ボスの娘がどこにもいない!」
ドアを勢い良く開け、慌てて入ってきた男は叫ぶ。
「「「なんだと?」」」
三人はは口を揃えて言った。
「どこにも居ないんだ……一緒に探してくれよ!」
「それは不味いな……ボスに知られる前に探し出さなきゃ……」
「私の娘が逃げ出したんだって?ナイト?」
上等な帽子を被った紳士が冷たく言う。
「ハッター様すみません!」
ナイトと呼ばれる小さい男は咄嗟に謝る。
「謝ってる暇があるなら全員で探しにいけ!!今すぐに!!」
「「「「はい!」」」」
事件が起こった
ボスの娘が居なくなったという事件が。