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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
イツキの春休み
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3人会と投石機実演

 4月17日、ヨシノリ(執行部副部長・マサキ公爵家次男)の家(ラミルにある別邸)に泊まることにした、エンター(執行部部長・伯爵)とクレタ(化学部部長・イツキ親衛隊隊長・男爵家次男)は、記録ノートに各々の活動や想いを綴る為、夕食後ヨシノリの部屋に集まっていた。


 イツキに伴われラミル正教会へ行った3人は、イツキ(リース様)の祈りにより使命と力を授かり、初めは驚き戸惑ったが、各々使命を果たそうと誓い合い、自分たちの活動を記録すると決めていた。


 ノート第1章のテーマは、リバード王子を今年の上級学校の入学試験で合格させることだった。

 リバード王子の従兄であるケン君も、共に合格させる為に頑張っている。


「王子のやる気が伝わるから、つい自分も力が入るよね」(ヨシノリ)

「そうそう、解らないところはきちんと質問されるし」(エンター)

「ここまでは順調だけど、毎日勉強漬けだと精神的に参るんじゃないかな?」


朝から夕方まで勉強しているリバード王子のことが、少し心配になってきたクレタは、カリキュラムの組み合わせにも、もう少し工夫が必要だと考えていた。


「明日の午後は、剣の練習もしてみたらどうだろう?」


クレタがそう言うと、エンターもヨシノリも賛成して、明日と明後日は1時間だけ剣の練習をすることになった。


 そして3人は、前回の書き込みから今日までの出来事を、各々用紙に記入していく。それをクレタは持ち帰りノートに清書することにした。



 翌18日の午前、クレタはもう1冊のノートを取り出して、2人の友人に説明した。


「これは、イツキ君のことを綴るために用意したノートだ。主人公はイツキ君!きっとこれからイツキ君は、僕たちの想像も及ばない様々な経験をしたり、人々を助けたり、そうだなぁ……歴史を創っていくと思うんだ。その物語を僕はそっと綴っていきたいと思う。そこでエンター、ヤマノの決着はどうなったのか教えてくれ。君は昨夜、明日の朝話すと言っただろう?」


そう言ってクレタは、既に書き込まれている部分を2人に見せた。そこにはイツキが語った過去の活動や、上級学校に入学してからの、風紀部選挙のことパルのケガを治したこと、春大会での優勝、1日王宮体験のこと等が綴られていた。




「ええぇーっ!ヤマノの帰り道に、そんなことがあったんですか?」(ヨシノリ)

「それじゃブルーニとドエルは、既に警備隊に捕まっているんだな?」(クレタ)


「ああ、そうだ。詳しく話すからよく聞けよ。そしてクレタ書いてくれ」


エンターはヤマノの帰り道で起こった全てのことを話し始めた。

 ギラ新教の大師ドリルの馬車と遭遇したこと、森でブルーニたちと対戦し、イツキはブルーニの肘から下を切り落としたこと、でもそれはイツキ君なりの気遣いからしたことだったこと、帰り道に魔獣を捕まえたり、薬草を採取したことを、身振り手振りで感情を込めて話した。


「ああ、忘れてた……ラミルに帰ってから直ぐに冒険者登録した……3人で……」


「はあ?冒険者登録したんですか?」


信じられないという顔でヨシノリはエンターに視線を向ける。


「在校生が登録して大丈夫なのか?それに……3人とも貴族だろう?」


クレタは上級学校の学生が冒険者登録するなど、聞いたこともないぞと言いって、呆れた表情でエンターに問う。


「俺たちは貧乏貴族だからいいんだよ!俺もヤンもイツキ君も領地無しだし」


クレタとヨシノリは、そんな訳ないだろうと首を振りながら顔を見合わせて『いやいや貴方は執行部部長ですよね!』と心の中で激しく突っ込んだが、既にやらかしたことはしょうがない。


 そんなこんなで盛り上がりながら、3人は誓いを新たにするのであった・・・





 ◇  ◇  ◇


 19日午前、イツキはラミル郊外の軍の演習場に来ていた。

 午後から行われることになった、レガート式投石機(仮名)のお披露目の前に、広い場所での実験と計測をするために、せっせとレンガを積み上げて建物を模したり、橋に見立てて材木を置いたりと、技術開発部のメンバー同様、イツキも忙しく動き回っていた。


 ここは主にレガート軍の武器の演習や、新しい兵器の実験を行ったり、建設部が素材実験をしたり、軍の新人訓練に使われたりする場所で、縦横2キロメートルの広大な敷地内には、広場はもちろん丘やトンネルや宿舎などがあった。


 新人訓練生たちは、きっと技術開発部のお偉いさんの子息なのだろうが、軍の関係者でもない子どものイツキが、新人とはいえ軍人である自分たちに「レンガはここに置いてください」などと、お願い(命令)するのが気に食わなかった。


「なんだあのガキ、関係者でもないくせに生意気な奴だ」

「やめろよ、技術開発部といえば大尉クラスだって頭を下げるところだぞ!」

「キレイな面して邪魔なんだよ!」

「この作業が終わったら、ちょっと可愛がってやろうぜ!」

「やめとけよ!あいつが偉いさんの子どもでなけりゃ構わないけどな」


レンガ積みの作業をしながら新人訓練生の数人が、指をボキボキ鳴らしながら、こそこそと悪巧みをし黒いオーラを放っていたが、投石機の設置場所の確認をするため、イツキはその場から離れていた。




 1回目の投石試験が開始された。

 試作の投石機はイツキの設計図の半分の大きさの物と、3分の2の大きさの物が作られていた。ポムで作ったベルトは強度や張力の違う数種類が用意されており、飛距離や威力の違いを確認するため試験を数回行う。

 今日は試作機なので平地で行い、成功したら丘や斜面でも対応できるように改良していく。


「よーし!想定内の飛距離だ。どうだろうイツキ君?」


「そうですね・・・飛距離はいいと思いますが、的に当てる為には張力が常に安定するよう工夫が必要ですね。例えば、ここに印を付けて、ここまで引けば50メートル、もう少し後ろの印まで引けば70メートルと、実験を重ねてみてはどうでしょう?もちろん、ポムの合成は同量で統一し、必ず均一に伸ばしたベルトにする必要があります」


イツキは1回目の投石実験で思ったことを、シュノー部長に伝える。


「それは結構難しいなあ・・・ベルトの性能で飛距離も変わるが、ベルト毎に実験して印を付けておくのはどうだろう?」


シュノーはポムを均一に加工するのが大変だったので、イツキの提案の代替案を出してみる。


「はい、それは良いアイデアですねシュノーさん。ベルトを交換する度に試投し印を付け直せばいい。それなら誰でも管理出来そうです」


イツキは自分が無理難題を押し付けていたのだと気付き、ちょっと反省しながら頭を掻く。ポムはまだまだ実験が必要だと分かっていたのに。


「耐久性もどのくらいか分かってないからなぁ・・・」


技術開発部科学開発課のイリヤード課長は、寝不足で目の下にくまを作った顔で、フーッとため息を吐きながらポムのベルトを見つめる。どうやら連日不眠不休で仕事をしていたようである。

 設計図を届けてから3日しか経っていない・・・「イツキ君が春休みの間に仕上げるよ」と言っていたから、そうとう無理をしたに違いない。


「ハハハ、また差し入れに行きます・・・」


イツキは申し訳なさそうに言いながら、ポムの張力を上げて2回目の投石実験を行った。3度目は限界までポムベルトを引いてみた。2つの投石機の3分の2の大きさの方が100メートルを越えた。

 その1投は的である橋を模した材木を、見事に粉砕した。威力も充分である。


「「「成功だ!やったー」」」


演習場に居た全ての関係者から、成功を喜ぶ歓声が上がり拍手が起こった。

 

 イツキの依頼で、石の大きさや重さは、ほぼ同じになるよう加工して貰っている。

 石の形が丸くなるよう加工してくれたのは、レガート軍の建設部隊で、注文通りになるよう尽力してくれたらしい。どうりで見学人が多いと思った。


「どうだイツキ君、建設部隊が作った石は?まあ我々も武器が作れると証明出来たし、現場で石の加工をするのは、うちの隊員に任せてもらおう」


ラミル建設部隊のヨッテ隊長が、イツキの背後から声を掛けてきた。振り返ったイツキに、褒めてくれよという顔をして近付いてくる。


「素晴らしい加工です。安定して的に飛んでいくのは、この丸さのお陰です」


イツキは積んであった丸い石を触りながら、ヨッテ隊長にお礼を言う。いろいろな部署の大勢の人たちの尽力によって、今日の実験が行えるのだと改めてイツキは感謝する。




 休憩時間になったのでイツキは材木の破損状況と威力を見るために、橋を模した場所まで歩いてやって来た。

 すると金髪の髪をベリーショートにカットした、20歳くらいの新人訓練生が、嬉しそうな顔をして近付きイツキに質問をした。


「君は技術開発部の人の子どもなのか?」

「いいえ、僕は開発部の人の子どもではないよ。それが?」

「ああそうなんだ・・・悪いけどさ、相談があるんでちょっと来てくれる?」


 男はニヤリと笑うと、前方の仲間たちに手を上げて何かを合図する。

 男の顔の回りに黒いオーラを見たイツキは、身構えながら男の後ろをついて行く。

 材木の橋から数メートル進んだ所で、他の新人訓練生たちも寄ってきた。


 如何にも何かを企んでいる感じの新人訓練生たちを避け、数歩進んだ所でイツキの体が突然視界から消えた。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

投石機についての詳しい説明をしておりません。

次のシリーズで、実際に使用するシーンが入る予定です。その時に説明文を入れます。

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