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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
イツキの春休み
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深夜会談

 いったい何時到着されたのだろうか・・・当然のことのようにバルファー王はリビングに入ってこられた。

 エントンさんが驚いているので、王様の単独行動なのだろう。

 確かにエントン秘書官の屋敷は、レガート城の外門から歩いて5分だが、こんな時間に御一人で何してるんですか?とイツキは問いたかったが、これまでの対策の話の流れを考えると、バルファー王の登場は都合の良いことではある……


 夕方秘書官は、薬不足について王様に説明に行き、それはイツキ君とフィリップ伯爵から来た案件だと報告した。そしてイツキ君とは、エルビスの父親暗殺の件について、ヤマノで少し話したと言った。

 いつもなら深夜まで残業しているはずの自分が、執務室に居なかったので、感のいい王様はもしかしてと思われたのだろうとエントンは推察した。


「済まないが、もう一度始めから要点を話してくれないかエントン」

 

皆の驚いた顔に満足して、バルファー王は空いていた椅子に座りニッコリと笑う。

 バルファー王の後から入ってきたリンダが、お茶の支度をして入室して来たところを見ると、リンダと少しばかり話をし、中の様子を窺いタイミングを見計らって、入室してこられたのだろうとイツキは思った。


「それでしたら、イツキ君が説明した方が早いでしょう。イツキ君、いいかな?」


「はい、構いません。それでは僕の提案する解決法と対策について申し上げます」


イツキは国民に薬草不足を明らかにすることと、国民と上級学校が一役かって解決する案を話した。尚且つラミル上級学校は、行商人にレガート国で薬草を卸させる為に特産品作りを担う。その特産品の販売権利を貰いたいと、要点だけをイツキは分かり易く説明する。


「我々では全く思い付かない案だなエントン」


イツキの話を聞いて、ものの1分も経たない内に、王様は半分呆れた感じで呟く。


「そうなんです。イツキ君が上級学校の学生であるから思い付けるのだと思いますが、誰も損をせず、国にも国民にも、上級学校にも利益になる話です。結局領主にも負担させず、上級学校に注ぎ込む資金は減る訳ですから、文句はないと思われます」


エントンは頷きながら、イツキの案を不利益のない案だと認める。




「問題は特産品だが・・・具体的にはどの様な物を作る予定なんだいイツキ君?」


バルファー王は遊具と聞いて、ワクワクする気持ち半分でイツキに問う。


「まだ試作品も完成していません。ポムという物を使うのですが、レガート国が独占して商品開発すれば、暫くは莫大な利益をもたらすことでしょう。行商人が他国で特産品を売り歩けば、宣伝費も掛からず大陸中に広まります」


「成る程……良いアイデアだが、まだ試作品も出来てないの?本当に?」


イツキにしては、曖昧なことで販売権利をどうのこうのと言っているのが、どうも腑に落ちないバルファーは、優雅な所作……ではなく、ごく普通にお茶を飲みながらイツキに質問した。


「僕の予定では、とっくに完成しているはずでしたが、何故か……のんびりと部活する時間が無かったもので……」


自分だって好き好んで未完成にしている訳ではないと、立ち上がりカップにお代わりのお茶を注ぎながら、珍しくちょっと剥れて愚痴を言う。

 バルファー王はゴホゴホと咳き込みながら、上級学校の学生であるはずのイツキは、【奇跡の世代】を指揮したり、ヤマノの件で奔走したりしていたのだから、時間が無いのは当然ではないかと反省する。

 そもそもイツキ君には、子どもらしく普通に楽しく学生生活を送って欲しいと、王命まで下そうとしたではないかと思い出し恥じ入る。



「王様、僕が選んだ道ですから気にしないでください。つい甘えが出ました」


申し訳なさそうな顔をしたバルファー王を見て、自分が愚痴を言うなんて……なんでそんなことを言ったのだろうかと動揺する。そしてイツキは恥ずかしそうに直ぐに謝った。

 そんなイツキの姿を、隣に座っていたフィリップは、微笑ましそうに眺めている。

 決して名乗り合わなくても、認めなくても、無意識の内に王様(父親)や秘書官(伯父)に、イツキは心を許しているのだろうとフィリップは思う。


「いやいや、ギニ副司令官も言っていたが、イツキ君は何でも出来るから、つい周りが期待をかけ過ぎてしまうと言っていた意味が分かったよ。反省反省……」


バルファー王は謝りながらも、イツキの言った《甘えが出ました》という言葉を聞いて嬉しくなる。それはエントンも同じで、うんうんと嬉しそうに頷いている。

 




「遊具の試作品は出来ていませんが、ポムを使ったレガート式投石機の試作品は、19日には完成する予定です。王様もエントンさんも見学にいらしてください」


イツキは少し顔を赤くしながら、ポムがどんな物か実際に見て貰おうと、投石機の試技にお誘いする。


「ええぇっ!今度の新型兵器もイツキ君が作ったのかい?」


そう言えば今日決裁した書類の中に、技術開発部から提出された、飛び地ロームズに防衛のため配置する、新型兵器の試作品に関する報告と予算書があったが、新型兵器とは、イツキ君が作った投石機だったのかとエントンは驚いた。


「いいえエントンさん。レガート式ボーガンは自分で全て作りましたが、投石機は設計と指導だけです。製作は全てシュノー部長にお任せしています」


イツキはさらりと普通に説明する。しかし、部活で作るはずの遊具を後回しにし、学生としての大切な時間を犠牲にしてまで、新型兵器を先に作ろうとするイツキに、申し訳ないと言うか、感心すると言うか、やはり普通の学生の考え方とは全然違うと、複雑な気持ちになってしまうエントンとバルファー王である。


「いやいや、イツキ君の考案だから、普通はイツキ君が作ったものということになると思うが……う、うん……」


キョトンとした顔で、考案者より製作者を優先する考えのイツキに、それ以上の言葉が出てこないバルファーである。


『いろいろ苦労させてすまない』と、14歳の学生であり、血の繋がった家族であるイツキに心の中で叫び、ガバッと抱き締めたい衝動に駆られる父と伯父だった。

 そして奇跡の人であるリース(聖人)様に、自国の防衛の手伝いをさせている現実に、土下座したいくらいの気持ちになるレガート王と秘書官だった。





「あの~実はポムですが、僕が実用化に成功したのは確かですが、元々ポックという樹液の特性を発見したのはブルーノア教会です。ですから、ラミル上級学校で得る純利益の半分を国に納めると言いましたが、国から教会に寄付して欲しいのです。残った半分の利益の半分、すなわち4分の1はレガート国立病院の建設に、残りの4分の1をラミル上級学校の取り分にと考えています」


イツキは済まなそうな顔をして、王様にお願いしてみる。


「では、ポムで作る全製品の純利益の半分を、ブルーノア教会に寄付して欲しいと言うのだな?」


「えっ?いえいえ違います。上級学校で作った遊具だけです。これから色々作りたいと思っていますので」


イツキは両手をフルフルと振って、そうではないと訂正する。


「それでも、レガート国だけが得をすることになると思うのだが……病院の建設も、ラミル上級学校の取り分も、結局レガート国の取り分だ。教会は遊具の利益の半分だけでは足りないだろう?それにイツキ君の取り分は何処へいったんだい?」


自分の発明なのに、全てをレガート国や学校や教会に利益を与えようとしているイツキに、それではいけないだろうとバルファー王は思った。

 イツキがそこまでしてくれるのは、自分がレガート国の王子だからなのだろうか?それともリース(聖人)としての考えなのだろうか?

 教会で育ったイツキには、全く欲が無いのも分かるような気もするが、それではレガート国王として甘え過ぎであるし、ズルいと他国から思われても反論さえ出来ない。


 

「僕の取り分?僕の?・・・う~んと・・・僕は技術開発部のシュノー部長も、研究者の皆さんも大好きなんです。技術開発部の方たちであれば、レガート国のみならず、必ずランドル大陸で生活している全ての人の為に、役立つ家庭用品や器具や便利用品を産み出してくれると、心から信じています。それに研究にはお金もかかります。他国で良からぬことに利用されるのは絶対に嫌なんです」


イツキは思いもよらなぬ問いに困惑する。困った表情で考えながら、自分の思っていたことを、ありのままに答える。


「王様、そのような話はリース(聖人)様であられるイツキ君には必要ないかと思います。王様がイツキ君、又はブルーノア教会に謝礼として出来ることをなされば良いかと」


戸惑うイツキを見て、助け船を出すようにフィリップが自分の考えを国王に伝える。


「あ、ああ、そうだな。とにかく……イツキ君の作る遊具が完成するのを、楽しみに待つことにしよう。なあエントン」


「は?あーはい、そうですね」


バルファー王に突然話を振られたエントンは、少しぼんやりした感じで答えた。

 この時エントンは、イツキの思考は常にランドル大陸全体に向けられているのだと、改めて思い知った。

 決してレガート国のことだけを考えているのではなく、目の前のことだけを考えるのでもなく、未来に繋がる利益や世界の人々の幸せを常に考えている。

 リース様という存在の尊さと偉大さ、奇跡の人と呼ばれ、何人もリースの行いを妨げてはならないと、ブルーノア教会が定めている意味が、ようやく理解できた気がするエントンである。

 己の思考などイツキの足元にも及ばない……次元の違う思考なのだと気付かされた。




 コンコンとドアがノックされ、リンダが夜食をワゴンに載せて運んできた。

 時計を見ると、いつの間にか午前4時である。そう言えばお腹が空いてきたような気がする4人である。

 フワーッと広がるシチューのいい匂いに、イツキのお腹がグーっと盛大に鳴った。


「さすが育ち盛りだね」とエントンは笑いを堪えて言うが、王様もフィリップもクスクスと肩を震わせて笑っている。イツキは恥ずかしそうに頭を掻くが、その可愛い14歳の少年の仕草を見た、リンダを含めた4人はほっこりと癒されていく。



 夜食を食べた後は、話題がエルビス(エンター先輩)の父親、殺されたエンター伯爵の事件へと移った。

 カイ領の貴族に怪しい者がおり、偽王時代に貴族に取り立てられた経緯からすると、ギラ新教徒である可能性が強く、内乱終了後にどういう手段で免職を免れたのか、調べる必要があるとイツキは語った。


「俺が王になって始めにしたこと、それは、偽王によって高位官職を与えられた者の罷免と、爵位の剥奪だった。後日しっかりと調査し、不正や誤りのなかった者には、改めて爵位を授け直したはずだ」


驚いたと言うか、納得できないという表情でバルファーは腕を組んだ。


《 この時一旦剥奪された爵位を、真面目な働きと勤勉さから、再び爵位を与えられた貴族の中に、ルシフの祖父だったダッハ男爵が居た 》

 

「その命令に従わず、爵位を維持した者が居たとは……必ずや裏があるでしょう」


エントンはヤマノでイツキの話を聞いて、直ぐに【王に目】にカイ領の調査すをるよう指示を出していた。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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