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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
イツキの春休み
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イツキ、技術開発部に行く

 翌16日午前8時前、「おはようございます!」と元気に守衛さんに挨拶をして、イツキは技術開発部の扉を開いた。

 今日は約束通り、レガート軍の新型兵器の設計図を持って、シュノー部長に会いに来たのだった。 


 1番乗りかと思って廊下を進むと、各部屋の予想通りの光景を目にして、イツキはフーッと息を漏らす。

 どうしてここの人たちは時間の観念が無いんだろう・・・?

 徹夜で技術開発部に泊まっていたと思われる数人の研究者を、「暖かいスープとパンを持ってきましたよ」と言って起こしていく。


『シュノーさんも結婚前は、いつもこうだったな』と2年前を思い出し苦笑する。


「あれ、イツキ君?今日はどうしたの?なんだかいい匂いがする……」


科学開発課のイリヤード課長40歳は、長椅子の上で毛布にくるまり、焦げ茶の瞳を擦りながら目を覚まし、クンクンと匂いを嗅いでバスケットに顔を近付ける。

 

「今日は新型兵器の設計図を持って来たんです。さあ、焼きたてのパンも有りますので、談話室で皆さんと食べてください。徹夜は身体に悪いですよ!」


「いやー、判ってはいるんだがポムがねえ……色々と楽し過ぎて時間を忘れてしまうんだよ。はぁ~っ……」


イリヤード課長はグレーの短髪を掻きながら、ちょっと恨めしそうにイツキを見る。

 どうやら1日職場体験でイツキが持ち込んだ、ポックの木を化学変化させて作ったポムに、夢中になっているようである。

 それについては、イツキにも若干の責任がある。


 途中の部屋でも研究者を起こし、パンとスープの匂いで談話室まで引き摺っていく。




「イツキ君、設計図を見せて貰ってもいいかなあ?」


談話室でパンをパクつきながら、技術開発課のテーベ課長30歳が、青い瞳をキラキラさせながら尋ねてきた。

 テーベ課長とは、レガート式ボーガンの開発を共に手掛けていたので、イツキは課長をよく知っていた。

 新しい武器に興味津々で、早く図面を見たくてウズウズしている姿が子どものようで、イツキは思わずクスリと笑ってしまう。


 テーベ課長は、レガート式ボーガンの量産に尽力した功績が認められ、王様から準男爵を賜っていた。

 新しい武器である投石機も、テーベ課長が主体で製作されることになるだろう。


 イツキは徹夜組4人の前で、真新しい設計図を広げた。



 テーベ課長は長身の体を図面の前で折り曲げて、舐めるように図面を見ていく。

 すると、イリヤード課長がテーベ課長の金髪頭を、両手で退かせる。


「お前、邪魔だ!見えないじゃないか」(イリヤード)

「何をするんですか!これはうち(技術開発課)の案件ですよ」(テーベ)

「何を言う……イツキ君がこの武器にはポムを大量に使うと言っていた。すなわち、うち(科学開発課)の仕事でもあるんだよ!」


2人の課長はお互いの頭で、図面の上の陣取りをやっている。

 普段は仲が良いのだが、新しいことに挑戦する時や、共通の仕事をする時はケンカになりやすい……


「ハイハイ2人とも、イツキ君が呆れてるじゃないか。大人なんだからさ!それからイツキ君、差し入れで甘やかすのは止めてね。癖になるから……」


シュノー部長は談話室に来るなり、2人の部下の小競り合いに割って入ると、テーブルの上の図面をスッと引っ張って、違うテーブルの上に置き直す。


「いやいや、部長にだけは言われたくないですけど」(テーベ)


「そうです、散々イツキ君に差し入れして貰ってたじゃないですか!しかも、しかも可愛い奥さんまで紹介して貰ったくせに・・・くそー」


この場に居る全員(独身4人)を代表して、40歳独身のイリヤード課長が、拳を握り締め、上司に怒りを込めて抗議する。


「ええぇーっ?そうだったかなぁ・・・」(シュノー)

「「「「…………」」」」


開いた口が塞がらない4人の独身徹夜組は、イツキが注いだスープのおかわりを飲んで癒され、仕方なく怒りを納めた。





「イツキ君、これって飛距離はどれくらいだろう?石の大きさはどのくらいまで大丈夫?人員はどのくらい必要なのかな?」


少し遅れてやって来た、国境警備隊のヤマギ副隊長が図面を見てイツキに質問する。

 国境警備隊としては、飛距離が最も重要である。設置場所を何処にするかで、敵との距離も測れるし、最も有効な場所から攻撃できるのだ。


 レガート軍は、これまで投石機を持っていなかった。

 しかし、ハキ神国軍が投石機を使って、隣国カルート国のロームズの町を壊滅状態にし、占領したのはたった2年前のことであり、ハビルの町を占拠したのは1年前である。

 ハビルの住民は、投石機で町を壊されたくなかったから降参した。


 現在はレガート国の飛び地となっているロームズに、ハキ神国軍の投石機を打ち負かす兵器が必要なのは、緊急的課題でもあった。

 レガート軍としては、侵略行為に出ることは全く考えておらず、自国を守る自衛手段としての兵器が必要であった。それも、こちらの方が圧倒的に強い兵器を設置しておきたいのだ。


 ハキ神国とカルート国は不可侵条約を結んだが、レガート国とハキ神国は結んではいない。よって、いつ侵攻してくるか分からないのだ。

 まあ、2度の戦争でハキ神国は国力を落としているので、直ぐに攻めては来ないだろうが、戦争の裏にギラ新教が暗躍している現在、どうなるのかは予想しづらい。




「僕の計算だと100メートル以上なのですが、ポムの強度や土台の高さで、飛距離は大きく違ってきます。何度も実験をしなければならないでしょう。それに、少し高い場所に設置して、遠くまで飛ばなくても正確に近くの的(敵の投石機)に当てる方が有効かもしれません」


イツキは図面を見ながら、土台部分とポムを使う部分を指差しながら説明する。


「そうだな、建物や橋などを破壊するならこの大きさが必要だが、敵の投石機を破壊するだけなら、小型でも確実に的に当てられる方がいいだろう」


シュノー部長は、投石機の目的に合わせて大きさを変えることを提案する。


「だが1台は、脅しの意味もあるので、この大きさの物も欲しいところだ」


昨年2度目のハキ神国のカルート国侵攻の時、ロームズに行っていたヤマギ副隊長は、ハキ神国軍の投石機を実際に見ていた。

 ロームズの町は平坦な場所が多い分、侵攻し易く攻撃も簡単そうだった。



「出来れば小高い丘を人工的に作り、そこに数台投石機を配置し、国境との境には堀を造り水を溜めます。堀があればそこを避けて進軍してくるので、進路の選択が限られ、嫌でもこちらの望む道を通るしかありません」


イツキは住民や兵士が死ぬことを望んではいない。投石機はあくまでも侵攻を止める為の物だと考えている。


「そこを攻撃するという訳か・・・まあ小さな町だから、堀も難しくはないだろう。出来ればカルート国の協力を得たいところだな・・・」


ヤマギ副隊長は、イツキの堀に水を溜めるという作戦に内心とても驚いていた。レガート国で堀があるのは、500年前の戦争の時にカルート国との国境に築いた出城にだけで、その出城も今は無い。

 ヤマギ副隊長は驚きを表情には出さず、イツキの言う小高い丘を造り、堀を巡らす作戦を実現させようと本気で考えてみる。


「備えあれば憂いなし・・・鉄壁の防御をすることで、攻撃しても無駄・・・又は攻撃しても負けると思わせる。戦わずして勝つ!ロームズは、難攻不落の町にすればいいのです。その為に必要な兵器なら、僕は喜んで作ります」


イツキはロームズの町とロームズの人々を思い出しながら、自らの考えをはっきりと皆に告げる。


「いいねぇイツキ君!僕も賛成だ。我々が作った兵器でたくさんの人が死ぬのは嫌だけど、戦争を回避するための兵器なら、作りがいがあるというものだ」


技術開発課のテーベ課長がイツキの話に同意しながら、ロームズの地図を持って来た。そして出来上がった投石機を配置すべき場所に印を付ける。


「堀ならハキ神国側の、ここからここまでは必要だろう。街道側は小型の投石機又はレガート式ボーガンが撃てる、発射台や発射口を装備した城壁のようなものを造れば完璧だよ。こちらの武器が強力なら、そんなに高い壁は必要ないだろう」


科学開発課のイリヤード課長も、地図に堀と攻撃型の壁?が必要な場所に線を引いていく。なんだかランドル大陸最強の町になりそうである。




 まあ、普通は絶対に無理なのだろうが、ロームズの町は小さかった。人口8000人で広さは……上級学校の敷地(丘と職員居住区を含む)の5倍くらいしかない。

 ランドル山脈側から攻撃されることはないだろう。ハキ神国は山脈側から攻撃しようとして、魔獣に襲われて撤退した苦い歴史がある。

 そうなると、守るべきは3方で良い。2方に堀を、街道側に壁を造れば、本当に完璧である。


「おいおい!先ずは投石機を完成させるぞ。堀と壁の件はヤマギに……レガート軍に任せる。試作の小型機が出来たら連絡するよ。さあイツキ君、試作機の木製部分は2分の1で作るから、ポムの強度を教えてくれ」


シュノー部長は半分呆れ顔で、どんどん本題から発展(脱線)していく話を戻し、設計図を確認し始める。早速製作に取り掛かるようである。

 倉庫の材料を確認するよう部下に指示を出し、留め具や関節部分はテーベ課長に任せることにし、シュノー部長は、各パーツの大きさを2分の1にした、試作機用の図面を書き始めた。




 イツキはイリヤード課長と共に科学開発課に移動する。

 科学開発課では既に、ポムの強度表をテーブルに広げて、これまで行っていなかった張力の実験に取り掛かっていた。

 ポムで作るのは、ベルト、関節部分や木の先端の補強材である。


「皆さん仕事が速いですね……」


イツキはいつの間に……と驚きながらも、自分が設計した投石機の為に、全力で取り組んでくれていることが、本当に嬉しかった。

 イリヤード課長は、投石機で使用するベルトの為に、平らなポムを作り出していく。


 イツキは製作を手伝いながら、いつか兵器などではなく、ポムを使って生活がより便利になる物や、遊び道具を作り出したいと心から思った。

   

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話では、イツキがエントン秘書官の家に行きます。

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