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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
イツキの春休み
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ヤマノ領の決着 後編

本日、ヤマノ領の決着 前編と後編の2話をアップしています。

途中残酷な表現を含みますので、苦手な方はご注意ください。

 今回の主犯である者たちに下された処分は、ダレンダと長男カスナーとダッハは、ヤマノ領内にあるソンヤ村に行き、命の泉で【神の神判】を受けた後、マサキ領のアサギ火山にある修道会に送り、鉱山の鉱夫として死ぬまで労役を科すというものであった。


 命の泉で【神の神判】を受けるとは、ソンヤ村にある泉の水を飲むことである。

 正直者がその水を飲めば10年寿命が延び、悪人が飲めば3ヶ月以内に死ぬと、泉の側の石板に書いてある。

【神の神判】の真実は、泉に住む寄生虫が極まれに、飲んだ人間の体の中で羽化し、成長しながら臓器を食い荒らすという、想像しただけでも恐ろしい罰を、泉の神が悪人に下すというものである。


 バルファー王は、先のクーデターで王や王妃たちを暗殺し偽王を操った首謀者たちが、【神の神判】があるとは知らず泉の水を飲み、偽王諸とも苦しみ抜いて死んだことを知り、許し難い重罪を犯した者には、必ず【神の神判】を与えることにしている。




 ギニ副司令官とキシ公爵が取り調べた結果、毒による領主暗殺に関わった者は他にいなかったが、リバード王子暗殺未遂に手を貸した元男爵と、共謀した準男爵2人が捕らえられた。


 ちなみにエントン秘書官に、国王に対する異議を申し出た者はいなかった。そんな命知らずは当然いないと予想されていた。

 



 イツキの同級生でありブルーニの片腕の1人であったルシフの父ボンドン男爵は、先代がレガート王家より男爵位を賜っていたので、爵位を剥奪されることはなかった。

 もちろんバルファー王に爵位を返還する手続きをしなかったので、処分はバルファー王に任された。


 ボンドン男爵は、ダレンダ元伯爵の下で働いてはいたが、ダッハ元男爵と違い、大変頭のきれる男だった。

 悪事の証拠を残さず、自らは汚れ仕事をせず、上手く立ち回りダレンダの信用を得ていた。

【王の目】が今後も監視につくだろうと分かってはいたが、ギラ新教の教えは、貴族でいなくては守れない。貴族の地位がなくては、レガート国をギラ新教徒の国にすることが出来ないのだ。


 ボンドンは領地を持っていなかったので、暫く大人しくしておき、時期をみて屋敷をラミルに移し、大師ドリル様の指示を待つことに決めた。


 大師ドリルは、ヤマノ領での活動拠点を、頭のきれるボンドンの屋敷にしていた。

 その屋敷はボンドンの本宅ではなく、貴族とは名ばかりの貧乏男爵から、借金のかたに奪った屋敷だった。名義は貧乏男爵のままにしておき、ギラ新教の活動のみに使用されていた。

 ボンドンがその屋敷の管理を任せていたのが、自分の片腕であり、剣の達人であるグラフだった。



「グラフ、間もなく大師ドリル様がヤマノ領に入られる。お前は如何なる時も大師ドリル様を御守りしろ」


ボンドンはヤマノ侯爵の葬儀の朝、グラフにそう言い渡してヤマノ正教会へと向かったのだった。

 レガート軍の取り調べを受けたボンドンが、屋敷に戻ったのは葬儀の翌朝だった。

 急いでギラ新教の活動拠点である屋敷に使用人を向かわせると、片腕であるグラフの姿は消えていた。そして、グラフの使いだという者から手紙が届けられ、その手紙には暗号で《国境まで護衛します》と書かれていた。

 恐らくヤマノ領に入られた大師ドリル様は、ヤマノ領の異変に気付かれ、グラフを伴って国境を目指されたのだろうとボンドンは理解した。


 

 バルファー王は、当然ボンドン男爵がギラ新教徒であると知っているが、キシ公爵の判断により、ギラ新教徒の動向を探らせるため、泳がせておくことにした。

 まさかこの時は、このボンドンこそが、レガート国内でギラ新教徒を纏めてゆく存在になるとは、本人のみならず、バルファー王側の人間も気付いてはいなかった。






 葬儀から7日後、弔問に訪れる者もほぼいなくなったので、新領主エルトは領内の元貴族全て(伯爵からナイトまで)を順次呼び出し、これから自分とヤマノ領のために尽くすかどうかを問い質した。

 当然貴族であり続けたい者たちばかりなので、忠誠を誓いエルトに頭を下げた。



 これまでエルトに対し、バカにした態度をとったり、前領主やエルトが進めようとしていた改革案に反対した者たちは爵位を1つ落とされ、協力的だった者は元の爵位を賜ることが出来た。

 もちろんこの機会に、不正を働いていたり、治める土地の領民を苦しめていた者たちは、【王の目】に証拠を突き付けられ、爵位剥奪のまま警備隊に引き渡された。


 古参であったルビン坊っちゃんの父親シンバスは、伯爵から子爵へと格下げされ、お付きのホリーの父親ドラスも、子爵から男爵へと格下げされた。

 ヤマノ侯爵家から失った信頼の代償は、想像以上に大きかった。

 

 結局、ヤマノ侯爵領にあった伯爵家(3つ)は、全て降格された。

 ブルーニの家は領主に没収され、親族の爵位も剥奪されたまま戻らなかった。




 18日早朝、白亜のヤマノ侯爵邸は、朝日を浴びて眩しいくらいに輝いていた。

 正面玄関には、侯爵の家族、家令、侍女長、警備隊長と使用人たちが、ギニ副司令官の見送りのため整列してた。 


「ギニ副司令官、何から何までありがとうございました。本来なら領主がすべきことなのに……亡くなった主人も、これで安心して眠れると思います」


リベール夫人は涙ぐみ、ギニ副司令官にお礼を言いながら深く頭を下げ、美しい所作で礼をとった。


「ヤマノ領は貴族の数が半数になり、臣下が好き勝手出来なくなったと思います。これからは、若い2人を支えて新しい命をお守りください」


ギニ副司令官は、優しい声で語り掛け、笑顔で礼を返した。


「ギニ副司令官、最後まで本当にお世話になりました。私も出来るだけ早く、王様に謁見をお許し頂きたいと思います。どうぞ秘書官エントン様、キシ公爵様にも宜しくお伝えください。それから、このヤマノ領を救ってくれたイツキ君に、これを渡してください」


新領主エルトは、ギニ副司令官に深々と頭を下げた後、黒い艶やかな革で作られた、ヤマノ侯爵家の家紋入りファイルを手渡した。


「これは?見ても良いですか?」と問うギニ副司令官に、エルトは笑顔で頷いた。

 ファイルを開くと、上質の紙にイツキに宛てた、とんでもないことが書かれていた。

 ギニ副司令官は、思わず大きく目を見開き息を呑んだ。


 そこにはこう書かれていた。



 ***** 爵位授与証 *****


 キシ領のキアフ・ラビグ・イツキ子爵に、ヤマノ領の伯爵位を授ける。


 領地としてレガート大峡谷を任せるが、住民がいないので統治には及ばない。

 よって納税の義務はない。


 イツキ伯爵が必要とする時は、レガート大峡谷の調査及び開拓を認め、全ての利権を一任する。


 【ヤエス】の伯爵位名を与え、キアフ・ヤエス・イツキと名乗ることを認める。


 1098年4月11日   ヤマノ領主  エルト・エス・ヤマノ


 *  *  *  *  *



 ギニ副司令官は、困った顔をしたキシ公爵アルダスの顔が一瞬頭を過ったが、レガート国の法律では、個人は3つの爵位を同時に持つことが出来ると定められていた。

 普通メインの爵位の他は、名誉爵位みたいなものなのだが、残念ながらキシ公爵は、イツキに領地を与えていなかったので、イツキは堂々とヤマノ領の伯爵を名乗ることが出来るのだった。



『あちゃー!これは一波乱あるな。まあ今回のイツキ君の活躍を考えれば、あって当然の褒美であるし、領主が爵位を与えることに何も問題はない。う~ん……イツキ君も断れないだろう……問題はアルダスと、イツキ君を養子にしたがっていたエントンだな』


 ギニ副司令官は、にこにこと嬉しそうに微笑む新しい領主と、リベール夫人の笑顔を見て、きっとイツキ君がリース(聖人)であると知っているからこそ、未開のレガート大峡谷を託したのだろうと察した。


 レガート大峡谷・・・そこは未開の地であるが故に、どんな資源が眠っているのかさえ分からない土地である。

 イツキ君であれば、ブルーノア教会や、ヤマノ領に利をもたらすことがあっても、決して自分の為に動くことはないと信じているのだろう。

 いや、もしかしたら、ブルーノア教会に対して……いやいや、神に対しての恩返しなのかもしれない。



 ギニ副司令官は笑顔で皆に手を振ると、軍の馬車に乗り一路王都ラミルに向かった。


 イツキがレガート大峡谷で、希少な薬草が多数群生しているのを見つけるのは、上級学校の3年生になった9月、秋大会の課題として足を踏み入れた時である。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

仕事と体調の都合で、これから更新が、3日に1回のペースになることがあります。

出来るだけ頑張りますので、応援よろしくお願いします。


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