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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
不思議な新入生 編
9/116

ナスカの災難

 放課後、急いで報告書を書いたイツキとナスカは、執行部室に向かう渡り廊下を歩いていた。

 上級学校の渡り廊下は、屋根付きの木造で、雨が入り難いように1メートル位の高さの木の壁が両側にあり、その上は屋根まで空いているが、2メートル間隔で柱が屋根まで伸びている。幅は意外と広く教室棟の廊下と同じくらいある。床の高さは浸水を避けるため50センチは地面より高くなっている。


 執行部室は2つある教室棟の、一般教室棟ではなく特別教室棟の3階にあった。

 特別棟の1階は、5時限目の選択コースの【軍人コース】と【警備隊コース】の講義に使用される。教室は100人収容できる大教室が2つと、50人収容できる中教室が2つある。

 2階は、選択コースの【文官コース】と【経済コース】の講義に使用される。教室は大教室が1つと、中教室が3つと資料室が2つある。

 3階には、【医療コース】の講義に使用される中教室が1つと実験室があり、大教室より広い図書室もある。その奥に目指す風紀部室と執行部室があった。


 ちなみに選択コースの【開発コース】は、主に物作り系で音が出るため、グラウンドの近くの工作棟で講義がある。


 イツキは初めて歩く特別棟をキョロキョロしながら歩いている。

 放課後なので1階にも2階にも人影はないが、3階は実験室を部活で使っているようで、数人の学生が実験をしていた。

 最近本をゆっくり読んだ記憶のないイツキは、少しだけ覗いた図書室の広さと蔵書の多さに感動し、帰りに早速本を借りようと思うのだった。


 図書室に感動して幸せな気持ちに浸っていたイツキは、とうとう風紀部室を通り過ぎ執行部室の前まで来て、向き合わねばならない友の顔を思い浮かべ、フーッとゆっくり息を吐き覚悟を決めた。




「失礼します。1年A組、ナスカ・マナヤ・ホリスです」

「同じく1年A組、キアフ・ラビグ・イツキです」


2人はやや緊張しつつ、氏名を名乗りながら執行部室のドアを開けた。


 執行部室は資料室と同じくらいの広さで、南側の大きな窓から一般教室棟がよく見えた。入って直ぐの所に、10人くらいは座れそうな大きな楕円形の会議用のテーブルが置いてある。

 その奥に向かい合わせに置かれた机が6つあり、その少し奥に、入り口側向きに置かれた他の机より大きな机が1つあった。

 その1番奥の机に座って、書類を読んでいるエンター先輩は、ちらりとイツキたちを見た後、立ち上がって話し掛けてきた。


「意外と早かったね、報告書はそこの書類箱に入れておいてくれ。大体のことは2年生のパルから聞いている。君たちは巻き込まれただけのようだが、それにしてもナスカ君、君は怖いもの無しのようだね。パルが面白い奴だと絶賛していたよ。まあ掛けたまえ」


エンター先輩は、自らも会議用のテーブルに腰掛け、イツキたちにも座るよう促す。


「俺はどうも我慢が出来ない性格のようで、つい余計なことを言ってしまうんです」


ナスカは悪びれる様子もなく、笑いながら答えている。


「ナスカ君は、理不尽なことが許せないだけなんですけど」


イツキはナスカの方を見ながら、弁明するように付け加えた。


「そのようだね。いやー良かったよ。今年の1年にも骨のある奴が居て。僕もこの部屋にヤマノ出身以外の学生を迎えたかったのでね」


「・・・」


エンター先輩は、とても楽しそうにナスカの顔を見ながら、何やら怪しい方向に話を進めていく。


「1月20日は、執行部と風紀部の選挙なんだが、知ってるかな?」


エンター先輩の問い掛けに、ナスカは目を泳がせて、視線を合わせないようにする。


「上級学校の執行部と風紀部は、立候補と推薦で候補者が決まるんだが、僕はナスカ君を推薦しようと思っている。昨年の執行部には、ヤマノ出身の者が3人居たんだ。6人定数の執行部の半数がヤマノ出身だった為、様々な弊害が起こった。今年もヤマノ出身の者が5人立候補すると聞いている……僕はヤマノ出身の横暴な振る舞いを、何とかしたいと痛感していてね……いや、本当にありがとう」


「・・・?」


ナスカもイツキも、何に対して「ありがとう」と感謝されたのか分からず、ポカンとした顔でエンター先輩の話の続きを待った。




 実は執行部と風紀部の権限で、問題を起こした学生にペナルティーを《3》まで与えることができるそうで、今日の事件で問題を起こした側の、2年生のドエルとお付きの2人にペナルティー《1》を、1年生のルシフにペナルティー《2》を与えることにしたそうだ。

 ドエルとお付きの2人に与える理由は、学生規則3条にある〔選挙に立候補しようとする者を妨害してはならない〕に基づくものであり、それプラス、無抵抗のナスカに暴力行為をしたことが加わる。

 ルシフに与える理由は、学生規則5条にある〔無抵抗な者を、剣・弓等の武器を使い傷つけようとしてはならない。ケガを負わせた場合、厳しく罰する〕に基づくものである。

 

 ペナルティーとは、上級学校の罰則の1つである。

 本来は学校側が与えるのだが、執行部と風紀部には、1個人に対して《3》だけ与えられる権限があった。

 《10》で退学、《5》以上で期限付き停学、《4》で3日間の謹慎、《3》で6日間の奉仕作業、《2》以上は半年間選挙の推薦が受けられない。但し、暴力行為でのペナルティーは半年間立候補もできない。

 これらのペナルティーは、前期は1~6月で累積され、後期は7~12月で累積される。

 よって、前期で《3》のペナルティーがあっても、後期は《0》からのスタートとなる。


 重要案件として、ペナルティーについては、厳しい協議が行われる。

 教員が与えた場合は、校長と教頭の了承を得なければならず、執行部と風紀部が与えた場合は、教員会議に掛けられる為、執行部と風紀部は、ペナルティーを与える根拠となる証拠や証言を、きちんと示さねばならない。

 

 今回エンター先輩の命令を聞いた先輩方が震えていたのは、ペナルティーを与える為の証拠集めだと判ったからだった。

 ペナルティー・・・それは出来るなら貰いたくないものであり、罰も与えられたくはない・・・成績とは関係ないが、ペナルティー《4》以上で、親が呼び出されることになっている。



 ドエルは既に新学期早々、寮の部屋割りを勝手に変更する問題を起こした。そこでペナルティー《1》を与えていたので合計《2》となり、2年のドエルと1年のルシフは、選挙前にペナルティーを貰ったので、今回の執行部と風紀部の選挙には出られないそうだ。

 よってヤマノ出身の候補者5人の内、2人は消えたことになるのだ。だから、殴られそうになったナスカと、剣でケガをしたイツキの功績?ということで、感謝の「ありがとう」だったらしい・・・


 なんだか素直には喜べない2人である。


「ところで、先程の推薦がなんとか・・・」


ナスカは、ペナルティーの話でごまかされた感じになっている、聞き捨てならない話の確認をする。


「ああ、あれね。だから前期の執行部役員に、ナスカ君を推薦することにしたんだ。1月15日から始まる選挙戦の応援は僕がするから、挨拶を考えておいてくれ。15日の午後が演説会だから。それから投票日の20日までは、できるだけ顔を売っておけ。この僕の推薦で負けることなど無いと思うが……」


 それが何か?的な物言いで、本人の了解もなく勝手に推薦って……有りなのか?と、ナスカは納得いかないのだが、断れそうな感じがしない上に、物凄くいい笑顔でエンター先輩は握手まで求めてきた・・・

 一旦視線を逸らしてもう1度先輩を見る……ウッ、笑顔度が増している……最早、逃げ道など何処にも無いのだと肩を落とし、半分涙目で握手をする(させられた)ナスカであった。


「どんまい!」


イツキはナスカの肩をポンと叩き、「ナスカなら適任だと思うと」と付け加えた。


「なんて友達がいの無い奴なんだ!」


ナスカは怒った顔はしているが、その瞳の中には、正義感とやる気が満ちていることをイツキは知っている。


「明日の放課後また此処で会おう!演説時間は5分以内だ。原稿を仕上げて来いよ。ご苦労。ああ、それとイツキ君、この後隣の風紀部室に寄ってね」


 上機嫌な先輩とは反対に、とても疲れた顔をしてナスカとイツキは執行部室を出ていった。



 嫌な予感しかしないイツキだが、エルビス(エンター先輩)が自分の正体について何も言及しなかったので、もしかしたら気付かれていないのではと、一縷の望みを残しながら風紀部室の前に立った。


 2人がノックをしようか迷っていると、中から金色の髪を短くカットし、長身で金色の瞳は鋭く、逞しい体型の先輩が出てきた。完全に武闘派タイプのようだが誰だろう?と、イツキが先輩を見上げていると、ナスカが嬉しそうに声を上げた。


「インカ先輩、お久し振りです。入試の時は色々アドバイスありがとうございました。お陰で入学できました」


「おう!ナスカか、首席合格しておいて、俺のアドバイスなんて必要なかっただろう。それよりナスカ、入学早々やらかしたそうだな?」


インカ先輩は、どうやら昼間の事件のことを知っているようで、ニヤニヤしながら嬉しそうな表情でナスカを見る。

 先輩の腕には、風紀部の証である赤いバッジが着いている。

 ナスカは困った顔をして、照れ臭そうに頭を掻きながら「俺がやらかした訳じゃありません」と反論する。

 

 インカ先輩は、隣に居るイツキに気付くと、ケガをした右手をいきなり掴んで、じろじろと様子を診る。


「大したことは無さそうだ。2人共早く中に入れ!そうか君がパルの奴が言ってた、疑惑のイツキ君だな」


『どんな疑惑?自分の正体についてなのか?』とイツキは不安になりながら、風紀部室に足を踏み入れた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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