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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
イツキの春休み
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ヤマノ領の決着 前編

ヤマノ領の決着は、外伝に書く予定でしたが、重要なことが含まれていたので

上級学校の学生に載せることにしました。

話が前後しますが、よろしくお願いいたします。

話が長くなったので、前後編に分けて同日アップする予定です。

 ヤマノ侯爵の葬儀が終了し、親族と臣下の高位貴族は埋葬を済ませ、白亜の屋敷へと向かっていた。

 ヤマノ邸へと続く坂道に差し掛かった時、一行の前進を遮るように、前方からギニ副司令官が部下数人を伴って現れた。


 新領主エルト・エス・ヤマノは馬車を止めて、窓から顔だけ出し頷くと、そのまま再び馬車を発進させた。

 親族の後ろに続く馬車を、1台1台確認するように止めるギニ副司令官は、中に乗っているヤマノ領の高位貴族たちの顔を見て言う。


「亡くなったヤマノ侯爵の遺言により、あなたは爵位を剥奪されました」と。


 なんとヤマノ侯爵、遺言で全ての領内の貴族の爵位を剥奪していた。

 何のことか分からない貴族に対し、1枚の紙を手渡す。

 そこにはこう書かれていた。



 * * * * * * *


  《 戒 告 書 》


(1) ヤマノ領の発展を妨げ、領主に毒を盛り暗殺を謀ったダレンダ元伯爵、並びにダッハ元男爵に協力したことは明白。

 主家を裏切る行為をした罪により、懲戒解雇すると共に、爵位を剥奪する。


(2) ただし、新領主エルト・エス・ヤマノに忠誠を誓い、新領主が認めた者には、新たに爵位を授けるものである。

   

(3) ヤマノ領主ではなく、レガート王家より爵位を授けられた貴族は、その判断を国王に一任する。よって、他の貴族と同等の処分を免れるものであるが、爵位を国王に返還し、新たに新領主より爵位を授かることも可能である。


   1098年4月9日 ヤマノ領主 ヤンギル・エス・ヤマノ



 ** ** ** ** **


 1098年4月9日 レガート国王バルファー・レガートは、ヤマノ侯爵からの届け出を受理し、謀反人の爵位剥奪を認めるものである。


 国王に異議ある者は、書面を受け取ってから3日以内に、秘書官に申し出ること。


 なお、【王の目】の調査により、ダレンダ元伯爵とダッハ元男爵2人の反逆者と、他の貴族との関係は調査済みである。

 2人の反逆者と共謀有り、又は共謀の疑い有りと報告が上がっている者が異議を申し立てた場合、再度厳しく調査し、その結果悪事が発覚した場合、一族諸とも爵位を剥奪するものなり。 


   1098年4月9日 秘書官 エントン・フバ・ビター侯爵



 * * * * * * *  



 ヤマノ侯爵邸に向かっていたのは男爵以上の貴族で、その数は20人くらいだった。

 ギニ副司令官とレガート軍の幹部たちは、馬車1台1台を確認しダレンダ元伯爵と長男カスナーを見付けると、馬車から引き摺り下ろし、直ちに縄を掛け捕らえさせた。


「何をする!貴様らごときがこの私を捕らえると言うのか?ふざけるな無礼者め!私は国務大臣の親族だぞ」


ダレンダは鬼のような形相で怒りながら、軍の幹部に暴言を吐く。


「私は第1王子サイモス様の教育係りだぞ!私に指1本でも触れてみろ、お前たちなど王妃様にクビにされるぞ!」


ダレンダの長男でありブルーニの兄であるカスナーは、剣を抜いて抵抗する。

 しかし、その行為がギニ副司令官の怒りを買い、レガート軍に剣を向けた反逆者として、痛い目に遭わされた上、必要以上に縛られることになる。




 馬車に乗って順番を待っていたダッハ元男爵は、大声で言い争うような声を聞き、いったい何事だろうかと様子を観るため馬車から下りた。

 すると視線の先で、レガート軍の幹部に捕らえられているカスナーが見えた。

 ダッハは身の危険を感じて、こそこそと逃げ始める。上手いこと他人の馬車の影に隠れるように移動し、坂の下へと逃れて行く。

『助かった』と思った瞬間、側面の林に待機していたレガート軍の精鋭たちに囲まれてしまった。


 指揮を執っていたのはソウタ指揮官である。

 その全く容赦ない捕らえ方を見ていた、後方に居た男爵たちは震え上がった。

 まあ、こそこそと逃げ出すあたり、自分はやましいと証明しているようなものである。


 ギニ副司令官から《戒告書》を渡され、領主の毒殺を知った貴族たちは、ダッハの容赦ない捕縛に対して、自業自得だと冷たい視線を向けた。

 そして「お前たちのせいで爵位が剥奪されたんだ!」と、叩き殺したいほどの怒りと怨みの念を浴びせた。

  



 他の元貴族たちは一旦ヤマノ侯爵邸に向かい、リベール夫人と新領主エルトとその妻カピラに、挨拶することを許された。

 しかし、既に貴族ではなくなった者たちは、これからのヤマノ領についての話し合いに参加する必要は無くなった。

 


 玄関前に整列するように並んだ元貴族たちは、真っ青な顔をして、新領主の挨拶を神妙に聞いた。

 その場に居た貴族全員を囲むように、レガート軍50名が配置され、怪しい動きがあれば、いつでも捕らえるつもりであると剣を構えていたからである。


「義父ヤンギル・エス・ヤマノ公爵は、ダレンダとダッハの手の者により、2年もの長き間毒を盛られた。そして一昨日、新たな薬物により瀕死の状態になった。しかし、奇跡が起こり義父は一命を取り留めた。国王様の命によりヤマノを訪ねられた秘書官様と、キシ公爵様が屋敷の者を調べられた結果、ことの次第が明らかになった。犯人は既に捕らえられ全てを白状した」


新領主エルトは、高位貴族だった者たちに向かって領主の死の真実を伝えた。

 その表情はいつもの穏和な婿ではなく、厳しい表情をした領主の顔になっていた。話す声も低い声で、腹の底から出しているのかよく響く大きな声だった。


 隣に立つリベール夫人も、悲しみに暮れ泣いている弱々しい未亡人ではなかった。

 目の前の臣下たちを睨み付け、絶対に許さないと憎しみのこもった視線を向けている。特に古くからヤマノ侯爵家に仕えていた古参の者たちを、唇を噛み締めながら睨み付けていた。

 その中にはルビン坊っちゃんの父であるシンバス元伯爵、ホリーの父であるドラス元子爵の顔が含まれていた。


 

 主の毒殺など知らなかった臣下たちも、リベール夫人から憎しみと侮蔑した視線を向けられ、誰も顔を上げることなど出来なかった。

 共謀していなくても、皆ダレンダ元伯爵とは良好な関係を保つようにしていて、その行いを止めることもなく、事勿れ主義的に協力し合っていたのだ。




 そこに、先にヤマノ邸に戻っていた秘書官が屋敷の中から現れて、冷たい声で告げる。


「秘書官エントンです。これから皆さんはレガート軍と警備隊から、領主暗殺に関わったかどうか調べられることになります。それから、今回の暗殺にギラ新教が大きく関わったという情報がある。一昨日、王様はギラ新教徒をレガート国の敵と認め、信者である貴族の爵位を剥奪する命令を下された。ダレンダもダッハもギラ新教徒だったと調べはついている。奴等は一昨日より、既に王様から爵位を剥奪されている」


 秘書官という大物の登場に、皆慌てて礼をとる。教会でチラリと姿は見掛けたが、大臣よりも偉い秘書官に自分から声を掛ける訳にもいかず、また、話し掛ける時間も隙もなかった。

【鉄の男】とか【王の懐刀】などと呼ばれている秘書官は、まだ歳は若いが【王の目】を指揮し、領主や貴族を取り締まっている、決して逆らってはいけない人間である。


 グレーの瞳は悪を許さぬ眼力で、鋭く皆を見定めるように厳しく向けられている。

 迂闊に目が合っては大変だと、下を向いたまま顔を上げることも出来ない。

 ギラ新教という名前を知っていた者、知らなかった者、全ての元貴族たちは、自分たちのこれからがどうなるのかと、恐怖心で一段と青ざめていく。


 バルファー王が直接ヤマノ領に介入している現実に、楽観的な言い逃れやごまかしは出来ないと、改めて思い知るヤマノ領の元貴族たちである。



 そこからは、レガート軍(ギニ副司令官担当)と警備隊(キシ公爵担当)が、1人1人をヤマノ邸の2つの部屋で取り調べる。

 尋問するのは【王の目】のメンバーで、ギニ副司令官の隣には超不機嫌なヤマノ侯爵の家令ルーファスが座り、キシ公爵の隣には新領主エルトが同席していた。


 取り調べを受けた者の中に、キシ公爵の顔を知らず、きちんと礼をとらない無礼者が数名おり(アルダスは見た目が怖くない上、綺麗系で実年齢よりかなり若く見える)、同席していた新領主エルトに「俺に恥をかかすつもりか!」とか「お前は2度と貴族にはなるな!」と怒鳴られ、ヤマノ侯爵邸の警備隊長に殴られていた……


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


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