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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
イツキの春休み
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イツキ、報告を受ける

 午後の勉強は、リバード王子の勉強をイツキが担当し、数学と他の科目の分からない部分を教えることになった。 

 普通に中級学校の3年生で、それなりに頑張ってきたケン君も、実力確認も兼ねてエンターから小テストをさせられていた。


 リバード王子は、中級学校の2年生の途中で学校を辞めた。正式には、命を守るための措置であり、1年早く上級学校に入学させる為、イツキによって辞めさせられたのであるが、まわり(王妃やサイモス王子側の人間、王宮の人間たち)には、魔獣の毒の副作用で勉強に集中出来なくなり、ラミル正教会病院で治療を受ける為に辞めたことになっている。



「イツキ先輩、夏休み前に2年生迄の勉強を終えて、夏休みから3年生の勉強に入る予定です。僕は頑張って合格したいのですが、どうしても数学が分からないのです」


リバード王子は溜め息をつきながら、目の前の数学の教科書を見て申し訳なさそうに自己申告する。

 元々数学が好きではなかったのに、益々難しくなっていく問題に、もはや問題の意味さえ不可解となっていた。


「リバード王子、数学は簡単ですよ。僕は国語や語学に比べたら格段に簡単だと思っています。数学って、深く考えたらダメです。何故?とかどうして?って考えず、パズルのように決まった所に、決まったピースをはめ込むだけなんです。ただ、謎を解くために公式を暗記するだけなんです」


イツキは事も無げにさらりと数学について語るが、リバード王子の反応は今一つだった。むしろ、もっと分からなくなったという顔をしてイツキを見る。


「そうですねえ、歴史を覚える時はストーリーがあって、時代や人物の前後も知って、1つの区切り毎に覚えますよね。すなわち、事実を暗記する学問なんです。しかし数学ってストーリーが無い……って思われがちだけど、そうじゃあないんです。数学は、難しいことを簡単に解ける魔法とか呪文みたいなものです」


「呪文ですか?・・・ではこれから公式じゃなくて、問題を解く呪文だと考えることにします。そう考えたらなんだかワクワクしますね」


リバード王子は複雑な表情をしながらも、だんだん声が明るくなってきた。


「では、この問題ですが、この問題を解く呪文は1つしかありません。たった1つです。呪文の言葉に従って、数字を入れてみましょう」


イツキのかなり変わった教え方に、隣で聞き耳を立てていたエンターとケン君は『それって本当に?』と首を捻っていたが、確かに全ての問題がとはいかなくても、呪文を思い出せば問題が解けると思えば、楽しいかもしれないと思った。



 しばらくイツキが数学の公式の説明をするが、その説明は「ある男Bは、ラミルからミノスまで、馬車と徒歩と馬では、どのくらいの時間の違いで到着するのかを、簡単に知る方法がないかと考えた。そして編み出した呪文がこれだ!」と話し始めた。


 呪文とは大変便利なもので、知っていれば謎(問題)が解けて得をする。

 呪文を唱えれば、実際に確かめなくても簡単に謎の答えを知ることができる。呪文(公式)は魔法の便利グッズでもあるとも言い出した。

 ただ、知りたい人には便利な呪文も、必要ない人には興味が湧かないだけである。

 自分が魔法使いだったら、使える呪文が多い方が優秀な魔法使いになれるのに、残念だと思わないリバード君?と、大真面目な顔でイツキはリバード王子に訊く。


「そうですね先輩!イツキ先輩は一流の魔法使いということですね。僕も頑張ります」


苦手意識の強かった数学が、なんだか好きになれそうなリバード王子である。隣で聴いていたエンターとケン君も、一流の魔法使いという言葉に反応していた。



 そこからリバード王子とケン君の、数学の理解力(真実はちょっと違う)は格段に上がった。とにかく【呪文を使って謎を解く】方式で、メキメキと得点が稼げるようになっていく。


 エンターは思った。


『イツキ君の頭の中って、どんなことも楽しいことに変えてしまうスイッチがあるのかもしれない。楽しいから覚えられる。じゃあ歴史はどうやって覚えているんだろう?是非質問してみたい』と。



 そんなこんなで勉強は順調に進んでいく。

 休憩時間には、ヤマノからの帰り道に、魔獣のピンクホビックの狩りをしたことを話した。次回はそれをさばいて貰って肉を売って馬車代にしたことを話し、その次はついでに薬草も採取したことを話し、次はドゴルに売りに行った話をしようと、イツキとエンターは決めた。

 リバード王子とケン君は、瞳をキラキラと輝かせて2人の冒険談を聞き入っていた。


 辛い勉強浸けの日々も、楽しそうな上級学校のイベントや行事を知ると、やる気が出てくる。

 残念ながらリバード王子とケン君は、上級学校の厳しさや汚さは教えて貰っていない。しかも教えているメンバーが、上級学校でトップの場所で活躍している者ばかりである。

 今は夢を見させておくべきだと、4人の先輩たちは優しく?思うのだった。





 ◇  ◇  ◇


 勉強会終了後、イツキは久し振りにラミル正教会病院で手伝いをすることにした。

 医師としてではなく、薬剤師として在庫の確認と不足している薬を書き出す。

 既に時刻は夕刻で薬剤庫も暗くなっていたが、書き出しは殆ど終わっていたので、イツキは主に薬草箱に書かれている名前と、中身の薬草が合っているかどうかを確認することにした。


 そう言えば、鞄の中に希少な薬草を採取して入れておいたのを思い出して、薬剤師のメースンさんに渡した。


「イツキ君、こんな希少な高価な薬草を何処で見付けたんですか?これ、買ったら金貨10枚はしますよ!手に入らなくて困っていたんです」


「そうなんですか?ヤマノからの帰り道の森の中です。群生している様子はなかったので、半分は残しておきました。今度、学校の薬草畑で育ててみようと思って、種を持って帰りました」


涙目で喜んでいるメースンさんに感謝されながら、2年前より随分と在庫が少なくなっているとイツキは気付いた。

 メースンさんは、薬剤問屋にも在庫が無くて、仕方がないのでドゴルに依頼を出すこともあると現状を教えてくれた。

 


 ハキ神国には、薬草を専門で育てている農家や村がある。

 レガート国の薬草栽培に関して言うと、ハキ神国に比べかなり遅れているだろう。

 確かパルテノン先輩の将来は、農業を研究し教える先駆者になる道だったが、のんびりと待っていては大変なことになるだろう。


 さすがのブルーノア教会も、農業指導までは手が回らない。

 しかも薬草は大きな利を生むのだ。

 教会は教会病院で使用する薬草の、30分の1も栽培出来てはいない。研究だってなかなか進んではいない。



 こんな所にも、ギラ新教の薬の買い占めの影響が出ていた。

 ギラ新教は、不足して値上がりするのを待って高く売り付けるのだ。

 レガート国内で不足が起こっているということは、国内で買い占めをしているギラ新教徒が居るということだろう。

 これは早急に手を打たなければならない案件である。




 午後9時、イツキはいつもの病院最上階にある小部屋で、不足している薬のリストを作っていた。

 すると、ヤマノからの帰ってきたフィリップが部屋を訪ねてきた。


「イツキ君、すまない……ギラ新教の大師ドリルを取り逃がした」


フィリップは憔悴した表情で、申し訳なさそうに頭を深く下げながら報告する。

 ヤマノの森でブルーニたちをヨッテに任せたフィリップは、単独馬を駆けさせヤマノへと引き返していたのだ。

 フィリップがヤマノに到着した時、大師ドリルらしき人物は既に【奇跡の世代】がマークしていた。


 最初に発見されたのは、ギラ新教徒だとは思われていなかった男爵家の前だった。

 念のために見張らせていて良かったと、【奇跡の世代】のリーダーであるキシ公爵は言ったが、その日の夕刻には、尾行のプロである【王の目】の尾行をまいて、あっさりと姿を消した。

 フィリップが到着した翌日、ヤマノ領からカワノ領へと向かう街道で、大師ドリルを待ち伏せていた【治安部隊】の3人が、斬られて重傷を負った。


【奇跡の世代】はヤマノ領内の貴族の動きを探っていたので、急遽領境を任されたのは【治安部隊】だった。

 指揮を執っていたソウタ指揮官が到着するほんの少し前に、大師ドリルは数人の信者を伴って現れ、【治安部隊】の3人と交戦となり、手練れの3人を斬ってカワノ領へと逃げ延びた。

 斬られた3人は、あまりの剣の腕に太刀打ち出来なかったと報告し、そのまま気を失ったらいし。


「では大師ドリルの剣の腕は、超一流ということでしょうか?」


「いいえイツキ君、領境に現れた集団(4人くらい)は、全員が同じ服を着ていたようで、誰が大師ドリルなのか分からなかったそうです。ただ、去り際に大師と言う言葉を聞いたとの報告がありました」


「そうですか…………実は僕が大師ドリルの馬車とすれ違った時、あまりに大きな悪意の持ち主である大師ドリルに、恐怖のあまり息が出来なくなり、体が震えて暫く動けなかったのです。あれほどの恐怖を味わったのは初めてでした。フィリップさんだから言えますが、今の僕が戦っても絶対に勝てないと思い知らされました」


イツキはあの時のことを思い出して、悔しそうにしながらも、強大な力を持った大師ドリルに、打ち勝てる力を早く身に付けなければと再認識するのだった。

 イツキの話を聞いたフィリップは、今後イツキを1人では、決して大師ドリルに会わせてはならないと心に刻んだ。


「イツキ君、どうか無茶はしないでください。今後ラミルを出る時は、必ず私をお連れください」


イツキから恐怖で体が震えたと聞いたフィリップは、正直大きなショックを受けた。

 神から授かりし力を持ち、剣も体術も天才級の腕を持つイツキが、恐怖で呼吸出来ないとか、どれ程の悪意の持ち主なのであろうか……?

 フィリップは心の中で神に祈った。『どうか早く大師ドリルが、レガート国を出ていきますように』と。



 明日は久し振りに軍学校で作戦会議がある。

 逃がした大師ドリルのことも、買い占められていく薬草の件も、明日の議題になるだろう。そして、ギラ新教徒を探し出す手掛かりになるかもしれない。


 イツキはこれからのレガート国と、ランドル大陸の将来が憂えてならなかった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

更新が遅くなってしまいました。


出張の帰りスーパーに寄ったら、飲料水コーナーに缶コーヒー5本で、ジャン○名作レジャーシートが貰える、キャンペーンをやっていた。

思わず爽やかな笑顔でバスケットボールを持っている、黒○君と目が合った!

いかん……帰るぞ!と心の中で叫んだが、5分間葛藤した後、私のかごの中には缶コーヒー5本と、レジャーシートが入っていた。

隣のコーナーでは、海賊王になる少年の船に乗っている、大好きなトナカイ君が、手提げ袋になって微笑みかけてきた。思わずスポーツ飲料を手に取ったが、ぐっと我慢してレジへと向かった。

なんという誘惑……恐ろしい……


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