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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
追う者、追われる者
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追う者、追われる者(5)

次話から新章がスタートします。


 フィリップたち3人は、気を失っている殺し屋3人をバシバシと……いや手っ取り早く起こし、逃げないように縛り上げていく。


「イツキ先生、こいつらラミルまで保ちますかねぇ?」


「ヨッテさん、死ぬ程の怪我じゃないよ。なんなら此処で傷口を縫ってもいいよ。手術道具は無いけど、針と糸はあるから。ああぁ……でも、感染症に気を付けなくちゃ、死ぬかもしれない。犯罪者って医者が診てくれるの?」


イツキはまあまあ?のケガをした3人を診ながら、此処で自分が縫った方がいいのではと、本気で思ったりするが、衛生面で問題はあるかなぁと考える。


「やめてくれ!俺たちを殺す気か!」(ビンチ)

「どんな拷問なんだ!医者を呼べ!私は伯爵家の子息だぞ!」(ブルーニ)

「どうして【王の目】が出てくるんだ!俺たちは上級学校の学生だぞ」(ドエル)


3人とも未だ現実が把握出来ていないようで、自分たちが犯罪者として捕らえられようとしていると、全く理解していなかった。


「イツキ君、コイツ等は留置場の医官が診るから心配要らない。まあ、恐らくレガート国の中でも、名医に入るだろうイツキ医師の方が腕は確かだが、コイツ等にはそんな価値も資格もないだろう?」


「そうですよねフィリップさん。うち(風紀部)のパルのケガが、あそこまで奇跡的に回復したのも、イツキ君が治療したからなんです」


ヤンがイツキの医師としての腕前を自慢気に話しながら、足を引き摺るようにして逃げようとするビンチに蹴りを入れる。


「「…………!!」」


ブルーニとドエルは驚いた表情かおで、お前がパルを回復させ、自分たちの計画を邪魔したのかと、キッと睨み付けるようにイツキの方を見る。


「ブルーニ、ドエル、これで会うのも最後だろうから教えてやろう。イツキ君はブルーノア本教会発行の医師資格と薬剤師資格を持っている。それにランドル大陸全ての国の言葉を話せるし書ける。それから……剣の腕は超天才だが、体術も天才だ。所詮戦う相手として、君たちとでは元々レベルも次元も違うんだ。まあ……俺たちだってそうだがな」


やや自虐的にエンターは話しながら、現実に気付いていない哀れな元学友に、ケンカを売った相手が何者なのかを教えてやる。



『エエェーッ!僕って剣の腕が超天才だっけ?みんな大丈夫?しっかりして!』


イツキは恥ずかしくて、ハハハと困った顔で笑いながら居た堪れなくなってしまう。

 そこで、きっと初めて真剣で戦ったエンターとヤンは、気分がハイになっているのだろうと分析して、気持ちを切り替えることにした。




 ガルロとヨッテは用意していた布で、仕方なく応急処置的に傷口をグルグルと巻き、傷口を止血する。

 そして、元学生の3人を逃げないように、きちんと歩けなさそうなビンチの両手に、ブルーニの左手とドエルの右手を括って繋げてゆく。ちなみにドエルの骨折は手当てなどしない。


「さあ帰るぞ!殺し屋の3人は警備隊に引き渡す。元学生の3人は、伯爵と子爵を襲った罪で裁かれる。平民の立場で貴族の当主を襲った罪は重い。【王の目】がしっかりと調査する」


フィリップはそう言うと、撤収作業に取り掛かる。


「どういうことだ?我々が平民だと?それに、元学生とはどういう意味だ?」


ドエルは痛みを堪えて平静を装いながら、フィリップに噛み付いた。聞き捨てならない言葉を聞いたのだから、当然の質問である。


 その問いに答えたのは、【王の目】のガルロだった。


「国王陛下は、レガート国全土のギラ新教徒の爵位を剥奪する王命を下された。よって、既にお前たちの親の爵位は剥奪され平民となった。そして、領主であるヤマノ侯爵暗殺の罪で捕縛された。お前たちは犯罪者だから、当然上級学校は退学させられる」



「「「…………!!!」」」


 ガルロの答えに固まったブルーニ、ドエル、ビンチの3人は、到底信じられないとガルロを睨むが、エンターとヤンが顔を背けて視線を合わせなかったので、それらが本当のことなのだと知り愕然とする。





  

 フィリップたちが罪人を連れて森を抜けた頃、イツキたちは先程の場所から少し行った所で進路を変更し、絶景の渓谷に辿り着こうとしていた。

 突然視界が開けて、明るい陽射しが降り注ぐ場所に出てきた。

 開けたその場所は、短い草のような苔のような植物が一面に生えていて、さながら黄緑色の絨毯のようであった。

 その先は崖のようになっていて、水の流れ落ちる音がする。

 崖の近くまで来ると、向こう岸との間に美しい虹が掛かっていた。


「うわーっ綺麗だな!」(ヤン)

「来た甲斐があったなー」(エンター)

「売れそうな物が、いっぱい有りそうだしね」(イツキ)


「はい?そこ?……イツキ君、もう少し感動しようよ……」


絶景の渓谷に来て、その美しさに感動しているというのに、感動するピュアな気持ちを、ぶち壊すようなイツキの発言に、フ~ッと息を吐いてエンターは脱力する。


 崖の下を覗くと、勢いよく崖の上から流れ落ちる滝の水が、ゴウゴウと音をたて水煙を上げている。落差50メートル以上はありそうだ。

 滝の幅は5メートルから8メートルくらいで、よく見ると滝の上には大きな池があり、そこから水が流れ出していた。池の水面は深緑色をしているので、意外と深いのかも知れない。

 森を育てた水は、ここから未開のレガート大峡谷へと流れていくのだ。


「うん?今、何か聞こえなかった?」

「何かって、どんな音だイツキ君?」

「人の声のようですが……気のせいかなぁ……」


イツキの問い掛けにエンターは耳を澄ますが、滝の音が大き過ぎて他には何も聞こえない気がした。・・・が、次の瞬間、この世の終わりかと思うくらいに悲痛な叫び声が、はっきりと聞こえてきた。


「ギャー!死ぬー!こっちに来るな!」

「助けてくれー!誰かー、誰か助けてー!!」


 何事だろうかと滝の下を覗くと、先程会った植物採集の冒険者2人が、鮮やかなピンク色の小型の動物に追い掛けられていた。

 その数3匹・・・もしかして、もしかすると、あれは魔獣?


「イツキ君、あれって金貨1枚?」

「ああそうだよヤン。あの鮮やかなピンクは魔獣以外では有り得ない」


いきなり魔獣ではなく、金貨1枚かと質問してきたヤンに、可笑しくて笑ってしまうイツキである。


「そんなことより助けなくていいのか?」


エンターもやや呆れ顔でヤンを見て、崖下に下りる道を探し始める。

 崖下に下りる道は直ぐ側にあり、イツキたちは急いでその道を下っていく。ただ、生憎と滑りやすい細道だったので、走ることは出来なかった。

 眼下で繰り広げられている追いかけっこが悲惨で、追い付かれると魔獣に尻を噛み付かれている……かなり痛そうで「ギャー!」と叫び声が滝に響き渡る。


「あれは恐らくピンクホビックだ。この前図鑑で見た。凄く可愛いけど獰猛で直ぐに噛みつくと書いてあった。内臓に毒が有るが、噛み付かれても心配無い」


もう少しで崖の下に到着しそうという所で、イツキは魔獣の名前と特徴を淡々と語る。


「そ、そうなんだ……さすがイツキ君、詳しいね」

「なんだヤン、怖じ気付いたのか?」

「そんな訳無いだろう!あれは金貨1枚だぞ!」


エンターに弱虫のように言われて、ヤンはむきになって言い返す。

 先頭を行くイツキは笑っていた。

 大好きな友人たちと、ワイワイ言いながら、子どもみたいに一緒にはしゃいでいる。ああ、なんて楽しいんだろうと。

(イツキはまだ成人していない子どものはずだが、時々自分を大人のように思っている節がある)



「我は闇を討つ」と、小さな神剣を取り出してエンターが叫ぶ。

 滝の音で冒険者には聞こえそうにないし、それどころではない様子なので、安心して神剣を大きくする。


「ちょっと待て!そう言えば、その神剣のことを訊いてなかった」

「ヤン、今はそれどころじゃないだろう!ほら、奴等がこっちに来るぞ!」


ヤンが視線を向けると、追う者(奴)ピンクホビック3匹、追われる者、冒険者2人が、今まさに眼前に迫っていた。

 イツキとヤンは慌てて剣を抜く。


「2人とも、毛皮が大事だから、首を狙うか心臓を狙うかでヨロシク!」

「「了解!」」


3人はバラバラになって、自分が狩るピンクホビックに狙いを定める。

 冒険者の2人は既に限界を越えたようで、イツキたちを見て安心したのかパタリと倒れた。

 ピンクホビック・・・その外見はふわふわのピンク毛で小さくて可愛いが、獰猛な奴等には、動く物(逃げるもの)を攻撃する習性があった。

 しかも肉食ではないので、噛み付かれるだけで、食べられることはない。そしてそんな情報を、イツキからエンターとヤンに伝えられることも無かった・・・


 時間にしておよそ3分、自分の仕事をさっさと終えたイツキは、冒険者のケガの具合を診ていた。

 その様子を横目で見たエンターは、ちょこまかと動く小型犬程の大きさのピンクホビックに、苦戦している自分に渇を入れ、まだまだ腕を磨かなければと思った。

 そして狩りをするのも、腕を磨くのにいいかも……と考えたりする。(決して金儲けの為ではない……はず?)


 ヤンはワーワーと無駄に大声を上げながら、やはり苦戦していた。

 ピンクの奴等の動きは早い。しかも跳ぶ。後ろをとられると尻が危ない・・・

 それに、これ程まで攻撃目標が低い敵?に、出会ったことがなかった。

 しかもイツキから、毛皮が大事だからと言われ、攻撃出来るポイントまで指示が出ている。


「ヤーン!動かなければ、追い掛けられないぞー!」


イツキから優しい?助言の言葉が飛んで来た・・・?何だってー!!


「そんな大事なこと、早く言ってよー!」と叫びながら、ヤンはピタリと動くのを止めた。するとピンクホビックも走るのを止め、ヤンの回りをウロウロするだけで、襲って来なくなった。

 ヤンはハーハーと苦しそうに息を吐きながら、膝に両手をついて、まるでマラソン大会のようだと思った。

 これは意外と鍛えられるなあ……たまには狩りをするものいいかも……と考えたりする。(決して金貨のことなど考えたりして……ない……よね?)


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ヤマノでの後始末(その後)を、外伝に書く予定です。

出来たらお知らせいたします。

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