表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
追う者、追われる者
82/116

追う者、追われる者(3)

流血シーンがあります。苦手な方は気を付けてください。

 イツキが満足そうに2枚目のクッキーを食べた終わった時、そのあまりにリラックスした態度に毒気を抜かれたブルーニは、確か自分が来ると思っていたと言ったイツキの言葉を思い出した。


「呑気にクッキーなんか食べている場合ではないと思わないのか?」


こんな森の中でおやつを食べている常識知らずのイツキに、腹が立つと言うより呆れながら、現実を分かっていない様子にイライラするブルーニである。


「なんで?だって、なかなかブルーニ先輩が来ないから、退屈しちゃって」


緊張感の欠片も無い感じでイツキは、クッキーの入った袋をブルーニの前に「美味しいですよ、どうぞ」と差し出す・・・


「はあ?私が来ると思って、待っていたとでも言うのか?」


自分たちが待ち伏せていた筈なのにと、イツキの言葉の意味がよく分からない様子のブルーニは、益々イラつきながらエンターとヤンに視線を向けて、どういう意味だと問うように睨み付けた。


「そうですけど……ほら、ここに剣があるでしょう!なんと、イツキ君も剣を持参してますよ。あれ?そう言えばエンター先輩……剣は?」


「ヤン、それって今頃訊く?」


エンターはヤンの問いに呆れながら、なんだか緊張感の無い会話になっていることに苦笑いする。

 元々剣は【奇跡の世代】の人が、決戦前に用意してくれることになっていた。


「お前たち、ふざけるのも大概にしろ!そんな強がりも、2度と言えないようにしてやる。覚悟するんだな!」


ドエルは、どうやら自分たちの行動は読まれていたようだと気付くが、明らかに自分たちの方が有利であると状況判断をして語気を強める。


「ブルーニ様、俺はヤンって奴を殺ります。肩を痛めてやったので、何の造作も無く片付けられる筈です。その後、もう1人のチビも殺ります」


ヤマノ上級学校の剣の代表だったビンチは、ヤンの方を見て余裕の態度で【殺る】等と物騒なことを言いながら、悪そうな顔でニヤリと右口角を上げる。


「ビンチ、油断はするな!生意気なイツキは、この俺が始末する。手を出すな!」


「ヘぇー、なんか格好いいですねドエル先輩。でも、相変わらず楽しそうじゃない。ただの駒でいるのって辛くないですか?それに、ここで僕たちを殺したら犯罪ですよね?そんなことをしたら、警備隊に捕まりますよ」


この期に及んでも尚、危機感や悲愴感の無いイツキは、ドエルを挑発するように座ったまま石のテーブルに両肘をついて、ニヤリと口元だけ緩める。


「なあ、コイツってバカなの?とっとと殺っちまおうぜ。俺らはこの剣を持ってない奴を殺るんだよな?丸腰の奴を3人で殺るのは気が進まないが、まあ仕事だから構わない……死体は森の奥に捨てればいいんだな?」


イツキたちの後ろを尾行していた男の1人が、剣を抜きながらブルーニに確認するように問う。残りの雇われた2人も剣を抜き、エンターにジロリと視線を向ける。


「ドエル先輩、この前も言いましたが、僕はブルーニ先輩に剣の手合わせをして欲しいんですが、ドエル先輩の方が強いんですか?僕は強い方と戦いたいなあ……」


イツキは自分のペースを崩さないまま、余裕なのか嫌味なのか……ゆっくりと立ち上がり、丁寧にクッキーを鞄に仕舞ってから、「お待たせしました」と言った。






「我は闇を討つ!」


エンターは首にぶら下げていた、親指程の大きさ(6センチくらい)の小さな剣を取り出して、その持ち手を右手に持って呪文のように言葉を発する。

 すると、その小さな剣は、普通の剣の大きさに変化した。よく見ると少し刃が長いようだが、持ち手はエンターの手にしっくりと馴染み、刃はどうやって鍛えられたのか光輝いていた。

 エンターのイメージ通りの重さのその剣は、刃の部分にブルーノア教の紋章の星が刻まれていた。


「な、な、お前何をした!?その剣を何処から取り出した?」


雇われた殺し屋3人は、突然現れた剣に驚き、思わず3歩、後退あとずさった。


「何処から?この剣は神(ブルーノア様)より授かった神剣だ。神を恐れぬならかかって来い!」


エンターは神剣を構えると不敵に笑った。正直負ける気がしないエンターである。人数的には完全に不利だが、3人掛かりという時点で大した奴等ではないと見抜いてた。

 

「くそっ!変な魔術を使いやがって・・・」と叫びながら、1番大きな男が斬り込んできた。エンターは軽く剣をかわすと、流れるような剣捌きで男の右手首を切り落とした。


「ウワー!何なんだお前!俺の手が、俺の手がー・・・」


男はその場にしゃがみ込み、噴き出す血を止めようと慌てるが、途中で気を失った。

 本当は切り落とす気など無かったが、神剣が切れ過ぎた……骨まで切れるとは思っていなかったエンターである。


「「…………!!??」」


「お前たち、ブルーニから聞いてないのか?俺は今回の武術大会の剣の個人戦で優勝したんだけど?」


青い顔をして怖じ気付いている2人の男を、気の毒そうに見つめて恐怖心を煽る。






 隣でポカンと口を開けているヤンとビンチは、向き合ったまま、いったい何が起こったのか理解できないでいる。

 2人はエンターの剣をマジマジと見ながら、【神剣】って何?と心の中で呟きながら、少し羨ましそうにしていた。

 すると、あっという間に始まった戦いで、大きな男の右手首が切り落とされていた。


「「…………」」


対峙したまま2人は固まった。何だかんだ言いながらも、所詮は真剣で戦ったことなど無い学生である。

 しかし、既に戦いは始まっている。ヤンはゆっくりと息を吐き、姿勢を正した。


「今日は反則でも構わないぞ!これは武術大会ではないからな」


「ふん、偉そうに。痛めた肩で戦えるのか?お前は俺に負けたんだ」


「いいや、負けたんじゃない。棄権しただけさ」


ヤンは冷静にそう言うと、次第に頭が冴えてきた。1度戦った相手である。そしてエンターとビンチの試合を思い出して、ビンチという男のある癖が浮かんできた。

 2人は黙ったままお互い動かない。

 均衡を破ったのはビンチだった。鋭い突きで首を狙ってくる。

 ヤンは突然しゃがんで、ビンチの視界から消えた。

 ビンチは常に胸より高い位置を狙ってくるのだ。ヤンの読み通り首を狙って両腕を伸ばしてきた攻撃は、下からの反撃など予想すらされていなかっただろう。


「ワーッ!」と叫んで、ビンチは前のめりに倒れていく。

 ヤンの剣は、ビンチの両太股を右から左へと振り抜いていた・・・倒れたビンチは起き上がろうとして、太股に力を入れた。すると激痛が走り流れ出る血のせいで、起き上がることなど出来なかった。






「さあブルーニ先輩、何処からでもどうぞ。僕は殺さないので安心してください」


イツキはフィリップに選んで貰った剣を抜き、ブルーニとドエルの方に体を向ける。

 ブルーニとドエルは、その変わった形状の剣に戸惑いながら、自分たちも剣を抜く。

 イツキが武術で剣を選んでいないのは、剣が扱えないド素人だと思っている2人は、一見隙だらけに見えるイツキの構えに、『やはりな』と心の中で嘲笑った。


 イツキは剣をクルリと回して、刃のついていない方を下に向ける。

 そしてゆっくりと、剣を右から下に回すように動かしていく。

 ブルーニはドエルに目配せをして「殺ってしまえ」と合図を送った。


 ドエルは大きく息を吸い込んで、一気にイツキに斬り込んできた。


「死ね!」


 素人の、剣のことなど何も知らない後輩に、ドエルはこれ以上憐れむような、まるで見下しているような目で見られないよう、己の卑屈な心に方を付けたかった。

 思わず斬る瞬間に目を瞑ってしまったドエルは、直ぐに手応えが有るはずなのに、何故だか剣に重さを感じなかった……?どうしたのだろう……?

 ドエルが目を開けた時、そこに居る筈の、そして斬られて倒れている筈のイツキの姿は無かった。


「ドエル先輩、人を斬ったことなど無いでしょう?目を瞑ってどうするんです?」


死んだ筈のイツキに声を掛けられた瞬間、「ぎゃーっ!」と叫んでドエルは剣を落とした。左腕に激痛が走ったのだ。


『まさか・・・この俺が斬られたのか?』


恐る恐る自分の左腕を見る。しかし血は出ていない。出てはいないが腕はダランと下がり、あまりの痛みに全く力が入らない。


「今のはパル先輩の分です。完全に骨が折れている筈なので、動かさない方がいいですよ。さあ、次はブルーニ先輩どうぞ」


イツキは口元だけ笑いながらブルーニに視線を向けた。その瞳は闇のように黒く、氷のように冷たかった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ