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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
追う者、追われる者
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追う者、追われる者(2)

 ヤマノの街から徒歩5時間、すっかり陽も暮れたマフラの町に到着したイツキ一行は、この町に2つしかない宿の、まあまあ上級な方に部屋をとった。

 貴族が安宿に泊まる訳にはいかない。それは見栄とかではなく、他所の土地を訪れた時は、その土地の領主に敬意を払ってお金を落とすのである。

 フィリップと【奇跡の世代】のヨッテとガルロは、目立ち過ぎるフィリップの容姿のせいか作戦上か、夕食だけイツキたちと同じ宿でとり、ガルロは安宿に泊まり、フィリップとヨッテは馬車で泊まるようである。


 イツキたちの到着をゆっくり食事しながら待っていた3人は、フィリップとヨッテが2人で、ガルロは1人別のテーブルで食事をしていた。

 宿の食堂はほぼ満席で、宿もイツキたちが取った部屋で満室になった。

 ヤマノの街の宿はどこも満室で、マフラの町に泊まっている者も多かった。

 近郊の町の貴族や商人で、ヤマノ侯爵の葬儀に間に合わなかった者が、明日からの弔問の為に宿をとっているのだろう。


 どうやらイツキたちの尾行係りの男たちは、この宿ではなさそうだったが、他にも尾行者はいるかもしれない。用心の為にフィリップとは挨拶程度の会話をして、大きなテーブルで食事していたガルロの横にイツキたちは座った。

 そして、全くの他人の振りをして、然り気無くギラ新教の大師ドリルが、ヤマノの街に入ったことを伝えた。


 ガルロからの情報によると、ブルーニとドエルは葬儀後直ぐにヤマノの街を発ち、1つ先の町に宿泊しているようだとのこと。

 ということは、父親が捕らえられたとは全く思っていないだろう。




 捕らえられたブルーニとドエルの父親たちは、レガート軍によって速やかに軍の牢に入れられている予定である。

 奴等の屋敷に、証拠集めと保存の為に踏み込んだ警備隊も、主を捕らえたことは決して言わない。

 警備隊はあくまでも、領主が亡くなったので形式的に調査をするだけだと、屋敷の者たちに伝えるのである。故に屋敷の者たちは、主はヤマノ侯爵の屋敷で、忙しく仕事をしていると思っているだろう。

 

 レガート軍も警備隊も秘密裏に行動し、捕らえた罪人たちの罪状や処分の発表は、葬儀から1週間後にすると事前に決めてある。

 出来れば芋づる式にギラ新教徒を捕らえたい。

 その為に捕らえたことは極秘にされ、ダレンダ伯爵もダッハ男爵も、ずっと侯爵邸で働いていて、忙しくて面会出来ないだけだと他の貴族には伝えられる。




「予定通り次の町を過ぎて、馬車道ではなく川沿いの道を行けば、襲って来るってことだな。問題は敵の数。尾行は2人だったけど、ホテルで見掛けたのは3人だった」


ヤンは満腹になったお腹を擦りながら、小声で明日の敵の数を心配する。

 

「明日の昼になれば、尾行の数も判るだろう。早目に宿を発って、昼前には次の町で昼食をとる。そして出発する時に付いて来る奴等が、同じ川沿いの道に来れば確定する」


エンターは軽くワインを飲みながら、川沿いの道は遠回りになるので、わざわざその道を選べば確定だろうと言う。


 川沿いの道は、休憩する場所が多いので、子連れの旅人が選ぶくらいで、急ぐ旅人は馬車道(街道)を選ぶ。それに川沿いの道は、途中で小さな森や、その先を少し外れると絶景の渓谷もあり、のんびり旅の者たちは観光で立ち寄ったりする。

 しかし子連れの旅人も、森の手前で街道に出るし、絶景の渓谷に行きたがる物好きは少ない為、その2つのポイントでは人目が無い。


「出来れば手前の森で襲ってくれた方が、のんびり観光が出来るし、魔獣でも出れば狩って、ラミルの街のドゴル(冒険者等から品物を買い取ってくれる店)で換金するのになあ」


「はあ?イツキ君、今魔獣とかドゴルとか……上級学校の学生には相応しくないことを聞いたような気がするけど?」


エンターは、とんでもないことを言うイツキの言葉を、確認するように問う。


「だいたい、緊張感の無い発言だよね!肝心の対決はどうなったんだい?」


ちょっと怒気混じりに、ヤンも疑問を投げ掛ける。


「う~ん。2人共やっぱり貴族の子息だよね……お金に困ったりしないもんね。僕は子どもの頃から教会の活動で、資金集めの為にレガートの森で狩りをしていたから、森と言えば狩りって連想しちゃうんだけど……もちろん対決が無事に済んでからだよ」


「「…………」」


どこの冒険者だよ!って突っ込みたいけど、教会の活動(資金集め)が、そんな危険なことまでしていたとは知らなかったエンターとヤンである。


「ともかく、明日の決戦に備えて今夜は早目に休もう」


時々イツキとは、会話の次元が大きくズレる時がある。そんな時はそれ以上会話を続けず、他の話題に振り替えるエンターだった。




 翌朝、日の出前に朝食を済ませ、イツキたちは宿を出た。

 多くの旅人も同じように出発するので、次の町までは何事もなく到着できた。


 フィリップたちは先行して街道を進み、森の手前で川沿いの道に進路を変更し、ブルーニたちの動きを監視する。森の中で待ち伏せするであろうブルーニたちを、離れた場所から監視するだけで、手出しはしない。

 戦うのはイツキたちであり、フィリップたちは飽くまでも護送要員であり、もしもの時の助っ人に過ぎないのだ。

 軍の馬車は森の出口で、捕らえたブルーニたちをラミルまで護送する為に待機させておく。



 午後2時、森と言っても何事も無ければ、たった2時間で抜けられる小さな森の入口に到着した。

 イツキたちの前を歩いていた男が2人、先に森へと入っていく。敵の仲間かどうかは不明である。何故ならこの2人は、イツキたちの方を1度も見ていなかった。

 後ろには、ずっと付いてくる2人の男が居る。明らかにヤマノの街から、イツキたちを尾行していた男たちだった。


「本当に魔獣が出るのかな?」


ちょっと心配になったヤンは、真新しい剣に手を掛けて、辺りをキョロキョロと見る。


「ヤン、そんな物はレガートの森くらいにしか居ない筈だ」


自信有り気にエンターは語るが、実は森に入るのは初めての経験だった。


「いやいやエンター先輩、ヤマノ侯爵が、うちの森には小型の魔獣が居て、可愛いけど獰猛だと言ってたから、数種類は生息している筈だよ。そもそもこの森の先には、レガート大峡谷がある。人の住めない未開の大峡谷だから、何が生息しているか分からない。正式な調査もされていないし」


イツキは魔獣にビビっている2人を、微笑ましそうに見ながら、おまけの情報を与えることにする。


「もしも桃色ラビドや黄色イタラチを狩ったら、1匹金貨1枚くらいかなぁ」


イツキは楽しそうに魔獣の取引額を教える。


「「ええっ!金貨1枚!!」」


「そうですよ先輩方。2匹で金貨2枚です。上級学校を卒業して軍や警備隊の初任給が、金貨2枚(2万エバー)くらいですかねぇ」


「「…………」」


思わぬ大金の話しになって、思わず考え込んでしまうエンターとヤンだった。


「ということで、早いところブルーニたちを片付けましょう」


魔獣に対する恐怖心を取り除き、まるでお楽しみが待っているかのように話をすり替えて、1番重要な決戦をとっとと終わらせようと軽く言う。

 エンターもヤンも何も言わないところをみると、段々その気(魔獣狩り)になっているようである・・・



 森に入って30分、綺麗な湧水が出ている場所で休憩することにした。

 森と言っても10メートル以上の木も少なく、多少薄暗い程に木は生い茂っているが、太陽の光が木漏れ日となって降り注ぎ、美しい様相を見せている。

 前を歩いていた2人の男たちも、水を水筒に汲んでいた。


「こんにちは。ラミルまではお仕事ですか?それとも冒険者ですか?」


まるで冒険者のような出で立ちの2人に、イツキはニコニコと笑顔で話し掛けてみる。


「俺たちは冒険者のようなものだが、主に薬草専門の採取を生業にしている。この森にも薬草は有るし、主な目的はこの先の渓谷に有る薬草採取に来たんだ」


 どうやらこの2人は、ブルーニとは関係の無い人たちのようである。それならば、巻き込んではいけないので距離を取った方がいいだろう。

 イツキたちは顔を見合わせて頷くと、ゆっくり休憩しようと決めた。

 15分後、イツキたちは水筒に水を汲んでから出発した。



 森に入って1時間が経過した頃、森の中間地点の、やや広い休憩所に到着した。そこには焚き火をする場所やテントを張れるスペースがあった。

 魔獣や危険な獣が出なければ、家族や友人たちとキャンプにでも来たいところだが、そんな怖いもの知らずは冒険者くらいである。

 とは言え、魔獣の多くは夜行性だから、昼間は意外と安全で、先程話をした薬草やきのこ採取を目的とした者たちが、この森でも活動しているようだ。


 そろそろかなと思いながらも休憩所で腰を下ろし、鞄の中からおやつを取り出す。昼前に到着した町で、美味しそうなクッキーを見付けたイツキは、3人分より多い枚数のクッキーを買っていた。


「なんだか緊張感が失せる気がする」

「あーそうなんだ。じゃあヤンはおやつ抜きでいいよな」

「そんなことは言ってないよイツキ君。魔獣が出て来ないっていう意味だよ」

「お前らなあ・・・」


呆れ顔でエンターがクッキーに手を伸ばしたところで、森の中からガサガサと音がして、6人の男たちが出てきた。

 イツキたちを後ろから尾行していた男たち2人は、いつの間にか前に進んでいたようで、ニヤニヤしながら近付いてくる。

 残りの4人はブルーニとドエル、ヤマノ上級学校の剣の代表だった男と、ホテルで見掛けていたもう1人の男だった。

 敵の人数は6人。イツキたちの倍の人数である。


「こんにちはブルーニ先輩。良かったらおやつどうです?きっと先輩が来られるだろうと思って、余分にクッキーを買っておいたんですよ。ああ、でも残念ながらお茶は有りませんけど」


イツキは嬉しそうにニッコリと笑うと、パクリとクッキーを1枚食べて、「うん、美味しい」と満足そうに呟いた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

更新遅くなりました。

いよいよブルーニたちとの決戦も、クライマックスが近付いてきました。

やや緊張感が欠けていますが、次話はビシッと決めてくれる?と思います。

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