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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
追う者、追われる者
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上級学校対抗武術大会(2)

 初日の成績は、体術が団体戦で2位、個人戦でインカ先輩が優勝していた。他にも1人4位入賞していた。

 槍は団体戦で優勝し、代表のガイガー先輩は皆に祝福されて嬉しそうだ。

 馬術も弓も、初日が終わって好位置に着けていると言うことで、夕食は大いに盛り上がった。


 槍のカイン先生は、まさかの優勝で少し涙脆くなっている。

 他の先生方から「優勝候補ではなかったのに、何が起こったんだ?」とか「ヤマノの奇跡だ」等と言われながら、困ったカイン先生は「風紀部イツキ君の微笑み効果です」と答えていたことを、当然イツキは知らない。

 確かにイツキにいい格好を見せたくて、頑張った結果が決勝戦まで行けたと言っても過言ではなかった。


『イツキ君、君はいったい何者なんだ?あの殺気とあの技……素人であるはずがない。優勝の立役者であっても目立たないようにしている。そこまで自分の強さを知られたくないのは何故なんだ?』


カインは何度も考えて、あの構えは剣のものだと確信していた。

 それならば、イツキ君の剣の腕はどれ程なのだろうかと考える。

 武術に槍と馬術を選んでいることも、きっと何か秘密があるのだろうと思いながら、友人たちと楽しそうに夕食を食べているイツキに、カインはそっと視線を送った。





 ◇  ◇  ◇


 翌朝、食事前にイツキは、教頭から呼び出しを受けていた。


「イツキ君、昨日は優勝おめでとう。手首の調子はどうかね?」

「はい、痛みは殆どありません」

「それは良かった。ところで今日の予定だが、君が応援になったと知ったキシ公爵から、是非とも仕事をさせたいと依頼があった。大会終了までには返すとの約束で、間も無く迎えに来られる。なんでも王様からの依頼のようだ。頑張って責務を果たしてきてくれ」


オーブ教頭は、何だか申し訳なさそうに、そして可哀想な者を見るような目でイツキを見て、イツキの肩をポンと叩いた。


「はい?任務ですか、こんな楽しい武術大会の日に?」


イツキはガックリと項垂れながらも、昨日の槍の決勝を観戦に来ていたキシ公爵の笑顔を思い出し、フーッと息を漏らして「分かりました」と返事をした。

 イツキは急ぎ食堂に行き、朝食を摂っていたエンター部長と、今日の大会の応援団長になっているのインカ隊長に、外出することを伝えた。

 イツキは念のため病院に行くという口実で、一人ホテルに残り、学生たちは元気よく大会に出掛けて行った。


 ホテルの玄関で皆を見送るイツキに、馬術に出場するブルーニと、弓(レガート式ボーガン)の補欠のドエルが、何度も視線を向け何やら話しながら、明らかに上級学校の学生ではない者に、こそこそと指示を出している姿を、【王の目】のガルロが確認していた。

 当然ガルロは、その怪しい男の行動を観察し、後を追うことになる。



 私服に着替えてポツンとロビーで待っていると、迎えに現れたのはフィリップだった。流石に目立ち過ぎるアルダス様は、馬車の中から降りては来なかった。


「おはようございます。イツキ君。急に主の用に付き合わせて申し訳ない。詳しいことはアルダスから聞いてくれ」


「おはようございますフィリップさん。僕の力(能力)が必要なことでも?」


「はは、そうでなければ良いと思う案件ですよ」


フィリップは力なく笑いながら、申し訳なさそうにそう言うと「無理しないでくださいね」と小さな声で付け加えた。



 ホテルの正面から少し離れた所に、その豪華な馬車は停まっていた。

 キシ公爵家の家紋の入った、贅を尽くした2頭だての馬車に乗り込むと、中にはアルダス様とエントン秘書官が乗っていた。


『エントン秘書官まで・・・いったい何事だろう?』とイツキは首を捻る。


「おはようイツキ君。昨日の槍は流石だったね。試合が観れなかった秘書官に文句を言われたよ」


アルダスは何事もないような顔をして、普通に挨拶をしてきた。どうやら緊急性のある懸案では無さそうだとイツキは安堵する。


「おはようイツキ君。槍の団体優勝おめでとう。槍は誰にも習って無かったのに……とにかく王様もお喜びになるだろう」


とても嬉しそうに祝いの言葉をくれる秘書官は、すっかり叔父の顔になっていた。王様もお喜びになるだろうという台詞は、イツキが王子であると知っているアルダスとフィリップを、複雑な気持ちにさせていく。


「おはようございますアルダス様、ありがとうございます秘書官。でもお忙しい王様に、私個人の成績などをお伝えする必要などありません。ところで、今日の僕はどういう役目で、ここに呼ばれたのでしょう?」


何処までも自分を王子だと認める気の無い、イツキの頑なな言葉に3人は顔を曇らせる。


「ああぁ、今日は王様の名代で私はヤマノ侯爵の見舞いに来たんだ」


明らかにガッカリした顔の秘書官が、自分の目的を語る。


「俺は、上級学校対抗武術大会に来たので、ヤマノ侯爵のご機嫌伺いと、リバード王子の魔魚毒の件で、出所がはっきりしたので報告と、対応、そして処罰についてな……」


アルダスは、色々と含みの有りそうな口振りだが、ヤマノ侯爵に対する悪意は無いようだとイツキは感じた。


「成る程、それではアルダス様は【王の目】の仕事で来られて、秘書官は医師である僕に、ヤマノ侯爵の容態を確認させたいと……そんなところでしょうか?」


イツキは今日に限ってニコリともせず、淡々と答えていく。

 秘書官もアルダスもフィリップも、そんなイツキが珍しいので、これは……もしや不機嫌なのか?と気付き、ジーっとイツキの顔色を伺うように視線を向ける。


「僕はこの武術大会を楽しみにしてたんです。せっかく学生気分を満喫していたのになあ・・・フゥ」


そう愚痴を言いながら、ちょっと剥れた顔で3人を見ると、イツキは何時ものようににっこりと笑った。

 まあ、イツキなりの甘え?である。

 イツキの笑顔に癒され安心する大人3人は、心の中で詫びるしかない。


「実は僕も、ちょうど秘書官にお会いしたいと思っていたんです。エンター先輩の父親が強盗に襲われた件について」


「な、なんでイツキ君がその事を?いや、エルビスに何か聞いたのか?」


イツキの落とした思いもよらぬ爆弾発言に、秘書官は大きく動揺した。

 その時の件は、バルファー王もエントンも極秘に調査していた筈で、イツキが知る由もないことの筈である。


「実はこれから話すことは、僕のリース(聖人)権限でお話することなので、極秘にしてください。もちろん当事者であるエンター先輩にもです」


イツキのリース権限という言葉を聞いた3人は、馬車の中で礼をとろうとして、イツキに止められる。


「エンター先輩の妹は、僕と兄妹のように本教会で育ちました。もしかしたらレガート国には、母親も赤ん坊も亡くなったと知らせがあったかもしれません。ブルーノア教会は、大切な《印》持ちとして生まれてきたその子を、何がなんでも守る義務があったのです。それ故エンター伯爵の死の真相を探ろうと、リーバ(天聖)様もご尽力されたのですが、真相は分かりませんでした」


「エルビスの妹が生きている……しかも《印》持ち……」


呆然とする秘書官の横で、さっぱり話の見えないアルダスとフィリップは、ただ静かに話を聞いている。


「実は昨夜、カイ出身の先輩から有力な情報を得ました。どうやらクーデター派だったカイの貴族が、自分の爵位保持のために、ミノスの伯爵であったエンター伯爵の命を狙ったのではないかと・・・僕が今回この話をする気になったのは、クーデター派の貴族……それは即ちギラ新教徒であることを意味しているからです」


「ギラ新教徒!」(アルダス、フィリップ)

「では、犯人はギラ新教徒で、カイの貴族!」(エントン)


思わず3人は大声になってしまった。

 複雑に絡み合う大切な人と人との縁……だが、その縁を切り裂いているのは、ギラ新教なのである。




 そうこうしている内に、馬車はヤマノ侯爵の館へと到着してしまった。

 この話の続きは、また後日ラミルに帰ってからにしようと、話を切り上げる。

 4人は気持ちを切り替えて、本来の目的を果たすべくヤマノ侯爵邸の門を潜った。

 

 ヤマノ侯爵邸は、海に近い高台に建っていた。

 建物は白1色で塗られた白亜の御殿で、広い庭には色とりどりの花が咲き乱れていた。風避けと思われる高い木は西側に植えてあり、風の影響を考慮して、建物はコの字の2階建てで、海側の窓は少し小さめのようである。

 華美な装飾は少なく、イツキは落ち着いて上品な印象の白亜の御殿が気に入った。


 馬車が正面玄関の前に横付けされると、中から直ぐに数人の警備兵や執事やメイドたちが迎えに出てきた。

 この館の多くの窓からは、館に続く1本道から馬車がやって来る様子は、よく見えていたに違いない。馬車の設えや2頭だてであることから、高位の貴族の馬車だと直ぐに気付く筈であった。


「いらっしゃいませキシ公爵様。それにエントン秘書官。それからそちらの方は秘書官補佐のフィリップ様でしょうか?」


ヤマノ侯爵の家令は50歳前後だろうか、落ち着いていて隙が無い。銀色の瞳は全てを見通していると言わんばかりの眼力の持ち主で、なかなか出来る人物のようだった。

 ヤマノ侯爵は観光大臣をしていた昨年まで、王都ラミルで1年の3分の2以上を過ごしていた為、家令はキシ公爵も秘書官も見知っていたのだが、フィリップとは初対面だった。

 まあ噂通りの長いグレーの髪に、他に類を見ない珍しい金色の瞳を持ち、整い過ぎる美丈夫と言ったら、間違える方が少ないだろう。仕事柄【王の目】の実質的指揮者とか、【キシ公爵の番犬】と呼ばれている為、貴族たちからは歓迎されない存在である。


 家令の視線は、やや場違いな存在のイツキに向けられる。


「キアフ・ラビグ・イツキ子爵です。以後お見知り置きを」


イツキは自ら名乗り挨拶をした。

 家令はえらく若い子爵家当主に、少し驚いた顔はしたが、直ぐにポーカーフェイスで「いらっしゃいませイツキ子爵」と挨拶を返した。



 その時、建物の中から叫ぶような声がして、一人の若く美しい娘が階段を駆け下りてきた。


「ルーファス、お父様が、お父様が急変された。直ぐにお医者様を呼んできて!」


必死の形相で助けを求めてきたのは、ヤマノ侯爵の3女カピラだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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