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春休みの計画

次話から新章がスタートします。

 4月4日、午前中に大掃除を終え、春期終了式で無事に選抜選手の壮行会も済ませ、いよいよ16日間の春休みに突入である。


 イツキのグループ11人(執行部の4人、風紀部の3人、親衛隊の3人、イツキ)は、今日はインカ先輩の部屋に集合していた。

 インカはカイの領主の次男で、侯爵家の子息なのである。

 当然部屋は北寮で個室だが、インカの部屋は、階段を上がって直ぐの部屋だったので、誰かに話を聞かれる心配があり、これまで使われることがなかった。しかし、春休みに入って皆帰宅したので、今日は危険なしということで使用させて貰っている。

 部屋の中は豪華な家具が多かった。カイはランドル山脈に近く、家具工芸の盛んな領地なので、家具だけは豪華なんだと、インカは照れたように説明する。

(カイは、イツキが産まれた場所であり、母カシアが眠っている場所でもある)


 今日の議題は、春休みの行動の確認と注意事項。


「クレタ先輩とパルテノン先輩以外は、上級学校対抗武術大会に明日の午後向かいます。クレタ先輩はしっかりとリバード王子に勉強を教えておいてください。パルテノン先輩は、打ち合わせ通りにマサキ領に戻り、出来るだけ社交界に顔を出し、ギラ新教徒が居ないか探ってください。奴等は王都ラミルから1番遠いマサキで、布教活動をする可能性が高いので、それらしい貴族がいたら、決して近付かず名前と背景だけ調べてください」


「「了解!」」


クレタもパルテノンも大きく頷き、自分の使命を果たすことを皆に約束する。


「それから武術大会に出場する9人は、選手としての責務を最優先しながら、ヤマノ組の動きを注視してください。先ずは自分の身を守ることが大事です。往路で襲われることは無いでしょうが、試合中もどんな罠が待ち受けているか分かりません」


「「了解!」」


武術大会出場組は頷き了承する。


「大会終了後モンサン先輩は、ヤマノ領内の諜報活動をお願いします。大変危険ですから、現地で【王の目】のメンバーを紹介しますので、共に活動してください」


「【王の目】の方と仕事するのですか?」


【王の目】という軍従事者にとって特別な名前を聞いて、モンサンは驚いて固まる。

 まさか学生の身分で、そんなビッグチャンスが訪れるとは思ってもいなかったが、裏を返せば、それ程に危険が伴うということなのだと、改めて緊張する。


「今回の作戦で、我々には【奇跡の世代】が護衛に就いてくれることになっています。効率よく護衛して貰うために、復路は2手に分かれて行動します。僕とエンター先輩とヤン先輩の3人は、徒歩プラス辻馬車でラミルに帰ります。ヨシノリ先輩、インカ先輩、ミノル先輩、パル先輩、ナスカの5人は、辻馬車か迎えの馬車で帰ってください。ヨシノリ先輩とインカ先輩はご家族が来られますか?」


 ヨシノリは公爵家の子息だし、インカも侯爵家の子息だ。当然息子の晴れ舞台を観戦しに来る筈である。


「僕の親は来るけど、そのままマサキ領に帰ると思う。僕はリバード王子に勉強を教えるので、両親とは別行動することになる。ところでイツキ君、さっきパルテノンに言ってたけど、うちの領地ってギラ新教に狙われてるの?」


ヨシノリはイツキの言葉が気になり質問する。そこは領主の子息なのだ。当然だろう。


「そうですね。マサキ公爵様は大臣であり心配ないのですが、無役の貴族や欲の深そうな貴族は狙われるかも知れません。エントン秘書官から公爵様に、注意するよう通達が出ていると思います」


イツキはヨシノリにそう説明し、エントン秘書官のことだから、きちんと手を打っている筈だと確信していた。


「俺の親は来ないと思う。この季節は鉱山の仕事が始まるし、ミリダ国との国境に新しい検問所を作ると知らせが来たから、忙しくて来れないだろう。だから、俺たち5人は楽しく辻馬車で帰るよ。その方が襲われる心配も少ないし、護衛の【奇跡の世代】の人と同じ馬車を貸し切ればいい」


インカはそう言いながら、イツキの計画の邪魔にならないよう、自分たちの安全は自分たちで守らねばと考えて、辻馬車で帰ることを提案する。


「分かりました。それなら安全です。インカ先輩にお任せします。僕とエンター先輩とヤン先輩の3人は、のんびり罠を仕掛けながら帰ります」


「腕がなるなヤン!」

「そうですねエンター先輩!僕の念願が叶う時が来たと思うと、胸が一杯です」


2人は興奮気味に視線を合わせながら言う。イツキが自分を選んでくれたことが、本当に嬉しかった2人である。


「頼むぞエンター、ヤン。イツキ君を無事にラミルに帰してくれ。お前たちを信じてるからな!」


自分だってイツキと共に戦いたかったインカが、2人に気合いを入れる。



「明日になれば、種目別で馬車に乗り、宿でも会場でも同じ種目で出場する者と行動を共にする。イツキ君は馬術ではモンサンと一緒だが、槍は誰もメンバーが入っていない。ヤマノ組の奴も入っていないので大丈夫だと思うが、充分に気を付けてくれ」


「了解ですエンター部長!」


イツキは笑顔で答えて、武術大会後のことについて話し始める。


「それから僕の読みが外れてブルーニが襲ってこなかった場合、次の機会は郊外で活動する夏大会に持ち越しになると思います。怖いのは春休みの間に、ヤマノ領以外の学生が新たに洗脳されることです。そうなれば、敵が増え学校は益々混乱するでしょう」


イツキは真剣な顔で、今後の懸案事項についても話していく。


「僕の予想では、ギラ新教の大師ドリルという男は、《印》の力で洗脳している可能性が高いと思うのです。そうであれば、我々だって、自分の意思とは関係なく洗脳されてしまいます。ですから、怪しげな集会の誘いなどには、絶対に参加しないでください。探ろうとしてはいけません。自分が正義の人ではなくなるのです……充分に気を付けてください」


「敵は印持ちなのか……?」(インカ先輩)

「それは怖いな……」 (クレタ先輩)

「防ぐ方法は無いのか?」 (パル先輩)


皆は一斉に動揺し、不安を口にし始める。

《印》の能力による洗脳・・・それは聞いたこともない恐怖である。


「現在ブルーノア教会が必死になって調べていますが、洗脳されない方法も、洗脳を解く方法も判っていません。僕の個人的な意見では、視線が合うか、言葉による洗脳ではないかと思うのですが、残念ながら、なんの根拠もありません」


イツキはそう言って、力なく下を向き深く息を吐いた。


「では、視線を合わせないようにすれば良いのか?」(ヤン先輩)


「洗脳の言葉をまともに聞かないよう、ブルーノア教の祈りの唄でも歌ってみるとか、数学の公式を唱えるとかどうだろう?」(ヨシノリ先輩)


イツキの意見を聞いて、前向きな意見が返ってきた。と言うより必死な感じだ……


「答えは分からなくても、やらないよりやった方がいいだろう!」(エンター部長)


「そうです!心に隙を作らず瞳を見ない。これです!」(モンサン先輩)


「いやいやいや、君子危うきに近寄らずです!いいですか皆さん?」


イツキは妙な遣る気を見せている皆に、きちんと釘を刺しておく。


《 しかし、後日この時の会話が、とても役に立つことになるのであった 》





 ◇  ◇  ◇


 同日午後、レガート城では【奇跡の世代】の主要メンバー10名が会議をしていた。


「先程イツキ君のミム(通信鳥)で届いた報告によると、復路で罠を仕掛けるので、護衛を2手に分けて貰いたいとのことだ。イツキ君は、エントン秘書官のところのエルビス君と、軍学校のレポル主任の息子ヤン君と3人で、徒歩でヤマノを出るらしい。他の仲間たちは辻馬車を貸し切るそうなので、そっちは2人の護衛で大丈夫だろう」


【奇跡の世代】を率いるキシ公爵アルダスは、レガート国の地図をテーブルの上に広げて作戦を立てる。

 西棟3階の作戦室に集まったのは、【キシ組】5人と【王の目】代表のドグ、ガルロの2人、そして、国境警備隊のヤマギとラミル建設部隊隊長のヨッテ、軍学校のマルコ教官の3人、計10人であった。


 このメンバーの内、マルコ教官は子どもの時までヤマノ領で暮らしていたので、ヤマノ中心地の地理に詳しい。また最近王都ラミルに赴任してきたヨッテは、前任地がヤマノだった。建設部隊の道路担当の彼は、ヤマノとラミル間の道を知り尽くしていた。


「それで、イツキ君たち3人の武術……剣の腕はどうなんでしょう?」

「おいヨッテ、俺に喧嘩売ってんのか?」(ソウタ指揮官)

「なんで……?」(ヨッテ)

「イツキ君の師匠はソウタとヨムだぞヨッテ。それに、この前俺は手合わせしたが、勝てたのは3戦目までで、後はずっと負けたよ。また腕が上がってた」(フィリップ)


「はあ?お前より強いのか?あの体で?信じられん・・・」(ヤマギ)

「エルビス君とヤン君の剣の腕前は、今回の上級学校の武術大会で1位と2位だ」


アルダスはそう言うと、イツキ君の周りに集まるのは、不思議と優れた者ばかりだと気付いた。

 それはイツキ君の人柄なのか、神の力に由るものなのか、運命なのか・・・自分自身も気付けばイツキ君を頼っていた・・・そう、頼っていたのだ!


 リース(聖人)様、それは困った者を助け、人々を困難から救う奇跡の存在なのだ。


「まあイツキ君が選んだんだから当然だな!」(ヨム指揮官)

「まあ実際に見たら分かるよ。イツキ君の剣の技は真似できない」(ガルロ)

「「そうだな!」」


イツキと共にカルート国へ行った、ドグ・マルコ教官・フィリップ・ソウタ指揮官が同意しながらウンウンと頷く。


「俺たち必要?」

「ヨッテ、これは恩返しでもある。2度目のカルート国とハキ神国の戦いの時、空飛ぶ魔獣ビッグバラディスが現れて、ハキ神国軍は撤退したが、あのビッグバラディスの上には、イツキ君が乗っていたんだ」


「「はい?」」


ヨッテとヤマギは、イツキという特異な存在を改めて知り絶句する。

 そしてこれから、他のイツキをよく知るメンバーのように、段々感覚が麻痺して、常識が常識でなくなってゆくのである・・・


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

西日本暑いです。毎日暑すぎて体調が・・・

更新が遅れたらごめんなさい。

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