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心理戦の内容

 黒板の右半分に書かれた作戦名は【お妃と従者を選んで王になろう】だった。


「「・・・??」」


予想通りの反応に、イツキは楽しそうに笑いながら、続きを書き込んでいく。

 

 作戦名 【お妃と従者を選んで王になろう】


(1) 皇太子決定時期

  リバード王子が18歳になった時に行われる。


(2) 皇太子選定基準

  ① 誰もが認める后候補を獲得できているかどうか

  ② 誰もが認める側近を獲得できているかどうか

  ③ 王宮内の信望が有るかどうか

  ④ 国民からの人気が有るかどうか

  ⑤ 王子の能力(学習面・武術面)は優れているかどうか


(3) 皇太子選定方法

  大臣・各部門の高官(部長のみ)・領主・軍と警備隊の指揮官以上・伯爵以上の貴族の投票で決定する。



「オオーッ、そうなんだ!そんな決めごとがあったんだ」(奇跡の世代A)

「成る程なるほど……いいアイデアだ」 (ハース校長)

「これならば、誰もが認める次期国王に相応しい条件だ」(王の目のR)

「投票で決める。新しい決め方だ」 (ヨム指揮官)


 イツキが書いた皇太子決定方法に、大多数が賛同するように頷き、拍手を送る。

 だが、肝心の《作戦名》という文字を、全員が忘れている・・・


「皆さん、これは真実ではありません。よく見てください!ここに、作戦名と書いてあるでしょう。いかにも国王様が考えそうな、秘書官が決定しそうな内容ですが、僕が勝手に考えた偽物です」


イツキは黒板の作戦名という文字を指差しながら、皆を現実に引き戻す。


「ええーっ!凄くいいアイデアだと思ったのに……」「なあ……」「そうだよな」と、残念そうな声が飛び交う。


「これこそが心理戦なのです。ここに居る皆さんが、そうなのか?本当ならいいなと思う内容だからこそ、敵も騙せるというものです。皆さんの任務は、この話を噂として流すことです。しかも全部ではなく、わざと1人が2つくらいの情報を流すのです」


イツキは相変わらず楽しそうだった。イツキと共にカルート国へ行った者(フィリップ、ソウタ指揮官、ドグ、ガルロ、コーズ教官、マルコ教官)は、イツキの発想力・行動力・指導力をよく判っている。だから、こういう顔をして笑っている時は、勝算ありと確信している時だと知っていた。


「何故情報は1人が2つくらいなのでしょうかイツキ先生?」


マハト教官が、勇気を出し手を上げて質問してきた。マハト教官27歳にとって、【奇跡の世代】は憧れの人たちであり、尊敬する先輩なのだ。それは、隅っこで目立たないように参加している、ポール22歳とカジャク23歳にとっても同じだった。この場に共に居られるだけで、胸がいっぱいになっていたのだ。


「マハト教官、それは、敵に是が非でも情報を集めたいと思わせる為です。全ての情報が揃わなければ、完璧な策を練ることが出来ないと思わせ、必死に情報の欠片を集めさせます。直ぐに集まっては、偽の情報だと思われてしまいます。そんな重要な情報を、誰もが知っていては可笑しいでしょう?」


『なるほど……』と、イツキの話を聞きながら全員が頷く。


「しかも出所が、どうやら【奇跡の世代】らしいとなれば、信憑性が上がるのです」


『成る程、成る程』そうだろうなと全員が感心するように頷く。


「では、作戦のポイントは何処でしょう。ソウタ指揮官?」


イツキは黒く微笑みながら、学校の先生のように質問する。


「それは、噂を信じた敵が、自分の指示する王子を皇太子にしようと、選定方法で勝つために動くことです」


ソウタ指揮官は、突然の質問にも係わらず、立ち上がってどや顔で答える。


「それ以外には何が考えられますか、コーズ教官?」


意地悪そうに笑って、イツキは本物の教官に質問を投げ掛ける。


「ええっと……どちらの王子派なのかがハッキリします」


急に振られて慌てて立ち上がり、なんとか答えるコーズ教官である。


「そうですね。臣下はどちらかを選ばなくてはならないと、思案するでしょう」


コーズ教官は、妙な汗を拭きながら、安堵の息をホーッと吐き座っていく。


「それでは他に分かる人は、挙手してから答えてください」


イツキは全員の顔を、期待しているよっというキラキラした瞳でゆっくりと見回す。

 ここは何か答えなければ……と、皆は頭をフル回転させていく。


「はい、より良い后候補を探すため、年頃の娘が集められます」

「はい、優秀な側近を獲得するため、武術大会が開かれたり、上級学校や軍学校の、成績優秀者に声を掛けるはずです」

「はい、国民からの人気を得るために、何かしようとすると思います」

「はい、自分の方が優れていると認められるよう、王子が頑張ります」


皆が、あーでもないこーでもないと言いながら、様々な意見を活発に出していく。やる気になっている皆を見て、イツキは安心したようにフッと微笑み、意見を聞きながらウンウンと頷いていく。




「それでは、この噂を信じて動くことによる弊害は何でしょう。アルダス様?」


今までで1番黒く微笑んで、イツキは【奇跡の世代】のリーダーに質問する。


「俺もか……フッ……それは、王宮内に派閥が出来て対立したり、優秀な人材の奪い合いになったり、票を投じることのできる貴族を買収しようとすることかな……」


アルダスは、さらりと答えて椅子に座る。「オーッ!さすがアルダス」と声が飛ぶ。


「そうですねアルダス様。流石です。ただ、もうひとつ心配なことがあります。それは、優秀さで勝てないとなった時、相手の王子を引き摺り下ろそうと悪い噂を流したり、皇太子の資格など無いと罠に嵌める可能性があります」


「…………」(全員)


「それに、2人の王子は対立することになるでしょう。バルファー王は、兄弟で争うことを望まれないと思います。しかし今回は、王様にも役者になっていただき、リバード王子を守るため、サイモス王子側に有利と思わせるよう演技していただきます」


イツキはどこか申し訳なさそうに言いながら、それでもこの作戦に賭けようと思う。


「僕は、サイモス王子をよく知りません。例えギラ新教の洗脳者たちが、サイモス王子を皇太子にしようとしても、本当に国王としての資質があるのなら、どちらが皇太子になっても構わないのです。しかし、もしもサイモス王子がギラ新教徒であったなら、残念ながら王宮から去っていただくことになります」


イツキは声を落として、辛そうに話す。血の繋がった兄弟なのだ。出来ればそれだけは避けたいと思っている。


「ギラ新教徒……そんなことがあるのでしょうか?」 


ハース校長は驚いた顔をしてイツキに質問する。誰もがそんな筈はないと思いたいのだ。敵だと知らされたギラ新教徒が、王族の中に居るなんて思いたくはない。


「ハース校長、それがギラ新教の怖いところなのです。先のクーデターは、間違いなくギラ新教に因って引き起こされました。誰かがリバード王子に、2回も毒を盛った事実は受け入れなくてはなりません」


武道場内は、イツキの言葉でざわざわし始め、不安と嫌な予感が広がってゆく。

 

「この心理戦の1番大事なポイントは、リバード王子が18歳になるまでは、バルファー王もリバード王子も暗殺されないところです。わざわざ2人を暗殺しなくても、堂々と皇太子に選ばれれば良いと、敵に思わせることができるところが大事なのです。それまでに時間も稼げます。リバード王子には、来年上級学校に入学してもらいます。隔離されれば危険も減ります。バルファー王も、サイモス王子寄りに振る舞うことで、直ぐに暗殺しようとは思われないでしょう」


 イツキは立ち上がって黒板の前まで行き、左半分を消す。そして新たに、また何かを書き始めていく。



 《 作戦実効について 》


◎ 作戦コードネーム 【王様になろう】


◎ 情報の分け方について

  各領地内で流す情報は2つまで。王都ラミルでは情報ではなく、噂を1つ流す。

  ラミルで流す噂は、「国王様はサイモス王子寄りらしい」


 《情報は全部で8つ》 

  A、皇太子決定の時期 B、選定基準①~⑤までの5つ C、皇太子選定方法(投票) D、投票権が誰にあるのか


◎ 役割分担 【奇跡の世代】担当アルダス様 【軍学校】担当イツキ  


 全員が一致団結し、必ず王様とリバード王子を助ける。

 レガート国の運命は我々の手に委ねられた。心理戦で必ず勝つ!


 

 書き終えたイツキは真剣な顔をして、上から順に内容を読み上げていく。そして最後の2行を、全員で宣誓するように、イツキの後に続けて復唱させた。


「さあ皆さん。ここからはアルダス様に決めて頂きます。僕では領主の情報が足らないため、正しい判断が出来ません。アルダス様、よろしくお願いします。軍学校の皆さんは、別の仕事を頼みたいので、こちらで話しましょう」


イツキは情報の分け方と、役割分担をアルダスに任せて、軍学校の6人を手招きして、ステージの近くに移動する。

 途中で休憩を挟みながら、2手に分かれて、作戦会議は続いていった。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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