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イツキ、敵を語る

 イツキは、レガート国とカルート国におけるギラ新教の過去の活動内容と、ハキ神国の戦争の裏に、第1王子とその母である側室を操る、大師ドリルの存在があったことを話し終えていた。

 休憩の後は、ステージの下に自分とキシ組、校長、教頭、レポル教官の椅子を並べて、車座になって話を再開する。

 椅子に座ってもよし、床に座ってもよしのフリーな感じで、いくつか出されているテーブルの上には、熱いお茶や軽食のサンドイッチや、肉入りスープも用意してある。



「では次に、これまで僕が掴んだギラ新教の最近の情報を話します」


イツキはそう言って、大陸中を旅して掴んだ情報を話し始めた。


 

 僕は1回目の隣国の戦乱でハキ神国軍を撤退させた後、1年半の間、ギラ新教から身を隠しながら、ギラ新教の活動を探っていた。そして同時に、大陸中を回りながら大師ドリルの足取りを辿っていた。

 そこで見えてきたのが、ギラ新教の活動の特徴だった。

 その特徴とは、表の顔と裏の顔があり、活動の仕方が2つあることだった。


 1つは表の顔。これは貴族や王族、領主や豪商に対して布教活動をするもの。

 もう1つは裏の顔で、孤児や貧しい者に施しをして、民を救う活動をしていること。

 これは主に、教祖ハイヤーンが始めた活動で、昨年ハイヤーンが亡くなり、現在は6歳の2代目のハイヤーンが教祖に成り引き継いでいる。

 何故民を救う活動が裏の顔なのか・・・?

 それは、教祖の知らないところで、救済した子どもや民をスパイとして教育し、貴族の家に奉公させ情報を集めたり、汚い仕事をさせているからです。


 その汚い仕事の中には、魔獣を使える《印》持ちの能力者を洗脳し、魔獣で商隊を襲わせ皆殺しにし金品を奪わせたり、盗賊紛いのことをさせたり、商館とは名ばかりの娼婦館で若い娘を働かせたり……

 ギラ新教が経営しているとは判らないようにしてある宿屋は、貴族たちを悦ばせる為に、賭け事をさせたり、拐ってきた子ども(可愛い男女)を玩具にするための競り市を開いたりしている。

 他には薬の買い占めをして、莫大な利益を上げたりと……様々な悪事を行っていると判明しました。


 資金は、貴族からかなりの額の寄付があると思われますが、その他の裏の顔で集めた資金は、膨大な額あると思われます。

 ブルーノア本教会の情報では、ハキ神国に広大な土地を買ったようで、恐らく本部となる建物を建てるものと推察されています。


 現在のギラ新教を動かしているのは、大師ドリルと大師イルドラという2人です。

 大師ドリルの仕事は、大陸を回りながら、主に貴族や王族を信者にし、洗脳して操ること。

 大師イルドラは、金庫番であり、ギラ新教の教会の運営を、全て任されているようです。汚い仕事を仕切っているのもイルドラだと思われます。

 その下に、高師と呼ばれる4人がいて、その下には師と呼ばれる者たちがいるようです。人数までは残念ながら掴めていません。


 このレガート国でも暗躍した大師ドリルは、現在ダルーン王国で布教活動をしているようです。

 ダルーン王国は、王族の中で揉め事が多く、既に数人の王族が信者になり、洗脳されていると思われます。

 前王は子どもが多く、現王は体が弱い。きな臭いことが既に起こり始めています。

 いずれハキ神国が、ダルーン王国に戦争を仕掛けるかもしれません。




 ここまで話して、イツキはお茶を飲む為に立ち上がる。数人の【奇跡の世代】のメンバーも、立ち上がってお茶を飲んだりスープを飲んだりする。肩の凝らない仲間や同士の関係を、イツキは築こうとしている。


「イツキ様は、どうやって大陸中を回られたのですか?」 


スープを片手に、体格のよい【王の目】のメンバーが質問してきた。


「はいそれは、イントラ連合国の商隊に紛れ込んで、働きながら旅をしました。商隊はランドル大陸中を旅しているので、色々な情報を知っているし、集めるのにも好都合だったのです。それから僕のことは、イツキ君でいいです」


イツキはニッコリと、少し恥ずかしそうに笑いながら答える。武道場内に、ほんわかしたムードが漂い、イツキの笑顔に癒されるメンバーたちである。


「それでは、イツキ君はイントラ連合国語が話せるのですか?」

「イツキ君は、6か国全ての言葉が話せるし書けるぞ。お前たちも勉強しろ!」

「ええぇ!6か国語・・・絶対無理ですレポル教官!」


しばし軍学校時代の教官と教え子の関係に戻って、ハハハと皆が大声で笑う。


 イツキは再び椅子に座って続きを話し始める。



 もしも再び戦争が起これば、ハキ神国もダルーン王国も疲弊するでしょう。

 ギラ新教は、戦争や争乱を起こし、国を混乱させ弱体化させることを好みます。


 僕は奴等の、大師ドリルの狙いは【堕落】と【崩壊】だと思うようになりました。


 貴族たちを甘い言葉で誘い、能力は無いがプライドだけは高く、現状に不満を抱いている者を捜し出し、《貴方は神に選ばれた》と告げます。

 そして現在貴方が不遇なのは、現政権のせいだ、国王が悪いと洗脳していきます。

 自分が政権を握るか、都合の良い傀儡の王をたて、ギラの神に選ばれし者の国を作る為には、邪魔者(国王や王子)は殺しても良いと教えて(洗脳して)います。


 ブルーノア教会の調べで、バルファー王が王座を奪還した時に、軍学校の校長をしていた男は、ギラ新教の信者だったと判明しました。ギラ新教の信者の特徴がわかると思います。


「ハース校長、当時の校長の様子を教えてください」


「そうだったのですか・・・あれは最悪の校長でした。仕事は全くしないし、学校へは月に1度しか来ませんでした。そのくせ学校のお金を私物化したり、気に入らない教師を辞めさせたり……思い出すと腹が立ちますね。でも、無能過ぎるが故に、ここが、軍学校の武道場が、バルファー軍の本部になっていることさえ、全く気付かなかったのです」


 校長の話を聞いた、当時ここの学生だったメンバーたちは、そう言えば校長の姿を見た記憶がない……と、思い出しながら、ギラ新教の信者の人間性を垣間見た気がした。

 確かにクーデター後の偽王の政権は、賄賂が横行し、軍は腐敗し、税は高くなり、国民を苦しめる圧政だった。正しいことを言うものは処罰され、業務は滞り、国は【崩壊】の1歩手前だった。




 僕は結局、ハキ神国が2度目のカルート国侵攻を開始した時、あと少しで大師ドリルに手が届きそうだのに、カルート国へ向かった為に手が届かなかったのです……


 その後の僕は、ブルーノア教会の警備部隊と、洗脳された者たちを捕らえることに専念しました。

 手始めに、《印》の能力を使って犯罪を犯した者を捕らえました。

 彼等は《印》の能力を、強盗や殺人など悪行の為に使っていたのです。捕らえた時に犯人たちは皆「神に選ばれた自分は、正しいことをしたんだ」と、叫んでいました。


 ブルーノア教会は、彼等の《印》の能力を封印し、洗脳を解くために努力しましたが、最低でも半年、未だに解けていない者もいます。


 ギラ新教の洗脳とは、善も悪も関係なく、ギラ新教が示す道こそが正しいと教え込むことなのです。


 洗脳者を捕らえたブルーノア教会は、人の心を読める能力を持つシーリス(教聖)様に、洗脳者数名の心を読ませました。

 その時読み取れた、共通のキーワードが《貴族の為の国》《選ばれし者が支配する国》の2つでした。



 捕らえた犯罪者の中の1人は、ハキ神国の貴族で、自国の第2王子を殺そうとして捕まりました。その貴族は熱心なギラ新教徒で、第1王子の側近でもありました。

 シーリス様が、その貴族から読み取った情報の中に、《レガート国は間もなくギラ神の国になる》という内容のものがあったのです。


 その情報と、神のお告げ(予言の書の解読)を受けられたリーバ(天聖)様が、【レガート国の崩壊】という危機を感じ取られ、僕はリーバ様の命によりレガート国に帰ってきたのです。


 イツキが【奇跡の世代】の召集を掛けた真の理由を知り、武道場内は静まり返った。

 そして、敵であるギラ新教の活動内容や、ギラ新教の狙いが【堕落】と【崩壊】であることを知り、全員が、怒りというより、不気味な感じがしてゾッとするのだった。


 イツキはそれから皆の質問に答え、3度目の休憩を取った。

 その後いよいよ、国王様とリバード王子の暗殺を防ぐ為の本題に入っていく。





「今回僕は、王様と秘書官に《心理戦》で敵に勝利すると宣言しました。心理戦で大切なことは、如何にして敵を騙すかです。偽の情報を流し、それを真実だと思い込ませること。それが暗殺を防ぐ鍵になります」


「心理戦で敵に勝利する?」

「敵を騙す……」

「王様と秘書官に勝利宣言……」


【奇跡の世代】と、軍学校の教官の一部から、戸惑いの声が上がる。

 素晴らしい奇跡を与えてくださった神父様が、騙すという言葉を発したことに対しての戸惑いだった。


「いいですか皆さん。敵は人を洗脳し操る者なのです。嘘をつき間違った道を示し、殺人者になるよう仕向ける奴等なのです。洗脳された者は、善悪の判断など出来ません。しかし、不思議と損得の判断だけは出来るのです。ならば、絶対に損をしたくないと思わせればいいのです」


イツキは嬉しそうな、楽しそうな顔をして話し始めた。

 まるで、これから楽しい話が始まるような、わくわくすることが待っているような、そんな気持ちにさせる不敵な笑みを浮かべて腕を組んだ。


「これはゲームと同じなのです。勝つか負けるか、騙すか騙されるか、楽しい罠をたくさん仕掛けて、洗脳者を落とし穴に落とす。今回の心理戦にお金は必要ありません。全ては皆さんの演技力に懸かっているのです」


イツキは笑顔のまま、用意して貰った黒板を移動して皆の前に置き、黒板の左半分に、3つのキーワードを記入していく。


1)、暗殺予定日  次期皇太子を決定する頃

2)、暗 殺 者  ヤマノ出身の洗脳された貴族 又は、大臣希望者

3)、暗殺の方法  国王様  時間を掛けて毒殺、又は落馬 

          リバード王子  無実の罪で流刑か身分剥奪


「以上の3つが、神のお告げ(イツキが祈りの時に神から聞いた)によって予想される、犯行の概要になります」


「「…………」」


あまりの内容に誰も反応出来ず、呆然と黒板を見詰めている一同である。

 皆が言葉も出せず呆然としているのにも拘わらず、イツキは黒板の右半分に、作戦名を書き足していく。

  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

なんとなく話が纏まりませんでした……が、前に進みます。


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