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イツキと奇跡の世代(2)

7月31日か8月1日に、神より力と使命を授かったエンター、ヨシノリ、クレタ先輩のその後を、外伝にアップする予定です。

お時間のある方は、ぜひ読んでみてください。

 イツキが《銀色のオーラ》の発動を止めたので、武道場内の空気はスッと軽くなっていく。息苦しく感じていた者も、呼吸が楽になった。

 今のは何だったのだろうかと思いながら、思考を王様と王子様の暗殺の件へと皆切り替えていく。


「どうやら皆さんの中に、悪心を抱く者は1人も居ないようです。流石は【奇跡の世代】ですね……アルダス様」


イツキは黒い微笑みのままアルダスの方を向いて、賛辞を贈る。


「当然だ!俺たちはバルファー王を信じているし、この国の為に命を懸けて働いているのだから。君が産まれた次の日、1084年1月12日に王座を奪還したバルファー王は、この武道場からレガート城まで勝利の行進をされた。俺たちは学生だったが、その行進に参加し、新たに生まれ変わったレガート国の為に、そして新国王バルファー様の為に命を懸けようと誓ったのだ」


「そうだ!俺たちは誓った!」(奇跡の世代全員)


そう叫ぶ顔は何れも誇らし気で、使命に燃える瞳は再び輝きを増していく。


「それでは僕は、皆さんを共に戦う同士として認め、レガート国と王様とリバード王子の為に、同じく命を懸けると誓いましょう。皆さんは僕の話を信じて、共に戦う気がありますか?」


イツキは真剣に、場内の1人1人の顔を確認するように視線を移していく。ゆっくりと、じっくりと瞳を合わせながら見ていく。


「僕を信用に足る人間だと判断される方はお残りください。信用できないと判断されたら、申し訳ありませんが暫く外でお待ちください」


イツキの話に、場内はざわざわとし始める。

 全く動こうとしないリーダーのアルダスの姿を見れば、この神父と名乗る少年を信じるしかない。アルダスを信じている【奇跡の世代】は、如何なる時もアルダスの判断に従うつもりなのだ。


「君が神父である証拠は何処にあるのだろう?本当にリーバ(天聖)様が暗殺を示唆されたとして、何故君のような子どもに……君ではなく、他のファリス(高位神父)様やサイリス(教導神父)様に、任務をお与えにならなかったのだろう?」


質問したのは、最近ラミルの建設部隊の隊長に就任したヨッテ35歳だった。イツキとは初対面であり、ブルーノア教の熱心な信者でもあった。


「ヨッテ、イツキ君は間違いなくブルーノア教会の人間だぞ。軍学校の研究者になったのも、ミノス正教会のファリス様から来た話だったんだ」


イツキの正体を、何となく知っている校長が助け船を出す。


「しかしイツキ君だっけ?君は自分を神父だと名乗ったが、14歳の神父など何処に居るんだろう?俺は聞いたことも無いが・・・」


今度は国境警備隊のヤマギ31歳が、ヨッテの疑問を最もであると言うように、立ち上がりイツキに質問してくる。

 イツキはステージの上で少し考えて、アルダスの方をチラリと見てから話し始めた。


「それでは、僕が神父である証拠をお見せします。ただし、身分証は持って来ていません。それでも僕が証拠を見せて、神父であると確認出来たら、以後、僕に従って貰います。宜しいですか?その覚悟が有れば……そして本当に暗殺を阻止する覚悟が有ればの話です」


 武道場に居る全員が、イツキはいったい何を見せる気なのだろうかと興味が湧いてきた。

 フィリップだけが不安そうにイツキを見ている。また無理をして倒れるのではないかと、心配になってきたのだ。


「分かった!どのみち暗殺の話が本当なら、協力するしかない」(ヨッテ)

「「そうだ、大事なのは王様とリバード王子の命だ」」(皆さん)


そうだそうだと皆が声を上げる。

 こんなガキに従うのは抵抗があるが、本当にリーバ様からの情報であれば、一大事である。アルダスが協力している時点で、本当は信用できる人間だと、頭では理解しているのだ。

 ただ……見た目が14歳の学生では、どうしても抵抗感があるのも仕方ないだろう。



「それでは・・・これから僕がお見せする証拠は【涙】です。僕の祈りを聞いた後に、皆さんが流す涙が証拠になります。神父として祈ります。さあ、皆立ちなさい。そして礼をとるように」


『涙?』『涙って何だ?』『皆さんが流す涙?』『泣くわけないじゃん!』


「成る程そう来たか……身分は明かさないつもりだな……」


アルダスは小さく呟き頷く。もしも本名を名乗ったり、リース(聖人)だと言えば、全員喜んで命も捧げるだろう。それに今回の召集は王様も秘書官も認めている。それを話せば全員従うだろう……フフッ、やはり私が忠誠を誓った人だ。

 アルダスはイツキの祈りをまた聞けるのが嬉しくて、礼をとるために立ち上がる。

 アルダスが立ち上がったのを見て、全員が同じように立ち上がっていく。


 ここは教会ではない。聖杯も蝋燭も花もない・・・しかし声だけはよく通る。

 イツキは胸にぶら下げていた琥珀の石のペンダントを取り出し、演台の上にそっと置いた。


「これから《午後の祈り》と《集う戦士》という祈りを捧げます。《集う戦士》は、ブルーノア様が古代語で創られた祈りで、言葉は分からないと思います。その言葉の分からない祈りが始まったら、全員自分の剣を手にお持ちください。これは命令です!さあ、手元に剣の無い方は取って来てください。お持ちでない方は、軍学校の練習用の剣で構いません。3分待ちます」


礼をとって祈りが始まるのを待っていたのに、突然《剣》を用意しろとは……?

何を考えているのか、さっぱり分からない……メンバーたちはそう思いながらも、いち早く剣を取り出したアルダス、フィリップ、ソウタ指揮官の姿を見ると、皆慌てて剣を取り出したり、武道場の後ろに荷物を取りに行ったり、練習用の剣を借りにいく。


 およそ3分後、イツキの《午後の祈り》が始まった。

 透き通る声が、武道場の隅々まで響き渡ると、初めてイツキの祈りを聞いた者は、その清んだ声に度肝を抜かれた。祈りは清らかな流れに乗って流れる水のようで、心の中まで洗い流されるような気持ちになる。


『泣きたい訳ではない……なのに……あぁ涙が溢れてくる……なんだこの祈りは?』



 次に始まった祈りは、全く別人の声?かと思う程に低い声から始まった。場内の全員が《剣》を両手に持つ。すると気付かぬ内に《剣》を胸の前まで持ってきていた。

 

 イツキは神より授かりし琥珀の石を左手で持ち、高い声に変えて祈り始めた。


《戦士が集いて剣を掲げる時、神は同士の印を授け、折れない剣を創るだろう。戦いは血を求めるが・・・無駄に殺さず・・・正義を貫け。さあ、剣を掲げよ!》


イツキが琥珀の石を高く掲げる。そして声が大きくなった途端、全員が剣を頭上に掲げてゆく。勝手に手が動いたと言うより、掲げよ!と頭の中に神?の声が響いてきたのだった。


《《 キーン 》》と高い金属音がして、驚いて目を開けた者は、神々しい光が自分の剣を包んでいるのを見て、眩しくてまた目を閉じた。


 イツキは祈りを終えて、琥珀の石をまた胸に戻していく。

 イツキの祈りの一部始終を、ずっと目を開けて見ていたフィリップは(他の者はそんなこと出来ない)、自分の剣を椅子の上に置き、急いでステージに駆け上がる。

 イツキが大丈夫だという視線を向けるが、フィリップはその場を離れず、側で控えることにする。


「さあ皆さん!神は《剣》に祝福をくださいました。【同士の証】が刻まれた筈です。その剣は皆さんが生きている間、折れることはないでしょう」


フィリップ以外の全員が、自分の剣を確認するように見つめるが、涙は流れ続けているし、手は震える足はガクガクするで、焦点が合わない・・・

 イツキは笑いながら「皆さんお座りください」と声を掛けた。

 すると震えが少し納まって、なんとか座っていく。そして、自分の剣をしげしげと確認して、息が止まりそうになる・・・


「い、い、5つの星だ!」

「剣の輝きがまるで違う。これは俺の、俺の剣なのか?」

「俺は短剣だったのに、普通の剣に……普通の剣に大きさが……」

「軍学校の練習用の剣が、真剣に変わっている……」


自分の剣を眺めて、その変化や5つの星の印を確認すると、興奮して口々に叫んだり呟いたりしている。

 これは、これはもう【神父様】いや【特別な神父様】だと認めるしかない。いや、それどころではない……これは【神の奇跡】、そうとしか考えられないではないか……

 恐る恐る、いや、畏れ多いが、ステージ上のイツキ神父様に視線を向けてみる。

 そこには、イツキの横で最上級の礼をとっているフィリップの姿があった。

 よくよく見ると、他のキシ組や校長、教頭、レポル教官、ドグ、ガルロも同じように、最上級の礼をとっていた。


「「「…………!!」」」




 ◇  ◇  ◇


 武道場の中では、真剣にイツキの話を聞いている【奇跡の世代】の皆さんが居た。

 ハヤマ(通信鳥)の雛の世話で忙しいポールと、仔犬の世話で忙しいマハト教官とカジャクが、飲み物と軽食を持って武道場に入ってきた。


「それでは皆さん、休憩しましょう。この後は、軍学校の3人が加わります。15分後に続きを始めますが、これより先は食べたり飲んだりしながらで構いません」


イツキはいつもの女神のような微笑みで、休憩するよう告げる。

 その笑顔はやめて欲しいと思うフィリップだが、もうすっかりイツキの魅力に、皆が惹き付けられている。

 フィリップ32歳、軍学校時代からアルダスを献身的に守り、アルダス命で生きてきた。今年からはイツキを献身的に守り、命を捧げている・・・そんな教え子であるフィリップを、レポル教官はやや離れた場所から、溜め息をつきながら見ていた。

『あれは……結婚しそうにないな・・・』と。


 休憩に入ると、皆自分の剣を取り出して、他の者と比べたり、うっとりと見惚れたりしている。まあ仕方ない。

 イツキとフィリップは、ステージを下りてキシ組の椅子の所に向かった。

 直ぐにソウタ指揮官が立ち上がり、自分の席にイツキを座らせ、イツキの為にお茶を取りに行った。


「イツキ様、いえ、イツキ君、体は大丈夫ですか?この後は、椅子をステージに出しますので座って話してください」


「フィリップ、心配しすぎだ。椅子はステージの下でいいよ。皆の顔が近い方が良いだろう?それに、皆の声が聞こえなくては意味がない」


イツキはそう言いながら、やはり疲れているのだろう……座った途端、フィリップに体を預けるようにして、「5分だけ眠らせて」と言って目を瞑った。

 その眠っている姿を目撃した者は、イツキの寝顔と体が、ぼんやりだが発光しているように感じた。そしてあどけない清らかな寝顔に、つい心奪われるのだった。



 これ以降イツキは、本格的なギラ新教との直接対決が始まる数年先まで、ブルーノア様が創られた祈りを捧げることは無かった。

 フィリップが心配しすぎるのも原因だが、必要な人材に、必要な力を与え終えたことが1番の要因だった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

外伝の関係で、次話は8月2日になります。すみません……

誤字脱字を見付けたら、教えてください。

表現方法はまだ未熟者なので、さらっと温かい目でスルーしてやってください。

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