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イツキと奇跡の世代

 武道場の中では、指揮者アルダスとキシ組の到着を、今か今かと待ちわびる44人の男たちが居た。

 勢いよく扉を開けて入場してきたアルダスの姿に、大歓声が起こる。

 アルダスは嬉しそうに手を振りながら、44人の同士たちの真ん中を通りながら、ステージへと進んでいく。途中「久しぶり」とか「アルダス万歳」とか「キシ組最高」とか、色々な声が飛んでいる。


 イツキはその光景を見て、【奇跡の世代】のリーダーであるアルダスの、人望と信頼の高さを実感する。

 一見すると男らしいと言うよりは年齢不詳で美しい顔立ち、笑っていると上品な公爵様、しかし、悪を許さず厳しく断罪する【王の目】のトップとしての手腕、見掛けに反する剣を始めとする武術の腕、その見た目とのギャップも含めて、強いカリスマ性を持っているアルダスである。


 平民の多い軍学校在籍中は、身分を偽って生活していた為、貴族特有の威張ったところもなく、見た目……160センチくらいで女子と見間違える面立ちだったことで、アイドル的な存在であったが、昔から【キシ組】のメンバーを従えて、リーダーとしての風格も持っていた。


「お前ら元気だったかー?」

「「オー!!」」


アルダスの掛け声に、全員が拳を上げて叫びながら答える。武道場のガラス窓が振動で震える程の気合いに、イツキは少し戸惑う。


 そう……少し……


 軍学校の入校は15歳から20歳までと決まっていて、入学には中級学校卒業程度の学力と、武術経験又は体力が必要なのだ。

【奇跡の世代】は、イツキが生まれた年に卒業している。従って年齢は30歳から35歳くらいである。

 因みに【キシ組】のアルダス、フィリップ、ヨム、シュノーは今年32歳になり、ソウタは31歳になる。


 元々全員が軍学校の生徒である。イツキにとって、自分の教え子たちの倍は歳が違っていても、軍学校の学生のタイプや考え方はよく分かっている。しかも、既にキシ組5人にコーズ教官とマルコ教官、カルート国へ戦争を終局させに一緒に行った、【王の目】のドグとガルロはよく知る仲である。

 それ以外のメンバーの中にも軍学校時代に、知り合っている者も数人いる。



「今日の召集は俺が掛けたが、その目的は、あそこにいる元軍学校の研究者であり、現在はレガート国立上級学校の学生である、キアフ・ラビグ・イツキ子爵14歳が依頼したからで、俺は協力者に過ぎない。お前らがイツキに協力するかどうかは、イツキの話を聞いてから決めてくれ。一先ず全員座れ!」


 アルダスの号令で、全員が後ろを振り返りイツキの方を見る。どう見ても子どもだがと思いながらも床に座っていく。キシ組と軍学校の3人は椅子に座った。

 アルダスはステージには上がらず、後をイツキに任せて自分は椅子に座る。

 本来は国王の許可も取り、イツキに協力するのが当然の状態での召集だった筈だ。


『どうやらアルダス様は、自分で信用を勝ち取ってみせろと、僕に課題を与えられたようだ……まあ確かにそうかもしれない。アルダス様に頼れば、メンバーはアルダス様の為に動く。それではダメだ!お前が動かせ!と、大切なメンバーを僕に預けてくれたのだ』


 イツキはアルダスの言葉の意を汲み取り、心を決めて歩き始める。

 想定外のアルダスの言葉にざわつくメンバーの、睨むような、怒りを込めたような視線を浴びながら、イツキは厳しい表情でステージに向かう。


「おい、14歳のガキがなんの用なんだ?」

「チッ、上級学校に通う子爵様がなんの用だ」

「勘弁してくれ、俺はアルダスに忠誠を誓ったんだ」

「キシ組はどうなってるんだ?承知の上か?」


 途中じろりと値踏みする様な視線と、イツキに対する反感の声が聞こえてくる。

 普通の14歳なら、強面のおじさんたちにガン飛ばされて、ガタガタと震えて○○○ちびりそうになるところである。そう期待してわざと怖がらせている者もいる。


 まあ……普通はね……


 イツキはステージに上がると、先ず極上の笑顔でにっこりと微笑んだ。


 ここで笑う?・・・頭が悪いのか?・・・なんだあの笑顔は?

 戸惑ったのはメンバーたちである。なんやかやと思うところはあっても、イツキの極上の笑顔の前で、罵声や失礼な視線を浴びせ続けるのは難しい。

 髪を切って凛々しくなったとは言え、まだ14歳のイツキは《男》と言うより、かなり中性的なのだった。

 その姿や笑顔は、まるで軍学校時代のアルダスを彷彿とさせる……ような気さえ起こさせてしまう。


【キシ組】の4人は常日頃から、アルダスとイツキは同じ種類の人間だと気付いていた。何よりも……あの笑顔……天使にも悪魔にも見えるあの笑顔が同じなのだと。




「皆さんイツキです。2年前までここで先生と呼ばれ、軍用犬とハヤマ(通信鳥)の育成をしながら、学生たちに勉強を教えていました」


 イツキのことを何も知らなかったメンバーは、イツキの経歴を聞いて、信じられないという顔をして、それが真実なのかどうかを確かめるために、ステージ横で椅子に座っている校長や教頭、レポル教官の方を見る。


「間違いない!イツキ先生は、まだ軍学校を正式には辞めていない」


校長は真実を語り、他の2人も腕組みをしたままウンウンと頷く。それでも信じられない表情のメンバーは、顔をしかめて首を捻る。


「1回目の隣国の戦乱の時は、ソウタ指揮官、フィリップさん、コーズ教官、マルコ教官、ドグさん、ガルロさん、教え子のハモンドと共に、ハキ神国軍を撤退させました。僕が12歳の時です。現在は、上級学校に治安部隊指揮官補佐として潜入しています」


「カルート国でハキ神国軍を撤退させた?」

「ええぇっ!治安部隊指揮官補佐?……?」


それって、自分たちより階級が上だよな・・・まさかそんなはず・・・何を言っているんだこのガキは!的な視線をイツキに向けてから、校長たちとは反対側のステージ横に座っている、治安部隊を率いる2人の指揮官に、確認するよう視線を向ける。


「ああ、そうだ。俺とフィリップも共にカルート国へ行った」

「指揮官補佐は、ギニ副司令官が無理矢理押し付けたんだ」


ソウタ指揮官は、なんだかニヤニヤしながら楽しそうに皆に答え、ヨム指揮官は少し怒ったように答えた。上司であるエントン秘書官が、そのせいで暫く不機嫌だったのだ。


「しかも指揮を執っていたのは、イツキ先生だったな」


ガルロは懐かしそうに思い出しながら言い、ドグも「そうだった」と付け加えた。


「「「…………」」」


武道場に不気味な静寂が拡がる。いったい目の前の子どもは……いや、子どものような姿をした少年は何者なんだ……?



「しかし今日の僕は、軍学校のイツキ先生でもなく、上級学校の学生でもなく、ましてや治安部隊指揮官補佐として皆さんの前に立ってはいません。今日の僕は、レガート国とブルーノア教会の共通の敵である《ギラ新教》と戦う為、神父としてここに立っています」


「・・・神父?」「誰だって?」「いやいや、14歳の神父って……居ないよな」


イツキの神父という、これまた予想外、想定外のキーワードにざわざわと波紋が広がっていく。



「静かに!これから重要なことを言います。1度しか言いません」


イツキは右手を上げて、よく通る厳しい口調で一喝し、場内を静まらせる。

 イツキの一喝に、ハッとして従う者、命令口調に憤る者……様々な感情が交錯する。

 戸惑うメンバーたちは、リーダーであるアルダスに、どうしたらいいのか問うように視線を向けるが、アルダスは腕を組み椅子に座ったまま無表情でイツキを見ている。


イツキは深呼吸をして、先程の笑顔からは程遠い、冷たい表情で話し始める。


「バルファー王とリバード王子の命が狙われています。狙っているのは、ギラ新教に洗脳されたレガート国の貴族です。暗殺を阻止する……それが今日の召集の目的です」


「「な、なんだって!」」


アルダス、フィリップ、軍学校の5人以外の皆が声を上げた。その中にはソウタ指揮官、ヨム指揮官、シュノー部長も入っている。半数は驚きのあまり立ち上がる。

 絶句している【奇跡の世代】は、当然その情報が何処から来たのか気になった。


「イツキ君、それは何処からの情報だろう?何故君がそこで、そんな情報を我々に話しているんだ?」


驚いて椅子から立ち上がったソウタ指揮官が、皆を代表するようにイツキに問う。

 皆の視線がイツキに集中する。それが嘘や偽物の情報だったら只では済ませないという、怒りを込めた厳しい表情で睨みつけてくる。


 イツキは裁きの能力《銀色のオーラ》を身に纏い始める。


「何故?何故と訊くのですかソウタ指揮官?それは皆さんが知らないから話しているのです。何処からの情報?それはブルーノア教会のリーバ(天聖)様からの情報です。僕は言いましたよね!今日は神父として此処に立っていると」


「「・・・リーバ様」」


 再び武道場に静寂が拡がる。しかし今度は、畏怖の念を抱いての静寂である。

 国王や王子の暗殺を、それ以上の高位の立場であるリーバ様が案じている・・・

 頭をフル稼働し考える。そう言えば、レガート国とブルーノア教会の共通の敵がなんとかって、言っていたような気がする。そして、神父としてここに立っていると言っていたと思い出した。


 思い出したところで、空気が重く感じ始めた……息苦しいような気もする……

 ステージの上のイツキという少年に再び視線を向けと、さっきよりも、瞳の色が……黒くて大きな瞳の色が、闇のような黒に変わっているように見える・・・


「これから話すことは、真に正義を行い、レガート王に忠誠を誓う者、そしてブルーノア教の信者以外の者には話すことは出来ません」


イツキは《銀色のオーラ》を一段と強く放ち始める。

 そして武道場内の全ての人間を、闇のような黒い瞳で見渡していく。何処かに黒いオーラを放っている者が居ないかどうか、ゆっくりと確認するために。

 立ち上がっていた者の半数は、立っていられなくなり、床に座り込んでいく。


『なんなんだ、この息苦しさは……?』『急に寒くなってきた……』


 黒いオーラを放っている者など、1人として居ないのを確認したイツキは、《銀色のオーラ》の発動を中止して、再びニッコリと黒く微笑んだ。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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