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リーバ(天聖)の名代

春大会の章を少し短くし、新しい章をつくりました。

話の区切りが悪いので、後出しで章を区切り、混乱させたら申し訳ございません。

 クレタの部屋であれこれ今日の出来事を振り返りながら、溜め息をついてばかりの3人だったが、クレタがふと神より授かったペンで、各々に与えられた任務を書き記そうと言い出した。

 クレタは自分の宝物である、1ページも使っていない高級なノートを取り出した。


「本当にインクが無くても書けるのか試しながら、我々に授けられた能力と任務を記録する。今日のこの日を忘れないため、そして誰にも見せないけど、奇跡のことを書き記す」


そう言いながら、青い星の埋め込まれたペンを震える手で持ち、深呼吸をしてからノートに記入し始めた。


「ワァーッ!本当にインク無しで書ける。それに軽い・・・ええっと……青い生地の神服を纏い祭壇に上がった友イツキは《神に捧げる祈り》を唱え始めた。暫くして涙が溢れだし・・・ブルーノア様が創られた・・・光の玉が浮かび上がり・・・サイリス様の掌には・・・」


途中で気付いたことや不思議だったこと、感動したこと、神の声は頭の中に直接響くようだったとか、自分が授かったもの(力)を手にした時の気持ち等を、3人で話し合い付け加えたりしながら書き上げていく。

 まるで物語のように書くことによって、自分たちは本当に素晴らしい奇跡を体験したのだと、段々実感出来るようになってきた。


 最後に3人は誓いの言葉を決めて、物語りのプロローグとした。


《我々は、神に授かりし力で、必ずや任務を遂行し、2人の王を守り抜く》


「我々の物語はここから始まるんだ!イツキ君の指示に従って、リバード王子を上級学校に合格させよう。それを物語の第1章とする。どうだろう?」


「賛成ですエンター部長。やりましょう!」


ヨシノリはエンターの提案に賛成し、自分の未来の道の重責を思いながらも、期待と喜びで胸が熱くなる。


「そうだ。そして定期的にクレタの家に来て、物語を綴っていこう」


エンターも未来への希望が見えてきた。果たすべき使命を与えられるということは、それを果たせる力があると、神が認めてくださったということだ。


「この僕が新しいレガートの王をお支えする……やるしかないよな!戦友たち?」

「そうだクレタ。イツキ君が俺たち3人を選んでくれたんだから」

「そうですエンター部長、クレタ先輩!必ずや物語を完結させましょう」


 3人は俄然遣る気を出し、ヨシノリが授かった《印》の能力を確認しに、再び街へと繰り出していった。




 ◇  ◇  ◇

 

 イツキを乗せた教会の馬車は、王族や大臣たちの使う通用門から城に入って行く。


「イツキ大丈夫か?歩けそうか?」


心配性のハビテが、フィリップにもたれ掛かっているイツキに問う。


「大丈夫だよ。では打ち合わせ通りにお願いします。僕はリーバ(天聖)様の名代として王様にお会いします。30分くらい遅れて行きますので、それまでに国務大臣や他の大臣たちを、下がらせておいてください。僕はその間、キシ公爵にお会いしておきます」


イツキは笑顔で答えて(指示して)、ハビテとジューダ様より先に馬車を降りた。



「イツキ様、本当に大丈夫ですか?辛かったら私に掴まってください」

「フィリップさん、またぁ……イツキ君で良いですよ。様は絶対に辞めてください。それに……フッ、僕を甘やかし過ぎです」


イツキは半分困った顔で笑いながら、少しだけフィリップの腕に掴まる。

 そんなイツキの笑顔を、つい見とれてしまうフィリップである。自分の守る人は、こんなにも美しい顔で笑うんだと嬉しくなる。


 イツキとフィリップは、レガート城西棟3階にある【調査官室】に向かった。

 この時イツキは、リース(聖人)の神服をすっぽりと覆うことの出来るコートを着て、上級学校から持って来た荷物を持っていた。

 フィリップから、アルダスが今日の午後は自分の執務室に居る筈だと聞いていたので、この機会にアルダスとフィリップにだけ、これからの自分の立ち位置を教えておこうと決めたイツキである。


 フィリップがノックしてドアを開けると、疲れた顔のアルダスが、椅子の背もたれにドカリともたれ掛かり、腕を組んで難しい顔をしていた。


「イツキ君をお連れしました」

「えっ?イツキ君・・・あれ、どうして?」


フィリップの言葉に驚いたアルダスは、椅子から立ち上がり、慌てて迎えに出ようとする。その様子を見たフィリップは、主であるアルダスは、イツキが何者なのかを知っていると確信した。


「ご無沙汰してますアルダス様。今日は報告とお願いに来ました」


イツキはそう言いながら、調査官室のソファーに促されるままに座った。


「上級学校での活動の報告ですか?それとも教会の?」


アルダスは、イツキがリースであると知らないフィリップに、チラチラと視線を向けながら尋ねる。


「今日これから僕は、リーバ(天聖)様の名代として王様と秘書官にお会いします。恐らくお二人は・・・悲しまれるでしょう。僕の歩く道を理解できないかも知れません。ですが、僕は戦わねばならないのです」


イツキは自分の決意を知って貰い、共に協力できるよう真実を告げ始める。


「アルダス様、先日のリバード王子の事件以来、王様と秘書官の様子に変わったことは有りませんでしたか?または、僕に関して質問されたり調査するよう命じられたりしませんでしたか?」


自分のことを、行方不明だったキアフだと確信した筈の2人が、確証を得るために、自分のことを調べようとしているのではと予想していたイツキである。


「そうですね……お2人からは、イツキ君に付けたキアフという名前について尋ねられました。それから……2月に入って直ぐに、ブルーノア本教会宛に、イツキ君について尋ねる親書を王様が送られたようです。あの礼拝堂での奇跡を体験すれば、イツキ君が只の学生や神父ではないと思われた筈です。他にもあったような気もしますが・・・」


アルダスは何となく口を濁しながら、国王直々の極秘命令までイツキには話せなかった。その極秘命令のせいで、ここ数日頭を悩ませていたのだから。

 しかし、何故イツキ君がリーバ様の名代だと、王様が悲しむのだろうかと思いながら、話せる内容だけは正直に話すアルダスである。


「イツキ君・・・きっと王様も秘書官も驚かれるだろうが、悲しむことはないと思う・・・ああ、でもイツキ君の教会での立場を知ったら、上級学校に在籍出来なくなる……とか、色々気を使われるだろう」


フィリップはアルダスの顔を見ながら、『自分だってイツキ君が只者ではないと知っているぞ』という視線を送りながら、色々推察して話に加わる。


 どこか寂し気な顔をしてフィリップの話を聞いていたイツキは、意を決したように立ち上がると、真剣な表情で話し始めた。


「お2人には、重いものを背負わせることになると、充分に承知の上でお話しすることがあります。王様と秘書官には知られてはならないことです。そして真実を……その真実を、僕は絶対にそうだと認めないつもりです。このレガート国を混乱させたくはないし、僕には果たすべき使命が有りますから」


「「 ・・・? 」」


イツキの言っている意味が理解できない2人だが、イツキの真剣な表情と、ただならぬ気配から、とんでもない話が始まりそうだと察知して姿勢を正す。


 イツキは自分の荷物の中から、銀糸で縁取られ金糸で文字が縫いとられた、とても古い教典を取り出した。


「その教典は・・・」


アルダスは、以前イツキが自分の正体をリース(聖人)であると告げた時に、リースの身分証を挟んでいた教典だと思い出して驚いた。

 そして、どうやらイツキ君は、フィリップにリースだと告げるようだと思った。


「僕の本名が分かりました。アルダス様には【神名】は教えたと思いますが、本名は教えていなかったので、今日お2人に教えます。そして……教えた後でも、これまで通りに接してください」


イツキは慎重に教典を開いて、ブルーノア教の五星が刻印してある、黒革のファイルを取り出す。そして2人の前でゆっくり開いて、テーブルの上に置いた。



     《 身 分 証 》   


 【 リース・イツキ 】 1084年1月11日生まれ


 本名 キアフ・ル・レガート  神名 ブルーノア


 1084年1月、【予言の子】として生まれる。

 1084年2月、【リース(聖人)】であると認め任命するものである。


 ブルーノア教会の全神父は【予言の子】に従うこと。 

 これより先、何人たりともリースの行いを妨げてはならない。

 リースは人の子にあらず。神の子である。


         ブルーノア教 本教会 リーバ(天聖)



「「ええぇっ!!」」


アルダスとフィリップは、そう叫んで口をつぐんだ。

 2人が受けた衝撃は、イツキの想像を遥かに越えていた。


 イツキがリースであることは、イツキが教会の人間であることを示し、近くに居るけど……どこか遠い、何時か去って行っても、それが運命さだめだと諦められる。

 しかし、自国の王子であるとなれば、ましてや長子であり皇太子である筈の人物となれば、話しは全く違ってくる。

 イツキは天才的な頭脳を持ち、武術においても群を抜く。なによりも、なによりも指導者としての資質に恵まれているのだ。国民として、またレガート国と王家に身を捧げる者として、諦められる筈がない・・・


「だから王様は、イツキ君の右腕に……《印》がないか調べるよう命令されたのか……」


アルダスは絞り出すような、苦いものを吐き出すような思いで呟いた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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