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家庭教師ともうひとつの真実

 イツキたちは、遅れ馳せながら自己紹介をした。その後は和気あいあいと話が弾んでいく。

 リバード様とラシード伯爵の長男ケン君は、競うように憧れの上級学校での生活を質問してくる。


 リバード王子は最近13歳になった。父であるバルファー王によく似ていて、長めの銀髪にグレーの瞳、整った顔立ちは未だ幼さが残っている。身長はイツキより少し低いくらい。話した感じでは、物怖じせず活発で威張ったところがない。


 リバード王子の従兄のケン君は、今年の6月で14歳になるので、本来ならイツキと同じ年である。これまた父親のラシード伯爵によく似ていて、グレーの髪を短く切り、青い瞳はシャープで知的なイメージだ。身長はイツキより高く170センチくらいで、体は鍛えてある感じだった。将来リバード様をお守りするのが夢らしい。




 イツキは、先輩方にリバード王子とケン君を任せて、エバ様とラシード伯爵と共に、部屋の奥のテーブルに席を移した。


「イツキ君、君は何故敵の正体や、国務大臣が無関係だということを知っているのだろう?学生でありながら医師資格も持っている・・・エバは医師であること以外、何も話してはくれないので、君の本当の正体が判らないんだが」


ラシード伯爵は、イツキの瞳を見ながら真摯な態度で質問してきた。


「これから話すことは、お2人だけの胸に留めておいてください。例え王様であっても知られてはなりません。敵は味方の振りをするので、王様を危険に曝すことは出来ません。約束して頂けますか?」


イツキは2人の真意を視るために、軽く銀色のオーラを発動させる。


「敵は、王様まで危険に曝すつもりなのか?」(ラシード伯爵)

「私はお約束いたします。何があっても決して秘密を漏らしません」


エバはイツキを信じているので、疑うことなく了解する。ラシード伯爵は、どうして妹は、この少年をそこまで信用しているのだろうかと疑問に思いながらも、イツキのただならぬ雰囲気は何となく分かっていた。


「分かった。君がリバード王子や王様を大事に思っているのなら了解しよう」


ラシード伯爵は、イツキの美しく澄んだ黒い瞳を見て、決心を固めた。


『リバード王子は弟なんです。王様は……2人共僕の大切な家族なんです』イツキはそう心の中で答えた。そして2人に悪意がないのを確認する。


「僕の表向きな役職は【治安部隊指揮官補佐】で、任命されたのはキシ公爵様とギニ副司令官です。現在僕は、半分任務のために上級学校に潜入しています。僕にとっての敵が、治安部隊が注視する敵と同じだったので、この役職をお受けしました。しかし、その敵と戦うよう僕に本当の指示を出されたのは、ブルーノア教のリーバ(天聖)様です」


イツキはそう言った後で、2人が驚いて声を出さないよう、自分の口に人差し指をあて、言葉を発するなと指示する。


『『ええっ!リーバ様』』2人は目を見開き固まる。


「敵の名は【ギラ新教】と言います。奴等は人を洗脳し戦争や争乱を起こします。詳しいことは此処では話せませんので、ラミル正教会でご説明しましょう。もしもお急ぎでしたら、本日から新しいサイリス(教導神父)様が着任し、午後王様に挨拶に来ます。その時僕も同席する予定なので、お2人を紹介しましょう。僕の代わりにサイリス様から【ギラ新教】の説明が受けられると思います」


 イツキの説明に、何故サイリス様の挨拶に君が同席するんだ?とか質問したいことは山程あったが、ここで聴いては危険が伴うかも知れないと思うと、言葉が出てこない2人だった。




 いつの間にか時刻は昼前になっていた。イツキは帰る前に、エバ様とリバード様にある提案をした。その提案こそが、イツキの今日来た真の目的だった。


「このままレガート城で生活するのは危険です。そこで、リバード様には1年早いですが、今年の上級学校の入試を、ケン君と一緒に受験してみては如何でしょうか?」


「ええっ?今年ですか?でも、上級学校の規則では15歳になる年からでないと、受験出来なかった気がしますが……それに私ではまだ無理だと思います」


リバード王子は、イツキの提案を無理だと思っているが、そうなれば嬉しいとも思っていた。なにせ、今の今まで上級学校の話で盛り上がっていたのだから。


「リバード様、出来ないことなどありません。勉強なら此処に居る4人の優秀な家庭教師が居るではありませんか。上級学校に来れば、我々が守れば良いのです。僕が思うに第1王子のサイモス様は、上級学校には入学されないでしょう。王子であろうと受験は成績が全てですから」


イツキは何時ものように、さらりと、本当にさらりと無理難題を押し付けていく。


「 ・・・ 」(リバード王子)


「ちょっと待ったー!今何かとんでもないことを聞いた気がするぞ……優秀な家庭教師がなんとか……いったい何時そんな話になったんだ?」


「そうですエンター先輩、僕も今、さらりと巻き込まれた気がしました・・・」


エンター先輩は立ち上がり、イツキに説明を求める。ヨシノリ先輩も、訳が分からないことをイツキが言った気がして立ち上がった。


「それに、リバード様は来年はまだ14歳だぞイツキ君」


クレタ先輩は、イツキが無茶苦茶なことを言って、エバ様やラシード伯爵に叱られるのではと心配して立ち上がった。


「クレタ先輩・・・実は僕、今年14歳になったんです。僕は裏口入学でしたが、ありがたいことに上級学校は完全実力主義です」


イツキはゆとりの表情で座ったまま、何故か胸を張って、自分の本当の歳と裏口入学のことを堂々と話す。


「ええぇーっ!それ本当?じゃあ僕も頑張れば入学できる?」


リバード王子も立ち上がり、不可能なことが可能になるかもと思ってしまった……


「そうです。特に3年首席のクレタ先輩は優秀です。それに公爵家の子息や伯爵家当主に、迂闊に手出しする者はいません。表向きはケン君の、上級学校受験の家庭教師をしているけど、実際はリバード様も勉強し合格する。リバード様が1年早く上級学校に入学すれば、流石に刺客は送り込み難いでしょう」


イツキは友人たちの意見や存在を、まるっと無視して話を進めていく。


「それでは、優秀な君たちが、うちのケンにも勉強を教えてくれると、合格させてくれると言うのか?」


ラシード伯爵は、カップのお茶を溢しながら勢いよく立ち上がり、瞳をキラキラさせてイツキと、イツキの先輩たちを見つめる。

 レガート国の貴族は、国立上級学校に子息を入学させるために、大金をはたいて家庭教師を雇う。しかし優秀な家庭教師はなかなか見つからず、苦労して見付けても優秀とは限らないのだった。


「まあまあ皆さま、落ち着いてお座りになって。なんだか私、勇気が湧いてきましたわ。もしも、本当にそれが可能なら、私もリバードもどんな努力も惜しみませんわ」


とうとうエバ様まで、すっかりその気になってしまった。そしてエバ様は、座ったばかりのエンター先輩、ヨシノリ先輩、クレタ先輩の手を1人ずつとり、両手で握ってにこやかに微笑まれた。


「「どうかよろしくご指導ください先輩方、いえ先生」」


リバード王子とケン君も、嬉しそうに3人と握手をしていく・・・


 もう断れない・・・これは断れないだろう……予定通りの展開に、イツキはムフフと黒く微笑む。


「「「…………」」」


『すみません先輩方……』イツキは心の中で手を合わせた。


「詳しいことは、秘書官補佐のフィリップ伯爵からお知らせします」


イツキはそう言って、エバ様やリバード王子、ラシード伯爵親子に挨拶をして、呆然とする3人の先輩を引き摺りながら、レガート城を後にした。帰りは全員徒歩である。



 レガート城から少し離れた所で我に返った3人は、ジロリとイツキを睨み付けた。


「先輩方、お昼御飯は僕が奢ります。この先のレストランは評判のお店ですよ。それから家庭教師の話や質問は、店や街中では止めてください。王子の命が危なくなるので・・・昼食の後にラミル正教会で詳しい事情をお話しします」


イツキは王子の命の危機を逆手にとり、街中での質問を封じる。

 3人の先輩は口をパクパクしながら、いろいろ叫び出したい衝動を、必死に我慢するのだった。





 昼食後エンターたちは、早く喋りたい文句を言いたい質問したいとウズウズしながら、ラミル正教会に到着した。折しも教会では午後の祈りを終えた多くの信者たちが、大聖堂から出ていくところだった。

 

「先輩方、僕のもうひとつの真実を知りたくありませんか?知りたければ礼拝堂の方へどうぞ」


『まだ何か秘密があるのか……?』(3人の先輩)


なんて心臓に悪いんだ!とドキドキしながらも、もうひとつの真実?というキーワードに、益々疑問や質問事項が増えていく。

 イツキの案内で礼拝堂へと向かう3人は、ようやくこれで質問できると、勇んで礼拝堂の扉の前に立った。

 イツキが扉を開けようとすると、偶然中からファリス(高位神父)のグラープさんが出てきた。全員慌ててファリス様に礼をとる。グラープさんはイツキを見るとにっこり笑って、何も言わず頭を下げて去っていった。

 


 4人が中に入ると、信者は誰も居なかったが、祭壇の上にはサイリス(教導神父)の衣装を着た、2人の神父が立っていた。


「「「あれはサイリス様だ!」」」


エンター先輩とクレタ先輩は王都ラミルの出身で、敬虔なブルーノア信者だったので、サイリスのジューダ様を知っていた。ヨシノリ先輩も、昨年姉がラミル正教会で結婚式をしたので、ジューダ様を見たことがあった。


 サイリス(教導神父)は、各国の王都の正教会に配属されていて、ランドル大陸全体で6人しかいない。仕事は配属された国の正教会全てを管理し、王族や男爵以上の貴族の冠婚葬祭を執り行う。一般人は金持ちであっても、ファリス(高位神父)までしか会うことが出来なかった。


「イツキ君、ここは使えない。サイリス様がいらっしゃる……」

「大丈夫ですよエンター先輩、どうぞお入りください」


イツキは満面の笑顔で、困惑する先輩方を、無理矢理礼拝堂の中へと招き入れる。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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