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春大会の陰謀

 執行部副部長のブルーニから、2枚の用紙を渡された庶務のザクは、その用紙に書かれたグループリーダーの名前とメンバーを、自分のノートに書き写していく。


 1枚目の用紙のリーダーは、3年首席でありイツキの親衛隊長であるクレタだった。他の2人は2年の化学部の部員である。

 2枚目の用紙のリーダーは、3年のモンサンでイツキの親衛隊副隊長、他の2人は2年の音楽隊の部員でありイツキの親衛隊のメンバーだった。

 ブルーニはザクに用紙を渡すと、全員が作業中にも関わらず、当然だと言わんばかりに部屋を出ていった。



 ブルーニは自室に戻ると、ドエルが提出したクレタとモンサンに与える罰の方法について思案しながら、独り言を呟いていた。

 

「あの優等生が、卑怯者に成り下がるのは痛快だが、この方法ではせいぜいペナルティーは1だ。まだまだ手緩いが、じわじわと責める作戦も悪くはないだろう」


 ドエルの考えた方法は、クレタを罠にかけ、数回に渡ってペナルティーを加算させ退学に追い込む方法だった。


「モンサンは、フッ……軍に入隊する奴がマラソンごときでケガをする?まあ足の1本も折れれば大人しくなるだろう。事故は何処ででも起こるものだ」


ブルーニはドエルの考えた案を、仕方なく認めることにした。

 昨年と違い使える駒が少ない上に、今年は執行部も風紀部もほぼ敵・・・おまけに各々の親衛隊の目が働いている。大きく動くことができない現状に、苦々しい思いをしながらも、使える駒を、使い捨てられる駒を、増やしていくしかないと思うのだった。

 

「取り合えず10位以内に入賞し、レガート城で勤務している兄上のお力で、第1王子サイモス様に紹介して頂かねばならない。そして、次の作戦の指示を受けねばならない。崇高なギラ新教の教えを守り、選ばれし者の努めを果たすのだ」


ブルーニは、ドエルが作った計画書を破りながら、風紀部部長インカの潰し方を思い付き、愉快そうにほくそ笑んだ。





 その頃風紀部室では、明日の放課後行われる風紀部委員会の準備が進められていた。

 各クラスから選出された委員の数は8人。その中にヤマノ組が3人も入っていることが、イツキたちの頭の痛いところだった。

 その中の1人が1年のルシフで、何か問題が起こった時、勝手に処理することが無いよう注意が必要となる。執行部選挙前にペナルティーを与えられたルシフは、ちゃっかり風紀委員になっていた。


 風紀委員には処罰する権利は無いが、堂々と問題が起こった現場に立ち入ることが出来る。

 それ故、証拠の隠滅や目撃者の口封じなど、これ迄ヤマノ組が行ってきた、隠蔽工作をされる可能性が高くなる。


「明日の資料はこれで良し。春大会での風紀委員会の仕事は少ないが、1年生は監視の仕事がある。A組のイースターとB組のルシフは忙しいだろう」


委員たちに渡す資料を、トントンと机の上でキレイに揃えながら言い、インカ先輩は背伸びをしてフーッと息を吐いた。


「インカ先輩、1年生はただ応援するだけなんですか?」

「まあ2日目はそうだな。1日目の100問試験と暗号問題は1年生にも公開されるから、グループやクラスで問題を解くんだ。リレーマラソンの時は沿道に並んで応援する」


イツキの問いに答えたインカ先輩は、リレーは毎年けが人が出るのが心配だがなと付け加えた。

 勉強が苦手な者は、リレーで得点を稼ぐしかないので、ゴール前でデッドヒートが繰り広げられるらしい。余程優秀な者でなければ王宮で働くことなど出来ない。なので、春大会で入賞して憧れの部署で働いてみたい、せめてレガート城の中に入ってみたいと皆思うのである。





 2月29日、午前の講義は普通に行われ、午後からいよいよ【春大会】開始である。

 イツキたち風紀部役員は、春大会の準備を手伝うため、執行部と風紀委員と共に体育館に集合し、各々の役割分担の確認を行っていた。


 100問試験と暗号問題は体育館と武道場に分かれて行われる。一旦全員が体育館に集合し、説明や注意事項を聞いた後、速やかに2つの会場に分かれて大会を始める。

 執行部は会場分けをするために受付順に整理番号を渡す。校長先生の話の後、執行部部長が決めた会場分けが発表される。武道場に会場が決まった者たちを誘導し、入口で番号の確認をするのが風紀委員の仕事だった。


 事前準備を終えた一行は、これから食堂へ行き昼食をとる。

 イツキは1人だけ別行動で、皆とは反対方向の寮に向かって歩き始めた。

 午前中、同じクラスのルビン坊っちゃんから、どうしても聞いて欲しい情報があるので、寮の前に来て欲しいと頼まれていたのだった。




 その頃、食堂で昼食を食べていたクレタの元に、1人の男が近付いてきた。


「クレタ先輩ですか?1年のイツキ君から頼まれたのですが、手伝って欲しいことがあるので、武道場の外の倉庫前に至急1人で来て欲しいと伝言です」


「イツキ君が・・・?」 


 見知らぬ1年生が突然やって来て、イツキ君からの伝言を伝えて、直ぐに何処かへ行ってしまった。

 慎重なイツキ君が伝言を頼むなんて怪しい気もするが、本当に手伝って欲しいことがあるのだとしたら……そう思ったクレタは、親友であり同じイツキ親衛隊のパルテノンに、「イツキ君の用で武道場へ行ってくる」と伝えて席を立った。

 途中で食堂へ向かう執行部や風紀部の役員たちと擦れ違ったが、その中にイツキの姿が見当たらなかったので、本当に武道場の倉庫前で待っているのかも知れないと思ってしまった。


 武道場の倉庫前に着くと、イツキ君の姿は無かったが、倉庫の扉が開いていたのでクレタは中へ入っていった。


「おーいイツキ君、中に居るのかー?」


そう叫びながら奥に向かって入って行くと、突然扉が閉まる音がした・・・?

 おかしいなと思いながら扉を外側に開けようとするが、開けることが出来ない??

 観音開きの扉の外側の取っ手に、誰かが何かを差し込んだようで、ガタガタと押してみたり引いてみたりするが動かせない・・・

 僅かな隙間から見えた木の棒に、『やられた!』とクレタは後悔した。

 仕方なく誰かに気付いて貰おうと、「誰か居ないか!」「ここを開けてくれ!」と叫んでみるが、学生たちは学食に居る時間なので、誰にも気付いて貰えそうもなかった。


『何が目的だ?』


 クレタは呆然としながらも、冷静に考えようと努める。

 今日は【春大会】だから皆の目もある。そんな中でイツキ君を傷付けるとは思えない。それならば、これは自分自身を陥れる為のものだろう……春大会に自分を参加させないメリットは何だ?……入賞者を減らすことか?……春大会をサボったことに仕立て上げ、ペナルティーでも与えたいのか?しかし、3年首席の僕がサボる理由は無いと思うのだが……





 昼休み、校長室のドアには匿名の投書が挟んであった。

 昼食を終え戻ってきた校長は、その投書を見て顔をしかめた。


◇◇ 春大会の主旨に反し、己の優秀さのみを追求したい者が、学生にとって大事な大会を、ボイコットしようと企んでいる。その行いは学生たちのやる気を損なうものであり、許されることではない。もしも実行した場合、決して許してはならない ◇◇


 校長が顔をしかめたのは投書の内容ではなく、匿名の投書を校長室に届ける行いに対してであった。

 昨年2度の匿名の投書が届いた。

 1度目は、《ある教師がある学生に対して、特別の感情を持っているようだ》というものだった。その後直ぐに、名指しされた教師が、学生に対し性的暴行を加えようとする事件が起こった。

 2度目は、《ある教師が特定の学生に対し暴言を吐き、言われなき虐めを受けている。講義内容もいい加減で学生たちの不満は募るばかりである。早急に学校側は調査すべきであり、処罰を与えるべきである》という内容で、その教師は数日後火事で焼死したのである。


 昨年までの校長であれば、投書の内容を信じたかもしれない。しかしイツキの入学で、校長の考えは大きく変わった。自分の力不足で、優秀な教師を辞めさせ、1人は命を失った……後悔の日々を送っていた校長は、それらは全が仕組まれたことだったと知ったのである。


『今度は学生が狙われている!文面からすると優秀な学生のようだ』


 校長は急いで教頭を呼び対策を考えた。

 本当に狙われている学生が居るとしたら、【春大会】を欠席するだろう。それが誰なのか分かったら、手分けして捜すしかない。風紀部にも知らせて協力して貰うこととし、校長は何事も無かったように振る舞うことにした。

 教頭は風紀部に知らせ、ポート先生と校内を巡回すると決めた。

 何事も起きませんようにと2人は祈りながら、直ぐに動き出した。




 イツキは1人遅れて学食にやって来た。殆どの学生は食べ終わって体育館へと向かっている。そんな体育館に向かっている学生の中に、ルビン坊っちゃんを見付けたイツキは、「寮の前で待ってたんだけど」と文句を言った。

 ルビン坊っちゃんは「あっ、ごめん忘れてた」と言って、さっさと歩いて行ってしまった。

 全く悪びれる様子もないルビンの態度に、イツキはふと不安を覚え嫌な予感がする。

 学食で待ってくれていた風紀部のヤン先輩に「何かあったのか?」と聞かれて、「いいえ、これから起こるかも知れません」と答え、掻き込むように急いで食事をする。


 食事を済ませて急いで体育館へ向かおうとしたところへ、教頭が青い顔で走ってきた。

 手短に用件を話した教頭に、イツキは幾つかのお願いと指示を出した。


「もしも誰かがケガをしていた場合は、直ぐに僕を呼んでください。ケガがなく無事だった時は、体調を崩したことにして保健室で待機させてください。僕がその学生の代理で大会に出場するので許可をください」


イツキはそう言うと、嫌な予感はこれだったのかと、じくじたる思いでターゲットが誰なのか考える。



 体育館では、順調にグループ毎の受付が進んでいた。

 ようやく到着したイツキとヤンは、混雑している入口で、植物部部長のパルテノン先輩から声を掛けられた。


「イツキ君、クレタとの用事は終ったの?」と。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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