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イツキとフィリップ

 あの奇跡からまる1日経った月曜日の朝、フィリップはイツキの病室に朝食を運んで来て、テーブルの上に置くと、昨日のことを思い出していた。

 

 フィリップが城に戻った時、主の部屋にはエントン秘書官が来ていた。2人の話が終わるまで控え室で待とうとしたら、秘書官から少し話を聞かせて欲しいと言われれ、何事だろうかと思っていたら、意外にもイツキ君のことだった。


「フィリップ、きみはイツキ君と共に別動隊として、カルート国のロームズへ行った筈だが、彼はバルファー王について何か質問をしたり、自分の生い立ちについて話したりしていなかっただろうか?」


「いいえ、王様について特に何も質問されていませんし、生い立ちについても聞いたことはありませんでした」


もしかしたら、イツキ君がシーリス(教聖)様やリース(聖人)様なのではと、気付いたのだろうかと思ったら、どうやらそうではないようだ。


「そうか・・・それではキシ公爵、何故イツキ君にキアフと名付けたのか教えてくれないか?」


「ええっと・・・実は前々から自分の子どもが生まれたら、付けようと思っていた名前なんです。しかし、残念ながら私は未だに独身……いつの日かイツキ君を養子に迎えてもいいかと思いまして、勝手に名付けたのですが……」


アルダスは咄嗟に話を作るが、イツキ君を養子に迎えたいという話しは、フィリップも聞いたことがあった。


「そ、それで、イツキ君に養子の話をしたのか?」


何時も冷静なエントン秘書官が、何故だか椅子から身を乗り出すようにして、アルダスに質問してきた。


「ええ、あっさりと断られましたが……。自分は将来教会の為に働きたいからと言うので、仕方なくキシの子爵位を与えて、上級学校の間だけでも我が元に居てくれたらと手筈しました」


「イツキ君はそれを了承したということか・・・教会の為に働きたい……か」


アルダスの話を聞いた秘書官は、力なくドサリと椅子の背に身体を預けた。


「それでフィリップ、イツキ君の様子はどうなんだ?目を覚ましたのか?」


主キシ公爵の問い掛けに、まだ目覚めてはいないことと、病院でサイリスのジューダ様から、特別な能力を持つイツキ君を、出来るだけ守って欲しいと要請があったことを告げた。もちろん自分が神に選ばれたことは告げてはいない。

 

 フィリップは、【王の目】として働く自分に許可が出るとは思っていなかった。だから最悪仕事を辞めてでもイツキを守ろうと思っていた。

 ところが信じられないことに、エントン秘書官からお許しが出たのだ。しかも、バルファー王も許可されるだろうとのこと……?むしろアルダスの方が驚いていた。

 取り合えず、今回のリバード王子の毒の調査からは、外れることが出来たフィリップであった。

 今年から秘書官補佐という役職にも就いていたフィリップは、エントン秘書官から、何故だかイツキ君を守ることを優先するよう命令されたのだった。




 午前11時過ぎ、イツキはようやく目を覚ました。

 今回は体力の消耗が激しかったのか、目覚めたイツキは直ぐに動き出すことが出来なかった。

 それでもイツキが上級学校に帰りたがったので、フィリップが付き添って馬車で帰ることにした。フィリップは後進の指導という名目で行く。


「フィリップさん、アルダス様と治安部隊のお2人に伝えてください。ギラ新教の信者は、ヤマノの出身者の可能性が高く、既に第1王子サイモス様の側に居ます。考えたくはありませんが……サイモス様を王にするため、リバード王子の命を狙った可能性が高いと思います」


イツキはフィリップの肩にすがりながら、まだ力の入らない体で馬車に揺られながら、恐ろしい仮説を説明する。


「それでは国務大臣が?でも彼は敬虔なブルーノア信者のはず・・・」


「いいえ、ヤマノ出身者が話す言葉からは、国務大臣の後ろ楯があるようには感じられません。ギラ新教は、先の内乱を操っていました。その時国務大臣はバルファー王を支援していたはず……彼が洗脳されているとは思えません」


イツキの話を聞いたフィリップは、イツキの読みの深さや情報量の多さに驚かされた。


「そう言えば、リバード王子が運び込まれてから、王妃様もサイモス様もお見舞いに来られていないと、帰る前にパル院長から聞きました。普通は立場上見舞いに来て然るべきだと思うのですが……」


イツキはやや意味ありげに疑問を投げ掛ける。「では、まさか王妃様が?」フィリップは想像外の人物の名前に言葉を続けられなかった。




 馬車は昼休み時間に上級学校へと到着した。フィリップが用意した馬車は王宮の馬車だったので、門番も直ぐに門を開けてくれた。そして、教員室棟の正面玄関に堂々と馬車を横付けする。

 慌てて対応に出てきた教頭は、来校者が秘書官補佐のフィリップで、抱き抱えられるように馬車から降りてきたイツキを見て、最悪の想像をして緊張した。


『イツキ君は、王命に背いた罰を受けたのだろうか・・・』


教頭は校長に知らせるため、保健室へと運ばれて行くイツキを見送りながら、校長の居る食堂へと急いだ。


「フィリップさん、もうここで大丈夫です。食堂で食事をしてきてください」

「何を言うんだイツキ君。君の仲間を紹介しておいてくれないと、今後の連携がとれないし、僕には君を守る使命があるんだ」


フィリップは至極当然という顔をして、イツキの身体を支え続けている。

 あまりの過保護ぶりに、イツキはフーッと諦めの息を漏らす。

 サイリスのジューダ様は目覚めたイツキに「どうやらフィリップ伯爵は、イツキ君を守る使命を神に与えられたようだ」と告げた。ジューダ様は、神の声や指示を聴くことが出来る能力の持ち主で、当然《印》の持ち主だった。

 ジューダ様がそう言われるのであれば、それは神の意思である。イツキは受け入れるしかない……

 


 

 保健室の戸を開けると、元気にふざけ合っていたパル先輩とヤン先輩とインカ先輩が居た。

 突然開かれた戸に、3人は驚いて動きを止める。そして、見知らぬ男に抱き抱えられるように入室してきたイツキを見て驚いた。


「イ、イツキ君・・・どうしたんだ?大丈夫か?」


インカ先輩がそう言いながら駆け寄って来る。他の2人も見知らぬ男に警戒しながら寄って来た。


「イツキ君は、体調を崩して教会病院に入院していた。まだ動くべきではないのだが、仲間が心配で学校に戻って来たんだ」


「入院?何で?お城で何かあったのか?」 (パル先輩)

「どこが悪いんだ?何かされたのか?」 (インカ先輩)

「早く横になれ!何でそんな姿に・・・」 (ヤン先輩)


フィリップの言葉に3人が心配してイツキに声を掛ける。


「心配掛けてごめん。ただ疲れただけだよ。結局王様とは殆ど話も出来なかったんだ。疲れの原因は重病の急患が出て、教会病院で医者として働いたからなんだ。ところでパル先輩、腕を診せてください」


イツキの顔色は悪かったが、先ずはパル先輩のケガの状態を診なければ、安心して横にはなれないイツキである。

 パルは自分の為にイツキが無理して帰ってきたのだと分かると、直ぐに腕を出してイツキに診せる。ケガは殆ど塞がっており、順調に回復していた。感染症も後遺症も心配無さそうで、イツキは胸を撫で下ろした。


「パル先輩、寮に戻られていいですよ。但し、部屋から出るのは2日後です。食事は誰か……親衛隊の人にでも運んで貰ってください」


イツキはそう言って笑うと、また意識を失ったように眠ってしまった。

 そこへ、校長と教頭が駆け付けてきた。


「イツキ君は大丈夫か?」


校長は、眠っているイツキが目を覚まさないのを見て、これはただ事ではないと感じて、イツキを連れてきたフィリップに責めるような視線を向ける。


「これはどういうことでしょうかフィリップ君、いえマグダス秘書官補佐?」


校長はイツキの側にゆっくりと近付き、フィリップ秘書官補佐に説明を求めた。


「えええぇっ!【王の目】のフィリップ伯爵」

「「奇跡の世代を率いるキシ公爵の番犬!」」


見知らぬ男の名前を聞いた風紀部役員の3人は、目の前の男が、尊敬し憧れる【奇跡の世代】フィリップ秘書官補佐だと知り、思わず声を上げて礼をとった。



 フィリップは保健室の外の様子を窺いながら、誰も居ないのを確認すると、眠ったままのイツキの横に学生3人と校長、教頭を集めて、イツキが眠っている事情を説明した。

 王様に謁見するため王宮で待っていたイツキは、第2王子のリバード様が、毒を盛られて危篤だと知り病院に駆け付けた。そこで病院長と協力し王子を助けた。しかし一睡もしていなかった上に、王子を助けなければならない大役に、緊張して疲れ果ててしまったのだと話した。


「リバード王子が毒を盛られたのですか?誰に?」


インカ先輩は、王子の命を狙う者が居ることに驚いて、つい気軽にフィリップに質問してしまい、直ぐに失礼な態度を詫びた。


「気を使わなくていいよ。我々は同じ敵と闘う同志であり仲間なのだから。イツキ君は、ヤマノ出身者を疑っているようだが、それを調べるのは【治安部隊】と【王の目】の仕事だ。しかし、洗脳者というのは、一国の王子を殺すことも平気なようだ……くれぐれも気を付けろ!そして我々は勝たねばならない!」


フィリップの話しを聞いて、全員に許せないという感情が生まれる。自国の王子の命を狙うなど、あってはならないことだ。この国の根底を揺るがす悪に、決して負けてはならないと一同心に誓う。


 そして風紀部の3人は、憧れの人フィリップに、同志であり仲間だと言われ心が躍った。学生の身であっても、出来ることはある。イツキ君を助け自分の身を守りながら、洗脳者と闘い必ず勝利するんだと強く思った。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

なかなかシリーズ1と2の加筆や訂正に、時間がとれません・・・

頑張らねば!

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