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パル先輩目覚める

医療知識がありませんので、そこはファンタジーの世界と

大目に見てやってください。

よろしくお願いいたします。

「パル先輩、おはようございます。分かりますかイツキです」


ぼんやり目を開けようとするパル先輩に、イツキは優しく声を掛ける。

 パル先輩は、ゆっくりと保健室の天井をぐるりと見て、首を窓側に向け、カーテンの隙間から差し込む朝日を見て、少し眩しそうに目を細めた。

 次に反対側に首を向けて、心配そうに自分を見詰めるイツキを確認し「やあ……イツキ君」と、声に元気はないが笑顔で挨拶を返してくれた。


「パル先輩、息は苦しくないですか?腕以外で痛いところがありますか?」

「俺はどうしてここに?」

「パル先輩、昨日特別教室棟の2階の窓から落ちたことを覚えていますか?」

「えっ・・・?いや、思い出せない・・・体は……痛っ、身体中痛いよ。息は苦しくない。少し頭がいたいかな」


 記憶が無いのは、落ちた衝撃で頭を打ったり、痛みのせいかもしれない。念のために体を起こす時は、目眩がないかチェックしよう。


 イツキはカーテンを開けて室内を明るくすると、パル先輩の診察を始めた。

 足を動かして貰ったり、右手を動かして貰ったり、体を横にしたり、口を開けて貰ったりと、順にチェックをしていった。

 1番肝心な左手は、先ずは指先が動くかどうか……神経が切れていないかをゆっくりと確認する。


「先輩、左手の親指から小指まで順に、ゆっくりと動かしてみてください」


イツキは指の動きを注視しながら、パル先輩の表情もチェックする。

 親指は・・・よし動いた!人差し指も、中指も大丈夫・・・少し震えるものの小指まで動かすことができた。


「では先輩、僕の手を軽く握ってみてください」


イツキはそっと左手を差し出し、パル先輩の左手に添えるようにする。するとパル先輩は、力こそ強くはないが、痛ててと言いながらふんわりとイツキの手を握ってくれた。


「神さま感謝いたします。パル先輩の手が再び動きました」


イツキは先輩と握手したまま、ブルーノア様に感謝し、軽く礼をとった。

 それからイツキはパル先輩に、昨日から今朝までの出来事を話し始めた。


「なあイツキ君、今日はメガネは掛けてないんだな……なんだか天使に手を握って貰っているみたいだ……」


「先輩はまだ熱があるんですよ。しっかりしてください。もう少ししたら起き上がってみましょう。もしも歩けたら入院の必要はないと判断しますが、歩けなければラミル正教会病院に入院することになります」


ちょっとずつ元気になってゆく先輩の様子を診ながら、イツキは笑顔で説明していく。


 実はイツキ、自分では気付いていないが、癒しの能力【金色のオーラ】を無意識に発動していた。

 癒しの能力は、心を癒すことはもちろん、時には体調を改善したり、疲れを取ったり、奇跡を起こすこともある。イツキ本人にも有効だったりする。

 金色のオーラを身に纏った時、何がどう発動するのかを、イツキ自身も把握できていない。能力発動時、イツキの瞳は一瞬色が変化する為、本人は気を付けているのだが、今回のように無意識に発動する場合もある。

 

 パルは、ベッドから見上げていたイツキの美しい黒い瞳が、金色に輝いた瞬間を偶然見ていた。その時から体が軽くなり左手にも力が入るようになった。

 パルは不思議な感覚に戸惑いながらも、イツキの手をぎゅっと握ってみた。


「先輩!力が入れられたんですね。良かった。本当に良かったです」

「ありがとう。イツキ君がずっと看病してくれたお陰だ。そういえば喉が乾いたなぁ」

「少し待っててください。先生を呼んできます。水も少しだけならいいですが、体を起こしてみてからですよ」


 段々血色も良くなり始めた先輩の顔を見て、イツキは先生を呼んでも良いだろうと判断した。

 イツキが先生を呼びに行ったほんの数十秒、イツキの手の温もりが離れたことを、とてもガッカリしている自分に気付いたパルは、『いかんいかん、弱気になったかな』と苦笑いしながら、己の心に喝を入れるのだった。



 イツキに呼ばれたポート先生は、保健室に入って来て直ぐに、パルの顔の小さな傷が消え、大きめの傷さえも塞がりかけているのを見て、驚き過ぎて言葉を失った。

 奇跡のように綺麗になった顔の傷の、説明を求めるようにイツキの方を見るが、にっこりと笑って誤魔化された。


「えーっと……イツキ君て、メガネを外すと綺麗な顔立ちだったんだな」


イツキの素顔を初めて見たポート先生は、誤魔化すように笑ったイツキの顔が、妙に美しくて動揺してしまった。


「ポート先生、だからイツキはメガネを掛けているんです」


先生の言葉を聞いたパルは、苦笑いしながらポート先生に説明する。


「なるほど……流石風紀部、必要な措置だな」


妙に納得したように頷くと、ポート先生はイツキの肩をポンポンと叩いた。


「・・・?なんなんですか、お2人共、僕のメガネは光避けです!」


イツキがプンプン怒ると、ポート先生とパル先輩は、声を上げて笑いだした。

 そんな2人を無視して、イツキはパルに体を起こすよう指示を出す。

 ゆっくりと体を起こしても、目眩は起きなかった。腕以外に激痛や動かせない箇所はなかったので、ポート先生もイツキも一安心する。

 次は2人でパルを両脇で支えながら、立たせてみる。


「良かった。イツキ医師せんせい、あなたは本当に名医だったんですね。あの大ケガが一晩でここまで回復するなんて、正直信じられないですよ」


「ポート先生、まだ油断は出来ません。校長先生には、安全のため2日間面会謝絶にして、3日目から寮で休んで様子を看ると伝えてください。それから水は少しだけなら飲ませても大丈夫です。僕は怪しまれないよう寮に戻ります。後をよろしくお願いします。朝食後また来ます。では先輩また」


パル先輩が立って歩けたのを確認したので、当面の指示を出したイツキは、急ぐように寮に帰って行った。



「ポート先生、イツキ君をまるで医師のように言っておられましたが?」

「ああ・・・校長、教頭、フォース先生、私、そして風紀部役員だけの秘密らしいが、彼はブルーノア教会発行の、正式な医師免許と薬剤医師免許を持っているそうだ」


「へえ?・・・俺、なんだか頭が痛くなった気がします、水飲んで寝ます」






 何事もなかった顔で寮に戻ったイツキは、東寮の管理者でもあるフォース先生に、パル先輩の様子を伝えに寄るこにした。

 フォース先生は東寮1階奥の、寮監室で生活していて、近付くと部屋からハーブティーのいい香りが漂ってきた。

 ノックして部屋に入ると、高く積まれた本の山が目に入った。


「先生、積まれた本が崩れたら、足の踏み場も無くなりそうですね」


イツキは本の背表紙をチラリと見ながら、片付け上手ではなさそうなフォース先生に、半分羨ましく思いながら声を掛けた。


「お疲れ、これは私物だから、読みたい本があれば持って行っていいぞ。興味のある本があればだがな」


昨夜はよく眠れなかったのか、欠伸をしながら眠気覚ましにお茶を飲んでいる。


「先生の給料は、全て本に注ぎ込んでいるんですね。今度、この山の下に置いてある【レガート歴代王】という本を貸してください」


イツキは自分のルーツを、詳しく学んだことが無かったので、その本が目に留まったのだった。


「レガート史は2年の授業で詳しく学ぶが、予習かな?」


数ある本の山の中から、一瞬で底に近い場所にあった本の背表紙を読み取ったイツキに、フォースは舌を巻きながら、少し嫌味のように言ってみる。


「そうなんですか?それは楽しみです。でも王に興味があるので、また借りに来ます。パル先輩は落ち着いたので、学校で様子を看ることにします」


イツキはパル先輩の容態と、あと2日はパル先輩を面会謝絶にすることを告げた。

 フォース先生は、パルの回復は一安心だが、これからのヤマノグループの動きが心配だと言いながら、深く息を吐いた。

 そして、強引に本の山から【レガート歴代王】の本を取り出して、当然のように山を崩してしまった・・・



 後日その本を読んだイツキは、自分の左腕にある【紅色の星の印】と、同じ《印》を持っていた王が居たことを知る。

 レガート王家に生まれた者は、《月の印》を必ず持って産まれることや、月の形や色の違いがあること、その違いが王の力の差となり、成し得た業績の違いと関係があることも知ることになる。




 朝食後イツキは、急いで馬場に向かった。イツキの相棒であるハヤマ(通信鳥)のミムは、ハルシエの木に戻っていた。

 イツキの姿を見付けると肩に降りてきて、イツキの頬に頭をスリスリと擦り付けてくる。イツキもヨシヨシと頭を撫でてやる。


「ミム、久し振りの軍学校はどうだった?軍学校のハヤマたちは元気だった?帰って来て直ぐに悪いけど、今度はラミル正教会までお願い。サイリス(教導神父)のジューダ様によろしくね」 


 ミムから手紙を受け取り、新たにラミル正教会宛の手紙を、ミムの足に付けてある小箱に入れた。そして、もう1度頭を撫でてから、ミムを薄曇りの空に飛ばした。


 軍学校から届いた手紙には、次の休みに来るようにと書いてあった……どれ程心配を掛けていたのか判っているイツキは、目の前の問題も大切だが、軍学校にお詫びと現在の状況を伝えることも、急務であると承知していた。

 明日は日曜だが、上級学校の学生は、月に1度の連休しか外出が許可されていない。


『病院に定期検診に行くという理由で、外出許可を取ることにしよう』


イツキは叱られる覚悟を決めて、パル先輩の容態を診るため保健室へと向かった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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