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親衛隊始動する

 午後6時20分、実験室には30人の学生が集まっていた。


「いいかお前たち、我々イツキ親衛隊は、邪悪な○○○グループや、邪な感情を抱く獣からイツキ君を守り、手となり足となり働くのだ!分かったか?」


「はい、副隊長!我々はイツキ君を守り抜きます!」


親衛隊副隊長であり音楽隊部長のモンサンの掛け声に、むさい……いや、軍人志望で、ごっつい系武闘派の音楽隊部員10人が、統率の執れた声で拳を振り上げて応える。


「我々は、知能派と武闘派の両輪で構成された、他に類を見ない親衛隊であり、規模も学校1の人数を誇る。我々の後から親衛隊申請を出した邪な奴等は、イツキ君の素顔を見てから申請を出した獣に過ぎない。我々はイツキ君の知能を尊敬している。未知なる能力を存分に発揮出来るよう、全力でお守りしなくてはならない!」


「「「オーッ!」」」


親衛隊隊長であり化学部部長のクレタの掛け声に、化学部10人と植物部10人が拳を振り上げた。


「隊長、我々はイツキ君に……は、話し掛けても良いのでしょうか?」

「隊長、我々はイツキ君に、知識で……ち、挑戦しても良いのでしょうか?」


音楽隊部員と化学部部員が、少しはにかむようにクレタに質問する。


「イツキ君次第だ」


クレタ親衛隊隊長は冷静に答えて、フーッと息を吐いた。

 何に対して息を吐いたのか……それは、この場にいる殆どが、まるで美少女のようなイツキ君の素顔を見てから、「お前ら誰よ?」と言いたくなるくらい、モジモジ君になってしまったことに対してである。

 元々マイナーでオタク系人間の多い化学部と植物部の部員は、完全受け身の草食系男子が多い。その上軍人希望の武闘派のくせに、純情系ロマンチストばかりの音楽隊部員が加わり、鬱陶しいことこの上無い団体になってしまった。


「これからイツキ君に挨拶をする。全員の顔と名前を覚えて貰うまで、このオレンジ色の布(2センチ×3センチの大きさ)を右腕に着けておくように」


 クレタ親衛隊隊長は、イツキとの思い出のオレンジを使った布を全員に配る。隊員たちは嬉々として、イツキ親衛隊の証であるオレンジ色の布をピンで腕に着けていく。


 その時、実験室の戸がガラリと開き、インカ風紀部隊長を先頭に、ヤン副隊長、イツキの順に入室してきた。


 妙な緊張感が一瞬実験室に流れたが、30人の親衛隊員は拍手でイツキを迎えた。

 イツキはにっこりと笑うと、キアフ・ラビグ・イツキですと嬉しそうに挨拶をした。


「ようこそイツキ君。親衛隊隊長のクレタです。これからこの30人がイツキ君を全力で応援し、守り、助けていきます。イツキ親衛隊隊員はオレンジの布を証として着けていますので、ご用があれば何なりと申し付けください」


クレタ親衛隊隊長は、そう挨拶をして頭を下げた。そしてゆっくりと頭を上げると、満面の笑みでイツキに握手を求めた。

 イツキも満面の笑みで応えて、クレタ隊長と握手した。そして隊員1人1人が名乗りながら、イツキと握手を交わしていった。


 途中、モジモジ度プラス緊張感が上がり過ぎた3年の化学部先輩が、握手の直後「ぎゃーっ!」と叫んで、植物部部長のパルテノン先輩に足を踏まれていた・・・


 イツキが全員と握手した後、インカ隊長が進み出て、親衛隊を管理する風紀部隊長として挨拶した。


「俺は、イツキ君の素顔を見る前に申請を出した、君たちを信じて申請書を受理した。そんな君たちに、初っぱなから重要な任務を与えることになって、申し訳なく思うが、ぜひ協力して欲しい」


「「重要な任務??」」(親衛隊全員)


 インカ隊長の突然の任務発言に、再び緊張感が走った。そして、その任務内容をイツキが説明すると聞いて、緊張度が増していく。


「今日のパル先輩のケガの件は、皆さんもご存知だと思いますが、次のブルーニ親衛隊のターゲットは僕です」


「えええぇーっ!!なんで?」(親衛隊全員)


「それは、僕がこれからブルーニ先輩に喧嘩を売るからです」


イツキの発言に、全員が「なんで?どうして?」と言いながら、キョロキョロ視線を泳がせて、解答を探そうとする。


「彼等のターゲットは平民・キシ・ミノス・カイ出身者ですが、逆らう者はこの限りではありません。実は執行部のミノル先輩が次のターゲットだと思うのですが、ミノル先輩には、クラスメートが護衛に就くようお願いしてあります。すると、いかにも弱そうで中級学校も出ていない僕なら、簡単に傷付けられると思うに違いありません」


「「イツキ君を傷付けるだと!」」(化学部の皆さん)

「「そんな危険なことは止めてください!」」(植物部の皆さん)

「「あいつら殺す!」」(音楽隊の皆さん)


 イツキは騒ぎ始めた親衛隊の皆に「静かに!」と手を上げて大声で言う。一瞬で騒ぎは収まり静かになる。


「僕はこれから罠を仕掛けます。彼等のターゲットになっていると気付かない振りをし、悪行を仕掛けてくるのを待ちます。だから皆さんは、ただ仲良く応援しているだけの、無能な親衛隊を演じながら、僕に情報をください。どんな些細なことでも、彼等の動きを僕に報告してください」


いつの間にかイツキは実験室の教壇の上に立ち、はっきりとした口調でお願いする。


「しかし我々は親衛隊です。イツキ君を守るのが仕事なのに、イツキ君を危険に曝すようなことは出来ません」 


クレタ隊長はイツキの身を案じ、イツキの作戦に待ったを掛けた。


「僕は、もう誰にも傷付いて欲しくない!それに僕にはこれだけたくさんの味方が居る。それが分かれば、もしかしたら仕掛けて来ないかもしれません。それでもいいんです。僕は皆さんを信用しています。皆さんが優秀な親衛隊だと、僕に必ず証明してくださると」


そう言ってイツキは黒板の方を向くと、チョークを持ち【眠れる獅子】と書いた。

 そしてメガネをゆっくり外して机の上に置く。

 全員が何事?と、メガネを外したイツキの動きから目が離せなくなる。次はどう動き何を話し始めるのかと・・・


「作戦コードは【眠れる獅子】です。我々は眠った振りをして、獲物をじわじわと追い込んでいきます。そしてここぞという時に、無能だと思われていた親衛隊は【獅子】へと変身するのです」


いつに間にか軍学校の先生だった時みたいに、教壇の上で熱弁を振るうイツキである。

 その姿を知っている音楽隊のモンサンは、昔のイツキ先生を思い出し感動していた。

 言い終えた後、右手で前髪を掻き上げて、真剣な眼差しで皆を見る。そしてその右手をぎゅっと握ると、全員の方へ向かってパンチを繰り出すように、前に突き出した。

 イツキが戦いを宣言した合図である。


「眠れる獅子だ!」「変身するぞ!」「作戦コード!」「イツキ君に証明するんだ!」と、心に響いた言葉を口にしながら、親衛隊の皆も右手の拳を前に突き出す。

 すっかりやる気になった親衛隊の皆も、共に戦うとイツキに宣言していく。


 なんだか言いくるめられたような気がして、クレタ隊長だけは首を捻っている。

 ここで勢いが削がれてはならないと、イツキは仕上げに取り掛かる。


「クレタ隊長、なんだか浮かない顔ですね。もしかして……情報を直接、直接僕に報告するのが、嫌だったのでしょうか?」


 イツキはなんだか悲しそうな顔をして、クレタ隊長の瞳をじっと見詰める。その表情を見た隊員の皆は、クレタ隊長の方へ睨むような視線を送る。


「えっ?い、いや、そんなことはない。イツキ君と直接話せる……いや、イツキ君に情報を伝えることは、光栄なことであり、親衛隊の指命ですから」


「「そうです!使命です」」(全員)


全員の声が見事に揃う。所詮クレタ隊長も、化学オタクの草食系である・・・押しと、お願いと、真っ直ぐ見つめられることに弱かった。


『あれは反則技だな』 (インカ隊長)

『恐るべしイツキ先生。でも違う危険が増えたような・・・』(ヤン)


 キラキラした瞳でイツキを見詰める親衛隊員を、複雑な気持ちで見ている風紀部隊長と副隊長だった。





 夕食後、イツキは寮の同室でもあるナスカに、今夜はパル先輩の付き添いをするから、ルームメートの2人には、体調が悪くなったから保健室に行ったと伝えて欲しいと頼んでおいた。


 イツキが保健室に到着すると、廊下でパル先輩の面会を規制していたフォース先生が、暗い表情でイツキに「やあ」と元気なく手を上げた。

 ドエルが容態の確認に来たと報告を受けたイツキは、フォース先生の表情が暗かった原因を理解し、『やはりそうか』と改めて戦う相手を確認した。

 そこへ夕食を終えた担任のポート先生が、フォース先生と番を交替するためにやって来た。

 3人で情報を伝え合い、これからのことを少し話してから、イツキは保健室の戸を開けた。


「パル先輩、具合はどうですか?苦しくないですか?すみません……僕がもう少し慎重になるべきでした」


イツキは眠っているパルに、深く頭を下げて謝った。麻酔として使ったエピロボスグリナが効いて、ぐっすりと眠っているパルの顔を見ながら1人で反省する。

 パンッと両手で自分の頬を叩いて、気持ちを切り替えたイツキは、パルの容態を診ていく。


 熱のために呼吸は少し苦しそうだが、傷口からの出血は見られず、大きな腫れも見られない。一先ず安心である。しかし、昼間は気付かなかった打撲の痕が、所々内出血をしていた。

 全身を診察した後、顔にできた傷を消毒しながら、綺麗に血を拭き取っていく。


 イツキはポケットから、リース(聖人)エルドラ様が創られた緑色の聖水入り小瓶を取り出すと、ガーゼに聖水を数滴垂らして、顔にできた傷を優しく撫でていく。

 すると小さな傷は消え、大きな傷も塞がっていく。


『エルドラ様、いつもありがとうございます。ポックの木の樹液で作った湿布が、効いてくれるよう祈ります』


 時々うわ言のように何か言葉を発していたパル先輩だけど、夜中は容態が急変することもなく過ぎていった。

 

 朝日が保健室に射し込み始めた午前6時、パル先輩は目を覚ました。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

最後の行を訂正しました。

ヤン先輩は目を覚ました(誤)➡パル先輩は目を覚ました(正)

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