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イツキ、風紀部の仕事をする

 校長室の話を終えたイツキは、急いで執行部室へと向かっていた。

 特別教室棟の階段を上っていると、上の階から副部長のブルーニが1人で下りてきた。イツキと目があったブルーニは、表情を変えることなく完全にイツキを無視して、通り過ぎようとする。


「ブルーニ先輩お疲れ様です。もう会議は終わったのでしょうか?」


相変わらず黒いオーラを身に纏っているブルーニに、イツキは努めて明るい声で話し掛けた。


「さあ、私は自分のすべきことをするまでだ。君たちとは立場が違うのでね」


話し掛けられたことが不愉快そうなブルーニは、少し顔をしかめながら言った。


「どんな立場が違うのでしょうか?そして君たちとは誰を指す言葉でしょうか?僕は中級学校にも行っていませんし、誰が何処の出身かも分かりません。上級学校のこともよく分からないので、よろしければまた教えてください」


イツキはニコニコしながら、ブルーニの不機嫌さに気付かない振りをし、空気の読めない新参者を演じながら、相手の出方を探ってみる。


「お前ごときが、この私に気安く話し掛けるなど、不愉快だ!覚えておけ!」


ブルーニはそう言い捨てると、急ぎ足で階段を下りて行った。


『成る程ね。何故いつもいつも黒いオーラを身に纏えるのか不思議だっけど、嫌いな学生が存在していることに腹を立て、話し掛けられても腹が立つ……あの黒いオーラは怒りでも出せるようだ』


 イツキは、これからの自分の出方を考えて、ある結論を出した。そしてニヤリと笑うと残りの階段を軽やかに上っていった。




「失礼します。遅くなってすみません」


イツキは元気にドアを開けて、明るい声で皆に挨拶をする。ブルーニが居ない執行部室は、殆ど身内みたいなものだ。


「ブルーニ先輩に会いましたが、もう会議は終わったのでしょうか?」

「会議は終わったが仕事はこれからだ。ブルーニはいつもああなんだ。まあ、いない方が話し易いから構わない。これから校内の見廻りに行くが、執行部と風紀部で別行動にするから、イツキは取り合えず風紀部室だ」


インカ先輩は、少し腹立たしそうに言いながら席を立ち、隣の風紀部室へと向かう。

 風紀部室に到着すると、4つある机の自分の席に全員が座る。2つずつ向かい合わせに置かれている机の、窓側の奥が隊長のインカ先輩と副隊長のヤン先輩、イツキは手前側で向かいはケガをしたパル先輩の席である。


「それで、パルの様子はどうだった?同じクラスのナスカが、イツキは5時限目から授業に戻ったと、こっそり教えてくれたが、パルの容態が分かるか?」


インカ先輩は心配で堪らない様子でイツキに質問してきた。

 インカ先輩は、パル先輩がケガをしたと報せを聞いて、直ぐに保健室に駆け付けたが、フォース先生から入室を禁止され、已む無く食堂に戻ったとのことだった。

 エンター先輩ですら、先生から詳しいことを聞かされてはいなかったのである。

 隣の執行部室には、パル先輩のケガの原因となった当事者のザク先輩が居たので、気を使って風紀部室に場所を移したようだ。


「はい、手術は成功したと思います。麻酔に使った薬が明日の朝まで効いている筈なので、朝にならないと本人から事情を聞くことは出来ません。感染症の心配もあるので、夕食後は僕が朝まで付き添います」


「イツキ先生、パルの腕は、元通りに動かせるでしょうか?」


ヤン先輩は、武術が得意で軍で働くことを希望している親友パルの、腕が治るかどうかが心配だった。


「ヤン、いくらイツキ君でもそこまでは判らないよ。でもイツキ君は何故パルの付き添いをするんだ?そんな許可を誰が出したんだ?」


「許可は校長から取りました。今回僕は、【治安部隊指揮官補佐】としての身分を使って、治療に立ち会いましたから」

「ええぇっ!それじゃ校長は知っていたのか?」


インカ先輩の諸々の疑問に答えるため、イツキは今日の出来事を順を追って話していく。

 フォース先生に【任務】という言葉を使って、保健室の中に入れて貰ったこと。ポート先生とフォース先生に【治安部隊指揮官補佐】の身分を明かしたこと。治療に駆け付けてくれたのが、イツキの恩師だったこと。先程、校長室に呼ばれて本当の潜入の目的を話したこと。

 そして、イツキが軍学校で働いていたことを含め、任務と身分を知っているのが、校長・教頭・ポート先生・フォース先生の4人になったことを話した。


「ええっと、それから僕がパル先輩に付き添うのは、上級学校内で医師資格を持っているのが僕だけだからです」 


「「はい?今なんて?!」」


驚いたようにハモりながら、インカ先輩とヤン先輩が訊き直してきた。


「僕は昨年、ブルーノア本教会から医師資格と薬剤師資格を貰いました」

「「・・・!!」」


2人は、そのことは聞かなかったことにすると言って「はーっ……」と特大の溜め息をついた。何事にも規格外なイツキに、慣れたようで慣れない2人であった。



 3人は風紀部室を出て、割り当ての運動部の活動を見て回る為に、先ずはグラウンドへ向かう。

 執行部は文化部と校舎内を回り、風紀部は運動部と南の丘を巡回する。


 運動部は、剣術部・体術部・体育部の3つがある。

 グラウンドを使っているのは【体育部】で、この部は陸上競技を主とし、グラウンドは高跳びや短距離走、球技に使われている。人数は50人と多いが、雨の日は休みになることもあり、サボりたい奴も多いとヤン先輩が言っている。ちなみにケガをしたパル先輩と執行部部長のエンター先輩、会計のナスカは体育部である。

 部活の様子を見ると、特別変わったこともなく汗を流している。



 次は体育館を使っている【剣術部】で、人数は【体育部】と同じ50人で、剣の腕をより磨きたい者が集まっている。担当顧問は3人居て、フォース先生もその1人である。

 ヤマノグループ15人全員が【剣術部】に在籍しているが、彼等は文官希望であるため、サボっていることが多いが、先生方も強く指導できない現状があるようだった。

 今日は珍しくヤマノグループが部活に出ていた。明らかに13人だけが浮いていて、体育館の奥でヤマノグループだけが固まって練習をしていた。


「ブルーニとドエルが居ないな」


インカ先輩の言葉に、ヤン先輩とイツキは頷く。


「ザク先輩が揉めた相手はどの男ですか先輩方?」


イツキの質問に、ヤン先輩が特徴を教えてくれた。体育館内の注目が集まっているので、あまり視線をヤマノグループに向けないよう注意して、館内を歩きながら確認する。

 ザク先輩とケンカをしていたSは、グレーの髪を短く切り、イツキ同様に変わったメガネを掛けていた。それは、まんまるの形のメガネで、遠くから見ると猿のように可愛いが、グレーの瞳は左右の大きさが少し違うようで、近くで見る人相は、かなり怖い不良感丸出しの男だった。


 イツキたちが近付くと、黒いオーラを身に纏ったSは、威圧するような視線を向けてきた。

 それとは気付かないルビン坊っちゃんが、イツキを見付けて手を振ってきた。

 イツキも笑顔で、ルビン坊っちゃんに手を振り返し、お付きのホリーに「余計なことをするな!」と視線で文句を言われた・・・

 



 次に向かったのは武道場で、【体術部】が練習をしていた。あまり元気ではないようだ。人数は44人である。

 同じ【体術部】に所属しているインカ先輩の登場に、数人の学生が走り寄ってきて、話し掛けてきた。


「インカ隊長、パルの容態はどうですか?腕は大丈夫なんでしょうか?」

「パルのクラスメートか……まだ麻酔から覚めていないようだ。予断を許さない状況なのは同じだが、まだ会えそうにはない」


インカ先輩の返答に、ガッカリしながら肩を落とし、腹立たしそうに拳を握り、下を向いたまま言う。


「彼奴、絶対に仕組んだんだ。運動神経抜群なパルが、易々と窓から落ちる訳がない!目撃者が奴等だけだから、都合のいいように真実をねじ曲げているに違いない!」

「そうだ、そうだ!!」


パル先輩のクラスメートは、どうやらパル先輩が、ヤマノグループの策略にヤられたのだと思っているようだ。怒りを込めてインカ先輩に抗議している。


「今回は執行部のザクが一緒だった。あいつも被害者だが目撃者でもある。今のところ事故として扱われているんだ。早まったことをしたり、騒ぎ立てると奴等の思う壺だ。判ったな!」


インカ先輩は、怒りに燃えるクラスメートをしっかり押さえ込む。流石である。


「先輩方、お願いがあります。少しお耳をお貸しください」


イツキは突然会話に割って入り、パル先輩のクラスメートにお願いする。


「君はあの・・・あのイツキ君?」

「ええと、どのイツキでしょうか?」


イツキは何処のイツキの話だろうかと、質問し返す天然振りをみせる。そこがまた受けたようで先輩方の、妙に熱い視線が向けられた。


「き、今日はメガネ姿なんだね。ちょっと外したりは出来ないのかなぁ?」


〈 〈 ボ カ ッ ! 〉 〉


言葉も無く、突然インカ先輩の拳骨が、発言の主に振り下ろされた。


「痛っ!ひどいっす先輩!お願いを利く代わりに……ちょっとだけ……」


インカ先輩に文句を言いながらも、涙目で見詰めてくる先輩に、なんとなく言いたいことを理解したイツキは、『まあ減るもんじゃないか』と思い、大サービスでメガネを外し、前髪を分けておでこを出し、にっこりと微笑んだ。

 先輩方はキラキラした瞳で、耳をイツキの顔に近付けてきたが、ヤン先輩に「近い近い!」と怒られて引き離されている。


「僕のお願いは、次の奴等のターゲットが、絶対に執行部書記のミノル先輩だと思うので、先輩を1人にしないように、皆で守ってあげて欲しいんです。僕より強そうな先輩方なら出来ますよね?」


イツキは仕上げに手を胸の前で組んで、上目遣いに先輩方を見つめてお願いする。

 効果はてきめんである。先輩方は熱い瞳でウンウンと頷きながら、「俺に任せろ!」と雄叫びを上げ・・・いや頼もしく誓ってくれた。

 ふとヤンが周りを見ると、パルのクラスメート以外の学生の視線が、怪しくイツキに向けられている。ヤンは直ぐ様イツキにメガネを装着し、引き摺るようにダッシュでイツキを武道場の外に連れ出した。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

間違えて、1日早く投稿しました・・・(泣)

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