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イツキ、目的を明かす

 5時限目の授業に遅刻したイツキは、入室した教室で視線を集めていた。

 

「なんだ新入生、堂々と遅刻かぁ?いい度胸だ。この病名について答えてみろ!」


入室早々、先生から問題を答えるよう当てられてしまったのだ。

 黒板には、ある病名が書かれていて他には何も書かれていなかった。


 5時限目は、専門スキル修得コースの【医療コース】授業である。

 イツキは、少人数で真面目な学生が多いところが気に入ってこのコースを選んだ。当然1年で修得バッジを貰おうと思っているが、そんな学生など上級学校史上1人も居ないことを、イツキは知らない・・・


「その疫病の発祥地はダルーン王国で、1070年から流行が始まりランドル大陸中での死者は1万人。有効な薬は長耳水仙の球根ですが、残念ながらほぼ堀り尽くされてしまい、現在何処の国も栽培に力を入れていますが、その数2000株足らずだと言われています。主な症状は高熱と痙攣、酷い場合は出血も伴います」


手術で疲れ、昼食抜きだったので、答える声に元気のないイツキである。


「お前は本当に可愛い気が無いな・・・これから教えることを、しかも俺の情報より詳しく答えるとは・・・」

「ええぇっ……?すみません疲れていたのでつい……」


 真面目に答えて文句を言われるイツキに対して、学生たちは苦笑いしながら同情する。そして遅刻の原因が、風紀部役員2年のパルが原因だろうと学生も先生も思っていた。


「それで、パル君のケガの治療はどうなったんだイツキ君?」


ロジャー先生は、黒板にイツキの答えた内容を書きながら問う。

 病気について教えているロジャー先生は、医師の資格は持っていないが助手の資格は持っている。しかし外科ではなく内科の方なので、パル先輩の治療には立ち会っていなかった。


「ああ、はい先生、手術は無事に終わりました。麻酔が効いているそうで面会は出来ませんが、とても偉い医師が来てくださったと、ポート先生が言っていました」


 イツキは、心配そうに集まる学友たちの視線に、笑顔で答えて安心させた。

 隣席の植物部部長パルテノン先輩には、今日予定していた【ポックの木の樹液】の実験は、風紀部の仕事が入ったので、また後日に延長しますと伝えておいた。



 ホームルームでは担任のポート先生から、パル先輩は無事に手術を終えたが、予断を許さない状態だと伝えられた。今回の事故(事件)に関して、これから調査をするので大騒ぎせず、保健室への立ち入りは許可ある者しかできないと注意された。

 ホームルームの後で、イツキはポート先生に呼ばれて校長室へ行くことになった。


「ナスカ、悪いがインカ隊長に遅れると伝えておいてくれ」

「了解!」


イツキは風紀部初出動に出遅れるのが残念だったが、これからのこととパル先輩のことも含めて、校長先生と相談が必要だと考え、ポート先生と共に校長室に向かった。





「それでは、イツキ君が保健室への入室を認められたのは、パル君の特異体質を知っていたので、それを伝えるためだったということにします」


薄くなり始めた前髪を掻き上げて、オーブ教頭が校長とイツキに確認を取る。

 オーブ教頭とポート先生とフォース先生の3人は、ハジャム医師が帰った後で、イツキの身分が【治安部隊指揮官補佐】であり任務で潜入していること、医師資格も薬剤師資格も持っていること、軍学校では9歳から、ハヤマと軍用犬の研究者として活躍し、また、語学や数学を教える先生としても活躍していたことを校長から聞いた。

 

 その驚きは、校長が頭を抱えたのとは違い、純粋に天才学生が入学してきたことを喜び、キシ組が来校することも大歓迎で、学校側は全面的に協力すべきだと、校長に力説した程だった。

 何よりも、命に関わるような事件が今後も起こるようなら、未然に防がねばならないと意見は一致していた。


「それからイツキ君はハヤマ(通信鳥)を連れて来ているのかね?」


「はい、名前をミムと言います。上級学校と軍本部、ラミル正教会、キシ公爵邸、王宮への連絡はミムで行います。僕はこの学校から出られませんので。先程、軍学校の校長宛に手紙を出しました。きっと驚かれるでしょう。明日の早朝には戻って来ます」


校長の問いに答えながら、ミムの飛行範囲を教えておいた。本当はミノスや隣国にだって飛ばせるのだが、全てを教える必要はない。

 校長はハジャム医師の伝言をイツキに伝え、ケガ人パルの治療方針を明日の朝決めるよう頼んだ。


「それで、詳しいことは【治安部隊】の指揮官から説明があるとして、今回の事故……いや事件と【治安部隊】の活動が、どう繋がっているのか教えて欲しい」


校長は絶対に知っておかねばならない重要案件として、真剣な表情でイツキに質問してきた。教頭たちも1番知りたいところだったようで、身を乗り出して耳を澄ませる。


「我々が戦っている敵は、人を洗脳します。主な内容は貴族や能力者を、自分は選ばれし者だから、邪魔者は殺してもよいと洗脳することです。自分こそがこの国を動かし、無能な者は平伏すべきと教え、逆らう者には容赦しません。洗脳者の特徴は、自らの手は汚さず部下や他の者を使います。たとえ教師でも例外なく消されるでしょう。」


「「「 洗脳・・・ 」」」


 イツキの説明を聴いた先生方は、昨年の事件を思い出していた。

 大変真面目な教師が、学生に対して性的暴力を振るい退職処分となったこと、そして、ある学生の行いを注意をした教師の家が(職員住宅)火災に遭い、教師とその妻が亡くなったことを。


 退職処分になった教師は、ずっと無実を訴えていたが、被害者と目撃者の証言があり処分された。

 その被害者も目撃した友人も、あるグループに所属しており、被害者は昨年卒業し、目撃者はまだ在校している。

 行いを注意されたある学生も、同じグループに所属していて、現在3年生でそのグループのリーダーである。


「洗脳ですか?それは現在何人ぐらい居るのでしょうか?」


ポート先生は、思い当たることが多過ぎて、不安が大きくなっていく。


「僕が確定しているのは2人ですが、同じグループでも関与していない者も居ます。教師の中にも洗脳者が居るかも知れません。これから調査するところですが、ターゲットは生意気な平民・キシ出身・ミノス出身・カイ出身が主で、彼等に逆らった学生も教師も被害者になるでしょう。・・・学生が洗脳されていると言うことは、どういうことだと思いますか?」


イツキは先生方の方に視線を向け、イツキが潜入した真の目的を考えてもらう。


「もしかしたら……子どもが洗脳されていると言うことは、親も洗脳されていると言うことでしょうか?」


教頭先生は呟くように言い、ガタンと音を立てながら椅子から立ち上がった。


「そうです。大人は中々尻尾を出しませんが、子どもは違います。まだ狭い世界の中で暮らしている上、自分のコントロールが出来ず、行動や表情や会話に歯止めが効きません。大人が洗脳された場合、その目的や目標は、クーデターだったり、戦争を起こしたり、国の転覆を図ったり、自国を売ったり、自らが支配者になることなのです」


「そ、それでは先の王のクーデターは・・・」


校長も急に椅子から立ち上がり、驚きのあまりの言葉を続けることが出来ない。

 フォース先生もポート先生も、急に顔色が悪くなる。事態は学校内だけではなく、レガート国や大陸中をも脅かす問題に繋がっていると分かったからだ。





 ◇  ◇  ◇


「それではこれより、執行部と風紀部の合同会議を始めます」


執行部部長のエンターの挨拶で、今回の事故についての会議が始まった。場所は執行部室である。

 

 事故現場に居た当事者である、執行部庶務のザクが、何が起こったのか説明を始める。

 ザクの話によると、ヤマノグループのSに特別教室棟の2階に呼び出され、口論になり殴られそうになっているところへ、パルが止めに入り、揉み合っている内に誤って転落したとの説明だった。


「何故パルは、君やSが特別教室棟に居ると分かったのだろう?」

「はい部長、それは呼び出しを受けた時に不安だったので、隣のクラスのパルに来て欲しいと、友だちに伝言したからです。こ、こんなことになるのなら、伝言なんて、伝言なんてしなければよかった・・・すまないパル」


ザクはエンター部長の質問に答えながら、思わず泣き出してしまった。


「呼び出された用件と、口論になった原因は何なんだ?」

「は、はい・・・用件は部屋替えについてで、口論になった原因は、僕の一存では決められないと、部屋替えの許可を・・・こ、断ったからです」


風紀部隊長のインカの質問に、ザクは泣きながら答える。


「これは事故なんだろう?それをまるで事件か何かのように大袈裟にするのは、執行部としてはどうなんだろうな・・・」


執行部副部長であり、ヤマノグループのリーダーでもあるブルーニは、面倒臭そうな態度で意見してきた。


「事件ではなくても、我々は事情を知っておかねばならない。それは我々の義務であり責務であると思いますがブルーニ先輩?」


面倒臭そうなブルーニに対し、ピシャリとものを言うのは、同じく副部長で2年のヨシノリである。


「事故かどうかは、パルの回復を待って、改めて議論しよう。当人が居ない所で結論は出せない。当面の我々の仕事は、学生たちが動揺しないように努めることだ。それからパルの見舞いは、同じクラスの風紀部副隊長のヤンだけに決まった。これは教頭先生からの指示だ」


エンター部長は、テーブルに肘をついて手を組み、厳しい表情で次々に指示を出していく。


「私からも事情を訊いておくよ。何かとヤマノ出身者は悪く思われがちだ。ただの事故だと調べればわかる。そうだろうザク?」


ブルーニはザクに笑顔を向けながら、さっさと執行部室を出ていった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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