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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
不思議な新入生 編
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失踪の秘密

 ボルダン校長は、キアフ(イツキ)がハキ神国語とカルート語、おまけにダルーン王国語まで話せることを知り、もう少し質問してみたくなった。


「1084年に現王バルファー様が即位されたが、あの時の戦いでの最大の功績は何だと思うかね?」


校長は意地悪く笑いながら、隣国であるミリダ語で問い掛けた。


「それは無血勝利したこ・・・」

「ちょっと待ってくれ!それはイントラ連合語だよね?君はランドル大陸全ての言葉を話せるのかい?」


校長は興奮した様子で、キアフの返答を途中でストップさせ、母国語のレガート語で訊ねた。


「はい、普通の会話なら問題ありません。先程の問いの答えを言ってもよろしいですか?」


キアフは問われた時のミリダ語で答えて、質問し返した。


「いや、すまない、試して悪かった。レガート語で答えてくれ」


校長は右手を上げて、何語で返答してくるか分からないキアフに、母国語で話すよう指示した。実は校長、イントラ連合語だけは話せなかったのである。

 この時校長は、想像以上の少年が試験を受けに来たことに驚いていた。そして己を恥じると共に、6カ国が話せる逸材に出合い、喜びが沸き上がってきた。


「それは無血勝利したことだと思います。それと頭脳戦での勝利です」


キアフは堂々と母国語で解答を言った。


『この少年の知識は凄い。上級学校では教えていない内容まで知っているようだ。普通の者なら、偽王を倒したことだと答えるだろう……これは、キシ公爵アルダス様に感謝せねばなるまい』


 校長は、これ以上の質問など必要ないだろうと結論を出した。


「おめでとうキアフ君、合格だよ。クラスはAだ」


校長はそう言って、キアフに握手を求めた。

 満点の答案用紙を持った教頭が、血相を変えて校長室に入ってきたのは、イツキが校長と握手を交わしている時だった。





「それでは、入学までに必要な物を揃えて10日の入学式に来るように。当然キアフ君のご両親も、入学式には参列されるよね?」


学年主任のダリル教授は、一通りの説明をした後で、両親のことを訊ねた。


「僕には親はいません。それと、今からキシの街に合格の報告に帰らねばならないので、入学式には間に合いません。13日には戻ってこれると思います」


キアフ(イツキ)はペコリと頭を下げて、入学が遅れることを伝える。


「あれ?君の名前はキアフ・ラビグ・イツキだよね?確か子爵家の子息だった筈だが、お兄さんがいるのかい?」

「いいえ、僕自信が子爵です」

「・・・?ええぇっ!君が子爵なのかい?」


ダリル教授は驚き過ぎて、思わず叫んでしまった。こんな若い子爵がいたのかと。


「それでは寮は北寮にしなければならない。子爵家以上の当主は、北寮に入る決まりがある。他にも領主の子息も北寮だ。主任以上の教師も北寮に住んでいる。これは特別扱いではなく安全面からの配慮なのだ。しかし、困ったなぁ・・・既に北寮は一杯だ。伯爵家の子息を出すしかないな」


ダリル教授は困った顔をして、ぶつぶつと呟きながら、伯爵家の子息の誰を北寮から出そうか思案にくれていた。


「ダリル教授、僕は若輩者である上、裏口入学ですから、目立ちたくないんです。どうぞ他の1年生と同じ東寮に入れてください」


キアフはにっこり笑いながら深く頭を下げた。

 普通、貴族というものは、特別待遇が当たり前だと思っている。そうでなければ腹を立て、己の権力と権利を振りかざそうとするものだ。

 この若き当主は、あの難しい試験問題で満点を取り、面接だけで校長に入学を認められた逸材である。実はそれだけでも北寮に入る権利があったのだ。各学年の成績上位2人は、北寮が空いていたら入れることになっているのだから。


「キアフ君が、いやイツキ君がそう望むなら、1年間だけ辛抱してくれ。それから上級学校では、貴族の当主は家名で呼ぶことになっている。だから君は、イツキ君と呼ばれることになる」


ダリル教授にそう教えられたイツキは、一瞬顔をしかめたが、何事もなかったように「よろしくお願いします」と返事をした。



『少しはのんびりしようと思っていたのに、イツキと呼ばれていれば、煩い……いや優しい師匠たちや軍学校の皆の耳にも、いずれは届くことになるだろう』


 勝手に名前を決めたアルダス様に、してやられたと思うイツキだった。






 それから5日後の1月10日、イツキは久し振りのキシの街に到着していた。


『やれやれ、アルダス様に会うのが怖いな……皆に心配掛けただろうし、突然手紙で上級学校に入学したいとお願いしたのだから、まあ……黙って叱られよう』


 実はイツキ、1096年6月末に、9歳の時から世話になっていた軍学校から、忽然と姿を消してしまったのだ。

 それは1回目のハキ神国軍のカルート国侵攻の時に、【智恵】と【神の奇跡の力】でハキ神国軍を撤退させ、役目を終えてレガート国の軍学校(15歳~20歳までが入学できる)に帰って直ぐのことだった。

 軍学校長には、教会のサイリス(教導神父)様から、イツキを暫く本教会に戻すと伝えてあった。

 しかし、その後イツキが戻ってこないので、軍学校長やレガート軍やキシ公爵アルダスは、本教会に問い合わせをしたが、誰も行方を知らないと答えが返ってきた。

 当然、皆心配していたし、キシ公爵アルダスとレガート軍ギニ副司令官などは、自分の配下を使って、ずっとイツキの行方を探させていたのだ。

 

 

 イツキの生い立ちを簡単にさらりと説明しておこう。


 イツキは産まれて直ぐに、何者かに襲われ母を亡くした。

 死にかけていたイツキは、《予言の書》に導かれた神父ハビテに助けられ、ランドル大陸の人口の9割を信者に持つ、ブルーノア教の本教会で育てられた。

 この時から、イツキを助けたハビテ(当時20歳)が、父親代わりになる。

 ちなみに《予言の書》とは、開祖ブルーノア様が書かれた書物のことである。


《予言の書》には、1070年以降ランドル大陸は、戦乱と争乱の時代に突入する。疫病が流行り、悪神が蔓延ることにより、人々を苦しめ破滅へと向かわせるだろう。それを阻止するために《予言の子》が生まれる。そして《六聖人》が立つとき、世界に平和が戻るだろうと書かれていた。


《予言の書》に書かれていた、大陸の運命を背負った《予言の子》がイツキだった。

 しかもイツキは、レガート国王バルファーが、唯一愛した女性が産んだ子どもだった。そう実はイツキ、このレガート国の第1王子だったのだ。

 しかしイツキは《予言の子》であるため、ブルーノア教により母親と共に死んだことにされている。

 だが、国王バルファーと、イツキの母の兄であり、イツキの伯父であるエントン秘書官は、キアフ(イツキの本当の名前)が生きていると信じている。


 そんな真実を知らないまま育ったイツキは、《予言の書》が示すように、4歳の時、本教会のあるハキ神国から、レガート国のミノスの街のミノス正教会に移り住んだ。

 そして9歳になったばかりの時、ブルーノア教のトップであるリーバ(天聖)様から、レガート軍に入隊するよう指示された。

 イツキは、軍学校で働く下働きの少年兵を受験したが、あまりの頭脳明晰さと、軍用犬の訓練士とハヤマ(通信鳥)の育成士という特技の持ち主であったことから、少年兵ではなく研究者として働くことになった。


 また、ミノス正教会で剣も体術も会得していたイツキは、軍学校で、その才能を一層高めていった。

 その才能を高めるのに一役買ったのが、レガート軍副指揮官のソウタと、王宮警備隊副指揮官のヨムだった。この2人は、キシ公爵アルダスの腹心の部下であり、親友であった。

 そんな縁からキシ公爵アルダスと、イツキは知り合うことになった。


 イツキの類い稀な才能に惚れ込んだキシ公爵に乞われて、1回目の隣国カルートとハキ神国の戦争を終わらせたのは、イツキが12歳の時だった。



 12歳の6月から、今日までの1年半、誰にも知られないよう姿を消していたイツキである。

 何故そんなことをしたのか?

 それは姿を消した当日、リーバ(天聖)様からの手紙(指示書)を読んだせいだった。

 その手紙には【ギラ新教がイツキを襲う可能性あり。周りの大切な人を殺されたくなければ、直ぐに姿を消せ】と書いてあったのだ。

 リーバ様の真意は、イツキをギラ新教の魔の手から守ることだったのだが……


 まあリーバ様は、いつも突然手紙で無理難題を押し付けてくる訳で、軍学校で研究者になったのも、隣国の戦争を終わらせたのも、姿を消したのも、全てリーバ様の命令だった。


 で、今度の命令が【レガート国の上級学校に入り、首席で卒業し文官として働け】だった・・・

 そしてそれは当然、《予言の書》に書かれていたからである。




 キシ公爵邸の大きな門の前に立ち、門番の人に「イツキが来たと伝えてください」と、勇気を出して伝える。

 誰だお前?子どものくせに領主様に面会?という顔をしていた門番だが、そこは流石キシ公爵家の門番、子どものイツキにもつべこべ言わず「暫くお待ちください」と言って、確認を取りに行ってくれた。

 

 数分後、すんなり通されたイツキは、領主の執務室の前でフーッと深く息を吐き、顔を上げて扉をノックした。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

初めて読み始める方のために、イツキの生い立ちを書きました。

ずっと読んでくださっている方には、必要ない部分でしたが、温かい目で見てやってくださいませ。


訂正)ギニ副指令➡ギニ副司令官

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