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イツキ、部活動をする

 選挙が終わった翌日、教室を覗きにやって来る上級生や隣のクラスの者たちを、面倒くさそうに追い払うのは、1年A組のクラス風紀委員になった、寮の同室であるイースターだった。


「おいイツキ!お前の昨日の顔を見たくてやって来る奴等をなんとかしろ!煩くて迷惑だ」


 イツキ君居る?とか言いながら、わんさか先輩がやって来ては、イツキに面会を申し込む。たまたま席が1番前のイースターは、その都度応対しなければならず、迷惑を被っていた。

 今日のイツキは、メガネをかけて前髪は横分けせず、おでこも出ていないし、表情も分かりにくい。しかも、すこぶる不機嫌である。


「そんなこと言うなら、宿題は手伝わないことにする」


イツキは怒って自分の机に戻り、キシ公爵が用意してくれた高級ノートの1ページを破り、何やら書き始めた。


「ちょっと待てイツキ、お前は被害者だった・・・すまない。謝るから……その……宿題は……」


イースターは慌ててイツキの機嫌をとりに来て、イツキから1枚の紙を渡された。


「僕の顔を見に来た人にはこれを見せてくれ。そしたら来なくなるから」


 イツキから渡された紙には、【イツキ君は男に興味がありません。話がある人は以下の問題を解いてから来てください】と書かれていて、その文章の下には3つの薬草の名前が書いてあり【この薬草の効能と有効な病名を答えよ】と書いてあった。


「イツキ、お前変なことを考え付くなあ……こんなもの調べたら直ぐ判るだろう?それに先生に訊けば判るだろうが」


イツキの隣席のナスカが、イースターに渡された紙を見ながら怪訝な顔で質問する。


「そうでもないよ。あと3ヶ月は答えられないだろう」


イツキはそう言って、教室の入口から自分の方をジロジロ見ている野郎共を睨み付けたが、メガネに微妙に掛かっている前髪が邪魔で眼力は役に立たない。

 イースターは面倒臭くなり、イツキから渡された紙を入口付近に貼り付けた。





 放課後イツキは、初めての部活動に心踊らせ教室を出た。途中で感じる野郎共の視線は、完全無視して早足で歩き目的の場所に急ぐ。

 イツキが選んだ部活は【発明部】で、グラウンドの前の工作棟で活動している。

 部員は物作りが大好きな、オタクばかりである。しかも人数は5人しかいない。全部活の中で1番人数が少ないところも、イツキが発明部を選んだポイントになっている。

 イツキはルンルンして、発明部の工作室のドアを開けた。


 工作室は、特別教室棟の実験室と同じくらいの広さがあり、風を通せる大窓は2ヶ所で、他は明かり取り用に高窓が南側の壁一面にある。

 大きな工作机が3つあり、各々の机で製作されている物が違うようだった。その他小さな机の上には、工作機械が置いてあり機械は5つあった。

 西側の壁一面に棚があり、色々な作品や塗料やネジや工具が、きちんと並べて置かれている。


「あれ?君は噂のイツキ君。当選おめでとう。同じキシ出身者として嬉しいよ。今日は風紀部の仕事かい?うちは弱小部だから問題も起こらないし、新入生も1人しか入部しない人気の無い部活だから、見回りは必要ないよ」


そう話しかけてきたのは、発明部の部長ユージ・フッツ・ドルーブ17歳3年、キシ出身の男爵家の長男。グレーの短髪にやや小さ目の丸いグレーの瞳、そばかす顔でイツキより少し小柄である。

 選挙活動で挨拶に来た時、執行部の書記に当選したキシ出身のミノル先輩が「ユージ先輩は発明が好き過ぎて留年した」と教えてくれた。


「いいえ、風紀部の仕事ではありません。今日から発明部でお世話になりますキアフ・ラビグ・イツキです。どうぞよろしくお願いします」


イツキは笑顔で挨拶した。が、ポカンと口を開けたままの先輩方からは、なんの言葉もなかった。


『あれ?僕は発明部って希望を書いたはずだけど・・・』


「「えええぇっ!!新入生ってイツキ君なの?本当に?」」

「はい。そのはずですが・・・」


 またまた固まった先輩方は、5人で顔を見合わせながら頬をつねったり、頬をペチペチしたりしてから叫んだ。


「やったー!」「ばんざーい!」「神様ありがとうございます」


 皆が一斉に神に感謝して祈り始める・・・そして抱き合って喜びあう。

 先輩によると、執行部や風紀部の役員が入部したのは12年前が最後で、貴族の当主が入部したのは18年振りらしい。おまけにイツキが入部すること・・・それは、【幸運な部活者】になれたことを意味する。

 外国語が出来る寮の同室者が居る【幸運な同室者】は時々あるが、【幸運な部活者】は、9人未満の部活にのみ適応されるらしい。大人数では教えて貰える可能性が低い上に、揉め事になり顧問に止められる可能性が高いそうだ。


「イツキ君、質問してもいいかなあ?イツキ君が話せる外国語って、何処の国なの?」


先輩5人は胸の前で手を組み、必死な顔で祈るようにイツキを見詰める。


「そんなに外国語って難しいですか?」


イツキの質問に全員が、特にユージ部長は何度も頷いている。

 イツキはフッと鼻で笑いながら全員を手招きして、頭が当たりそうなくらいに近付いてから、小さな声で答えた。


「秘密ですが、僕は6カ国語全て話せます。文章も大丈夫だと思います」

「 ・ ・ ・ !!!」

「えっ?じゃあミリダ語は……」

「もちろん大丈夫ですよユージ部長。でも秘密ですよ、絶対に秘密」


 全員感動のあまり涙を浮かべて、何度も大きく頷いて了承する。どうやら【発明部】の全員が外国語は苦手らしい。



「やあ、いらっしゃいイツキ君。自己紹介は終わったかい?」


物凄く上機嫌で顧問のイルート・バッハヌ先生が、勢い良くドアを開けて入ってきた。

 相変わらず元気と言うか熱血な感じの先生だなと、イツキは苦笑いする。

 選挙の時、発明部を訪問したイツキは、何故こんなに人数が少ないのかと訊ねた。すると、担当顧問が熱血過ぎるからだと先輩方は言っていた。


 イルート先生は、イツキの入学試験の時に教員室にいて、イツキの解答用紙を見た数少ない教員の1人だった。

 それ故、昨日入部希望者の名前を見た時は、驚きと喜びで思わず「やったー!」と叫んでしまった程だ。


「今年度は、絶対に売れる物を作るぞ。それから凄くいい報告がある。なんと!国から補助金が出た。だから何がなんでも新しい武器を作るか、生活に役立つ物を作らなければならない」


「本当ですか先生!そんな奇跡が我が部に・・・幸運がこんなにも続くなんて」


 イルート先生と部員の皆は、本当に涙を流して喜んでいる。そんなにこれまでが不運……いや辛かったのだろうかとイツキは思ったが、補助金に関しては、恐らくギニ副司令官か技術開発部部長のシュノーさん辺りが、自分の為に動いてくれたのだろうと推察するイツキだった。

 


 今日は補助金が出たこともあり、備品購入の希望を決めたり、これからの目標、年度計画を立てることになった。

 先ずは部員全員の自己紹介と、希望や作りたい物を各々発表する。

 先輩方の希望で1番多かったのが新しい武器作りで、2番目がお金になる発明で、3番目が新しい乗り物だった。

 イツキは、お金になる発明なら遊具はどうだろうかと提案した。


「遊具?おもちゃのことか?子どもの為に?」

「いいえイルート先生、大人も遊べる遊具です。発明って楽しいことから発展するか、怠けたいとか楽したいとか思うところから生まれると思うんです」


イツキはそう言うと、大人も遊べる遊具……それは我々学生も楽しめるということ。売れる物とは、またやりたい何度も遊びたいと思える物でなければならない。難し過ぎたら子どもには無理だし、簡単過ぎると大人は飽きると語った。


 他の部員たちは花形の武器を作りたい者が多かったので、イツキは新人だし武器はまだ難しいだろうから、別行動で遊具を作ってはどうかとユージ部長が提案し、他の部員も顧問のイルート先生も同意したので、イツキは1人で遊具を作ることになった。

 設計図を2週間以内に提出し、その後試作品を1ヶ月で作ることを目標にし、武器班が2つ、遊具班が1つで早速活動を開始する。


 実はイツキ、行方不明になっていた1年半の間、商団と一緒に大陸中を旅していて、既に思い付いているアイデアが幾つかあった。

 2人又は4人で対戦し勝敗を競えるような道具を作る、又は個人の技で得点を競う道具を作るのが良いのではないかと。

 最近発見された、樹液が固まると弾力性のある個体に変化する【ポック】の木。あの樹液を使って何かを作りたいとアイデアを温めていた。

 イツキは【ポック】の木が校内に生息しているかどうかを確認するため、顧問のイルート先生に許可を貰って、特別教室棟の3階で活動している植物部を訪ねることにした。




 特別教室棟の前まで来ると、ヤマノグループの皆さんが居て、何やらヒソヒソと話をしていた。

 ヤマノグループって、部活はどうなっているのだろうか・・・

 見たくはなかったが、黒いオーラが3人の身体を包んでいる。

 リーダーのブルーニとドエルとルシフの3人だけが黒いオーラを出しているが、同じクラスのルビン坊っちゃんやホリーは、むしろほのぼのしている様子に違和感を感じる。

 一口にヤマノグループの15人と言っても、心の中は皆同じではないのだろう。


 イツキが歩いて来るのに気付いたドエルは話すのを止め、イツキに対して軽蔑したような視線を向けてきた。そしてゆっくりとイツキの方に歩いて来て言う。


「お前は中級学校にも行っていないらしいが、外国語だけ出来ても卒業は出来ないぞ。これからは見せ物になる作戦も通用しない。どうやら発明部に入部したようだが、部活の存続も危ないような部だ。せいぜい今の内に無能さを隠しておくことだな」


 何故そこまで憎しみの籠った視線を向け、敵意を剥き出しに出来るのだろうかと、不思議に思う気持ちと、哀れに思う気持ち半分でイツキは返答する。


「ドエル先輩、学校は楽しいですか?先輩はいつも……何故か辛そうですね」

「・・・辛そう?」



 イツキのこの言葉が、ドエルの心の平静に石を投げ込み、初めて起こったさざ波は、次第に大きな渦へと変化していくのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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