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任命式と断髪式

新章スタートしました。

これからもよろしくお願いします。

 1098年1月20日、昼食後学生たちは、体育館で執行部と風紀部の投票を行う。


 午後1時30分までに投票を済ませて、2・3年生は部活動をし、1年生はそのまま体育館で、午後1時40分から3時まで部活紹介を聞く。

 本来1年生は、19日迄に各自で部活見学をすることになっている。しかし、興味の無い部活の見学をする者は少なく、全ての部活に興味を持って貰い、部員を獲得するために、各部活の部長と副部長が、1年生を対象に最後の部活紹介をするのだ。

 1年生は、午後3時から4時までにの間に、再度興味を持った部活見学をして、午後4時には、2・3年生と一緒に体育館に戻ってくる。



 午後1時30分に締め切った投票は、教師5名と各クラスから選ばれた選挙管理委員が、別室にて厳正に集計をしていく。

 何度も確認して午後3時には結果が出される。その後選挙管理委員は、当選者の任命式の準備するため体育館に移動し、投票結果と当選者の名前を用紙に書き、任命書を作り、執行部役員には《青いバッジ》を、風紀部役員には《赤いバッジ》を用意する。かなり大忙しである。

 その間選挙管理委員は、学生に会うこと、結果を教えることを禁止されている。




 午後4時、学生たちが集合したところで、選挙管理委員会の委員長が、結果を記入した用紙をステージの掲示板に貼り出していく。


【 執 行 部 】 

◇部長 エンター 3年 ◇副部長 ヨシノリ 2年 ・ ブルーニ 3年

◇書記 ミノル 2年 ◇会計 ナスカ 1年 ◇庶務 ザク 2年


【 風 紀 部 】

◇総隊長 インカ 3年 ◇副隊長 ヤン 2年 

◇2年部隊長 パル 2年 ◇1年部隊長 イツキ 1年


 体育館内に大きなどよめきと拍手が起こる。

 どよめきの原因は、ヤマノ出身者がブルーニ1人しか当選していなかったことと、ナスカが1年生ながら会計に選ばれたことである。

 妙に盛り上がって拍手を貰っていたのが、1年生のイツキである。

 これで断髪式は決定し、違う意味でもう1つイベントが確定したのだ。


 当選した執行部6人と風紀部4人はステージに上がり、校長から任命書を1人ずつ受け取った。

 そして選挙管理委員長から、執行部は《青》、風紀部は《赤》のバッジを、1人ずつ左腕に付けて貰った。


 校長の役員たちに望む役目と、正しい学生の在り方の話が終わると、当選者たちは短く挨拶してステージを下りた。 

 任命式終了後、全学生は4時50分からのホームルームの為に教室へと戻っていく。

 イツキとナスカは、クラスメートたちから「おめでとう」の祝福の言葉と、ポンポンと肩を叩かれまくり、教室に帰るまでに肩と背中が痛くなった。

 ホームルームでは、正式な入部届けを担任に提出した。いよいよ明日21日から正式入部となる。



「おいイツキ!断髪式は何処でやるんだよ?」

「どんな顔でも友だちだぜ!」


ホームルームが終わると、皆が1番後ろの席まで寄ってきて嬉しそうに声を掛ける。他人の不幸はとても楽しいようだ。


「ああ!僕なんだかお腹が痛いかも……部屋に帰ろう・・・」


「今更逃げるのか!卑怯者。約束だろうが観念しろよ」

「そうだぞイツキ。ルビンの言う通りだ!」


イツキの弱気な言葉を遮りながら、ルビン坊っちゃんが立ち上がって文句を言う。クラスメートもルビンの言葉に同意し、イツキの両脇を抱えるようにして教室の外に連れ出していく。


「お前ら、断髪式は寮の中庭の噴水の前だぞ!」


ナスカの有り難い?言葉を聞いたクラスメート全員に、わいわいガヤガヤと引き摺られて行くイツキであった。





 1月にしては暖かい薄曇りの空の下、寮の中庭に在る噴水の前には、イツキの断髪式を観ようと大勢の学生たちが集まっていた。

 今日は選挙があった為、部活も既に終えられており、学生たちは暇である。

 例年なら各部活で集まり、予算打ち合わせとか、備品購入依頼書を記入したりするのだが、今年度は予算書の提出日前に休日が入るため、急いで準備をしなくてもよかった。それに、断髪式は直ぐに済む筈だから、その後でいいやと皆思っていた。


 今か今かと待ちわびる学生たちの前に、1年A組のクラスメートに引き摺られたイツキがやって来た。


「よっ!待ってました」「断髪式だー!」「早くやられろ!」


 様々な怪しい声が飛ぶ中、イツキは白いベンチに無理矢理座らされ、ガックリと項垂れている。

 そこへ大きな拍手に迎えられ、手に持ったハサミを高く掲げた、執行部新部長エンターが、人垣の中から池の前に進み出てきた。


「いいぞー!執行部部長!」


 声援と口笛で、噴水前はどんどん盛り上がっていく。

 そこへもう1人の男がやって来て右手を上げる。すると会場は一瞬で静かになった。


「俺はイツキの推薦者として見届ける権利がある。そして、風紀部隊長として身嗜みを注意する義務がある。俺は問う!みんな、イツキの髪型は風紀的にどうなんだー?有りかー?無しかー?」


「「「無しだー!!!」」」


 インカ先輩の問い掛けに、何故か全員が拳を掲げて叫んでいる。

 おまけに、マイハサミを持ってきている奴もいる。


「ちょっと待った!その断髪式ちょっと待てー!仕上げはこの私がやらせてもらう。私の美的感覚に勝てる者はいるかー?」


何故か、えんじ色のテーブルクロスとハサミを持った、執行部新副部長ヨシノリ先輩が大声で乱入?してきた。


「誰もいませーん!」


よく揃った声で10人くらいが返事をする。どうやらこの人たちが、噂のヨシノリ親衛隊の皆さんのようだ。


『ええっと……公爵家の子息で、上品で気品があり、常に身嗜みに気を使っているヨシノリ先輩、貴方はそんなキャラでしたっけ?』


 イツキだけではなく、多数の学生がふとそう思ったが、優しい顔で笑っているヨシノリ副部長が、あまりにも嬉しそうだったので、誰も何も言わず拍手と歓声で迎えた。

 ヨシノリ副部長はイツキの前まで行くと、イツキの肩に、マントのようにテーブルクロスを巻き付けていく。

 そして髪を切りやすいように、ぐちゃぐちゃだったイツキの髪を、櫛で解かして整え始める。

 だんだん本格的になっていく様子を見た観衆は、たかが散髪にテンションが上がっていく。


「みんな待たせたな。俺がこれからイツキの顔の真実を、皆に教えてやろう。俺は約束する。イツキの顔は意外と見れると」


ハサミをカシャカシャさせながら、ベンチに座ったイツキの顔の横に立ってエンター部長が叫ぶ。


「んな訳あるか!どう見ても冴えないぞー!」

「がっかりさせるなよー!」

「所詮は男だ、不細工上等だー!」


 好き放題言われながら、イツキは「はあーっ」と大きな溜め息をついた。


「頑張れイツキ!」


優しい1年A組の友人から声援が飛ぶ。イツキは右手を少しだけ上げて、2・3度手を振った。

 

 整え終わったイツキの髪に、いよいよハサミが入っていく。

 ジョキジョキ・・・シャキシャキ・・・


 イツキの鼻が見えてきた。エンター執行部部長は、ついでに横も後ろも伸び放題になっていた長い髪を、バシバシ切って揃えていく。

 イツキの前髪がメガネの下まで切られたところで、ヨシノリ副部長に役目がバトンタッチされた。


「おーい!メガネが邪魔だぞ」


他人事のように、インカ風紀部隊長が突っ込みを入れる。

 ヨシノリ副部長は「イツキ君ごめんね」と小さな声で囁きながら、メガネを外した。

 そして仕上げで前髪を揃えて、横髪を流れるような感じで段をつけてく。

 そろそろ終わりに近付いたのか、マントのように巻かれたテーブルクロスに落ちた髪の毛を払った。


 切り始めてから要した時間15分。長いような短いような時間だが、学生たちは、イツキの顔で賭けを始める。

《普通の顔》《不細工顔》《アザや傷のある顔》の3つで賭けられ、外れた者はグラウンド1周らしかった。

 皆お祭り気分なので、機嫌良く待っている。


「さあ、仕上げだ。どれどれ・・・」


 総仕上げに前髪を横分けにして、ヨシノリ副部長はイツキの瞳とおでこを半分出した。観衆も静になり、ヨシノリ副部長の背中が移動するのを待つ。いよいよ賭けの結果が出るのだ。


「 ・ ・ ・ 」


何故かヨシノリ副部長の手が止まり、言葉もなくイツキの前で固まっている。


「どうした副部長?見せられない程酷いのか?」(インカ先輩)

「早く見せてくれー」(観衆)

「おーい!イツキ立ち上がれよー」(クラスメート)


 観衆は、イツキの真ん前に、ヨシノリ副部長が立ち塞がっているので確認できない。

 イツキの前でアワアワしているヨシノリ副部長の様子に、インカ風紀部隊長がどうしたのかと、イツキの顔を覗き込んだ。


「・・・これは・・・閲覧禁止にしろ!」


インカ風紀部隊長の言葉に「早く見せろー」と、大ブーイングが起こる。15分も待っていたのだ。どんなに見るに耐えない顔でも、見ないままでは帰れない。


「インカ先輩、閲覧禁止って何ですか?僕は本じゃありませんよ!」


文句を言いながら、イツキはゆっくり立ち上がった。

 その時、薄曇りの雲の隙間から、西に傾きかけた柔らかなオレンジ色の太陽の陽射しが、スウーッとイツキの姿を照らしていく。


「「「 ・ ・ ・ !!! 」」」


 そこには、流れるような美しい黒髪に、形の良い涼やかな眉、長いまつげで、黒蝶真珠のように輝く、とても珍しい大きな黒い瞳、バランスの取れた鼻と唇、まるで少女のように美しい顔立ちのイツキが立っていた。


 ツカツカツカと早足で近付いて来たヤン先輩が、白いベンチの上に置いてあったメガネを、素早くイツキに装着?し、「これにて終了!」と言って、イツキを特別教室棟の方に連れ去って行った。


 その夜は「それはまるで、えんじ色のドレスを纏った美しい少女のようだった」とか「天使が光と共に舞い降りた」とか「美少女が立っていた」とか、その時の光景を思い出して(妄想して)、ボ~ッとする残念な学生や、危ない感情を抱きそうになり葛藤する学生が続出した。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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