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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
不思議な新入生 編
17/116

イツキ、選挙活動をする (2)

次話から新章突入です。

イツキたちの戦いが、いよいよ始まります。

 ヤマノ出身グループは、音楽隊の部活に顔を出していた。

 執行部副部長に立候補したブルーニを先頭に、いつものように15人が団体行動をしている。

 しんがりは1年A組のルビン坊っちゃん、ホリー、B組のルシフである。


「ドエル、今回の失態の責任は重いぞ。いいか、何がなんでも2年のパルとミノルの弱味を探れ。選挙はもう仕方ないが、この2人を引き摺り降ろし、補欠選挙をすれば済むことだ」


「はいブルーニ様、平民ふぜいのパルが風紀部役員になるなど、許し難いことです。ミノルもキシ出身者です。必ず痛い目に遇わせてやります」


ドエルはブルーニに深く頭を下げ、両手を強く握り締めて、憎しみを込めた表情で、パルに対する憎悪を深めていく。そして深く息を吸うと、気持ちを切り換える。



「音楽隊の部長はヤマノ出身者ですが、昨年軍学校から編入してきた平民で、モンサンという3年B組の奴です。品位の欠片も無い奴でしたので、これまで使ったことはありません」


 体育館入り口の大きなエントランスで、ドラムの指導をしているモンサンの姿を、少し遠くから眺めながらドエルが説明する。


「どんなに下品で生まれの卑しい奴でも、ヤマノ出身である以上、この私に従わない学生がいるのは不愉快だ。連れてこい」


ブルーニは顎でドエルに合図する。ドエルは軽く頭を下げて、1年のルシフと連れ立ち、部活中のモンサンを呼びに行く。


 ブルーニの家は伯爵家で、王妃の父である現国務大臣クロノスとは、遠い親戚筋に当たるらしい。それ故かヤマノ領内では、領主ヤマノ侯爵の片腕としてヤマノ領内で権力を持っている。

 ブルーニは3男だが、長男は上級学校卒業後文官となり、昨年から第1王子サイモス様の教育係をしている。

 兄が王子の側にいる限り、ブルーニの将来も明るい・・・と、ヤマノ出身の者は考えている。


 地元ヤマノ領に帰って就職する者や、王宮で就職を希望する者は、ブルーニの機嫌を損ねてはチャンスを失うことになる。

 


 昨年前期、ヤマノ出身者が学校内で行った数々の虐めや暴力行為は、その半分がブルーニの指示だったと言われているが、自分の手を汚さない彼は、ペナルティーさえ与えられず、のうのうと生活していた。

 昨年卒業前に退学処分になった1つ上の愚鈍な兄でさえ、弟ブルーニに逆らえず身代りに退学になったと、エンターやインカは思っている。


 ドエルとルシフは男爵家の長男で、ヤマノ領に居る親はブルーニの父親の部下である。後を継がねばならない2人にとって、親の為にもブルーニを怒らせることは出来ない……と思い込んでいる。


「ブルーニ様、モンサンを連れてきました」


ドエルは面倒臭そうに歩くモンサンの背中を押すように、ブルーニの前へと押し出す。


「お前がモンサンだな。用件を言う。分かっているとは思うが、執行部と風紀部の選挙は、ヤマノ出身者に投票するよう部員たちに伝えておけ。これは命令だ!」


「命令?」


モンサンは怪訝な顔をして口ごもる。ブルーニの悪い噂もやり方も知っているモンサンは、ここで言い争っても得はないと分かっている。


「分かりました。伝えておきます」


そう言うと、少しだけ頭を下げてその場を立ち去っていく。


「所詮は下賤の者、礼儀を教えてやらねばならないようだ」


不機嫌に顔を歪ませたブルーニの言葉を聞いて、グループ全員に緊張が走った。


「将来、軍で演奏しているだけの出世など無縁の者です。ブルーニ様が気になさる存在ではありません」

「そうです。内政など無縁の兵士に過ぎません」


グループの3年生が、機嫌を取るように言う。ブルーニの機嫌が悪いと、自分たちに矛先が向いてしまう。それだけは避けたい為に、最大限に注意を払って言葉を選び進言する。





「部長!なんの話でしたか?選挙活動のお願いですか?」


音楽隊副部長が、心配そうに駆け寄ってくる。他の部員15人も手を止めてモンサンの方を見る。


「お願い?まさか・・・命令だったさ。俺はヤマノ出身だけど貴族じゃない。それに彼奴は文官志望で、俺は軍で働くことが決まっている身だ。正直奴等の顔を見るだけでヘドが出る」


モンサンは顔をしかめて、憎しみを込め言い捨てる。 


「ギャ~ッ!部長止めてください。うちの部にはヤマノ出身者は他に居ませんが、そんなこと聞かれたら、殺されます。部活も出来なくなります。お願いですから逆らわないでください」


副部長は涙目になりながら、必死に止めようとする。他の部員たちも、辺りにヤマノ出身者が居ないかキョロキョロ確認する。



 昨年前期、前の音楽隊部長がヤマノ出身者に逆らって、左手中指の骨を折られた。怒った副部長が風紀部に訴えたら、闇討ちに会い足を縫うケガをした。

 逆らった原因は、部費の3分の1を差し出すよう命令されたからだった。


 昨年後期に、エンターとインカが執行部と風紀部の立て直しをして、闇討ちの件は明るみに出て、犯人たちは停学となった後、他の事件も起こし退学させられた。

 その件もあり、音楽隊の部員はエンターとインカを尊敬(崇拝)している。


「俺は奴等になんと言われようと、エンターのグループを応援する。それにあの1年生の2人も度胸が有りそうだった。イツキと言う名前も気に入った。軍学校にも同じ名前の先生が居たが、正義を尊ぶ小さな巨人と言われる人だった」


モンサンは、軍学校時代のことを思い出し、イツキ先生は今頃どうしているのだろと、遠くの雲を見詰めながら心配する。


 イツキが突然姿を消した1096年6月末、モンサンは軍学校の学生だった。

 その年の12月に軍学校を優秀な成績で卒業し、1097年1月、モンサンは2年コースで上級学校の2年生に編入した。

 軍学校に入学した当時は、子どものイツキが気に入らなかったが、イツキの武術の才能に仰天し、軍用犬の育成をする姿を見て、自分も頑張ろうと思った。

 しかし、モンサンは剣が苦手で、勉強が出来ても軍では活躍できないのではと悩んだ。

 そんな時、イツキがモンサンに声を掛けた。


「君は耳がいいから、音楽隊はどうだろう。音楽隊は兵士の士気を上げ、団体行動をとる時の号令の代わりにもなる。ある時は危険を知らせる役目を果たし、ある時は人々の心を慰めたり勇気付けたりする。軍には無くては成らない大切な仕事だ」と。


 モンサンは、今の自分が頑張れるのは、あの時のイツキ先生の言葉のお陰だと思っている。


『しかし、1年生のイツキ君も珍しい黒い髪だったな。顔が見たいから絶対にイツキ君に投票しよう』


 モンサンはイツキ先生を思い出しながら、嫌な気分が晴れていくのを感じた。






 ヤマノ出身グループが次に向かったのは、特別教室棟3階の実験室だった。

 2階の階段を3階に向かって上っていると、「やったー」とか「すげー」とか大声で叫んでいる声が聞こえてきた。

 

「なんだか騒がしいな」


「直ぐに静かにするよう指導して参りますブルーニ様」


ルシフはそう言うと、急いで階段を駆け上がっていく。先日の失態を挽回しようと懸命なのだ。


「先輩方、これからブルーニ様が見えられます。静かにしていただきたいのですが」

「なんで?」

「だから、ブルーニ様が選挙の挨拶に来られるので・・・」

「ああ、分かった。ブルーニね・・・やったぞ!完全なオレンジだ!あいつはいったい何者なんだ?」

「ちょっと!静かに!」


ルシフが小声で部員たちに文句を言っている所へ、ヤマノ出身ご一行様が到着してしまった。

 ブルーニが実験室に入ってきたのを、ちらりと視線の端で捉えた化学部の部長のクレタは、急に喋るのを止めて部員たちに目配せをした。部員たちはクレタに倣って話すのをピタリと止める。


「皆さん、この度執行部と風紀部に立候補した5人が挨拶に来ました。どうぞよろしくお願いします」


 立候補している5人は前に出て軽く、本当に軽く頭を下げた。口上を述べているドエルが、1番頭を下げているのが不自然だが、ヤマノ出身ご一行様にとっては普通のことであった。


「クレタ、首席の知識を無駄なことに使わず、君も文官を目指すのなら、そろそろ将来のことを考えた方がいい。首席の君が地方で仕事することになるのは、上級学校の歴史に泥を塗るようなものだ。王宮勤めを考えているなら相談にのってもいい」


ブルーニは、実験室に居る部員たちを見下すような視線で見ながら、3年生首席のクレタに提案してくる。

 これまで何度かブルーニは、クレタを自分の配下に入れようと誘っているのだが、よい返事を貰えてはいない。


「ブルーニ、何度も言っているが、僕は権力や出世には興味が無いんだ。幸運にも僕は長男ではないので、別に地方でも構わないし無駄と思われる研究が好きなんだよ」


クレタ部長は無表情なまま淡々と、ブルーニにいつもの自分の考えを述べる。


「君は権力というものが分かっていない、つくづく残念な奴だな。いつまで強がりが言えるか楽しみだよ」

「それは脅しか?」

「まさか。立候補の挨拶に来ただけだよ」


ブルーニは右の口角を上げて、どす黒い笑顔をクレタと部員たちに向けた。そしてクルリと廊下の方に向きを変えると、お付きの皆さんを後ろに従えて出ていった。





「クレタ……どうするんだ?」


美しくオレンジ色に染まった綿の水を絞りながら、植物部の部長パルテノンが訊ねた。


「何がだ?」

「ハーッ、お前が欲の無い奴で良かったが、そろそろ誰に付くのか決めた方がいい。俺はエンターを信じることにした。ブルーニに付くならそれでもいいが・・・」


「僕は、この実験の価値も解らないような無知な男と組む気はない。エンターとインカに協力するのも面倒だが、あのイツキとか言う1年生は気に入った。化学の価値を知っているようだし、あの知識にも興味が湧いた」


クレタはパルテノンの言葉を途中で遮り、ブルーニを軽蔑した口調で断絶し、イツキの「化学の先駆者」という言葉を思い出しながらニヤリと笑った。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次章は、キシ組もやって来て、上級学校がバタバタする予定です。

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