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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
不思議な新入生 編
16/116

イツキ、選挙活動をする (1)

 イツキとインカ先輩が話し始めて4分、退屈して眠っていた学生たちも、皆の笑い声に目を覚ましていく。


「確かに僕は、試験日に国外に居ましたが・・・そうだ!僕は6か国全ての国に行きました。ランドル大陸の王都の城を全部見学しました」


〈〈 オオォー! 〉〉と、野太い野郎たちの感嘆の声が上がる。


「なに!それは凄いじゃないか。それなら外国語も話せるのか?」

「はい……いいえ・・・それは同室者の友人と約束したので言えません」


イツキは体育館の窓の方向に、視線を逸らして口に手を当てる。


「同室者と約束?ふーん成る程……幸運な奴等だな」


〈〈 ほっほー、成る程、なるほど……〉〉学生たちの瞳が怪しく光る。


 1年A組の学生たちが、トロイとイースターの方を睨み付ける・・・

 とんだ場面で睨まれた2人は、視線を泳がせオドオドしている。


「それで、お前はキシ出身の子爵家当主らしいが、何故東寮に居るんだ?」

「だって、僕は裏口入学で新参者ですよ。それに僕は貴族だからって威張るのは嫌いなんです」


「まあ分かった」

「何が分かったんですか?」


「お前は貴族の当主なのに、冒険者のように世界を巡る勇気を持ち、秘密みたいだが外国語が話せて、威張りたくないとか言う変わり者だと分かった」


「「「 ワーハッハッ 」」」


「何だか僕、会場の皆さんから笑われているんですけど・・・」


 会場は、大いに盛り上がっていく。ここは最後のインパクトが大事だろうと、インカ先輩がイツキに指示されていた最終兵器を?を持ち出していく。


「おいイツキ、お前もしも風紀部役員に当選したら、その鬱陶しい前髪を切れ!」


「ええっ!僕は光に弱いし、顔は見られたくないんです!」


イツキは必死に抵抗するように、インカ先輩の方を見て手を合わせてお願いする。


「よし!その時は、俺が皆の前で断髪式をしてやろう!」


エンター先輩は打ち合わせ通り立ち上がり、大きな声で髪切り役に立候補する。

 すると会場は、大きなどよめきと共に「いいぞやれー!」とか「待ってました!」とか「不細工でも許してやる!」とか、あちらこちらから声が飛び交い、大いに盛り上がり、そのまま演説は終了した。

 何故かインカ先輩が皆に手を振りながら、拍手を貰っている。





 放課後イツキのグループ8人は、エンター先輩の部屋に集合していた。


「しかし、打ち合わせも無く指示も1つだけだったので、どうなるかと心配でしたが、あんなに盛り上がるとは、さすがイツキ先生ですね」


インカ先輩は、先程の演説を振り返り、イツキの作戦に脱帽する。

 イベント好きなのは何処の学校も同じである。退屈な学校生活に楽しみを与えることの有効性を、イツキはよく知っていた。


「インカ先輩、先生はやめてください。イツキ君で良いですから」


「いやー、俺なんか本当に腹を抱えて笑いましたよ。あれは演技に見えませんでしたね」


パル先輩は、感心したようにイツキとインカ先輩を見て言う。


「掴みは完璧でした。これで学生たちはイツキという名前を覚えたと思います。何度もインカが名前を連呼してましたから。それに本来北寮に入れない伯爵家の長男たちも票を入れるでしょう。なによりヤマノ出身者が嫌いな者たちの心は掴んだ筈です」


エンター先輩は満足そうな微笑みを浮かべながら、全員にこれからの活動の予定を書いたプリントを配っていく。

 これから直ぐに各部活を回って挨拶をする。執行部組と風紀部組の2手に分かれて、活動することになった。

 明日からは、昼休みも教室回りをしていく。




 イツキたち風紀部組は、今日と明日は文化部系を回ることになっている。

 文化部は、化学・植物・文学・音楽隊の4つがある。

 文化部でも運動部でもない、発明部も一応文化部系に入れて、明日回る予定である。



 先ずは、特別教室棟の3階で活動している化学部を訪ねる。

 イツキたちの作戦は、文化部をイツキがリードして、運動部をパル先輩がリードすることで、今回初めて立候補する2人が目立てるようにするものである。


「こんにちは。風紀部役員に立候補した4人が挨拶に来ました。少し見学してもいいですか?」


イツキは明るく挨拶するが、反応は良くない・・・部員は10人のはずだが、現在実験室には18人居る。

 実験室には、大きな実験用の机が6つあり、椅子は後ろに集められていた。実験している机の回りに数脚だけ配置してある。

 1つの机の上にはアルコールランプに火がつけられ、何やら容器が載せられている。

 その机をぐるりと囲むようにして、部員たちが容器の中を覗き込んでいる。


 今日は植物部と合同で、染色の実験をしているらしく、実験室の中は、微妙な臭いが漂っている。

 まるでイツキたちなど眼中に無いように、実験に集中している。

 見学していると、焦げ茶色の液体の中に、白い綿を浸していく。その後それを水で洗うと、綿が赤い色に変わっていった。


「ダメだ・・・もっと明るいオレンジ色にしたいのに、また失敗だ」

「もう考えられる植物は無いぞ・・・これじゃバザーに間に合わない」

 

先輩方はガックリと肩を落として椅子に座る。そしてやっと側で見ていたイツキの存在に気付いた。しかしフーッとため息をついて、何も言わずスルーされてしまった。


「この染色液は、ミハルヤ草と……匂いから察するにラブドヤの木でしょうか?」


突然正解をさらりと答えたイツキを、信じられない!という顔で18人が見詰める。


「オレンジ色に染めたいなら、ミハルヤ草とシグキヤの木の皮が良いと思います」

「はあ?シグキヤの木?有り得ないな。あの樹液は黒だぞ!」


イツキの助言に呆れ顔で文句を言うのは、変人と名高い3年の首席、ラミル出身のクレタ先輩17歳である。


「先輩、あなたは化学の先駆者でしょう?化学者は失敗を恐れず、固定観念に縛られず、如何なる時も発想は自由である筈です。違いますか?・・・それでは皆さんお邪魔しました」


呆れ顔の18人に、バイバイと手を振ってイツキたちは次の場所に移動した。




 次の部活は文学部である。彼らは図書室の中の資料室でひっそり……いや、静かに活動している。

 資料室の窓は高窓になっていて、換気する時は脚立を使わねばならない。広さは執行部室の3分の2くらいで、両壁には資料棚があり、右側の棚には200年以上前の古い資料が保管されている。左側の棚は、文学部の歴代部員の書いた小説等が並べられている。


 主な活動内容は、ランドル大陸の古典文学と、現代文学を研究し、時折自分たちの小説を発表することだそうだ。

 部長のロードス先輩が、淡々と活動内容を説明してくれる。


「まあどうせ君たちは、文学になんて興味ないだろう。風紀部に期待するのは、昨年の前期みたいに、図書室で騒ぎを起こさせないで貰いたい・・・まあそのくらいだ」


『目立たない・・・地味・・・なんて素敵な部活なんだ!』

イツキは文学部に感動し、思わず入部希望を出そうかと考える。そして、ふと目の前に置いてあった本に視線を移した。


「おや、これはハキ神国の劇作家オウレクストの本ですね。最近イントラ連合国で歌劇になった作品《愛と復習のダンス》ですね。主人公のアイリーンが可哀想で泣きました」


イツキは机の上に出ていた本を、然り気無くパラパラとめくり感想を言う。


「 ・ ・ ・ 」


「き、き、君はこの難解なハキ神国語の本が読めるのかい?」


部長のロードス先輩が、突然イツキの両手を握り質問してくる。

 イツキは質問には答えず、開かれているページの文章を、5行だけハキ神国語で読み始めた。その後それをレガート語に替えて読み直した。

 ロードス先輩と他の先輩方8名は、瞳をキラキラと輝かせてイツキを見詰める。


「君は、えーっとイツキ君だったかな、ハキ神国語が訳せるの?」

「それは……同室者の許可がないと答えられません」

「では質問を変えるが、この本を訳す手伝いをして貰うことは可能かなぁ?うちの部はあまり予算もないんだけど・・・」


部長のロードス先輩と、副部長の先輩も、すがるような瞳でイツキを見詰めながら質問してくる。


「もしも僕が風紀部の役員に当選したら、図書室と風紀部室はお隣ですから、時々遊びに来れると思います」


「そ、そうだよね、お隣だもんね」


ガッツポーズをする文学部のメンバーに、パル先輩が手招きをして、こそこそと何か話を始める。


「これは絶対に極秘だが、イツキは確か、他にも数ヵ国語が訳せたはずだ。しかし我々全員が風紀部役員に当選出来なければ、イツキはこの部屋に来ることは無いだろう・・・分かるよな部長?」


パル先輩は黒い微笑みで脅し……いや、笑顔で肩を叩いて協力要請をする。


「任せてください。弱小文学部ですが、これでも我々が執筆している★★★な大人の小説の、熱狂的なファンは数十人います。これからも読みたければイツキ君……いや、皆さんに投票するよう脅し……依頼しておきます」


 イツキは文学部の皆さんに笑顔で、「何時でも遊びに来てねー」と手を振られながら、次の部活に向かった。



 予定より随分早く回れたので、イツキたちは次の音楽隊の練習場である体育館に向かった。

 しかし、音楽隊を先に訪れていたヤマノ出身グループに気付き、イツキたちは発明部を先に回ることにした。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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