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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
不思議な新入生 編
15/116

イツキ、演説する

 イツキの投げ掛けた問いに、覚悟を決めたインカ先輩が口を開いた。


「既に俺やエンターは、ヤマノ出身グループに恨まれている。だから今さら逃げる訳にはいかないだろう」


「それを言うならヤマノ出身グループは、キシ出身者を敵だと思っている。俺だってマークされているだろう」


ミノル先輩は、ヤマノ出身グループが「キシの者には負けるな!」と、常日頃から声高に叫んでいることを知っている。


「それならミノス出身の俺や、カイ出身のインカ先輩やナスカは、敵ではなく平伏して当然な存在だぞ。だからこそ、俺の立候補を妨害するんだ。しかも平民の俺は、「お前ごとき」と言われて、存在さえ否定されている」


パル先輩は、ヤマノ出身グループが、ミノスとカイの出身者を執拗に虐めることについて、『何故なんだろう?』とずっと疑問に思っていた。


「それじゃあ、領地で敵対するように洗脳されているのか?確かに軍と警備隊は、キシ出身者やミノス出身者が多く実権を握っている。ヤマノ出身者は、ここ最近内政部門で台頭してきて、父上が仕事面での衝突が多くなったと仰っていた」


ヨシノリ先輩の父親であるマサキ公爵は、法務大臣の職に就いている。法令関係や軍の予算、国境対策などで対立することが増えてきたらしい。


「さあ、これ以上の話は、国家レベルの極秘情報になる。知る勇気が有る者、そして危険を承知で協力できる者にだけ話したいと思う。難しいと思う者は、暫く席を外して欲しい」


イツキは全員の顔を順番に見ていく・・・誰も部屋を出ていこうとしないようだ。覚悟が決まったと判断していいのだろう。



「ありがとう。全員残ってくれて感謝する。今回2度目の隣国の戦乱で、カルート国の大臣は、自国の皇太子の命を狙った。そして軍事的秘密をハキ神国に伝え、ハビルの街は落とされた。僕が戦っている敵は、必ず大臣や王子や高位官職者を洗脳し、国内から崩壊させていく。目的は分からないが、各国の大臣や高官が狙われているんだ。実は、レガート国も過去にやられた」


イツキは、全員が協力してくれそうだとメンバーを信じて、極秘情報を伝え始めた。賢いメンバーのことだから、それらが何を意味しているのか分かるだろうと判断したのだ。


「えええっ!では、先の内乱が?」(ヨシノリ先輩)

「 ・ ・ ・ 」 (全員)


「イツキ、いやイツキ先生、あなたは何者なんですか?何故そんな極秘情報を知っているんですか?」


ナスカはイツキの情報が、確かに国家レベルの極秘情報であると理解できた。しかし、軍学校で先生をしていたくらいで、知り得る情報ではないはずだと疑念を抱いた。

 他のメンバーもそれを知りたいようで、身を乗り出すようにして、イツキの返事を聞こうと意識を集中する。


「皆さん、本当に覚悟は決まりましたか?その問いの答を聞くと、もう後戻りできませんよ?」


イツキは、もう1度皆の顔をゆっくりと見ていく。全員緊張した顔だが、真っ直ぐイツキの方を見ている。どうやら逃げる気は無さそうだ。


「決まりました!我々も戦います」


インカ先輩の、誓うような気合いのこもった声に、他のメンバーも頷いて同意する。


「分かりました。では私も隠さず答えましょう。この度国王様は、隣国の戦乱の影で暗躍した敵の存在を知り、レガート軍と警備隊から精鋭を選ばれ、新しく【治安部隊】をつくられました。その責任者がソウタ指揮官とヨム指揮官です。僕は【指揮官補佐】に任命され、上級学校に潜入しました。その為に、連絡を兼ねて2人の指揮官を含む《キシ組》が、これから上級学校に時々来ることになります」


「指揮官補佐・・・」 (ヤン)

「指揮官補佐って、大佐と同じくらいの地位だよな・・・」(パル先輩)

「キシ組・・・伝説のキシ組、それじゃあ【王の目】のフィリップ様も、技術開発部部長のシュノー様も来られるんだぁ・・・」


ミノル先輩は、そんなビッグスターに会えることが、夢ではないのかと自分の頬をつねっている。


「俺も憧れのヨム指揮官に会えるのは嬉しい。嬉しいが、もう隠し事は、いえ、言い忘れたことはありませんかイツキ先生?」


ナスカは、驚いたり衝撃を受けるのなら、1度で済ませたいと思い質問した。


「そうですね……ああ、もうひとつ役職がありました。【レガート技術開発部相談役】ですが、こちらは急ぎの仕事ではないでしょう」


「 ・ ・ ・ 」


 開いた口が塞がらない一同である。最早、脳の動きが停止しそうになっている。

 イツキのことをよく知っていたつもりのヤンとエルビスは、イツキが既に遠いところへ行ってしまった気がしてショックを受けた。

 そんな思考が麻痺したメンバーの中で、1人だけやや冷静さを保っていたナスカが、だめ押しで質問した。


「なんで技術開発部相談役に?相談役って凄く偉い人ですよね……?」


「それは、僕がレガート式ボーガンを作ったからだと思う」


『・・・・・・・』


 完全に全員の思考が停止したので、今夜はお開きにして、明日の放課後、風紀部室に集まることにして解散となった。






 1月15日、今日は執行部と風紀部の、役員立候補者と推薦者の演説会が行われる為、午後の授業は休みとなり、学生たちは全員体育館に集合し、候補者の演説を聞く。

 その後候補者たちは、昼休みや放課後に教室を回ったり、学内で演説したりと各々支持票を集めるための活動をする。


 先に執行部の演説が行われる。今回の立候補者は定員数6のところ、9人が立候補している。

 ステージに上がれるのは立候補者と推薦者だけで、持ち時間は2人合わせて8分と決まっている。

 時間の使い方は自由で、立候補者がずっと8分喋り続ける場合もあるし、逆に推薦者が喋りすぎて立候補者の時間が無くなることもある。


 イツキのグループからは、部長候補にエンター先輩、副部長候補にヨシノリ先輩、その他の役員候補に、ミノル先輩とナスカの計4人を出している。

 書記、会計、庶務は得票数の多い順で決まるので、誰が何の役職に就くかは選べない。


 今回イツキのグループ4人以外で立候補しているのは、5人で、3人はヤマノ出身で、他の2人は他の領地の者だった。

 問題なのは、現在ヤマノ出身者を率いている3年のブルーニの存在である。

 間違いなく彼は副部長に当選するだろう。それは予想しているのだが、他の役員候補に、ヤマノ出身を当選させないようにしないと、また執行部内で揉めることになる。


 他の役職者は定数3で候補者は5人。ミノル先輩とナスカの他に、2年のホン出身のザクと、ヤマノ出身のTとイツキのクラスのルビン坊っちゃんの5人が出ている。

 ルビン坊っちゃんは、イツキにケガを負わせた1年B組のルシフの代理として、ブルーニに命令されたようだった。


 イツキのグループのリーダーであるエンター先輩の読みでは、全校生徒の中にヤマノ出身アレルギーが出ているので、余程のことがなければヤマノ出身は、副部長候補のブルーニだけしか当選しないのではと言うことだった。


 演説は1年生から順番に行われ、3年生へと続いていく。

 トップのナスカは緊張しているようだったが、推薦者のエンター先輩が人気絶大な上、ナスカ自身も首席合格者である。大きな拍手のもと無事に演説を終えた。

 他のグループのメンバーもそつなくこなし、滑り出しは好調であった。



 続いて風紀部の演説が行われる。

 定数4に対して、立候補者は6人。隊長候補のインカ先輩と、2年生隊長候補のパル先輩は、他に候補が居なかったので、投票日に全校生徒の半分の信任が得られれば当選となる。

 副隊長候補は、2年のヤン先輩と3年のヤマノ出身Rの2人。本当はヤマノ出身のドエルが出る筈だったが、2年生の隊長候補だった者同様、ペナルティーを貰ったので立候補出来なかった。

 1年生隊長候補はイツキと、ルビン坊っちゃんのお付きであるホリーの2人。

 

 1年生は、A組の1番後ろの席のイツキとナスカ VS その前の席のルビン坊っちゃんとホリーの戦いとなった。

 イツキもナスカも、面倒くさいことになったとため息が溢れたが、無視することにしようと決めた。


 いよいよイツキとインカ先輩の演説の番がやって来た。

 風紀部役員の演説は3年生から始めるので、イツキは最後の演説者だった。体育館内は、そろそろ飽きてきた者や居眠りする者が多くなっている。真面目に話を聞いてくれそうにもない雰囲気である。

 しかも2人は、打ち合わせる時間が殆ど取れなかったので、ぶっつけ本番のアドリブ状態で話し始めることになった。



「僕は先日、推薦するから風紀部の役員に立候補しろと突然言われました。実は僕、その日が初登校だったので、何が何だか分からないまま、ここに立っているも同然なんです。隣に立っているインカ先輩は、こんな僕の何処が気に入ったのか分かりません」


イツキは、相変わらず前髪で顔半分を隠したまま、首を横に2・3度振る。


「おいイツキ、お前そんなことは言わなくていい!俺は直感的にお前は何かを持っている奴だと思ったんだ」


体育館内にクスクスと笑いが漏れる。


「直感的って・・・具体的に言って貰わないと、僕も数少ないような・・・多いような能力の中から、どれを出せばいいのか分かりません」


「それはだな、例えばお前が剣の達人とか、とんでもない秀才だとか、ほら何か有るだろう。だってお前裏口入学って言ってただろう!」


「え~っ……俺が剣の天才?」

「いや、達人だ!」

「そんな風に見える?」

イツキはインカ先輩の方ではなく、学生たちの方を向いて尋ねる。


「全然見えないぞー!」

「お前が噂の裏口入学かあ!」

と、声が飛び、また笑いが起こった。


「お前いい加減にしろよ!何か有るだろう。思い出せ!ほら人には無い何かが」

「ああ!有りました。前髪が長いです」

「そんなの要らん!そうだ、お前入学試験が受けられなかったのは、国外に居たからだと言っていたじゃないか。その辺で何か有るだろう」


イツキとインカ先輩の掛け合い話で、体育館内は笑いの渦に巻き込まれていた。

 それまでが真面目な政策とか、自画自賛の話とか「やります!」「できます!」の話ばかりだったので、風変わりな演説?に皆次第に興味を持ち始めていた。

  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

エルビスの呼び方を、これからはエンター先輩にしていきます。

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