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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
不思議な新入生 編
12/116

イツキ、扉を開く

 夕食は午後6時40分から7時30分迄である。

 その後は午後11時まで自由時間で、自習、入浴など何をしても構わない。宿題をしたり談話室で騒いだり、他の部屋に遊びに行ったり、思い思いに過ごせる楽しい時間なのだ。


 夕食時間にエルビス(エンター先輩)を見付けて、アポイントを取っておかねばならない。

 イツキはルームメイト3人と一緒に、食堂の入り口付近に座り、エンター先輩が来るのを食事しながら待つことにした。

 食堂内は、ワイワイがやがやと煩いくらいで、気の合う友人たちと同じテーブルに座り、楽しそうに食事をしている。

 食堂は、全校生徒220人と、教師30人が入れる広さがあり、1つのテーブルに座れるのは20名、テーブルの数は13で椅子は長椅子なので、詰めて座らないと全員が座れない。

 しかし、食事に来る時間がバラバラなので、困ることは無いらしい。



 食事の載ったトレイをテーブルに置いて食べよう座った時、一際目を引く一団が食堂に入ってきた。

 ヤマノ出身者のグループである。肩を怒らせ辺りの学生を蹴散らすように、強引に進んでいく。

 狭いのだから3列で歩くのを止めれば良いのに……と、皆思っているが口には出さない。どんな報復が有るか分からないからだ。食堂内の学生が緊張していくのが分かる。

 

 彼等15名は、何故か夕食時に必ず団体行動をする。

 その一団の先頭を歩いているのは、3年のブルーニ・シエス・ダレンダ17歳、伯爵家の3男である。

 1080年4月生まれ、当然グレーの髪にグレーの瞳、長く伸ばした髪は束ねられてはいない。身長は180センチと大きいが、体はどちらかと言うと細身だろう。顔はゴッツイ系で、人相は見るからに悪者感を出し、細目の瞳は冷酷そうに吊り上がっている。


 ヤマノ出身者の特徴は、ほぼ全員がグレーの髪にグレーの瞳であることだ。中にはそうでない者もいる。同じクラスのホリーは金髪だが瞳はグレーである。

 貴族至上主義者の多いヤマノ出身者は、貴族でない者に対し、同等とは思わず友人になることもないらしい。

 

 少し離れたテーブルが彼等の特等席のようで、そこだけ誰も座らずに空いていた。近くに座っている者は、ヤマノ出身者と対立していない地方の者たちだと、イースターが教えてくれた。

 イツキは前髪で顔半分が隠れているのをいいことに、まじまじとヤマノ出身者たちを観察する。



「彼奴は、夕食時に次のターゲットを決めているんだ。中級学校時代から有名な話で、ヤマノ出身者の邪魔をした者、歯向かった者、リーダーの名誉を傷付けた者に制裁を加える。その日の出来事をリーダーに報告し、制裁すべきかどうかを決定して貰うんだ」


トロイは、中級学校も王都ラミルの国立中級学校に通っていて、ヤマノ出身者のやり方をよく知っていたので、いろいろと情報をくれる。


「俺は上級学校からだけど、同郷のインカ先輩から聞いてた」


「そんな話初めて聞いたよ。俺もカワノ領の中級学校出身だから、知らなかったけどさ……それって明らかに虐めじゃん」


ナスカもイースターも、ヤマノ出身者グループの方を見ないようにしながら呟く。


「もしかしたら、ナスカとイツキは危ないかもしれない。今日のことで2人の候補者が選挙に出られなくなったんだろう?そうとう頭にきてるよね」


トロイは心配そうな顔をして、イツキとナスカを見る。


「でも、悪いのは向こうだよね?」


「イツキ君、そんなこと関係ないよ。善悪ではなくヤマノ出身者にとって邪魔な者は悪なんだ。だから去年の前期までは地獄だったと、よく知ってる先輩が言ってた。地獄を変えたのが・・・ほら、今入ってきた人たちさ」



 トロイの見詰める視線の先には、緩くウエーブの掛かった癖毛の金髪を靡かせて、上品さ溢れるイケメンのエルビス(エンター先輩)と、その隣には武闘派でガッシリ体型のインカ先輩、2人の後ろには、きりりとシャープな印象のヤン(先輩)と、その隣には会ったことのない先輩だけど、美しいグレーの髪を伸ばして、銀色の瞳が優しそうな印象の、痩せ型だけどエルビスより洗練された感じの先輩、その後ろはパル先輩と……よく見えないけど、もう1人の先輩の、計6人が食堂に入ってきたところだった。


 ヤマノグループと違い、キラキラと明るいオーラに包まれていて、食堂内の緊張が、ふんわりと解かれてゆく。

 つい見とれている内に、目の前を通り過ぎてしまった。


「食べ終わってから話に行こう。ヤマノグループを刺激しない方がいい」


ナスカは冷静に判断し、イツキにアドバイスをした。確かに自分とイツキが、ターゲットにされてもおかしくない状況だと考えられるのだから。




 イツキはゆっくりと食べながら、ヤマノグループの様子を観察し続ける。

 すると、今日揉めた2年生のドエルが、イツキたちのテーブルを指差し、リーダーのブルーニに何やら囁いている。

 ブルーニは少し顔を歪めて、ドエルに何か言ったようで、ドエルは立ち上がって頭を下げている。どうやらお叱りを受けたようだ。

 ドエルが頭を下げて席に座ったところで、リーダーのブルーニが、イツキたちの方を鋭い視線で睨み付けた。


『成る程、彼の周りには黒いオーラが見える。しかも顔の周りだけ黒くなる小物君ではなく、上半身に黒いオーラを纏っている。楽しい食事中だというのに悪趣味な奴だ』


 イツキはまっすぐ向いた先に、偶然ヤマノグループが見える為、表情を読まれる心配も無いので、堂々と視線を向け続ける。

 そして、ヤマノグループが退席するまでの短い間だったけど、グループ内の力関係や、序列の情報を得ることができた。


「ねえトロイ、ヤマノグループって、あれで全員なの?」


「さあ……どうだろう?貴族なのはあの15人だと思うよ。他にも警備隊や軍や軍学校の、成績優秀者が2年生か3年生に編入してきている筈だけど、貴族以外は使用人扱いらしいから、仲間になっていない奴も居るかもしれない」


 イツキは、そうなんだと答えてから、軍学校の卒業生の中で、成績優秀者が毎年5人選ばれて、2年コースか1年コースかを選択し、上級学校に編入していたことを思い出した。

 もしかして、2年コースで編入している者が居れば、イツキのことを知っている筈なので、イツキが軍学校の先生をしていたことを、口止めしておかねばならない。



 イツキたちは食事を終えて、空になった食器を返却口へと持っていく。途中でエルビスたちのテーブルの横を通り、イツキはエルビスの隣で立ち止まった。

 にっこり笑って(髪の毛が邪魔で見えてないけど)「お疲れ様です」と皆に挨拶をして、エルビスの耳元で囁くようにお願いする。


「先輩、ご相談したいことがあるので、この後、先輩の寮の部屋へお邪魔しても宜しいでしょうか?僕とナスカも一緒に行きます。できればヤン先輩もご一緒して頂ければと思うのですが」


「まさか、選挙に出たくないとか?」


「いいえ、それはありませんが、これからの戦い方についての相談です」


心配そうにイツキとナスカを見たエルビスは、選挙戦についての相談なのだろうと思い了承する。


「ヤンと2人でいいのか?インカは一緒じゃなくていいのか?」


「そうですねぇ、先輩が絶対的に信頼出来ると思われている方なら、同席されても構いません」


イツキはそう言い残して、同室者の3人と頭を下げてから、返却口へと向かった。





 午後7時30分、イツキとナスカは北寮の入り口で、寮の管理人からチェックを受けていた。

 北寮は、公爵家や侯爵家の領主の子息や、公爵家・侯爵家・伯爵家・子爵家の当主等、保護対象者が入寮しているため、寮に入る時は学年や氏名を記入したり、約束が有るか無いかを訊かれる。

 イツキたちは、エルビスが事前に管理人に知らせておいてくれたので、すんなりと入ることが出来た。

 エルビスの部屋は3階にあった。

 1階は談話室と教師の部屋で2人部屋、2階は半分が教授の部屋で個室、残り半分が学生の部屋で2人部屋。3階は主に高位貴族の学生の部屋で、全て個室になっていた。


 3階の階段を上がると、全ての部屋の入口に名前の札が掛けられていた。

 5番目の部屋に、目的のエルビスの名札があった。中から数名の話し声が聞こえてくるので、どうやら2人ではなさそうである。

 イツキは、信頼に足る先輩なら同席しても良いと伝えてはいたが、出来るなら数が少ない方が混乱も少ないだろうと思っていた。

 

 イツキとナスカは顔を見合わせると、お互い頷き代表でイツキがドアをノックした。


「やあ、いらっしゃい。今夜は元々この部屋で作戦会議の予定だったんだ。どうせ仲間に入るんだから、ちょうど良かったよ。紹介したい奴もいるから、さあ入った入った」


扉を開けて出迎えてくれたのは、武闘派のインカ先輩だった。入るなりナスカの髪をくしゃくしゃにしている・・・親愛の表現なのだろうか?


 部屋の広さは、4人部屋より少し狭いくらいで、大き目のベッドに机、大き目のクローゼット、4人部屋と大きく違うのが、コーナー付きの8人は座れそうなソファーセットと、窓の側にも3人は座れそうなお洒落な長椅子が置いてあることだ。

 個室が与えられる学生は、家具の持ち込みが認められているため、各部屋で趣が違うらしい。


 ソファーセットに座っていたのは、食堂で見掛けたメンバーだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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