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ロームズからの知らせ

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

シリーズ4作目 上級学校の学生は、これにて完結です。

続きは、シリーズ5 ロームズの反乱へと続きます。


 魔獣ドンプラー・・・それはソボエの町の住民から【黒い悪魔】と呼ばれていた。

 3年前からソボエ領付近のレガートの森に住み着き、毎年数人の住民や冒険者が、薬草採取や狩りに出掛けて帰らぬ人になっていたらしい。

 しかも最近では森の浅い場所にも出没するようになり、誰も森に近付かなくなっていた。

 そのため、森の入り口で採れる薬草でさえ、イツキの見本があるにも拘わらず、殆どの住民は採取しに行かなかった。


 そんな【黒い悪魔】を倒して帰ってきたイツキたちは、一躍町の英雄になった。


「これで安心して狩りに出掛けられます。ありがとうございます」

「俺の兄貴は【黒い悪魔】に殺された・・・ありがとう仇を討ってくれて」


 ありがとう、ありがとうと、町の皆からお礼を言われ、泣いて喜ばれてしまった。

 領主(ギニ司令官)の代理として、執事のボイヤーさんからも感謝された。


「申し訳ありませんでした。まさか森の奥まで行かれるとは知らず、魔獣のことをお知らせしておりませんでした。あまりに被害が続くので、2年前から軍に討伐依頼を出していたのですが、戦争のため人員を割いて頂けず、昨年ラミル中のドゴルにも依頼を出しましたが……挑戦した冒険者の方々は……誰も戻ってきませんでした」


「ボイヤーさん、お世話になりっぱなしなので、お役に立てて我々も嬉しいです」


服装が冒険者風で血塗れになっている為、ちょっと怖い人に見えるエンターは、それでも貴公子的な笑顔で応えた。


「しかも、ギラ新教の手先も捕らえられたとか……お手柄でございました」


執事ボイヤーは、ちらりとイツキの方を見ながら、にっこりと笑って労ってくれた。


「さすが治安部隊指揮官補佐様ですね。合流された若い治安部隊の方々からも、イツキ先生と呼ばれて尊敬されているようです。ご主人様(ギニ司令官)は全てを見越して、ソボエにイツキ様を寄越されたのでしょうか……」


出来る執事ボイヤーは、薬草袋を抱えて歩くイツキに視線を向けて、一人呟いた。



 ソボエ教会に到着すると、上級学校の仲間から「なんで冒険者の格好なんだ?」と責められた。

 打ち合わせ通りにピドル先輩とエンド先輩が、「森の奥には魔獣が居るから、制服を血塗れには出来ないだろうが!」と言い訳……いや説明してくれた。

 当然のことながら、今日の出来事を興奮しながら話す2人に、皆は興味津々で聞き入っている。


 イツキとエンター部長は、採取した薬草を特別買い取り受付に持っていく。

 そこには、ドゴル【不死鳥】のホームズさんが、呆れた顔をして待っていた。


「お前さんたち、何しに来てんだ?学校のなんとか大会の為じゃないのか?凶暴な中級魔獣なんて、冒険者になったばかりの新人が倒せるもんじゃないじゃろうが……本当に……店長が知ったら激怒もんだぞ……はぁ~っ……なんだかなぁ……ほれ、出せ!スタンプ押すんじゃろう」


「ええっ!いいんですか?」


「しょうがないの……じゃが、金は学校に払うからな!ありゃ毛皮が高価じゃし、牙はどんだけの値がつくか分からんぐらい希少じゃから、解体代はおまけしといてやろう」


困った顔をしたり怒ったり、嬉しそうな顔をしたりと、ホームズさんは百面相しながらスタンプを押してくれた。

 とっても好い人である。



 夕食は町の人たちも一緒になって、領主の屋敷の中庭で宴会となった。

 町の人たちがお礼だと言って、野菜やら肉やら魚やらを持ってきてくれたので、ナイスな執事のボイヤーさんが、せっかくだから【黒い悪魔】退治の御祝い会をやりましょうと言ってくれたのだ。


 宴会も中盤に差し掛かった時、学友たちには【治安部隊】の人に呼び出されたと言って、主役のイツキたち4人とパルテノンは席を外した。



 領主館の1部屋をお借りして、イツキとエンター部長、パルテノン先輩は、ピドル、エンド2人の先輩と向き合っていた。


「お約束通り、お2人に僕の残りの仕事をお教えしましょう。ただし、予め言っておきますが、これから話す内容はレガート軍の機密事項となりますので、口外してしまうと……どんな罰則を軍から受けるか分かりません」


イツキはいつもより大袈裟に前置きをする。2人の先輩は話し好きだったのだ。


「俺たち【イツキ組】は、命を懸けて戦っている。今日の活動もそうだが、少しの気の緩みで他言した場合、本人だけではなく相手の者まで危険に晒すことになるんだ。そこをよく考えて今一度問う。口外しないと誓えるか?」


エンター部長も、いつもより厳しい口調で問い質している。


「軍の機密事項?」(エンド)

「話した相手を危険に晒す・・・」(ピドル)


「で、どうする?本当に【イツキ組】に入る覚悟は有るのか?」


厳しい口調と視線で2人を交互に見ながら、エンター部長は返答を待つ。


「俺は今日誓ったはずだ!【イツキ組】に入ってイツキ君を守ると」


エンド先輩は立ち上がって宣言する。


「俺だってそうだ。だが、軍の機密事項に関わると言うなら質問がある。俺の父親はレガート軍の少佐として、中隊を任されているんだが、父親にも言えないことなのか?」


ピドルは真剣な顔をして質問してきた。父親が軍関係者であれば、ましてや少佐という上官の立場の者であれば、自分たち学生があれこれ活動するより、相談した方が良いのではないかと思ったのだ。


「少佐かぁ…………それなら尚更言わない方がいいだろう。聞いたらきっと立場的に困ることになるだろう」


エンター部長は腕組みをして、そう言えば上級学校の学生の父親は、軍関係者が多かったなと改めて思った。


「・・・?」


エンター部長の言っている意味が分からないようで、ピドル先輩は首を捻る。

 

「ピドル先輩、エンド先輩、僕は上級学校に入学する前に、レガート軍のギニ司令官とキシ公爵から、2つの役職を任されて入学しました。だから、半分は任務の為に学生になっているのです」


「「ギニ司令官とキシ公爵!!」」


イツキの言葉に驚いて、2人は思わず声を上げてしまう。そしてお互い驚いた表情で顔を見合わせた。


「今夜は僕から4人の先輩にお願いしたいことがあるので、細かい説明は省いて、本題に入りたいと思います。僕の役職は【治安部隊指揮官補佐】と【技術開発部相談役】です。技術開発部相談役になったのは、僕がレガート式ボーガンを作ったからです。当然僕が持っていた新型も作りました」


「それに春休みには、投石機を設計して正式に採用されている。だからポルムなんて物が作れるんだ。あれだって国の為にイツキ君が始めたことだ。王様に提案したのもイツキ君だ」


イツキの説明に続くように、パルテノン先輩はこれでもかと言わんばかりに説明する。


「「 ………… 」」


もはや役職名だけでもパニックになっている脳に、王様というキーワードが加わり、2人の先輩から言葉など出てこない。


「エンター部長、パルテノン先輩、実は、僕は明日から隣国カルートの中にある、レガート国の飛び地であるロームズへ、技術開発部の仕事で投石機を設置しに行くことになりました。しかも現在ロームズは【ギラ新教】の脅威に曝されています。今日いらした秘書官補佐のフィリップ様は、その為にロームズへ向かわれます。明日の朝、一緒に旅立ちます」


「やはりそうか……フィリップ様はイツキ君を迎えに来られたんだね……」


イツキの話を聞いたエンターは、父親代わりで育ててくれたエントン秘書官から、「フィリップはイツキ君を守っている」と聞いていたので、そうではないかと、嫌な予感がしていた。

 でも夏大会の途中だし、まさか隣国まで任務で赴くとは思っていなかったのだ。


「どうしてもイツキ君でなければならない任務なのか?」


頭ではイツキの立場を理解しているエンターだったが、何となく納得できない。


「エンター部長、僕だから行かねばならないのです」


イツキはエンターの顔を真っ直ぐに見て、コクリと頷いた。

 それはイツキが教会の仕事……リース(聖人)様としての活動で行くのだと、エンターにだけ理解できた。

 先輩たちは、言いたいことや聴きたいことがたくさんあったが、既に明日出発すると決まっている様子のイツキに、これ以上何も言えなかった。


「そこでお願いがあります。遣りかけのポルムと夏大会後の仕事ですが、校長の指示に従って進めてください。それから・・・もしかしたら夏休みいっぱい帰れないかもしれません。風紀部の仕事のことが気掛かりなのですが、僕が帰らなかったら、うちのクラスのトロイ・ランカーを代理にたててください」


「イツキ君・・・夏大会が終わるのが5月末、7月から夏休みだから、1ヶ月くらい休んでも代理は必要ないと思う。ブルーニが居ない今、注視する学生は少ないから・・・学校のことは俺たちに任せてくれ。だから安心して任務を果たして・・・元気に、元気に帰ってきてくれ」


エンターは自分もイツキを守るために、ともに旅立ちたい気持ちを堪えて、自分は自分のすべきことをするしかないと、悔しいような泣きたいような想いを振り切って、元気に帰ってきてくれと言う。


「留守は任せろ。ポルムの件は、発明部・化学部・植物部が全力を尽くす」


イツキの意思に従い、イツキの為に動くことで、イツキを助けることになるとパルテノンは決心して言う。


「【イツキ組】のことは分からないことだらけだけど、俺も、全力で手伝うよ!エンター部長やインカ隊長に従えばいいんだよな?だから、頑張ってきてね」


エンドは混乱する頭で、今言える最大限の言葉を伝える。


「イツキ君の任務のことは、正直まだよく理解出来てないけど、俺も頑張るよ!だから、元気で、絶対に元気で帰ってきてね。ウッ」


ピドルは今日1日で、人生5年分くらいの経験をしたような気がしていた。大好きなイツキ君と仲良くなれた・・・それだけでも嬉しくて堪らなかった。これからもっと側に居て、イツキ君の役に立ちたいと願っていたのに・・・突然の旅立ち……我慢できずに涙が出てしまった。



「ありがとうございます。必ず元気で戻ります。僕のことは、突然持病が悪化したので、ブルーノア本教会病院で治療するため急遽旅立ったと説明してください。では、僕はこれから任務に就きます」


イツキはそう言って、笑顔で部屋を出ていった。

 残された4人は暫く呆然としていたが、エンター部長に「宴会に戻るぞ、イツキ君の為に気持ちを切り替えろ」と言われ、全員で席をたった。



 フィリップたちが待っている応接室の扉をノックして、イツキは厳しい表情で部屋の中へと入っていった。

 待っていた4人は立ち上がり、イツキに頭を下げる。

 どうやら今回の任務のリーダーは、自分のようだとイツキは理解した。


「ロームズからの知らせには、なんと書いてあったのですかフィリップさん」




 イツキはフィリップから事情を聞くと、一刻も早く旅立たねばと決意する。


「それでは明日の早朝、軍の馬車でミノスに向かいます。我々は国境警備隊と合流し、レガートの森を越えます」


 イツキの新たな旅立ちの朝は、薄く霧がかかっていた。霧に隠れるように軍の馬車は南に向かった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次のロームズの反乱は、50話くらいで纏めたいと思っています。


ブックマークしてくださった皆様、ありがとうございます。

ポイントくださった皆様、ありがとうございます。

読んでいただいた皆様、本当にありがとうございます。


12月3日を目標に、【予言の紅星5 ロームズの反乱】スタートします。


執事の名前をヤプードからボイヤーに訂正しました。

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