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夏大会(6)

 やって来た2人の男は、リーダーは誰なのかと訊いてきた。


「俺だけど……いい話って何だよ?」


エンターは疑うような用心しているような体で、話しに乗ってみる。


「まあ、お前らが本物の冒険者だったら、特別な話が出来るんだがな」


40歳代と思われる痩せ型の男は薄ら笑いを浮かべて、カモを引っ掛ける詐欺師のように、エンターを値踏みし始める。


「ちょっとおっさん!これを見ろ。ラミルで1番でかい【不死鳥】発行の冒険者証だ」


イツキは特徴のある黒革の身分証を、ポケットから取り出しチラリと見せる。

 ドゴル【不死鳥】の身分証入れは、不死鳥を型どった刻印が押してある。数あるドゴルの中でも、一目で何処のドゴル所属なのか分かる程、立派な革のケースを作っていた。

 1番年下のイツキが身分証を見せることで、当然他の者も持っていると思わせる。


「分かったぜ。でも新人じゃあ腕はどうなんだろうな?」

「はあ?俺たちをバカにする気か!」


エンドは痩せ型の男に向かって、腹を立てた振りをして剣を抜きメチャクチャに振り回し、近くの枝をわざと下手に斬った。


「どうやらまあまあ出来る冒険者のようだな・・・だが、俺たちが言う良い話は薬草に関することなんで、薬草採取の腕が良いかどうかが問題なんだ」


同じく40歳くらいのがっしり体型の男は、自らをヤプードと名乗りながら、じわじわ本題に入ってきた。


「別に興味ないな!俺たちは新人だけど、真っ当に働く冒険者として、ドゴルから信用されてんだ。それに、薬草採取には自信があるから、金にも困ってない」


エンターはさっさと出発しようと、全員に「行くぞ!」と言って立ち去ろうとする。


「おいおい待てよ!その袋の中は何の薬草だ?もしも俺たちの探している薬草なら、ドゴルの依頼の倍の値段で買い取るぜ」


痩せ型の男は名前は名乗らず、懐から金の入った袋を取り出しニヤニヤ笑った。

 そして2人の男は、何やらこそこそと話し始めた。


「おい、コイツらは大丈夫なんじゃねえか?」(ヤプード)

「いや、まだ信用できない。この前の奴等みたいに偽物の薬草だったら、俺たちが損をするんだ」(痩せ型の男)

「なに、確認して偽物だったら金もやらないし……始末すりゃいい。もしも本物なら、どんな手段を使っても手に入れる。あんだけの量があれば損はねえ」

「だな!本物なら大儲けするだけ……もしも話しに乗らなきゃ奪えばいい。コイツら弱そうだから」

「そんときゃ、いつもの手でいきゃ簡単だ」


どうやら2人は話が纏まったようである。





 イツキたちは間違いなく待っていたお客さんであると確認が取れたところで、次の作戦へと切り替えることにした。



「オジサンたちさあ、袋の中の薬草は風邪薬だろ。匂いは甘いけど飲んだら苦いやつだよな……でもこの辺には、その薬草は生えてないぜ」


イツキは自分たちの能力を出すことにした。もうひと押しで本性を出すはず……


「ヘエ~坊主、ちっさいのに薬草に詳しいんだな・・・それじゃあ、その袋の中には本物の薬草が入ってるってことだな」


ヤプードと名乗った男は、自分たちが奪って持っている薬草を、風邪薬だと言い当てたイツキに驚いたが、ニヤリと笑い確証した。

 そして、イツキたちが持っている膨らんだ荷物を見て、ペロリと上唇を舐めた。


「当たり前だろう!俺らは鼻が利くんだよ。悪いけど怪しい奴等に気を付けろと【不死鳥】で注意されてんだ。倍の金を貰っても売る気はない。みんな行くぞ!」


エンターはリーダーらしく命令し、今度こそ立ち去ろうと歩き出した。 

 歩きながら4人は目配せをし、何時でも剣を抜けるよう心の準備をする。


「ちょっと待てよ!売れないんならタダで置いていきな!」

「ヘッヘッヘ、死にたくなきゃな!」


とうとう2人は本性を出し、追い剥ぎ……いや強盗犯に成り下がった。

 剣を抜いて追い掛けてきた2人に、イツキを除く3人は荷物を置いてクルリと振り返る。勿論剣を抜いてである。

 イツキは全員の荷物を大きな木の下まで運んでいき、その場で待機する。


「ガキが!命が惜しけりゃ荷物を置いていけ」


痩せ型の男はどうやらかなり剣の腕に自信があるようで、ギラギラ目を血走らせて、薬草の入った袋を見る。


「俺たちも出来るだけ殺したくはないんだ・・・出来るだけな」


ヤプードはまだ新人の、しかも子どもが混じっている冒険者の扱いを知っていた。

 1番弱そうなガキを人質に捕れば、間違いなく仲間を助けるために、荷物を渡すはずであると。

 痩せ型の男はヤプードと顔を見合わせて頷くと、取り合えず目の前の誰かを斬り、怯んだところで1番弱い子どものイツキを人質に捕れば、すべては終了すると思った。




「リーダー、俺に殺らせてください」

「いやエンド、お前、人を斬ったことないだろう?」

「何を言うんだリーダー。誰にだって初めての時があるんだ!俺の初めてが今日になるだけの話だろ」


「ピドル、油断をするな!コイツらは貴族の坊っちゃんとは違うんだ」


エンターがそう言った瞬間、痩せ型の男の剣がエンドに向かって振り下ろされた。

 先程わざと下手なところを見せておいたので、腕の分からないエンターとピドルではなく、確実に殺れそうなエンドを選んだようである。


「おっと!おっさん真上から来るのか?芸がないぞ!」


カンキンと剣がぶつかり合う音がして、エンドはなんとか敵の剣をかわしている。


「ガキが!そんな軽口が何時まで叩けるかな?」


痩せ型の男は「フン!」と悪態をつきながら、一旦エンドと距離をとった。

 思ったよりも剣の経験があるようだが、所詮は新人冒険者……俺は元軍人で傭兵としての経験も長い。すぐに勝負はつくだろうと表情には余裕がある。


 楽な仕事で報酬もいい・・・つい最近までは楽勝だった・・・なのに、レガート国では倍の値段でも急に薬草を売ってくれなくなった。

 だから、だから遣りたくはないが、殺しもした。もう後に引けないんだ!

 ノルマを達成しないと…………俺たちが消されるかもしれないんだから。

 痩せ型の男は、自分に言い聞かせるよう、心の中で呟いて剣を構え直した。

 


 エンドの隣にピドルも並び、2人は痩せ型の男を2人で捕まえることにした。

 そう、殺すのではなく捕まえるのだ。

 多少のケガは仕方ないと、イツキから許可はもらっている。少し手が震えるが……俺たちはイツキ君を守ると誓ったんだ。

 ゴクリと唾を呑み込んで、2人は同時にフーッと大きく息を吐き呼吸を整える。そして、目の前の男を睨み付け剣を構えた。




 エンターはヤプードという男の前に立ち、荷物を守っているイツキの方に、男が行かないよう剣を構えた。

 エンターの構えに隙などない。つい先日上級学校武術大会で優勝した腕前だ。


 ヤプードは元冒険者で、傭兵の経験もある。だから、だから目の前の新人冒険者が、素人ではないと直感した。

「チッ」と舌打ちし、自分の読みが甘かったことを後悔する。

 それでも自分は百戦錬磨の経験をしてきたんだ。そんな自分がこんなガキに負けるはずがないと、無理矢理思い込もうとした。




 2ヶ所で同時に対決が始まった。

 ピドルとエンドは上手く連係して、交互に打ち込んでいく。2対1で均衡がとれているのが悔しいが、ここは若さで勝つしかない。

 エンターは出来るだけケガをさせない為に、何処を攻撃したらいいか、どうすれば降参させられるかを考える余裕があった。

 2組の戦いは5分を過ぎてきた頃、徐々に相手の体に傷を負わせ始めたエンターたちが、そろそろ止めを刺そうとしていた。



 しかし、均衡が崩れたのは実力差ではなく、急に飛び出してきた中型魔獣が原因だった。



「うわーっ!なんだこいつは?」


エンドはその魔獣に驚きの声を上げた。エンターもピドルも、何処に剣を向けるべきか迷ってしまう。

 強盗の2人は魔獣に怯んだ若造たちを見て、直ぐに戦線離脱し、自分の身を守るためジリジリと魔獣から距離をとろうとする。


 魔獣の名はドンプラー。中型の魔獣で凶暴。

 真っ黒い毛は艶々と輝き、大きさは牛と同じくらいだが、引き締まったボディーは俊敏で跳躍力も高い。猫科の魔獣の中では最大の大きさだろう。

 尖った牙で全員を睨み付け、グルルーと唸りながら旨そうな人間に涎を垂らす。魔獣としての特徴は、牙が血のように赤く光輝いている。


「みんな気を付けろ!牙と尖った爪にやられたら命はない」


イツキは叫びながら強盗の動きを確認する。

 奴等は薬草を諦めてはいないようで、薬草を奪ってから逃走しようと、魔獣に注意しながらもイツキの方に視線を送っている。


「エルビス(エンターの名前)、2人は僕が押さえる。3人で魔獣を頼む。直ぐに行くから持ち堪えてくれ!」


「分かったイツキ君!ピドル、エンド、俺たちが魔獣を引き付ける」


イツキたちの命を懸けた戦いが始まった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

シリーズ4のクライマックスが近付いてきました。

どうぞ最後までお付き合いくださいますよう、お願い申し上げます。

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