夏大会(1)
《 ポルムゴール(仮)》はバスケットボール、ハンドボールをイメージしています。
《 アタックイン(仮)》はビリヤードをイメージしています。
5月13日、昨夜体育館で行われたニュースポーツ《 ポルムゴール(仮)》は、慣れないスポーツにも関わらず大いに盛り上がり、見学しなかった学生や参加しなかった学生から、是非参加してみたいと強い要望が執行部に上がった。
本来は夏大会後に、執行部・風紀部の仕切りで大会をする予定だった。しかも参加申請した者だけだったのだが、全学生の9割以上が参加申請を提出していた。
学校側も全面協力しているため、今日は武術の授業時間に《剣術部》対《体術部》、そして《体育部》対《音楽隊部》の試合をすることが昼食中の学生たちに発表された。
そして3回戦って勝った方が、部活時間に決勝戦をする。そこで勝った部活は、夕食後に《執行部と風紀部合同チーム》と特別試合ができる特典がついていると告げられた。
食堂内は歓声に包まれ、早速誰が出場するのかワイワイ騒ぎながら決められていく。出来るだけ多くの学生が参加出来るよう、人数の多い部活は3戦全て、メンバーを交代させるようにする。
また、文化部の4つ(化学部・文学部・植物部・発明部)は、《アタックイン(仮)》という新しいゲームで対戦することも決まった。
選手に選ばれなかった者は、武術の授業と部活時間も、《ポルムゴール》と《アタックイン》の両方を見学して良いと決まった。
全員参加を目指し、選手に選ばれなかった者には、製作者代表のイツキから、感想やアイデアを書き込むアンケート用紙が配られることも告げられた。
「選手に選ばれなかった皆さんは、どうか僕に力を貸してください。より良いスポーツとゲームにする為、アイデアを出してください。よいアイデアを出してくれた人には、《アタックイン》用に僕が作った試作球、限定5個のうち1個をプレゼントします」
いつものように極上の笑顔でお願いするイツキである。
「ああ、ちなみにその限定5個は、激レア物だから。イツキ君のサイン入りだし!」
クレタ化学部部長が、悪魔の囁きで付け加える。
イツキ親衛隊とイツキ隠れ親衛隊……その他の皆さんから「ウオーッ!」と喜びの声が上がる。
「もしも大陸中に広まれば、最初に作られた試作の5個に、どれだけの価値がつくか分からない……イツキ君、2個は学校に展示させてくれるよね?」
「勿論です教頭先生!ラミル上級学校で作られたのですから、学校に、校長室に展示してください。残りは技術開発部に行くと思います」
部活対抗戦の選手に選ばれていた者たちが、教頭とイツキのやり取りを聞き、急に見学でいいと言い出し、部活の部長から鉄拳を食らっていたが、イツキは見なかったことにする。
部活対抗戦の決勝は《剣術部》対《体育部》に決まった。
体術部はポルム回しは上手かったのだが、ゴールするのがあまりにも下手だった。
余裕の体育部は、音楽隊部にダブルスコアで勝ち余裕の表情である。
白熱し過ぎてケガ人続出の決勝戦は、急遽選手の補充が認められた。
試合を仕切っていた風紀部の4人は、審判にゴール持ちにケガ人の手当てと、かなり忙しかった。
執行部の6人は武術時間担当だったので、夕食後の試合に向けて体を作っている。
ケガ人担当のイツキの前には、何故だか行列が出来ており手当てに追われた。
結局決勝戦は、体育部が3ゴール差で勝ち、執行部・風紀部合同チームと対戦することになった。
合同チームのスタメンは、エンター、ミノル、ヨシノリ、ナスカ、ヤンである。
運動が苦手なパルテノンとインダスは審判、ゴール持ちはモンサン率いる音楽隊が助っ人に来てくれている。インカ、パル、イツキは交代要員である。
試合開始後、試合数をこなしている体育部が優勢で推移していく。
体力のないヨシノリが先に脱落し交代、張り切り過ぎたヤンは反則3回で脱落、イツキは捻挫で元々出場しない予定である。
残り時間5分になった時、勢い余った体育部の部長がミノルにぶつかり転倒・・・ミノルは軽い捻挫・・・残る選手はイツキだけになってしまった。
「イツキ君、まだ無理しない方がいいよ!」
審判を手伝いながらルールを覚えていた東寮の寮管であるフォース先生は、イツキの足を心配して出場を止めた。
「5分だけですから大丈夫だと思います」
イツキはそう言うと笑顔で体育館の中央に走って行く。
イツキの出場は無いと思っていた見学人たちから、応援と歓声が上がった。
もしかしたら・・・こうして皆と一緒に運動するのも最後かもしれない・・・そんな想いが頭を過る・・・
だったら、思いっきり動いてみよう!
執行部や風紀部の皆との楽しい思い出を作るため、全力を出してみよう……悔いは残したくない。
点差をつけられて悔しそうな仲間に迎えられたイツキは、「よし!」と大きな声を出し中央の位置に立った。
そこからのイツキは、風のように駆け抜け、鳥のように飛び、縦横無尽に動いてパスを出した。時に自らゴールを決め、体当たりしてくるガタイのいい体育部の先輩をヒラリとかわす。
入学してからずっと自分の実力を隠すように力を押さえていたイツキの、運動神経の高さに一番驚いたのは、誰よりも運動能力が高いと自負していた体育部の連中だった。
それはそれは楽しそうにイツキは動き回る。苦しいはずなのに笑ってる。
自分より20センチも背の高い大男を軽くかわし、敵にポルムを触らせない。
終了の笛が鳴った時、点差は1ゴールだった。
あと30秒あれば同点に追い付けたと、応援していた学生は全員そう思った。対戦した体育部のメンバーも、同じことを思っていた。
そんなことより、何なんだこの運動神経は!と、勝った喜びよりも目の前で整列しているイツキに、体育部のメンバーの視線が集まる。
体育部の副部長はイツキに右手を差し出した。イツキは爽やかな笑顔で「ありがとうございました」と言って、自分も右手を差し出し握手した。
「なあイツキ君、なんで、なんで君は発明部なんだ?後期はぜひ、いや来年からでもいいから体育部に入ってくれ!これから体育部は毎日のように《ポルムゴール》をするだろう。このスポーツを国中に、いや大陸中に広めるためにも、イツキ君が必要だ!」
真剣な顔で勧誘してきたのは、途中で退場した体育部の部長だった。他の体育部のメンバーも、イツキを熱い視線で見つめながらジリジリと寄ってくる。
「ちょっと待て!イツキ君は発明部に絶対に必要な人材だ。分かるだろう?誰がポルムを作ったんだ?《ポルムゴール》の出来る学生はたくさん居るが、発明が出来るイツキ君の代わりは居ないんだ!」
真剣に怒っているのは、発明部部長のユウジである。ガウガウと吠えながらイツキの前に出て、体育部の連中を威嚇する。
その隣で噛みつきそうな顔をして体育部部長を睨んでいるのは、補欠選挙で執行部役員になった、隠れイツキ親衛隊所属のインダスだが、睨んでいる相手が隠れイツキ親衛隊の隊長なので、睨むだけにしておいた。
《アタックイン》の方も白熱した戦いが繰り広げられたようだった。
改良点はまだまだありそうだが、頭脳派の文学部の学生たちにも、充分に対戦ゲームとして受け入れられた様子を見て、発明部顧問のイルートは安堵した。
ちなみに優勝したのは文学部だった。
文学部部長のロードスは「このゲームは綿密な計算が必要なんだ。もしもポケットが中間にもあれば、もっと早く決着がつくだろう」と勝ち誇ったように言った。
文学部副部長は余裕の表情で、「いつでも再試合に応じるぞ」と付け加える。
負けず嫌いの植物部のメンバーは、「我々こそが真の頭脳派である。次は必ずリベンジする」と誓って、ポケットの数を6つに増やすことを提案した。
当然のように化学部も発明部も、製作者としての誇りを取り戻すべく、その提案を直ぐに了承したのである。
◇ ◇ ◇
5月15日、いよいよ夏大会初日である。期間は15日~30日までの16日間だ。
恒例の夏大会は、1年生から3年生の全員参加で、5人から6人のチームを作り、与えられた課題をクリアしていく大会である。
課題は【経済・産業】と【治安・法令】の2つに大きく分かれており、好きな方を選択して課題に取り組む。
【経済・産業】は別名《宝探しコース》と呼ばれていて、いろいろな資源やアイデアを使って、経済発展のために何かを作ったり、流通方法を考えたり、新しい産業を考えたりする。
【治安・法令】は別名《問題解決コース》と呼ばれていて、町や村で起こった問題を探し、それを解決する方法を考えたり、実際に解決したりする。
今回の夏大会の課題は、王命により決められていた。
《宝探しコース》を選んだ者は、薬草を国民に探させる為に知恵を絞り、書類を作成する。教会で窓口業務をし、諸々の問題を解決する。買い取りをしてお金の計算をする。いわゆる内勤である。
《問題解決コース》を選んだ者は、実際に薬草の有りそうな場所を特定する為、情報を集め現場に行き確認する。薬草の採取方法を教え、薬草の真贋を間違えないよう実物を採取する。いわゆる外勤である。
王都ラミルには、ラミル正教会を含め大小合わせて11の教会が点在している。
本来なら好きな友だち同士でグループを作るのだが、今回は特例として専門スキル修得コース別でグループを作ることになった。
専門スキル修得コースが、文官・経済・開発コースの者は《宝探しコース》を選ぶ。
主に事務仕事や薬草の管理をし、教会での受付窓口業務全般の仕事をするので、実践的勉強になる。
軍人・警備隊コースの者は、《問題解決コース》を選ぶ。
外勤が主で、直接現場で国民を指導する。薬草を採り尽くさないように注意したり、町長や村長と交渉したり、実際に山や川や谷に出掛けるので、体力強化や指導力の勉強になる。
例外として、専門スキル修得コースが医療コースの16人は、薬草の知識があるので全ての教会に配置され、内勤も外勤もすることになった。
また、人数的に軍人コースと警備隊コースの学生が多いので、交代で内勤の仕事も手伝うことにする。
学生の総数は215名。今回は教師も11名が引率として赴く。
ラミル正教会には15名を充て、他は20人1組で各教会に出掛けていく。
郊外に行く程、薬草の採取量が見込まれるので、忙しくなると予想されている。
王都ラミルから延びる街道は4本で、マキ領、ヤマノ領、キシ領、ミノス領へと続いている。それ以外にはレガートの森へと続く道も有るが幹線道ではない。
学生たちは、自分たちのグループが向かう教会まで順次出発していく。遠い教会までは1日半掛かるので、馬車を貸し切っても良いことになっている。
イツキが所属したグループは、レガートの森の近くにある教会へ向かうグループで、リーダーは執行部のエンター部長である。
1番薬草の採取量が見込まれる場所であり、危険も伴う可能性があるので、エンターがリーダーとなり、皆を統率する。
他には執行部のパルテノンも居る。この教会は指定の薬草以外も受け付ける予定なので、医療コースであり植物部部長として、専門家枠で抜擢された。引率は植物部顧問のポートである。
そして他のメンバー全員が、何故かイツキ親衛隊と隠れ親衛隊だった・・・
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
あと数話で【予言の紅星4 上級学校の学生】を終える予定です。
次はシリーズ5に突入し【予言の紅星5 ロームズの反乱】へと続きます。
きっと学校に戻って来ると思うので、楽しい?学校生活は暫くお待ちください。
管理能力に欠けるため、シリーズ化しています。ご迷惑をおかけします(泣)