試作品完成
今日は何の日なんだ!と校長たちは心の中で叫んでいた。
先程のエントン秘書官の登場だけでも、寿命が縮みそうだったのに、今度はよりにもよって軍のナンバー2である、ギニ副司令官ではないか・・・
『どんな拷問なんだ・・・?』と顔を引きつらせながも、校長たちは1人ずつ自己紹介していく。
「ご苦労様です。先程王様からレガート軍司令官に任命されたギニです。どうぞお座りください。今の話はカイ出身の学生の話ですね。軍や【治安部隊】の調べでは、親がギラ新教徒である場合、子もギラ新教徒である可能性は80%です」
ギニ副司令官は司令官になったと言いながら、ドカリと椅子に座り、長い足を組んで背もたれに背を預け、いきなり軍が集めた情報を語る。
「「「 司令官・・・」」」
「「「 80%・・・」」」
目の前の軍ナンバー2の男は、トップの司令官になっていた・・・
そして【子どもの洗脳者】の数は予想以上に多く、校長たちは驚きと恐怖で言葉を発することさえできない。
「だがそれは、バルファー王がギラ新教についての公布を出す前までの話。ギラ新教の【洗脳者】である大師ドリルは、近頃親関係なしに【洗脳】を始めたようだ。前は国に反感を持っていたり、不遇であったり、無能なクセに地位を望む者を選んで【洗脳】していたが、どうやら貴族であれば、親でも子でも誰でも良くなったようだ」
ギニ司令官は忌々しそうに話しながら、最近の現状を校長たちに伝える。
「そ、それでは国に不満や反感を持っていなくても、勝手に【洗脳】されてしまうということですか?」
ホン上級学校長は、自分の領の貴族や学生には関係のない話だろうと、どこか高を括っていた。
ホンの貴族は割りと裕福な上、面倒な中央の政治には興味などない者が多かった。だから、ギラ新教徒になる者など居ないだろうと、領主を始め自分もそう思っていた。
「相手は《印持ち》の可能性が高い。話を聞いただけで【洗脳】されるんだ。望もうと望むまいと関係などない。当然貴殿方も例外ではありませんよ」
まだ何処か他人事のような、自分には関係無いと思っている様子の校長たちに、ギニは心の中で舌打ちしてハッキリと言い渡す。
「どうやら、ことの重大さがお分かりではないようだ・・・そんなことで、学生たちを守れるとでも?」
ギニは軍トップの顔で不機嫌そうに言いながら腕を組み、フーッと大きく息を吐いた。
そして半端ない威圧感で、「どうすんだお前ら!」と言わんばかりに、ギロリと1人ずつ順に顔を見ていく。
『ギャー!すみませんでした!』と心の中で叫び、怯えながら俯くしかない校長たちである。勿論、ギニは意識して脅しているのだ。
「さあ皆さん、学生を守るため校長として何をすべきか……お聞かせ願いましょうか」
ギニ司令官のこの言葉には、打ち合わせ済みのボルダン校長も冷や汗を流した。他の校長たちには、拷問のように感じられたことだろう。
「その前に……ギラ新教の目的と、レガート国に迫る危機、そして隣国カルートの乗っ取りについて話しておく。帰ったら、領主にもよく伝えてくれ。近い内に【治安部隊】が、其々の学校や領主の取り組みを調査すると」
これでもかと脅しを掛け、【治安部隊】が調査するとまで言うことで、最優先で取り組ませることができる。
わざわざ軍のトップが来た意味、それはギラ新教の台頭が、レガート国の存亡に関わる問題なのだと、しっかりと認識させる為である。
先日の【奇跡の世代】の会議で、マキやホンの領主や貴族たちに、ギラ新教に対する危機感が伝わっていないと指摘されたイツキが、それを解決する方法を考えるのは、ギニ副司令官ですよねとニッコリ笑顔で脅し……お願いしたことで、今日のゲストとして参加を決めたギニである。
それから2時間、じっくりと話し合ったギニと校長たちは、しっかり握手をして学生たちを守ると約束していた。
「それでは学生たちの指導も兼ねて、半年に1回【奇跡の世代】を視察に送ります」
「ありがとうございます。憧れの【奇跡の世代】が指導に来てくれれば、学生たちも遣る気を出すでしょう」
カイ上級学校長が代表して礼を述べると、残りの校長たちは深く頭を下げた。
初めは怖くてオドオドしていた校長たちも、話せば気さくなギニの人柄が分かり、お互いの協力体制や報告体制を確認し合って、会談は有意義な内容で終了した。
「きっとイツキ君はレガート国の飛び地ロームズに行く気だろう。ならば自分に出来ることで応援するしかない……」ギニは軍の馬車に乗り、窓の景色を見ながら独り呟いた。
「イツキ君には特産品作りに集中して貰わねばならない」と、自分に言い聞かせるように再び呟き、レガート軍司令官の就任式に向かった。
この日から、鬼の司令官として名を馳せるギニである。
◇ ◇ ◇
イツキは新学期に入ってから、捻挫を理由に武術の授業をさぼ……休んで、発明部の部室で特産品作りをしていた。
放課後は当然部活で製品を作り、夕食後も就寝時間まで部室に籠った。
「ユージ先輩、今夜は休んでいいですよ。助っ人に化学部が来てますから」
「何を言うイツキ君、僕は発明部の部長だ。何がなんでも夏大会前に完成させるぞ!」
イツキも部長のユージも、目の下にくまを作りながら、毎日製品を完全な球体にするため頑張っていた。
製品は直径20センチの球体で、中に空気を溜め地面に落とすと跳ね、重過ぎず軽過ぎず、片手で掴めるように作られている製品は、名前を【ポルム】と名付けられた。
ポムの厚みや分量を変えて、もう少しで変形しない完全な球体になりそうなのだ。
もう一つの製品は、極限まで固い球体になるよう、石の粉にポムの原液を濃くしたものを加えて、直径5センチの球体の鋳型に流し込んで作っている。
石の粉の色は、組合せでなんとか10色揃えた。
こちらはほぼ完成しているが、どうやって使うのかで2案あり、意見が割れている。
ゲーム自体は専用テーブルに数個の玉を置いて、核になる玉を棒で突いて、テーブルの角にあるポケットに落とすゲームなのだが、玉の数とポケットの数、専用テーブルの大きさで揉めていた。
ゲームの内容は発明部・化学部・植物部の全員で考えているので、なかなか意見が纏まらないのだ。
このゲームは今回の特産品ではないのだが、全員乗り気で大陸中に広めたいと言っている。
専用テーブルは発明部が作り、玉を突く棒は植物部の担当である。化学部は玉の滑りを良くする為に、テーブルの上に敷く敷物担当だった。
5月3日放課後、今日は先に完成した?小さな玉を使ったゲームを試す日である。
「今夜は取り合えず各部が作ったものを持ち込み、試しにゲームをしてみる日だ。ケンカはしない!文句は言わない!あくまでも試作品なんだからな。これから何度も改良していけばいいんだ。分かったなみんな!」
「「オーッ!!」」
ゲームを始める前に大声で注意をしているのは、化学部部長のクレタだった。
これから簡単な試技をして、夕食後に実際にゲームをすることになっている。
ゲームをするのは1チーム3人で、2チームが対抗し交代で玉を突く。ゲームのやり方も数種類考えてあるので、今夜はそれも試しながら、1番盛り上るゲーム方法を採用する。
試行錯誤の結果、ゲーム方法は3通りに決定した。
其々の部活の頑張りもあり、試作品の大きな改良は無かったが、微調節や工夫点が挙げられ、1週間後に行われる第2回の試技までに、改良することが決まった。
明日からはポムル作成に半数の部員を充て、夏大会が始まる5月15日までの完成を目指す。
5月12日、ようやく【ポルム】が完成した。
これから2日間、耐久性や弾力性のテストを始める。
本来は長期間のテストが必要だが、特産品を流通させ始めるのは秋からの予定なので、それまでの間は学校内でテストを繰り返すこととなる。
今夜は体育館で、執行部と風紀部が仕切り、体育部の数人に頼んでスポーツとして試合をして貰う。
1チームは7人で、試合に出るのは5人で交代要員が2人である。
ゲーム方法やルールを考えたのは執行部と風紀部なので、エンター部長がルール説明をし、審判をインカ隊長がすることになった。
頼んだのは体育部の10人程だったが、当然作成に関わった発明部・化学部・植物部も全員見学(1部の学生は何故か体育着)している。それ以外にも数十人のギャラリーが体育館に集まっていた。
新しく作った【ポルム】を使って、イツキとナスカがパスしたり、ドリブルしたりする姿に、全員の目が釘付けになっている。
これまでの概念を打ち破った新素材を使って作られているのだから、当然の反応である。
模擬戦出場を買って出た10人は、【ポルム】を投げてみたり、床に叩きつけてみたり、ゴールするカゴ目掛けて投げてみたりと、楽しそうに遊んで?いる。
跳ねるという概念が無かったので、ワンバウンドで相手にパスするのが、楽しくてしょうがないという感じだろう。
試合開始前に校長と教頭が体育館に入って来て、見学人も含めて整列させられた。
2つの【ポルム】を手にした校長の口から、【ポルム】作成秘話を聞かされることになった。
「いいか、これは、この【ポルム】は、レガート国の国家機密であり、レガート国の危機を救う秘密兵器だ!絶対に外部に漏らしてはならない!」
校長は厳しい顔をして驚きの発言をし、学生たちには緊張が走った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
完成したゲームは、ビリヤードのようなものだと考えてください。
ポルムを使ったスポーツは、バスケットボールまたは、ハンドボールのようなイメージです。