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新学期始動(2)

何かを企むようなイツキの表情を見たエンターは、それならイツキに任せるのが得策だと考えた。そして、なんだかインダスが可哀想に思えて同情してしまう。


「…………え~っと、それじゃあイツキ君が推薦者になるのがベストだな。イツキ君の人気でイツキ票を集められればいける気がするぞ」


「それいいねえエンター。イツキ君に世話になっている部活は勿論、隠れ親衛隊も票を入れるはずだ!」


インカは右口角を上げてニヤリとし、エンターの意見に同意する。


「それじゃあインカ先輩、僕は1年の票を集めます!」


それまで黙っていたイツキと同じクラスであり執行部会計のナスカが、1年生の票を集めると約束する。

 なんとか補欠選挙の件は纏まったので、エンターはフーッと息を吐いて最後の議題に移る。




「次は夏大会のことだが、その前にイツキ君から説明があるので聞いてくれ」


議長のエンターに従ってイツキは立ち上がり、レガート国の薬草事情を説明し始めた。


 春休みの間に【奇跡の世代】の数名と一緒に、ラミルの薬屋と薬種問屋の在庫を調査した。

 調査の切っ掛けは、ラミル正教会病院の薬不足だったのだが、現在レガート国の薬種問屋には、例年の3分の1しか在庫がないという驚愕の事実が判明した。

 原因はギラ新教が行商人に直接声を掛け、問屋の2倍の値段で買い取っているからだと推察される。

 前にも少し話したが、ギラ新教はランドル大陸中で薬の買い占めをし、多大な利益を上げているのだ。


「3分の1?そんなんで冬が越せるのか?……って言うか暴動もんだろう」


植物部部長のパルテノンは、それがどれだけ恐ろしいことなのか直ぐに理解し心配する。風邪でも流行ったら、薬を求める人で暴動だって起き兼ねないのだ。


「そこで、僕は秘書官補佐のフィリップ様と一緒にこの現状を秘書官に報告した。そして、この危機を乗り越える策として、レガート国の上級学校8校全てを巻き込んだ、ある案を秘書官と王様に提案した」


「イ、イツキ君……秘書官と王様に直接提案したの?」


驚いた顔をして質問してきたのはパルテノンだった。

 パルテノンは【イツキ組】に入って間もないので、イツキが常識外であるということに慣れていなかった。勿論他のメンバーも驚いたが、もう……何でも有りかな……という領域に達し始めていた。


「ほら、僕は【治安部隊】の指揮官補佐という役職を頂いているだろう。現在は【奇跡の世代】の方々のお手伝いをしていて、急ぎの案件だったので直接お会いすることになったんだ。予定では秘書官だけのはずだったが、【治安部隊】はその~……王様直属なので……まあ、流れで……」


「「「 流れで……? 」」」


 エンターとヤン以外は、何だか納得のいかない顔をしているが、それ以上に突っ込むことも出来ない。

 本当はイツキが【奇跡の世代】を指揮しているのだと、フィリップから聞いていたエンターとヤンは、皆から視線を逸らせて何も言わない。


何となく雲行きが怪しくなったイツキは、その内容をさっさと伝えることにする。

 

 先ずは早目に国民に薬草不足を明らかにすること。そして、国民と上級学校が一役買って解決する案を話した。

 尚且つラミル上級学校は、行商人にレガート国で薬草を卸させる為の特産品作りを担うこと、その特産品の販売権利を貰いたいとお願いしたこと等を、分かり易く要点を中心に説明した。


 また、特産品作りに欠かせないポムという物は、化学部と植物部が研究をして、既に技術開発部に提出済みであること。

 しかし、実用化に成功したのは確かだが、元々ポックという樹液の特性を発見したのはブルーノア教会であること。


 よって、ラミル上級学校で得る純利益の半分を国に納め、国から教会に寄付をする。残った半分の利益の半分、すなわち4分の1はレガート国立病院の建設に、残りの4分の1をラミル上級学校の取り分にしたいとお願いし、それを了承されたと伝えた。


 当然のことながら、怒濤のように質問攻めにあうイツキだった。






 翌日は始業式で、ブルーニとドエルの退学が校長から告げられ、体育館内は騒然となったが、校長は詳しい理由について何も語らなかった。

 ヤマノ領の学生は、他にも3人がヤマノ上級学校に転学していた。その3人は、今回の騒動で爵位を失ったり、爵位を落とされて金銭的に苦しくなった家の都合等で転学していた。


 教室に戻ると、イツキとナスカの前の席で、ルビン坊っちゃんとホリーがこの世の終わりのような顔をして座っていた。


「どうした坊っちゃん?顔色が悪いぞ・・・ああー、そう言えばヤマノ侯爵様が亡くなられて、ヤマノ領は大変な騒動だったらしいな?噂ではヤマノ領に伯爵が居なくなったとか……どういうことなんだろう?」


ナスカが意地悪くルビン坊っちゃんをからかう。


「うるさい黙れ!」


ルビンはナスカを睨み付け怒鳴り、両手を握り締めそっぽを向いた。

 このクラスの中では1番爵位の高い、伯爵家の子息であることが自慢だったのに、子爵家の子息になってしまった現実が、未だ受け入れられていないルビンだった。

 このクラスには、他にも伯爵家の子息は1人居るのだが、自分こそがトップだと思っていたので、精神的なショックはかなりのものだったようだ。


 爵位が下がる等という不名誉なことは、貴族界ではあまり例がなく、余程の失態か主家に対する裏切り行為をしたことを表すので、当分の間は社交界にも顔を出せないくらい恥ずかしいことだった。


「まあ良かったじゃないかホリー、これで嫌なことに付き合わなくて良くなったし、これからは他の領の奴等とも仲良く出来るぜ」


ナスカはホリーの肩をポンポンと叩き、慰めているのか励ましているのか、よく分からない言葉を掛ける。

 ホリーはハーッと深く息を吐き、下を向いたまま「そうだな」と呟いた。

 他のクラスメートたちも寄って来て、これからはもっと部活にも出てこいよとか、飯を一緒に食べようぜとか、いろんな声を掛け始める。

 ブルーニ率いるヤマノ組の一員としてのルビンたちは、声も掛け難かったしルビンも威張っていた。だが、これからは仲良く出来るだろうと皆は思った。

 裏表がなく分かり易い(単純な)ルビンのことが、意外と皆嫌いではなかった。





 始業式の昼食後は部活動になる。

 イツキはニコニコと笑いながら部室のある工作棟へ向かう。両手で大きな箱を持ち、中には数種類のポムが入れられていた。

 部室に入ると鼻唄を歌いながら箱を開け、中から色々な形や固さのポムを取り出し、自分に与えられているテーブルの上に広げた。

 先輩方は何だろうと興味津々で寄って来て、謎の物体であるポムを眺め、触り始めると驚きの声をあげた。


「「「なんだこの物体は!?」」」と。


イツキはムフフと意味あり気に口元を緩めながら、部室のドアが開くの確認すると、いきなり爆弾発言をする。


「それはポムという物体で、僕と化学部と植物部が合同で作りました。現在は技術開発部が極秘に研究を進めていて、レガート国の最高機密事項となっています。僕はこれを使ってレガート国の特産品を作ろうと思っています」


イツキは2種類のポムを手に取りながら、技術開発部の極秘研究だの国の最高機密事項だの、普段学生が耳にすることもない言葉を使い話し始める。

 5人の先輩は固まり、手に持っていたポムを貴重品のようにそっとテーブルに戻す。

 そこに発明部の顧問であるイルートが、校長と教頭、化学部の顧問のカイン、植物部の顧問のポートを伴って部室に入ってきた。


「ちょっと待ってくれイツキ君、なんか今、とんでもない話を聞いた気がするが……?」


イルートはテーブルの上に広げられているポムをまじまじと見ながら、これはどういうことだと考える。そして不安気にイツキや校長や教頭の顔を順に見ていく。

 昼食時間に校長から、午後の部活には教頭や化学部顧問と植物部顧問も同席すると言われ、何かしでかしたっけ?と青い顔になりながら「はい分かりました」と返事をしていた。


「申し訳ありませんイルート先生、もう少し早く先生にご報告するべきでしたが、このポムの開発には、レガート軍や技術開発部が関係していたので、王様の許可がなければ製品を作ることが出来なかったのです」


イツキは発明部顧問のイルートに謝罪しながら、全員に座るようお願いする。

 1つのテーブルに先生方を、もう1つのテーブルに先輩方を座らせると、2つのテーブルの間にイツキは立った。


『ちょっと待て!ポムって軍や技術開発部が初めから関係していたのか?』


化学部顧問のカインは心の中で叫んだが、何事もなかったような顔をして座っている。

 春の校内武術大会の時に、槍の顧問であるカインは、イツキから自分は【技術開発部相談役】であると打ち明けられていた。そして化学部部長のクレタが、イツキの根回しのお陰で技術開発部に就職が内定したことも聞いている。

 しかし、イツキが【治安部隊指揮官補佐】だとは知らなかった。

 植物部顧問のポートはイツキの担任であり、校長や教頭と同じくらいの情報を知っているが、今聞いた話しの情報は知らなかった。


 混乱しているイルート先生と先輩たち、そして他の先生方にも、にっこりと微笑み掛けながら、現在のレガート国の薬草事情から、ゆっくりと話し始める。


 校長を始め他の教師も先輩も、何度か質問を繰り返しながら、う~んと唸っている。

 予想だにしないイツキの考え方と、国を巻き込んだ大きなうねりの中に巻き込まれていく感じが、ワクワクするような……怖いような……凄いことのような……夢の話のような……まだ全員が現実的にピンとこない顔をしている。


「ということは、発明部、化学部、植物部合同で作った特産品(遊具予定)の、生産から販売、そして売上の管理までをトータルに行い、それを開発コースと経済コースで学ぶ学生の学習に組み込み実践させる。尚且つ利益の4分の1は我が校の利益になると言うことだな」


「はい校長先生。これは、レガート国にとっても、国民にとっても、学校にとっても、当然学生にとっても利のあることだと思います」


 校長にすれば願ってもない話である。3つの部の顧問も、成功すればお金を使って研究できるのだ……夢のような話である。先輩たちは瞳をキラキラと輝かせ、既に夢見ごごちである。

 がしかし、レガート国の明暗が自分たちの肩に載ることになる・・・そんな大任を果たせるだろうかと考えると、手放しでは喜べない大人たちである。

                                     

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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