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新学期始動

いよいよ新章スタートです。

これからもよろしくお願いします。

 翌朝イツキはエンターと共に会議に出席する為、辻馬車で上級学校に戻った。

 明日から始まる新学期に備えて、早い者は午前中に、遅い者は門限の午後10時迄に戻って来る。


 会議は執行部と風紀部の合同で、執行部室で行われた。勿論、新役員候補のパルテノン(植物部部長)とクレタ(化学部部長兼イツキ親衛隊隊長)、モンサン(イツキ親衛隊副隊長)も出席している。


「今日の議題は補欠選挙と夏大会について、そして今後のギラ新教徒の学生についてだが、3つとも予想とは違う状況になっているので、改めて議論したいと思う」


エンターは、部屋の1番奥の部長席から今日の議題を告げる。

 今朝は生憎の雨模様で、エンターの後ろの窓には雨粒が当たりながら流れていく。こんな天候では、誰も特別教室棟にわざわざ来る者はいないだろう。



「エンター部長!今日の議題の前に、全員に聞いて欲しい話があるんだ。俺は……恐らくギラ新教の大師とかいう奴と遭遇したようだ」


急に立ち上がって爆弾発言をしたのは、新役員になる予定のパルテノンだった。


「「「なんだって!」」」


全員が驚きの声を上げ、一斉にパルテノンの方に視線を向ける。そして、まさかの【洗脳】という言葉が頭を過る。


「皆落ち着け!取り合えず話を聴こう。パルテノン、話してくれ」


エンターは動揺する皆を静めて、パルテノンに説明するよう促し、風紀部隊長のインカに目配せをする。インカは頷くと、念のため廊下に誰も居ないか確認する。

 イツキ組(執行部役員・風紀部役員・クレタ・パルテノン・モンサンの11人)の殆どが、上級学校対抗武術大会に出場する為ヤマノ領に行っていた時、パルテノンは実家のマサキ領に帰っていたのだ。



 パルテノンは、信じられないような恐ろしい話を、時々体を震わせながら息を詰まらせながら話し始めた。

 その内容はざっと次の通りだった。


 4月13日のこと、マサキ上級学校に通っている友人のヒルボウ(男爵家の次男)と本屋に行くと、そこにヒルボウの学校の先輩が居て、これから自分の家でちょっとしたパーティーをするので、2人とも一緒に来ないかと誘われた。

 その先輩は準男爵家の長男で、プライドが高く平民の学生を見下し、学校内ではあまり評判の良くない先輩らしかった。

 断ろうとしたのだが、気付くと4人の男たちに取り囲まれていて、「貴族だったら絶対に参加すべきだ」と有無も言わせず両脇を固められ、その先輩の家に連れて行かれた。


 その屋敷には自分たち以外に、貴族の子息だと思われる13歳から19歳くらいまでの男が4人居て、お菓子やサンドイッチ等を食べて寛いでいた。

 どうやら危険な目に遇わされる訳では無さそうだと安心していると、途中から話題が、現在のレガート国は貴族に対して冷遇し過ぎているとか、平民が堂々と役職に就いているのはおかしいとか、段々と話が政治や王様やレガート軍に対する批判になってきた・・・


 パルテノンはマサキ領に帰ると直ぐに、友人のヒルボウにギラ新教の話をしていた。

 その時話したギラ新教徒の特徴と思想が、正に目の前で展開されていた。

 そこに、今日は素晴らしいゲストにお出で頂いているので、是非話を聞いて欲しいと言われ、2人の黒尽くめ衣装を着た男が入ってきた。


 パルテノンとヒルボウは、恐怖に顔を強張らせながらも、目で合図すると軽く頷き合い、もしもの時の為に考えていた作戦を実行した。

 決して怪しい男を見ない。その為には視線を安全な奴に向けること。

 怪しい奴が話し始めたら、ブルーノア教の祈りの言葉を一心に唱えるか、好きな歌を頭の中で唄うか、何でもいいから怪しい奴の話を聞かないように集中すること。



 そして何分くらい経ったのか覚えていないが、他の者たちが椅子から立ち上がったので、自分たちも立ち上がった。

 すると1人1人が、目標というか批判というか……とにかく貴族の在り方について叫び始めた。


 1人目は「平民どもを官職に就けるな!」と叫び、2人目は「政治を変えろ!」と叫び、3人目は「サイモス王子を国王に!」と叫び、4人目は「キシとミノスは敵だ!」と叫んだ。

 次はパルテノンとヒルボウの番だった。


「貴族こそが絶対なのだ!」とパルテノンは叫び、「レガート軍を我らの手に!」とヒルボウは叫んだ。


 正直、何が何だか判らなかったが、どうやら自分もヒルボウも【洗脳】されずに済んだようで安心した。

 しかし、屋敷を出るまでは【洗脳】された振りをして、全員でレガート国を変えようとか、新しい時代を作ろうとか、先ずは貴族に逆らう者は排除すべきだ等と、話を合わせるよう努力したので、何とか無事に屋敷を出ることが出来た。


 後日、屋敷に誘った先輩、連れて来られていた学生の名前を、領主様(ヨシノリの父親)に届けておいた。

 黒尽くめの衣装の男2人は、どうしてギラ新教の者だと名乗らなかったのかを、パルテノンは疑問に思ったが、、翌日国王様からの公布が発表され納得した。


 その内容は、レガート国(王)は、ギラ新教徒を認めない。ギラ新教徒と判明した貴族は爵位を剥奪する。それと、先の内乱クーデターは、ギラ新教徒によって起こされたというものだった。 


 しかし、敵は自らをギラ新教だと名乗らなかった・・・ということは、これから【洗脳】される者たちは、自分がギラ新教徒になったのだと、気付かないまま信者になるということだ。



 恐ろしい・・・


 パルテノンの話を聞いた全員が絶句し、これからどうなるのだろうかと不安になる。




「では、本当にうちのマサキ領で奴等は布教活動をしたんだ……イツキ君の心配していたことが、現実になったんだな……」


マサキ領の領主であるマサキ公爵の次男であるヨシノリは、春休み前にイツキが心配していた通りになってしまった現実に、ショックを受けて青ざめる。


「でも、パルテノンと友達のヒルボウは【洗脳】されなかった。あの時、春休み前の集会で冗談のように言っていた方法が、本当に役に立ったという事実は、物凄い収穫だよ!」


風紀部のインカは、パルテノンの経験が【洗脳】されない為の方法として、これから大いに役立つことになると喜んだ。


「確かに・・・言い知れぬ恐怖はあるが、希望の光が射した気がする。よく頑張ったなパルテノン!」


親友のクレタは、【洗脳】されずに済んだパルテノンの肩を叩き、良かった良かったと呟きながら、その幸運と気転の素晴らしさに感心し抱き締めた。



「やはり、大師ドリルは【印持ち】なのだろうか?・・・でも瞳なのか声なのか、どちらかで【洗脳】していることは間違い無さそうだ。先輩ありがとうございました」


 イツキはパルテノンの話から、自分の推測が正しかったのだと確信し、大切な仲間が【洗脳】されずに済んだことを、神に感謝しパルテノンにも感謝した。




 しかし、新たに大きな問題が生じてしまった。

 ギラ新教だと名乗らずに、学生や若者たちを【洗脳】していく・・・早急に手を打たなければならない。やはり大師ドリルは頭がきれる。

 イツキは直ぐにでも王様に報告しなければと思ったが、【奇跡の世代】が大師ドリルを追っているはずだから、既に敵はレガート国に居ないだろうと思い直す。

 取り合えず、昼になったらミム(通信鳥)をラミル正教会のサイリス(教導神父)ハビテの元に飛ばし、サイリス直々に王様に伝えて貰うことにしようと決めた。



「それでは、ギラ新教の件はイツキ君に任せて良いだろうか?」

「はいエンター部長。早速昼にミムを飛ばして報告しておきます」


イツキは全員の顔を見ながら答える。そして近い内にパルテノン先輩の話を聴きに、《治安部隊》か《王の目》の誰かが来校することになるだろうと告げた。





「それでは次の議題だが、誰か執行部に推薦できる者は居ないだろうか?出来れば我々の秘密を共有できるか、前期終了までの短い間だけでも、協力してくれる者がいいんだが」


エンターは注文をつけて全員に問い掛ける。

 信頼できる友は幾人か居るのだが、国の機密事項を含んだ活動をしている現在の執行部の現状を考えると、誰でも良いという訳ではない。

 う~んと全員が思案しながら、自分のクラスメートを想い浮かべる。


「発明部の副部長で、2年生のインダス先輩はどうでしょうか?これから発明部と植物部と化学部で協力し、ランドル大陸中に遊具を売り出す計画があります。既に王様の許可は取ってあります」


イツキは誰も聞いたことのない話を、執行部役員の推薦人の名前と共に報告する。


「はい?イツキ君・・・今、何だか化学部の名前が出たような?」(クレタ)

「いやいや、植物部の名前も出ていた気がするぞ」(パルテノン)

「そこじゃないだろう!王様の許可を取ったとか何とか……どういうことだ?」


風紀部のパルは、半分信じられないという顔をして、何故ここで王様の名前が出ることになるのか理解できなかった。


「王様の許可の話は、これから議題になる夏大会にも大いに関連してくるので、後から詳しく話します。だからインダス先輩について先に議論してください」


イツキは順序よく話をしていくために、先に補欠選挙の方を決めておきたいと皆に頼んだ。皆はイツキの話に突っ込みたいこと満載だけど、グッと我慢して従うことにする。


「インダスは目立たないけど勉強も出来るし、真面目だと思う。武術は苦手そうだけど、面倒見はいい方だろう」


同じクラスのヤン(風紀部)は、インダスのことを思い浮かべながら、インダスの人柄を評価する。


「自分から目立とうとしないけど、武術以外は何でもこなす奴だな」


武術が苦手なことを強調しながら、同じクラスのミノル(執行部)も意見を言う。


「ただ本人がやると言ってくれるかが問題だよな。俺はインダスなら信用できると思うけど、執行部に興味など無さそうだけど……」


パルも同じクラスだが、B組は軍希望者クラスで、専門スキル修得コースが開発部コースの者も軍人クラスになっている。そんな軍で働こうとしているクラスの中で、武術が苦手だと見立てない。成績が悪くても武術が得意な者の方が大きな顔をしているのが、軍希望クラスなのだとパルがイツキに説明する。

 なので、インダスが推薦を受けてくれるかどうか、分からないと心配する。


「確かに執行部に興味など無さそうです。でも、立候補については僕に任せてください。絶対に立候補させて、色々と協力して貰いますから」


イツキは自信ありげに、ムフフと黒く微笑みながら、明らかに何かを企んでいる顔で、立候補させることを約束する。

                                      

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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