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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
不思議な新入生 編
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遅れてきた新入生

いよいよ新シリーズがスタートしました。

青春あり、陰謀あり、秘密活動ありと忙しいイツキです。

可愛い?弟たち(王子)も登場してきます。

これからも、よろしくお願いいたします。


この物語は《予言の紅星》シリーズの4作品目です。

 レガート国の王都ラミルにある、伝統と格式高き国立上級学校は、入学式を5日後に控え揉めていた。

 

 レガート国内には9つの都市に上級学校がある。その中でも王都ラミルにある上級学校だけが国立で、他の都市にある上級学校は、都市(領主)が運営する上級学校だった。


 国立上級学校は、主に王族や貴族のために創られた学校であるが、特例として、地方の領主の推薦や中級学校長の推薦があり、優秀であれば平民でも入学を許されていた。

 しかし、貴族といえど優秀でなければ入学できず、公爵家の子息だろうが伯爵家の子息だろうが、入学試験に落ちれば、その門を潜ることはできない。

 故に、国立上級学校を卒業することは、最高のエリートコースであり、その後の人生は保証されたも同然だった。



 そんな国立上級学校の校長室では、教頭と学年主任が怒りを露にし、校長に抗議しているところだった。


「公爵家の推薦?だから何なのですか。入学試験は11月で、合格発表は12月でしたよね?それを今頃になって入学させろとはどういうことなのですか?」


教頭のオーブ45歳は、少し薄くなり始めた金髪を揺らし、鋭い銀色の瞳に怒りの炎を燃やしながら、絶対に納得できないと校長の机をドンッと叩く。


「そうです。これまでも侯爵家だ伯爵家だと、無理難題を言って入学させようとする族はいましたが、合格点には程遠い者ばかりでした。時には多額の寄付金をちらつかせ、入学を迫るような輩もいましたが、全て論外の知能の持ち主ばかりでした。それなのに、試験を受けさせるのですか!」


5日後の1月10日には入学式だというのに、どんな常識知らずのバカが裏口入学を申し込んできたのだと、1年生の学年主任であるダリル教授は、怒り心頭で抗議する。

 今年度から教授に昇格し、やる気満々のダリル教授40歳は、貴族特有のグレーの髪にグレーの瞳、少々太り気味だが体術も教える厳しいことで有名な教師である。


「まあそうなのだが、推薦者の手紙には、試験を受けていたら首席だったはずだと書いてあるので、試験ぐらいは受けさせてみようかとな……」


困った顔で弁明する校長のボルダン56歳は、届いた推薦状を取り出して2人の前に置いて、眠そうに薄緑の瞳を擦った。

 どうやら徹夜で試験問題を作ったようで、服は昨日のままだし、髪の毛に至っては、何度もぐしゃぐしゃにしたのだろう、銀色と白の混じった鳥の巣状態になっている。


「いったい何処のバカ貴族が手紙を送ってきたのですか」


オーブ教頭は、机の上に置かれた手紙の、封印家紋を確認しようと手に取り封筒を裏返す。そして固まった・・・

 隣のダリル教授も覗き込んで、「ええぇぇっ!」と大声を発して固まった。


 このレガート国で、最も教育に熱心であり、教育を受ける権利を守ろうとしている人物、もちろんこの学校の卒業生でもある人物だ。まだ若いが、その手腕は高く評価され、王からの信頼も厚い。

 このような裏口入学を、笑って許すような人ではないと、この場に居た3人は思っていた。

 あまりにも大物であり、国民からの信望も厚いその人の名はアルダス。キシ領を治める公爵であり、王の片腕であり、貴族たちから恐れられる【王の目】である。


「キシ公爵様が何故?」


オーブ教頭もダリル教授もショックを隠せない。


「だから私自ら試験問題を作ったのだ……」


フーッと息を吐いてから、校長は出来上がった試験問題を教頭に見せた。


「これは……あまりにも難しいのでは?今年の合格者では4割も正解できないでしょう。それどころか在校生でも半分正解すればいい方でしょう」


試験問題を見た教頭は、戸惑いの表情で校長を見て、隣のダリル教授に試験問題を渡した。


「校長の狙いは何なのですか?入学させたくないのですか?それとも……それとも本当にこの問題を、半分でも解けるような学生だと思っているのですか?」


ダリル教授は、校長の真意が測りきれず、半ば呆れた表情で質問する。


「あの、あのキシ公爵様だ。合格させるにしても、誰からも文句の出ない試験問題で、それなりの成績を取らないと納得させられないだろう」


「しかし校長、この試験問題はあまりにも・・・」


 疲れ果てた顔の校長に、それ以上の言葉が出ない教頭とダリル教授だった。





 1098年1月5日午後、問題の推薦入学希望者が上級学校にやって来た。

 誰も居ない教室でポツンと待っているその少年は、名前をキアフ・ラビグ・イツキといい、キシ公爵のキシ領で、新たに子爵位を授かった家の子息のようだ。

 というのは、入学のために考えられた名前と身分である。

 これまで使っていた名前はイツキ・ラビターといい、それも偽名である。産まれた時に付けられていた本名は、キアフ・ル・レガートだった。レガートは国の名前、そして名前の後に《ル》を持つ身分、それは王子である証だった。


 身長は165センチで少し小柄、珍しい黒髪はきちんと揃えられておらず、前髪が小顔の半分近くを覆っており、ちらりと覗く瞳は、薄く青い色の入った眼鏡を掛けているので、よく分からない。

 表情は無表情で、唇の形は整っているように見えるが、全体的に覇気もなく冴えない。


 提出された書類に目を通しながら、教頭は幾つか質問をしていく。


「どうして、試験日に受験しなかったのかね?」

「それは、レガート国に居なかったからです」


まだ声変わりをしていないのか、透き通るような声で少年は答えた。


「中級学校は何処を卒業したのかね?もしかして外国かな?」

「僕は、中級学校には行っていません。商団と旅をしていたので」


教頭は予想外の答えに、『勘弁してくれよ、中級学校に行ってないだと?』と、心の中で呆れていた。中級学校にも行っていない者が、上級学校を受験しようとするなんて、キシ公爵は何を考えているのだろうか・・・?


「今日の試験はかなり難しいが、上級学校の試験レベルを知っているのかね?」

「いえ、知りません。知りませんがベストを尽くします。僕は首席で卒業するよう命じられているので」

「はぁ?首席?」


教頭は、試験官として同席しているダリル教授と顔を見合わせ、呆れて首を横に振り、溜め息をつきながら、こんな茶番は早く終わらせようと、それ以上の質問を止めて、試験問題を机の上に置いた。


「時間は2時間だが、もう無理だと思ったら教室を出ても構わない。ただし最低1時間は努力して問題を解くように」


教頭はそう言うと、ガックリ肩を落としながらダリル教授と共に、教室を出ていった。

 本来なら試験官として教室に残るべきなのだが、何もない教室でカンニングは出来ないし、問題の意味さえ分からないだろうと判断し、教室を出ていったのである。


 試験教官が教室を退室した後、キアフ少年は、無表情のまま試験問題を解き始めたが、途中から鼻唄を歌っていたことを知る者はいない。





 教員室に戻った2人は、疲れた顔をしてドカリと椅子に座った。

 教員室では、入学式と始業式に向けて忙しく準備している教師たちが、興味津々で2人の様子を伺っている。

 そんな視線に答えるように、教頭がポツリと呟くように言う。


「あの少年は、中級学校に行っていなかった」


「「そんな、まさか?」」


ほぼ全員から、同じ言葉が漏れた。誰もが信じられないという顔をして、呆れるというより怒りに近い表情に変わっていく。

 皆、上級学校の教師であることに誇りを持っている。生徒たちもまた、この学校の生徒になるために、相当努力を重ね狭き門を潜り抜けた者たちであったのだ。



 試験開始から1時間、予想通りキアフ少年は試験を終えて、教員室に顔を出した。やはり解答できずに諦めたようだ。室内からは失笑が聞こえる。


「すみません。合否の結果はいつ頃判りますか?」


驚いたことに、合格の可能性があるとでも思っているのだろうか……


「ああ、直ぐに校長から結果が知らされるだろう。キシ公爵様には手紙で結果を報告しておくから、君は校長室の前で待っていなさい」


教頭はそう指示すると、若い教師に試験問題と答案用紙を持ってくるように命じた。

 5分後、やけに戻ってこない教師に、どうしたのだろうかと気になり、他の若い教師に様子を見てくるよう命じた。

 また5分経過し、戻ってこない2人の教師に「あいつら何をしているんだ!」と怒りを滲ませ、教頭は席をたった。

 10分後、戻ってこない3人に、何かあったのだろうかと心配になったダリル教授と2人の教師が、様子を見に教員室を出ていった。



「なんなんだこれは?」

「信じられません!」

「教頭、俺、この問題解けないです。この解説は何なのですか?」

「ええい煩い!少し黙っていろ!」


若い教師の声も、教頭の耳には入ってこない。目の前の出来事の答えを探そうと、懸命に思案しているのだが、脳がパニックを起こしており処理が追い付かない。

 遅れてやって来たダリル教授と2名の教師は、答案用紙を両手に持ったまま、呆然としている教頭に何事かと声を掛けた。


「教頭どうしたのですか?何があったのです?」


教頭はダリル教授の声に気付くと、まるで幽霊でも見た後のような顔で呟いた。


「ダリル教授、ぜ、ぜぜ、全問正解している」





 キアフが校長室の前でぼんやり待っていると、気配を感じた校長が中から出てきた。キアフの姿を見つけると、申し訳なさそうな顔をして中で待つように促した。


『まだ1時間しか経っていない、やはり難し過ぎたんだな』


 校長は目の前の少年に座るように言うと、自らも向かい側に座って作り笑顔で微笑んだ。


「試験はどうだったかね?答えられた問題はあったかな?」


「はい、一応全て答えておきましたが、12問目の歴史の問題で、555年の大陸戦争の例文が間違っていました。僕なりに解釈して556年に締結した条約について、答えておきました」


キアフはそう答えると、にっこり笑った。そして流暢なハキ神国語で古い諺を呟いた。


「真実は想像を越え、想像は科学を生む。思い込みは何も生まず、瞳を曇らせる」


ハキ神国語が話せる校長は、キアフの呟いた諺の意味を解釈し、瞳を輝かせると、今度はカルート国語で質問してきた。


「君の眼鏡は色付きだけど、本当に目が悪いの?」


キアフは再びにっこり笑うと、ダルーン王国語で


「いいえ、視力は悪くありませんが、光が苦手なのです」と答えた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

名前がイツキからキアフになっていますが、もうすぐイツキに戻ります。

これからも応援よろしくお願いします。

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