episode2 「粉☆砕」
『それでバルディよ。いろいろ聞きたいことがあるんだが。』
「なんだ?」
『まずどうやって手伝うんだ?見ての通り私は鎖のせいで行動範囲が限られている。何かをしようにも長さが足りんぞ?』
マリゴードはそういいながら右手で鎖を掴みあげて見つめていた。
その鎖は供給者の魔力が尽きることがない限り、決して切れることのない黒い鎖、金色に輝く龍の手足、首につけられ、決して逃がさぬように数か所の地面に巨大な杭を使って固定されていた。
しかもいまは必要最低限の長さになっており、今いる台から降りることはできない。
そういわれて思い出したようで、ゆっくりとマリゴードに近づいた。
「ああ、そういえばそうだったな。ちょっと待ってろ。」
バルディは右腕でマルゴードについている鎖に触れると、魔法を詠唱し始めた。
「厄龍封じし黒鎖よ。その姿を変えて可動の域を変えたまえ」
この鎖の特徴は詠唱をすることでどんな形状、重さにも変えることができる点にある。
ただし、魔力供給が続く限りの話だ。
魔力供給が途切れれば鎖は次第にもろくなり、龍の力|(物理的)に負けてちぎれてしまう。
そのため、常時魔力を流す必要があり、アマリス家の中でも魔力量が多いものがこの使命を負い、体に鎖と遠距離でも供給できる術式の模様が胴体に描かれる。
当然バルディ以前の歴代も、初代からこの模様を描いている。
しかしバルディの場合、21代目だった姉のほうが膨大な魔力を持っていたが、急に病で倒れたために急遽22代目としてこの場所に連れて来られたのだ。
そのため魔力制御の訓練はしていない。
そしていま、バルディはまさに鎖の形状を変えようとしていた。
右手から流れた魔力は黒い鎖に流れると、青い光を放って鎖の姿を変えていった。
流れる魔力の勢いに負けないよう、光のまぶしさに目を細め、こらえるために歯を食いしばり、緊張によって汗をかいていた。
キイイイイィィィィィン
甲高い音を立て、放つ光は一層強くなり、思わず目をつむってしまった。
その間も鎖は徐々に大きく、太くなり、次第に光が収まった。
―――ガジャアアアァァァン――――
重々しい金属音が聞こえたのでゆっくりと目を開けると、そこには一つ一つが巨大な輪になった特大の鎖があった。
ズウウン
その鎖の重さに耐えきれなくなってマリゴードは重々しい音を立てて地面に四つん這いの状態になった。
「あ、わり、魔力の流す方法間違えたわ。」
『き、きさま・・・・・・・絶対・・・・・絶対わざとだろう!!』
なんとか顎を持ち上げたマリゴードは若干にらむような眼でバルディを見た。
「はぁ!?勝手に決めるなよ。おれはすきでこうしているわけじゃねえよ!あまり魔力制御が得意じゃないから失敗しただけだ!」
『いいから早く元にもどせ!重い!』
「ったく、わかったよ!ちょっと待ってろ。」
そういうともう一度右手で鎖に触れ、詠唱を唱えた。
「厄龍封じし黒鎖よ。その姿を変えて可動の域を変えたまえ!」
再びあいい光を放ち形状を変えた鎖は、首の鎖だけは長さと太さが元に戻ったものの、他の四肢の鎖はかなり短く、細くなってしまった。
「っ!!やべぇ!おい!マリゴード!絶対に手足動かすなよ!」
それを聞いたマリゴードは何かを思いついたのか、にやりと笑った。
『なんだ?聞こえんぞ!』
さっきまで普通に話していたのに急に聞こえなくなるとかわざとだろ!
「絶対に腕とか持ち上げるな!!!!」
『腕だと?それはこういうことか?』
するとマルゴードは腕を持ち上げようとしたが、短くなった鎖のせいで途中で止まった。
ギチギチギチと鎖の悲鳴のようなものが聞こえ、今にも切れてしまいそうだった。
「お、お前それ絶対わざとだろ!」
『だったら早く元に戻すことだな。』
「くそ!」
バルディは再度詠唱し、今度こそ目的の長さにすることができた。
太さは元のまま、長さだけを伸ばしたのだ。
『うん。やればできるじゃないか。』
かなり魔力を消費したようで、バルディはその場にあおむけの状態で息を乱していた。
「はぁ・・・・はぁ・・・・・くそ・・・・なんで作業する前からこんなに疲れているんだよ・・・・・」
『それは単にお前の制御が下手なだけだろう?』
全く持って正論だった。何も反論できない。
「う、うるせえ・・・・」
息を整え、汗をぬぐって起き上がると、バルディは階段を下りて入口のあたりに行き、手招きをした。
『そっちに行けばいいのか?』
「それ以外に何がある。なるべく早く終わらせるぞ。」
『そうだな。では始めるとしよう。』
『それで、何をすればいいのだ?細かい作業はできないぞ?』
「ああ、知ってる。っと」
ギイイィィィィィ・・・・・・
軸部分が錆びて硬くなっている大きな木製の扉をあけ放ち、その先に置いてある大量のきれいにカットされた、断面が正方形の長い木材を指さした。
「とりあえずあの大量の木材を中に入れてくれ。」
『いきなり重労働だな。』
「しかたねーだろ。大工呼ぼうにも怖くて中に入ろうとしないんだ。挙句の果てに材料置いておくから自分で直してくれーだぞ?」
マリゴードは鼻で笑い、ニィッと口をゆがませて鋭い牙をむき出しにしてバルディを見た。
『ほう?まだ私に対する恐怖は残ているのか。安心したぞ。』
250年間ろくに外に出ていないのですっかり忘れられてしまったのだと思い、少し残念に思っていたが、まだ恐怖の対象になっているということに安堵していたマリゴードだった。
その少しうれしそうにしている顔を見て、バルディは苦笑していた。
「は、はは・・・・そうか。よかったな。」
『ん?どうしたのだ?』
「あー・・・・・喜んでいるところ悪いんだが・・・・・いや、やっぱやめておこう。」
ごまかされて余計に気になってしまったので、マリゴードはバルディを爪先でつまみあげて目の前に持ってきた。
「ちょ、おい!放せよ!」
バタバタと手足を動かして抵抗するバルディだが、いくら暴れてもその爪から逃れることはできなかった。
『なんでごまかしたんだ。気になるだろう、教えろ。じゃないとお前殺してこの世界滅ぼすぞ。』
「殺すな滅ぼすな!・・・・・あーもうわかったわかった。教えてやるからいったん下ろせ。」
あっさりと地面に無造作に置かれたバルディはぶつけたお尻をさすりながら立ち上がった。
「あのなぁ。あの大工たちが怖がってたのはなぁ・・・・・」
『私の存在だろう?』
「人の話聞けよ!!ったく。大工が怖がってたのはある噂だ!猛獣のような唸り声が毎晩聞こえるとかいう噂が近隣の街で広まっててそれを怖がってんだ!」
その猛獣の正体はマリゴードなわけで、おそらく毎晩聞こえるのはいびきのことだろう。
それを知らない当の本人?本龍?はうれしそうな目で歯を大きく口を開いて笑っていた。
『ふ、ふはははははは!つまり私の声に恐怖している。・・・・・なんだ。結局私のことを怖がってるんじゃないか!やはり私はいまだ恐怖の象徴であるのだな!!』
「おまえポジティブだな!250年引きこもってたやつが何でこんなにポジティブなんだよ!」
『細かいことは気にするな!それより私は機嫌がいい!いくらでも手伝ってやろう!』
そういうと、マリゴードは両手でつかめる限りの木材を掴みどんどん中に入れて行った。
数十本とあった木材はあっという間に中に運び込まれ、建物の前で山積みになっていた木材はすでに半分を切っていた。
ただここで一つ問題が発生した。
木材を運んでくれるのは非常にありがたい。
補修も手伝ってくれるのも同様に。
ただ・・・・・・・・・・
「もうすこし丁寧の運べよ!」
非常に雑なのだ。いろいろと。
木材を置くときにバルディを置くときと同じように無造作に置くわ、たまにひょいっと後ろに投げて、そのたびに木材か中に置いてある家具が壊れるわ・・・・・・
それにかなりうるさい。
パリィン|(皿が割れた)
ベキ!ドサドサドサドサ・・・・|(本棚壊れてしまってあった本が全部落ちた・・・・・)
バキイ!カランカランカラン・・・・・・|(椅子が!机が!)
ガン!ゴン!ゴオオオオン!|(補強に使う木材と建物の壁がぁぁぁぁ!!!)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「投げるなああああ!」
そんなバルディの悲鳴は崩壊する内装と激突する木材、上機嫌に鼻歌を歌っているマリゴードの声によって無情にもかき消された。
その後もそんな感じ時の惨劇は続き、ある程度維持されていた内装が、建物そのものに匹敵しそうなほどの破損具合になってしまった。
『おい!全部運び終わったぞ!感謝しろよ!』
「あ、ああ・・・・・・ありがとな。」
震えた声であたりを見回した。
もうひどい有様だ。
だれでもいいから人間の手を借りたいが絶対にこのあたりには近づこうとしないので、結局一人と一匹でやるしかなかった。
「これじゃあ建物が補修できても今度は家具を修理することになりそうだな・・・・・・」
深い溜息を吐き、こんなじゃじゃ馬龍を扱ってきた歴代の担当者のことを改めて尊敬したバルディだった。
今回はかなりドタバタした回だったと思いますがいかがでしたでしょうか。
たぶんこんな感じでこれからも投稿していくと思います。
現代でのことのなかにふと、歴代の話が組み込まれていくかもしれない・・・・・
何はともあれそれではまた次回!!