episode1「始まりの日」
『まずは初代とここで最初に話した日の話でもするとしようか。』
~ストレチア帝国歴375年~
帝国の南西に「英知の塔」と呼ばれる巨大な塔がある。
高さは800メートルほど、幅は150メートルほどの円柱の巨体建造物だ。
そのふもとには何に使うかわからない長方形の建造物があり、塔とつながっていた。
外壁にはなにかの物語をモチーフにしたような壁画がびっしりと刻まれており、ところどことそれを覆うようにツタが外壁に沿って伸びていた。
その塔はいつ、誰の手で、なんのために、どうやって作られたのかわからない。
しかし今は金色の龍とひとりの女性がその塔の中で暮らすために使われていた。
塔の中、最下層の中央にある台に、黄金に輝く龍がいた。
手、足、首には真新しい黒色の鎖が繋がれおり、その鎖は地面、壁にそれぞれ厳重に固定された金具につながっていた。
そして龍は、満身創痍なのかいまは首を下げ、地面に顎をつけて眠っていた。
グゥゥゥゥゥ・・・・・グゥゥゥゥゥ・・・
龍のいびきが塔内で響き渡っていた。
そこに一つ扉の開く音と、軽い足音が近づいていた。
ギイイイィィィ・・・ガチャン・・・・・・・コツコツコツコツ
その音と近づいてくる気配に目を覚ました龍は、重たい首を持ち上げ、足元にいるひとりの女性を睨むような目で見た。
『ようやく来たか。カーニア。』
そう呼ばれた女性、カーニアはこの龍、マルゴードを捕らえた張本人であり、金色の長い髪、すらりとした頭身に、レースのついた赤いドレスを着ており、見る者を魅了する顔の持ち主だった。
「待たせてしまってすみません。少々後始末に時間がかかってしまいました。」
『そんなことはどうでもいい。私を殺しに来たのだろう?さっさとやれ。』
そういう龍は覚悟を決めたのか、目を閉じ、その時が来るのを待った。
しかしその時は一向に来ず、ただただ静寂な時間が流れただけだった。
そしてカーニアの穏やかな目は、突然睨むような目に変わった。
「誰がそんなことを言ったのですか?」
声を低くし、威圧するような気迫でカーニアは言った。
それを聞いた龍は目を大きく開き、カーニアを見つめた。
『なに?私を殺すために捕まえたのだろう?だいたい想像は・・・・。』
カーニアは龍の話を遮って強く否定するような声で言った。
「そうではありません。私があなたを捕らえたのはそのようなことをするためではありません!」
『では何だというのだ。貴様はこの国の王なのだろう!その王が災厄をもたらした現況の私を殺さないだと!?ふざけるな。』
龍は翼を広げ、右腕を振り上げてカーニアを押しつぶそうとした。
しかしそれはかなわなかった。
龍の腕は、その腕につけられている鎖の長さが足りず、カーニアの一メートル手前で止められてしまった。
いくら龍が力を、勢いをつけてもその鎖は壊れず、ただただ龍の体力が浪費されていくだけだった。
「無駄です。私を殺すことはできませんわ。今も、これからも。」
カーニアは恐れることなく龍に近づき、伸びている龍の指にそっと触れた。
『私が怖くないのか?今この瞬間にも殺すかもしれんぞ。』
「無理ですよ。それに私を殺してもその鎖は外れません。」
そういうとカーニアは元の位置に戻り、龍の顔を見上げた。
「そういえば質問に答えていませんでしたね。私の目的、それは・・・・・」
手をかざし、決して届かない龍の顔に触れようと、懸命に腕を伸ばしていた。
「私の目的はあなたと暮らすことです。ここでのどかに、ひっそりと暮らすこと、それが私の目的であり、願いでもあります。」
どうして。
どうして厄災をもたらした自分と。
怖くないのか。
本当の目的は。
龍はそのようなことを脳内で繰り返し考えていた。
いったいこのニンゲンは何だ。
我々龍は長きにわたりニンゲンと戦い、お互いの同胞を殺しあった宿敵だ。
私の母も数百年前にニンゲンに殺された。
特に何かしたわけではない。
一方的に殺されたのだ。
そこで私は学んだ。
ニンゲンは滅ぼすべき、ニンゲンとは決して手を取り合うことのないモノなのだと。
だからこの国も滅ぼそうとした。
だがいま、目の前にいるニンゲンはなんだ?
これまで見て、殺してきた憎きニンゲンとはなにかが違う。
龍である私を捕まえても殺さず、その上ここで一緒に暮らすといった。
こんなニンゲンは見たことがない。
本当のニンゲンとは何なのか。
われら龍にとって善か、悪か。
いや、悪に決まっている。
『龍である私と暮らそうというのか。』
「はい。あなたと暮らし、あなたと感情を分かち合う。私はそうしたいのです。」
龍は首を曲げて下ろし、カーニアの目の前に片目がいく態勢にすると、その青い大きな目でカーニアを見つめた。
それでもカーニアは動じなかった。
まっすぐと龍の目を見つめ、決して逸れすことはなかった。
しばらくして龍は上体を起こすと、翼を大きく広げた。
『勝手にするがいい。私は貴様を殺し、ここから出てニンゲンを殺す。何がなんでもな。』
「そうですか・・・・・。しかし、私は信じています。いつかあなたと時を共にし、信頼しあう家族になれると。」
そういうとカーニアは体の向きを変え、入ってきた扉に向かって歩いて行った。
『まて、どこに行く気だ。』
「荷物を中に入れてきます。ついでにこのドレスも変えてきますので一度失礼します。」
カーニアは木製の大きな扉を開け、外に出て行った。
『・・・・・・・まったく。やはりニンゲンとは自分勝手だな。』
そういうと龍は腹部を地面につけ、首と羽を下してもを閉じ、ぐっすりと寝てしまった。
~現代~
『・・・・・とこれが私と初代がここで暮らし始めた最初の日だ。懐かしいな。』
「それからどうしてお前はそんなに丸くなったんだ!?250年の間に何が起きた!?。」
まったく・・・・
と言いつつも、バルディはそのことを自前のメモ帳に書き込んだ。
その光景を、嬉しそうに書き込むバルディの顔を見た龍マリゴードは、どこか初代に似ているかもしれないと思ったのだった。
「さて、続きを頼む。」
書き終えたバルディは、そういった。
『ところで貴様は一体初代の何が知りたいんだ。』
「知っていること全部だ。」
『・・・・・・・・・・貴様は何を研究しておるのだ・・・・・』
「なにって・・・・歴代の龍との接し方、そこから推測するこれからの接し方。これが俺の研究だ。」
それを聞いたマリゴードは目を細め、
こいつはまた久々に変な奴が来たものだ。
と思った。
「ところでマリゴード。」
マリゴードにしたまで歩いてきたバルディは上を見上げる形でマリゴードの顔を見ていた。
『なんだ。』
「あれから250年がたって丸くなったが、いまは人間のこと、どう思ってるんだ?」
『どう・・・・・か。それは難しい質問だな。だが少なくとも、貴様らアマリス家の人間は信用してる。これまで見たニンゲンとはなにかが違う。今はそれが何なのかを考えて過ごしている。』
それを聞いたバルディは、ニィっと笑い、天井に空いた穴を指さした。
「信用してくれてありがとよ。ならここの修復手伝ってくれ。俺ひとりじゃ無理だ。」
『まったく。人が信用してるといったそばから手を借りるとは・・・・つくづく変わったやつだな。』
「うるせえ。あとお前『人』じゃないだろ。」
『そうだな。それで何をすればいいのだ。さっさと終わらせるぞ。』
こうして人と龍による建物の大修復が始まった。
さあ始まりました!
鎖縛金龍との語り人~厄災龍とのスローライフ~!
語り人側である「アマリス家の代々当主」と厄災龍の「マルゴード」
時代が交差しつつもそれぞれの当主との生活が描かれていきます。
ドタバタ回?シリアス回?バトル回?それとも・・・・・
とにかくこれから何が起こるかわからない日々の始まりです!
「クレマチス・オンライン」ともどもよろしくお願いいたします!
それではまた次回!!