落書き犯捕物帳
あいかわらずセリフだけですよ。
「ようやく外に出られましたが、壁だらけで出られた気もしませんね」
「まったくだ。しかし、どうして落書き犯を捕まえる手伝いなんて引き受けたんだい」
「そういう口実がある以上、どこかしらにタダで泊めてもらえるじゃないですか。野宿は嫌です」
「なるほど。でも、どうやって犯人を捜そうか」
「まずは教えてもらった現場に行ってみましょう。何か分かるかもしれません」
「これが例の落書きのようですね」
「落書きというにはしっかり描き込まれているな。犯人は芸術の素養がありそうだ」
「私もきれいな絵だと思いますが、ここの町の人は絵よりも壁が好きなんでしょうね」
「しかし、ここの人たちの能力がみんな壁づくりとはなあ」
「地面を叩いてどーんで壁ですもんね。私もびっくりしました」
「犯人はここの住人じゃない気がするな。みんな壁好きだし」
「そうですね。そうなると町を囲む扉のない大きな壁が問題になってきます」
「登れるような高さの壁じゃないしね」
「つまりこれは……密室殺人!」
「殺人じゃないけどね。密室というのも大げさだね」
「しかし外から町には入れないのです。翼でも生えていない限り」
「そんな人がいるかなあ」
「ちなみに私は地底人ですが」
「大いにあり得る気がしてきた」
「しかも大きな羽根が落ちています。塗料がべったり付いているので、絵を描くのに使ったと思われます」
「間違いないね」
「この町の近くに翼の生えた空を飛べる人が住んでいないか、確認してみましょう」
「ああ、有翼人か。彼らは世界を飛び回って暮らしているからね、この辺りに来ているのかもしれない」
「その有翼人という人たちは絵を描くのが好きなんですか?」
「有翼人の事はよく分からないんだ。この町だけじゃなく、どの町の人も外には出ないからね」
「それはなぜでしょう」
「モンスターが出るし、罪人を追放したりしているからね。つまり外は無法地帯って事さ」
「なるほど、それで僕らが疑われた訳か」
「聞きたい事はそれだけかい?」
「いえ、もう一つだけ。有翼人を呼び寄せられるものを知りませんか」
「そんな訳で寝ずの番です。今夜は月がきれいですね」
「まったくだ。しかし、眠くなってきたよ」
「歌でも歌いましょうか」
「名案だね」
「ねーんねーころーりーよー、おころーりーよー♪」
「歌のチョイスを間違えているね」
「そういえばそうでした」
「しかし、あんなもので本当に有翼人が釣れるのかなあ」
「仕方ないじゃないですか。私たちにはお金がないんですから」
「望み薄だけど、もう少し待ってみよう」
「旅人さん、来ました」
「むにゃむにゃ……もう食べられない」
「えいっ」
「はっ! なんだ、まだ夜じゃないか」
「二度寝しようとしないでください。有翼人が現れました」
「ほんとに? ほんとだ。見事に釣れているね」
「絵具セットも持っています。犯人で間違いありません」
「よし、さっそくひっ捕らえよう」
「それーっ!」
「うわっ! 何だお前らは!」
「暴れるな、いや暴れないでください。この町の壁に落書きしていたのはあなたですね?」
「そんな事よりその宝石をくれ! その桶の中にあるやつだ!」
「ふふふ。騙されましたね。これは宝石ではありません、水に映った月です」
「な、何だと……!」
「光り物に目がないと聞いてたけど、まさか本当に釣れるとはなあ」
「そんな事より有翼人さん、どうして落書きなんかしたんですか?」
「落書きじゃねえっ! アートだ! 美しい絵を描くには相応のキャンバスが必要だ。この町の壁はきれいだろう? 俺が絵を描くに相応しいと思ったんだ!」
「そういう事だったのか。確かにきれいな絵だけど、勝手に描くのはよくない。今から町長さんのところへ行って事情を話そう。いいね?」
「なるほど、そういう事か。つまり有翼人のカノくんが犯人だった訳だね」
「そういう事です」
「ですです」
「勝手に絵を描いたのは確かに頂けないが、うちの壁をきれいだと思ってくれた訳だ。壁好きに悪い人はいないからね」
「……別に壁が好きって訳じゃねえが」
「しっ。今はそういう事にしとこう」
「そんな訳でこうしよう。町の中の壁に描いてもらっちゃ困るが、町の外側の壁なら自由に描いてもらってもいい。あそこなら誰も見ないからね。どうだい、カノくん」
「えっ! いいのか、あんなでかい立派な壁に!」
「立派な壁とは嬉しいね! わっはっは!」
「これにて一件落着かな?」
「そうみたいですね」
楽しんで頂けたなら幸いです。