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生産系の加護なのに冒険者なんてやってられるか!  作者: シャリ・ギン
第一章 ニートになるのは少しの間だけだ。いや、マジで。
8/12

番外編 始まりの一コマ。

 ソリッシュが冒険者になるきっかけのお話です。

 現在とキャラが違うのは仕様です。

 わた……俺、ソリッシュ・クラウゼビッツは今日、生まれて初めて冒険者ギルドなる施設へ足を運ぶ。というのも、教会を頼ってきた御仁がとある病に掛かっている事が発覚、治療にキュトェラックェ草なる薬草が必要であるらしいが、その薬草が群生しているのは魔物の生息域、保存には適さない植物らしく、必要な際に必要な分だけ冒険者に依頼するのが普通で、わた……俺はその使いに駆り出された訳だ。幸いにもわた……俺のような非戦闘員には脅威でも冒険者にとっては何でもない弱小魔物ばかりの林らしいので、そこまで費用は掛からないだろうというのが神父様のお考えだった。

 

「……ここが」


 冒険者ギルド、噂に聞いてた通り、あんまりお行儀の良さそうな人は見当たらない。

 ギルド内では飲食もできるようになっているみたいで、酒を片手に騒ぐ大男が相当な数いてとても騒がしい空間だ、教会での騒がしさとはまた違う、あんまり長く居たくない空気だ、多分私……じゃないや、俺には合わない空気だ。

 やっぱり護身用に剣を一振り生成しといてよかった、魔力はスッカラカンだけど戦う術があるだけで気分が全然違う。

 まあ背丈に合わせたからあんな人達から見たらこんな短剣腰に差した奴怖くもなんともないんだろうけどさ。


「えっと……受け付けは」


 あっちが飲食スペースだから、あっちのカウンターがそうだろうか?

 まあ例え違ってもちゃんと列に並んで自分の番を待ってから聞けば邪見にはされないだろう。


「ねぇ、そこの黒髪の君」

「ん?」


 振り向くとそこには三人の女の子がいた。

 声を出したであろう子は此方に向かって手招きしていて、呼ばれていたのはやっぱり私……俺だったのだと分かるが、他の二人はよくわからない、片方の女の子は何やら俺を凝視しているが何を考えているのかわからない無表情だがもう片方は何やら品定めするようなまなざしを向けてきている、シスター・ロロに睨まれた八百屋の野菜になった気分だ。


「私に何か用?」


 あ、私って言っちゃったよ。

 神父様の真似をして今まで『私』って言ってたけど、ナッキに男らしくないって言われちゃったし直したいんだけどついつい私って言ってしまう。

 言葉を喋れるようになってからずっと『私』だった訳だし仕方ないのかもしれないけれど。

 ……まあ、いいや。人前で一人称コロコロ変えるのもおかしいかもだけど、別に今後もお付き合いのある相手という訳ではないのだし。


「私はタリサ、君も冒険者になりに来た口でしょ!」

「え? いや、違うよ?」

「またまたぁ~その腰に差した剣が良い証拠じゃない、実は私達も今登録したばかりなの」

「いやこれはそういうのじゃなく……」

「ちょっと向こうで話さない? ちょっと相談したいことがあるの」


 あ、この子人の話聞かない系だ。

 たまにシスター・ロロも全然話を聞かないで永遠話し続ける馬の耳モードになるからこういう時は何を言っても無駄だから取り合えず流されるしかないことはわかる。

 というわけで、飲食スペースの丸テーブルに四人揃って腰かけるが、無表情な女の子は未だ凝視することをやめない。金髪の子はさっさと目を逸らしたのに……無言で見続けられるって結構いやだな。


「じゃあ改めて自己紹介、私はタリサ・ヴェンデッタよ、君と同じく戦士志望」

「えと、ソリッシュ・クラウゼビッツ。まあ……よろしく」

「こっちはエヴァ・レミオン。魔法使いだけど全く喋らないくて。私も声を聞いた事がないの」

「…………」


 一体どうやって名前を知ったというのか。


「そして彼女が……」

「レーラ・アリエル・ルルベール。よろしくお願いいたしますわ」

「レーラさんは剣術も魔法もどっちも出来るんだって、凄いよね」

「へぇ……」


 というかその人って……もしかしなくても貴族だよね。

 立ち振る舞いがまんまそんな感じ、キレーな金髪、手入れを怠らないと髪ってこんなに違うのか。貴族様見たいにお金を掛けた手入れは無理だけど、ちょっと気を使ってみようかな、俺なんか何時もボサボサだから男でもちょっと羨ましいよ。


「それで……タリサ・ヴェンデッタさんは私に何の用?」

「いやいや硬過ぎ、タリサでいいから」

「……タリサちゃんは俺に何の用?」

「単刀直入に、パーティを組みましょう!」

「えぇ!?」


 何で急にそんな話に!? いや、私が冒険者としての常識を知らないだけでここじゃこれが普通なの?


「ど、どうして……?」

「何でって、パーティは四人って決まってるでしょう?」

「え、そうなの?」

「当たり前でしょ!」


 知らなかった、じゃあ五人でも三人でもパーティじゃないのかな、前に五人組の冒険者が町の外へ出るのを見たけどあれはパーティを組んでいた訳ではないってこと?


「……タリサのいう四人、というのは『勇者セラと三人の英雄』というお話に出てくる勇者パーティのメンバー数です」

「えと、じゃあ冒険者が四人組でなければいけないとか……」

「そんな無意味な規定は存在しませんわ」

「えっと……わた……俺実はそれなりに急いでるんだけど」


 そんな人数合わせに巻き込まれてはたまらないと席を立つと、タリサちゃんが俺の手を掴む。


「まあまあ、話だけでも聞いてってよ」

「話を聞いた上で去ろうとしていますが何か」

「まあまあ、話だけでも聞いてってよ」


 うん、駄目だこりゃ。

 命に係わる病ではないという話だったし、教会を頼ってもらって申し訳ないけれど、あの人にはもう少し待って貰おう、見た感じ結構せっかちそうだしそんなに時間もかからないだろう。


「……聞くだけだよ」

「うんうん聞くだけ聞くだけ!」


 ……なんだろう、この重要な選択を誤ったような悪寒は。

 具体的に言うと、向こう四年位私は何も成せないまま無意味に無価値を積み重ねる気がする。

 あの時走り去っておけばと後悔する気がする。

 でももう逃げられない!


「実は私達、これから依頼を熟しに森へ行くの」

「へぇ」

「ソリッシュ君も一緒に行くでしょ?」

「何で!?」

「だってまだパーティメンバー決まってないでしょ? 素人が一人で森へ入るのは危ないし、今日冒険者として登録したのは私達だけ、つまり私達と行くしかないっていう神の思し召しでしょ!」

「主はお忙しいからそんなこと思ってもいないと思うけど……」


 敬虔なる信徒でも何万人いるかも分からないのにこんな信仰もどきしか持ち合わせない女の子のこんなくだらない声を聞き届ける程、主はお暇じゃなかろうよ。


「取り合えず今日のところは採取依頼にしておいたわ! 本当は討伐依頼を受けたかったんだけど二人から反対されて……」

「当然です、まずは森に慣れなければ」

「…………」

「もー二人とも、何度も言われなくてもわかってるって」


 ……え?

 今エヴァさん何も言ってないよね? 俺が聞き逃したとかじゃなく終始無言だよね?


「そんな訳だから今日はキュト……なんとか草を採取しに行きます」

「キュトェラックェ草、ですわ」

「そうそれ!」

「キュトェラックェ草!」


 どんなミラクル!? 俺、気づかない内に依頼出してた!? ……いや、そんな訳ないってわかってるよ?

 でもそっか、弱い魔物しか出ないところに群生している薬草だから初心者冒険者が受けるような依頼だったんだ。


「どうしたの?」

「え、いや俺もキュトェラックェ草が必要でさ」

「おぉ! これはもう決まりだね! 早くソリッシュの冒険者登録を済ませて出発しよう!」

「え、いや。だから私はその依頼を出しに来た訳で……」

「何を言ってるのさ男の子! 依頼された量より多めに採取して持って帰ればお金が掛からないどころかむしろお金が入ってくるんだよ? 行かないなんて選択肢はどこにもないでしょ!」


 なにその理屈怖い、その理屈でみんなが行動したら採取依頼なんて根絶されちゃうんだけど。


「ていうか俺の加護は生産系なんですけど!」

「大丈夫大丈夫! バリバリの戦闘系加護を持つ私がフォローするって!」

「……なんでもいいから早くしてくださいません? ソリッシュさんも、この人に捕まったらもう諦めるしかありませんよ」

「マジでー……」


 本当、なんなの。蟻地獄が親戚にいそうですね。


「お願いソリッシュ! 私達を助けると思って!」

「えー……そう言われちゃうと弱いんだけど……」


 神父様を目標とする身としては、助けを求められて自分に出来る事があるならやらなきゃと思ってしまう、これって絶対損をする生き方だけど、そうやって生きてる人が近くにいるなら自分もって思ってしまうから厄介だ。

 ……うーん。


「今回だけだからね」

「やった! じゃあ気が変わらない内に受付のお姉さんのところへゴー!」

「ほんとに今回だけだよ!? 聞いてる!?」



 そしてこの時だけで済まされないのはご存知の通りであり、俺は四年もの間冒険者を続ける羽目になる。ついでに補足しておくと、今回のキュトェラックェ草採取も普通には終わってくれず、極小のエンカウント率である筈の魔物に遭遇し、フォローすると言ったタリサはむしろ俺にフォローされる羽目になる醜態を曝したとか、なんとか依頼を達成してキュトェラックェ草も持って教会へ帰った俺だったが冒険者になったと神父様に報告したらしこたま怒られたりとさんざんな目にあった。

 その辺の事は正直、出会い頭以上に思い出したくもないのだが、もしも機会があればその時にでも。



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