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生産系の加護なのに冒険者なんてやってられるか!  作者: シャリ・ギン
第一章 ニートになるのは少しの間だけだ。いや、マジで。
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003

「うわ、もう真っ暗だな」


 商人ギルドでの登録は、時間と手間だけは一丁前だったが結構容易く終了した。

 冒険者ギルドに置いては簡略化に簡略化を重ね、カードに名前を記帳するだけだったが商人ギルドに置いてはある程度の知識がある事前提で、幾つかの書類への署名と事細かなルール説明、冒険者になる前に神父様が色々教えてくれたからある程度の学力が身についててくれて助かった、ただ計算は得意だし問題ないだろうと思っていたのは甘い考えだったと言っておく。

 一番最初の説明でギリギリ理解出来る程度じゃ先が不安過ぎる、何をするにも事前準備は必須だしまた神父様に習おうか、けど神父様も専門外の事は余り詳しくないと仰られていたし、大きい商会へ偵察に行くのも手かもしれない、それなりの恰好をしていれば客に紛れる事もできるだろう。

 閑話休題。

 話は変わるがこの町でこんなに暗くなってから出歩くのは余りない経験だ、日帰りでッ達成可能な依頼なら日が落ちる前に戻ってくるのが当たり前で仕事帰りに飲みに行くような金も無かったし、直帰で宿舎でおやっさんの作る晩飯を食い、洗濯なり武器の手入れなりを済ませて眠るのが何時もの日課だった。

 んで、特にエヴァだがタリサもほっとくと洗濯物を溜め込んで大変なことになるから、三日置き位に部屋へ押しかけて洗濯物を回収し、ついでに部屋の掃除までしてやっていたっけか。

 ……本当、今になって考えると何でそこまでしてやってたのか。初めて怒られた時には思わず「えぇー……」と余りの理不尽さが言葉にならない呻き声として漏らしたものだ。

 いや、まあ二人が部屋を散らかしっぱなしにしていると何故か俺がおやっさんい怒られるからっていうのもあるんだろうがそれにしたって中々に理不尽な話だ、タリサは殆ど戦力外であるにせよ手伝う素振りを見せたりもしたがエヴァなんてベッドの上から降りようともしなかったからな。

 掃除や洗濯に加護は無関係だというのに何故あそこまで出来ないし、やらないのか。

 それとも他の冒険者も皆あんな感じで俺が変なのだろうか? いやいや流石にそれは無いだろう、もしそうなら他の冒険者もおやっさんにしこたま怒られてないとおかしい、けどそんな姿を見た事は一度も無い。

 じゃあやっぱりおかしいのはあの二人だ、俺無き後は自分達が散々怒られるが良いわ。


 魔法の恩恵か、夜でも町は明るいな。

 夜になると自動で灯る街灯は魔法使いじゃない俺には一体どういう理屈で光るのか全く理解できない、直視すると眩し過ぎる位の明かりは街道に沿って夜道を照らしている。

 まあそれも表通りだけで、教会の方へ行けば月明りを頼りにするしかないのだが。

 暗い所から明るい方を見詰めると何となく寂しい気分になるのは何でだろうな、もしかしたら歩けば簡単に行ける場所に有る筈なのに別世界の景色を見ているような気になるからかもしれない。


「ソリッシュ」

「あん?」


 振り向くとそこにはタリサが居た。

 しかも仕事帰りなのか完全武装で。何事だよ、暗がりで武装した人間に会うって滅茶苦茶抵抗あるんだが、自分が武装していないと特に。

 まあ例え武装していたとしても相手がタリサなら瞬殺される訳だが。


「何だよ? こんな所で」


 明らかに俺を待ち伏せしてたよな、これって。

 俺が何時も教会へ帰る時に使う道の路地から俺が通り過ぎた後に出てきて声を掛けて来たら流石に偶然じゃ片づけられないだろう、てか無理がある。


「何って、分かるでしょ」

「あー……? 闇討ち?」

「そんな訳ないでしょうが!」

「いやその恰好で言われてもな……」


 バリバリの戦闘態勢じゃないですか。

 闇討ちらしからぬのはわざわざ声を掛けた事位じゃねぇ? それにしたってせめてもの情けに遺言位は聞いてやろう的な展開でも驚かないぞ俺は。その位の実力差が有ること位は自覚してる。


「説得に来たのよ」

「はぁ?」

「ねえソリッシュ、もう頭も冷えたでしょ? パーティに戻ろう?」

「え、普通に嫌だけど」


 確かに頭は冷えてるが、最初から冷えてるわ。最後はヒートアップしたけれどもな。てかまだ抜けてから一日経ったか経ってないか位だぞ。こんなに早く連れ戻しに来られちゃノスタルジックな気分にもならないわ。


「今日は居ないけど、レーナもエヴァもソリッシュが戻って来るのを待ってるのよ?」

「……今日はってまさか明日も来る気か」

「当たり前でしょ、ソリッシュが戻って来るって言うまで毎日待ち伏せてやるんだから」

「……完全武装で?」

「完全武装で」

「勘弁しろよ……てか諦めてくれ、俺に戻る気なんてねぇから」

「とか何とか言って、押し続けたらなんやかんや戻ってきてくれる気がするの」

「言っておくが今回は本気で言うこと聞いてやらんからな」


 というか何で俺に固執するのかね、おやっさんが言ってたみたくタリサに俺へ対する恋愛感情があるとか? なんてな、超ウケるんだがこの妄想。


「……どうしても?」

「あぁ」

「私がこんなに頼んでるのに?」

「あぁ」

「明日も来るわよ?」

「来るな」


 ……本当、おやっさんもサーシャも神父様も、何を見て勘違いしたのだろう、実際の関係はこんなもので、関係はとっくの昔に袋小路に行き着いた、どこで道を間違えたのかは知らないが、戻る事は出来るがこれ以上は進めない。


「これからどうするかも決めてないんでしょ? 冒険者を辞めて、これからどうするっていうの?」

「今、商人ギルドに登録してきた」

「しょう、にん?」


 まさか次の日には方向性が定まっているとは思わなかったのだろう、暗くて良く見えないが、タリサが唖然としているのは声色から何となく分かった。


「ソリッシュ……商人になるの……? じゃあ、冒険者は……?」

「昨日辞めただろうが、ギルドに行ったなら知ってんだろ?」

「嘘、噓でしょ? だってソリッシュは……」

「俺はもう、冒険者じゃない」

「っ」

「昨日も言ったが、俺は元々冒険者になる気なんてなかった。間違ってたのはこれまでの四年間だ、決して今の俺じゃない」

「そんな、そんなの……!」

「……もういいか。当分は忙しいが落ち着いたら飯でも誘うよ。話はまたそん時で良いだろ」


 話は終わりだ、俺は再度歩き出した。


「ソリッシュ! ソリッシュは商人じゃない……冒険者だよ!」


 タリサ、お前は結局俺を見ないんだな。

 まあ、別にいいけどな。

 人間関係って案外そんなもんだろ、自分の思う相手を気付かない内に相手へ強要してる。

 もしかしたら神父様に俺が抱いている印象すらも俺が勝手に思っているだけで、本当は違うのかもしれない、今日だって十何年一緒にいて初めて奥さんがいた事を知った位なんだ、高々四年一緒に居た位でそいつの事を全部知った気になるのは傲慢ってもんだ。

 んで、無自覚にそんな傲慢かましてるのがタリサって事だろ? もしかしたら俺も誰かにやってるかもしれない事を攻める気にはなれないな、容認できても許容する事は出来ないが。許容すると俺は冒険者に逆戻りだ。


 些か下向きになった気持ちは、教会に戻ってすぐ駆け寄ってくるガキ共のお陰ですぐ緩和された。

 やっぱ月一位でここに返って来ないと気持ちが荒む。あんな森の中で爆発したのも何だかんだここに来られなかったからだろう、でなければもう少し、それこそタリサが言うような思慮深い別れ方が出来たかもしれない。結局言い争いにはなっただろうけど。

 食卓に並ぶのは、先程俺が持ってきたおやっさんの料理そのままだ、決して裕福ではない教会でのおやっさんの料理はごちそうだ、味もそうだが、やはり腹いっぱい食えるというのがでかい、作って貰い過ぎたかという位の量でも一食で簡単に子供の胃袋に消える。

 しかし、裕福じゃないと言っても毎日三食は食えているのだ、それだけでこの町の孤児は恵まれている、別の街へ行けばそれは一目瞭然だった、ガキがグループを作って大人と渡り合ってるところもあったが、そいつらにしたって一日たりとて教会の周りで遊んでなんて居られない奴等だ。

 そして、そんな奴等に何も出来ない事すら、冒険者という職業は嫌という程教えてくれた訳だが。


「主とソリッシュに恵みへの感謝を」

「「「感謝を!」」」


 祈りの言葉を口にした後すぐにガキ共は飯に食らいついた。

 最早飲む勢いだ、よく噛んで食べてたら隣人に食い尽くされるのではと危惧させられるような食いっぷりである、まあ昔は自分もこれの仲間だったと思うと時が流れても変わらない光景を微笑ましく思えてしまうのだが。


「ソリッシュ、お帰りなさい」

「シスター・ロロ、さっきは挨拶出来なくて悪かったな」

「全くですー、買い出しから戻ってみればソリッシュが帰って来て、もう帰ったと子供達に聞いて私がどんな気持ちになったかぁ……」

「いや、それはシスター・ロロがガキ共に謀られただけじゃ……」

「私の帰りを待って、ハグの一つでもしてから出かければ何の問題もないじゃないですかぁ」

「あー……はいはい、次からな」

「そういってソリッシュは自分から来た事はないじゃないのぉ。主は嘘吐きソリッシュにお怒りですよぉ?」

「主の心狭すぎだろ」


 シスター・ロロは若いシスターだ。

 確か俺と五つ位しか違わない筈だ、昔は小っちゃいシスターさんなんて呼ばれてた彼女は今や聖母のような体付きをした妙齢のご婦人だ、出会い頭に抱き着くなんて昔ならいざ知らず、今なら普通に憚られる行いだろう、向こうからはガンガン来る訳だが。

 ……因みに、俺がシスター・ロロに歯向かう事は社会的な死を意味している。幼少期、常にと言っても過言じゃない程に俺は彼女と一緒にいた、彼女は俺の所業を何から何まで知っているし、今でこそされる側である愛の告白(笑)を、昔俺は彼女にやっていた訳だ。ついうっかり昔話なんてされたら俺はこの町を出る事だろう。


「そういえばソリッシュ、冒険者辞めたんだって?」

「あぁ、今日商人ギルドに入って来た」

「そっか、そっかぁ。じゃあソリッシュは今日からお店屋さんなのねぇ」

「いやいやまだ登録しただけだから、何も商売してないから」

「じゃあ明日から、ですねぇ。何から始めるつもりなんですか?」

「取りあえず露店かなぁ、とは」


 駆け出し職人に混じって地べたに商品並べてみるさ、宿舎を出るまでやってみて結果によって今後どうするか決めると思う。

 露店を出すと言っても、好き勝手に場所を決めれる訳ではない。その日露店を出せる場所は朝早くに商人ギルドへ行って登録しなきゃならないのだ、これはやる気のある人間に等しくチャンスを与える為の取り決めで、良い場所を勝ち取りたいなら早起きは必須だし、最悪場所が空いてなくてその日は商売できないなんてこともあり得る。

 つまり明日は早起きしなきゃならない訳だが……前に朝が早い仕事をする時に偶々商人ギルドの横を通ったらもう既に列が出来始めてたっけか……日の出前には並ばなきゃ駄目か、駆け出しは何処も大変だな。


「あぁ、ソリッシュ。そのことだが」

「はい」


 神父様が俺とシスター・ロロの会話を遮るのは珍しいな、これをするとシスター・ロロが『今私が話してたんですぅ』と頬を膨らませて睨み付けられるから彼女の会話には割り込まないのが大人組の中での暗黙の掟だったんだが。


「明日、ソリッシュのお店を見に行くから朝は教会に居てくれ」

「はい?」


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