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生産系の加護なのに冒険者なんてやってられるか!  作者: シャリ・ギン
第一章 ニートになるのは少しの間だけだ。いや、マジで。
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002

 飯の前に、俺は神父様と二人で話をした。

 まずは冒険者を辞めた事、前々から危険な仕事は辞めるように言われていた事もあって、神父様はまずその事を喜んで下さった、一時的にだが収入が無くなる事を話せば教会に戻って来て良いと言ってくれて、何なら私の後を継ぐか? なんて言って笑う神父様は本当に昔のままで、我慢していたものを吐き出すように辞めた理由も話した。


「おや? 私はてっきりその中に意中の女の子がいるものと思っていたよ」

「神父様までそう思ってたんですか!?」


 おやっさん、サーシャだけじゃなくて神父様にまでそう思われていたとか流石に笑えんぞ。


「強くなれないソリッシュがそれでも冒険者を続けるのはてっきり好きな子に格好つける為かと。ほら、よく話に出て来たレーナさん、とかね」

「しかもよりにもよってレーナですか!? あいつとはそれこそ喧嘩しかしてなかったんですが!?」


 主に金銭方面でな。

 奴は自分の稼いだ金なんだから俺にとやかく言われたくないとかほざきやがるから結構頻繁に言い争っていた。じゃあ俺を頼るなと言えばそれはそれとか都合良すぎだろ。


「そうなんだろうね、けどソリッシュの口から一番出て来た名前だったから」


 それによく言うだろう、喧嘩するほど仲が良いって。なんて続ける神父様に俺は頭を抱える、意識してなかったけど神父様に漏らす愚痴はレーナの事が多かったのか。

 まあ一番ストレスになってたってことなんだろうが……。やっぱり金が貯まらねぇっていうのが働いてて一番キツイしな。

 取り合えず、神父様にまで誤解されてるのは勘弁願いたかったこともあって、それから暫く弁明の言葉を重ねてみたが今一伝わっている気がしない、笑顔で話を聞いてくれているが、なんだろう、神に懺悔でもしている気分になってくる。


「それで、これからどうするつもりなんだい?」

「まあ今度こそ加護を活かせる仕事に就きますよ。具体的なところはまだ何も決めてないですけど」

「ソリッシュがやりたいことをやりなさい、住むところと食べる物は私が何とかする」

「いや流石にそれは…………」

「気にしなくていい、私達は家族なんだから」


 神父様には俺以外にも山ほど子供がいるだろうに、俺としては嬉しいがそんなに一人一人に気を使っていたら破綻してしまうだろう、まあこういう人に育てられたからそんな迷惑は掛けられないと思える人間に成長出来たんだろうけれど。


「ソリッシュは何か物を作る加護だったか」

「はい、物であれば大体は生成できますね」


 物でなくても作れなくはないが、それが物でなく生物、例えば木材とかの場合は『成分、性質上において同一の物』が出来上がる。


「じゃあ何処かの工房に弟子入りでもしてみるかい? 知り合いに何人かそっち方面の人が居るから紹介しようか」

「うーん……」

「ピンと来ないかい?」

「あー、いや、そんなことはないんですけどね」


 俺の加護はその性質上、他の生産系の加護と違って自分の腕を磨けば能力が向上する訳じゃないんだよな、加護を用いて多くのモノを〈生成ジェネレート〉する事で作れるものの幅を広げ、魔力の限界値を向上させる。自分の手で物を作ることが前提である他の生産系の加護持ちに混じって修行しても正直言って冒険者の二の舞なんだよな。

 朝から晩まで親方に怒られながらその技術を盗み、ゆくゆくは自分の工房を持ちたいなんて夢見ながら日々を生きるのも、決して悪くないとは思う、けれど冒険者としての四年が俺にストップを掛ける。

 この世界で自分の加護に合わない事をしても幸せは訪れない、それこそ神に背く行為だと。


「まあじゃあそれは保留としよう」

「すみません」

「謝る事無いさ、ソリッシュの人生だ。ソリッシュが嫌ならそれは不正解なんだから」


 しかし、俺のやりたい事ってなんだろう?

 神父様に恩を返したい? ガキ共のことも嫌いじゃないし本当に神父様の後を継ぐか? けどそれっぽい人はもうシスター・ロロがいる、この小さい教会にそう何人も聖職者が必要か? 噂に聞く聖人じゃあるまいし聖職者は霞を食って生きていける訳じゃない、それなら何らかの形で金を稼いで寄付という形で教会を支援した方がよっぽど助けにならないか?

 それこそ、冒険者の時見たく。

 頭をガシガシと搔きむしる、冒険者になんてなりたくなかったと言って冒険者を辞めたのに冒険者であった方がよかったなんて滑稽すぎる、それは流石に――――俺が俺を許さなくなる。

 嫌な人間関係なんてどこにでもあるんだ、それを理由に投げ出して、その反動に負けて落ちていくなんて、許容しない。

 冒険者を辞めて良かったと、自分で思えなくては。

 アイツは冒険者を辞めて正解だったと、周囲に思わせなければ。


「実は私は生産系の加護の子がどういった職業に就くのかあんまり詳しくなくてね、私自身が信仰系の加護を一身に受け、聖職者としての道しか歩んで来なかったから」

「うーん、俺もあんまり……加護の内容によっては補給兵として軍に所属する者もいるらしいですが」

「でもソリッシュは兵士になりたい訳じゃないよね?」

「わかりますか」

「分かる分からない以前に、私がなって欲しくないから言ってみた。合ってて良かったよ」

「ははは」


 冒険者でも危ないから辞めなさいと仰る方だ、これで兵士になって戦場へ行くなんて言い出したら卒倒するか大激怒するかのどちらかだろう、後者の方はそんな姿を見たことがないから見てみたい気もするけれど。


「後は……家庭に入る? 生産系の加護を持ってる嫁を捕まえられたら勝ち組とかなんとかどっかで聞いた気が……」

「相手はレーナさんかい?」

「いやだからそれはあり得ないですって」

「そうかい?」

「そうですよ」

「私としては早く孫の顔が見たいんだけどね?」

「すみません、当分予定は無いです」


 というかもし本当にレーナと契った場合、神父様に子供を見せる事は叶わないんじゃなかろうか。

 俺にとってはホームグラウンドなこの辺は街の中心部から見ればあんまり治安がよろしくない、レーナとの子供は必然的に貴族となる、そして俺はこれでもかって位に立場の弱い婿養子という立ち位置にいることだろう。

 ……心底御免だと思う未来と、神父様の望まぬ結果しか思い浮かばない。


「まあソリッシュにはうちにお嫁さんが沢山いるもんな」

「あぁー……いますね」


 ちっこい奴等がな。


「なら孫は後一〇年は我慢かな」

「はは、その前に俺と同年代の奴がこさえるんじゃないですか?」

「かもしれないね、ロロと一番はソリッシュじゃないかと話してたから予想が外れそうで残念だよ」

「そういう神父様はご結婚なさらないんですか?」

「私かい? 私は死んだ妻一筋だからね。今後そういう予定はないだろうね」

「え、神父様ご結婚なさってたんですか!?」

「言ってなかったかい?」

「初耳ですよ」


 ここに来て新事実が発覚してしまった、神父様の事なら大体知ってると思っていたけれど、既に結婚していて、しかも先立たれていたなんて知りもしなかった。


「まあ妻には先立たれたが、子供にはこんなに沢山恵まれた。それで私の人生は十分過ぎる程華やいでいるよ」

「子供にはちょっと恵まれすぎでは?」

「後は孫の顔が見られれば言うこと無いんだけどなー」


 わざとらしく顔をそらし、チラチラを此方を見てくる神父様。

 すみませんが本当に結婚のけの字もありません、てかまだ子供の顔を見足りませんか。

 というか盛大に話が逸れている、俺は家庭には入らんぞ。さっきはフワッと思い出したから口に出しただけで俺が家庭に入りたい訳じゃないからな、断固として俺は働くぞ。

 しかし、仕事ね、仕事、仕事……なんかないだろうか。今迄それこそ魔物を追いかけ、薬草を採取して日々食いつないで来た訳で急に別の仕事と言っても思い浮かばない。

 後はそうだな、商人の護衛とかか? 隣町まで荷物を護送するとかは四年間で結構やった気がするな。

 商人……商人ね。


「あぁそういえば」

「どうした?」

「あ、いえね、そういえば祭りの時に出店をやったのは楽しかったなぁって思いまして」

「ふむ?」

「おやっさんと共同で砂糖や塩、屋台とかは俺が生成して料理はおやっさん、当日は俺とサーシャが売り子をやって、結構いい場所を取れた事もあって休む間もない位忙しかったですけど、それと同時にやりがいみたいなものを感じましたね。確か神父様も来てくださいましたよね?」

「あぁ、あれは美味しかったね」


 途中から、作る側も手が足りなくなって切るとか皮むきも俺の仕事になったんだよな、おやっさんあんな図体して野菜のサイズが疎らだとめっちゃ怒って何度やり直しさせられたことか。

 すげー速さで切るのを求められるのに銀杏切りがなってないって怒られるのは理不尽に感じたものだ、素人に無茶言うなって。

 えらい儲かったように思うけど、本来掛かる費用が俺のスキルで半分位になってたっていうのもあるんだろうな、祭りだからってことで赤字にならなきゃいいや程度の値段設定でやったし。


「そうか、ソリッシュはお店屋さんになりたいんだね」

「あーそうかもしれないですね、どうにも接客業っていうのが嫌いじゃないみたいです」


 俺は生産系の加護を得て生まれたけれど、職人じゃなくて商人になりたいみたいだ。

 元々、修行して研鑽を積むには向かない加護だ、それなら売る側に回った方が良いんじゃなかろうか、職人だって自分の作ったものを露店でちょこちょこ売ったりする奴もいる訳だし、俺の加護はそれを本格化させられる類のものだ。


「分かった、じゃあやってみなさい。私も力を貸してあげよう」

「そうですね……」


 スキルを使う前提なら今の少ない貯蓄でも露店位は開けるか? 

 商人ギルドに所属して、商売税払って……ギリギリいけるかもしれない。

 ただ失敗すると本当に詰むな、博打に近いかも。避けたい結末ではあるが幸いにも神父様は教会に戻って来て良いと言って下さっている、もし無一文になってもスラム落ちまで行くことは無い、か。


「分かりました、やってみます」

「よし、じゃあ早速商人ギルドへ行ってくると良い」

「へ? 今からですか? もうすぐ飯の時間ですけど」

「善は急げだ、私も少し行くところが出来た」

「わ、分かりました」


 今日はもうガキ共と遊んで過ごそうかとも思っていたけど、まあそうだよな、今後の事を考えれば行動は早い方がいいよな、登録だけでもしておくか。



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