少女と季節の女王たち
あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王様がおりました。
女王様たちは決められた期間、交替で塔に住むことになっています。
そうすることで、その国にその女王様の季節が訪れるのです。
ところがある時、いつまで経っても冬が終わらなくなりました。
冬の女王様が塔に入ったままなのです。
辺り一面雪に覆われ、このままではいずれ食べる物も尽きてしまいます。
王様は、冬の女王を季節の塔から連れ出すように兵士たちに言いつけました。
兵士たちは塔へと向かいましたが、塔の近くは酷い吹雪です。
遠くまで見渡せないほど、辺りは白一色に包まれていました。
そのせいで塔もはっきりとは見えません。
何とか塔の天辺は見えますが、下の方は全く見えなくなっていました。
兵士たちは塔を目指して、まっすぐ進みます。
しばらく進むと、いつの間に目の前に塔が見えなくなっていました。
兵士の一人が後ろを振り返ると、なんと後ろに塔があるではありませんか。
兵士たちは慌てて、引き返します。
しかし、またいつの間にか塔は消えて後ろに見えるようになっているのでした。
何回繰り返しても、塔に辿り着けません。
兵士たちは仕方なく、お城へと帰っていきました。
その後も、王様の家来たちが季節の塔に向かいましたが、誰も塔まで辿り着くことができません。
塔へ行くことを諦めた王様は、春の女王を探しました。
しかし、春の女王は見つかりません。
困った王様はお触れを出しました。
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冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
季節を廻らせることを妨げてはならない。
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これを知った人たちは、季節の塔へ行こうとしたり、春の女王を探したりしましたがなかなかうまくいきません。
女王の交替に挑戦してもすぐに皆諦めてしまいました。
王様の住んでいるお城から遠く離れたところに小さな村がありました。
村がお城から離れているために、冬の女王が季節の塔から出てこない騒動を知っている村人は一人もいませんでした。
当然、お触れのことを知っている人も誰一人いません。
冬がいつまでも終わらないので、村人も農作業を始めることができずに困っていたのでした。
その村に、少女が病気の母親と二人で住んでいました。
少女は、いつも近所の人の農作業を手伝い、その給金で何とか生活を繋げていました。
それでも生活は大変貧しく、日頃から食べる物に困っているほどでした。
このため、少女は農作業が始まる春が訪れることを心待ちにしていました。
しかし、一向に春がやってくる気配はありません。
このままでは、食べ物だけでなく、暖炉に使う薪にも困るようになってしまいます。
困り果てた少女は、春の女王を探しに行くことにしました。
少女は、春の女王を必死に探しましたが、どこにいるか見当さえもつきません。
国の中では、王様のお触れを見て、既に沢山の人が春の女王を探していたのですから、簡単に見つからないのは当たり前でした。
そこで、少女は夏の女王と秋の女王も一緒に探すことにしました。
二人の女王は、思ったよりも早く見つかりました。
少女は、夏の女王に会いに行きました。
燃えるような赤い髪と瞳をも持つ女王は、快く少女を迎えてくれました。
少女は、冬の女王が季節の塔から出てこない理由を夏の女王に聞きました。
夏の女王は、春の女王が季節の塔にやってこないからだと答えます。
季節の塔には、季節の水晶玉というものがあり、一日一回魔力を注がなければ、水晶玉は壊れてしまうのだそうです。
このため、冬の女王は塔から離れられないのだと言います。
夏の女王は、春の女王がもう季節の塔に行くつもりがなくなったので、姿を隠してしまったのだと教えてくれました。
もちろん、夏の女王にも春の女王の居場所はわかりません。
少女は、季節の塔へ行く方法も聞きましたが、あなたでは行けないわと夏の女王は答えました。
少女が挨拶をして立ち去ろうとすると、夏の女王は少女を引き留めました。
何かの役に立つかもしれないと赤い小石をくれたのでした。
次に少女は、秋の女王に会いに行きました。
黄金に輝く髪と瞳を持つ女王は、上品そうな人でした。
少女は、冬の女王が季節の塔から出てこない理由を秋の女王に聞きました。
秋の女王は、春の女王が季節の塔にやってこないからよと答えます。
秋の女王は、春の女王がもう季節の塔に行くつもりがなくなったので、遠くへと旅立ってしまったのだと教えてくれました。
もちろん、春の女王の居場所はわかりません。
春が来なければ夏にはなりませんし、夏が来なければ秋は来ませんから、夏の女王や秋の女王では、冬の女王を助けられないのだそうです。
少女は、季節の塔へ行く方法も聞きましたが、残念だけどあなたでは行けないのと秋の女王は答えました。
結局、二人の女王に会っても、解決の方法は分かりませんでした。
実は、夏の女王や秋の女王に会えばなんとかなるのではないかと考えた人は他にも沢山いて、これまでに何人もの人たちが二人の女王を訪ねて来ていたのでした。
しょんぼりとした少女は、挨拶をして立ち去ろうとすると、秋の女王は少女を引き留めました。
念のため、これを持って行きなさいと黄色の小石をくれました。
少女は、夏の女王からも赤い小石を貰ったことを思い出し、秋の女王に見せました。
秋の女王はそれを見て驚いて、もう一度夏の女王に会うように少女に勧めました。
女王が黄色の小石に触れると、小石は仄かに光りだしました。
秋の女王は、あなたならなんとかできるかもしれないわねと少女を見送ったのでした。
少女が、再び夏の女王を訪ねて光る黄色い小石を見せると、夏の女王も同じように驚きました。
夏の女王は、赤い小石を少女から受け取り、魔法の力を込めると赤い小石も仄かに光を放つようになりました。
夏の女王は、二つの小石をペンダントにして少女に手渡し、これであなたは、季節の塔に行けるわよと言いました。
女王は続けて、ペンダントを握りながらドアを開けるのよと言うのですが、少女には女王の言っている意味がよく分かりませんでした。
それでも、夏の女王の言うとおり、ペンダントを握りしめながら少女は外へと出るための扉に手をかけます。
すると、ドアの先にあるのは、外の景色ではなく、上の方へと続く石畳の螺旋階段でした。
夏の女王は、これが季節の塔の入口で、女王たちは好きな場所から塔に行けるのだと教えてくれました。
季節の塔は、いつも霧や吹雪などで入口が見えないのですが、それは魔法によるまやかしだったのです。
実は、そもそも塔自体が地面からそびえ立っているわけではないのでした。
夏にはまだ早いからと、夏の女王は塔の入口で少女を見送ります。
少女が長い長い螺旋階段を上っていくと、その先には椅子に腰かけた人影が見えました。
それは、冬の女王でした。
女王の横には、青白く光る大きな水晶玉がありました。
これが、季節の水晶玉です。
青い髪と瞳をもつ冬の女王は、とても疲れたように見えました。
いつもよりも長い期間、季節の水晶玉に魔力を注ぎ込んでいるのですから無理もありません。
春の女王が訪れない今、冬の女王が力尽きてしまえば、この国は滅びてしまいます。
冬の女王は、その重圧にずっと一人で耐えてきたのでした。
冬の女王は、少女の首のペンダントを見て、はっとしました。
女王は、あなたが新しい春の女王になってくださいと頼みました。
自分はただの村人だから、そんな大それたことはとてもできないと少女は断ります。
そんな少女に冬の女王は優しく語りかけます。
あなたは二人の女王に認められたからこの塔に来て、そして、私もあなたを認めたのだと。
あとはあなたの決意次第なのだと言いながら、冬の女王は光る青い小石を少女に差し出しました。
少女は、暫くの間悩みました。
それでも、自分の力でこの国を助けられるのであればと決心し、冬の女王から石を受け取りました。
すると、三つの宝石は眩く輝き、光が少女の体を包み込みました。
光が収まった時、そこにいたのは春の女王の姿となった少女でした。
新しく春の女王となった少女は、自分が何をすれば良いのかわかっていました。
春の女王は、季節の水晶玉に手をかざし、魔力を注ぎ込みました。
大地よ芽吹け 花々よ咲き誇れ
その瞬間、季節の水晶玉が若草色の眩い光を放ち、温かい春の波動が国一帯を包み込みました。
木枯らしを吹かせることに飽きていた風の精霊が、張り切って春一番を吹かせます。
長い間出番が少なかった太陽の精霊も、ここぞとばかりに雪を解かそうと頑張ります。
眠っていた木や花の精霊は目を覚まし、元気に遊び始めました。
この日、人々は春の到来を予感したのです。
春の女王は、春の間、季節の塔から離れることができません。
そこで、その間母親のことを冬の女王にお願いすることにしました。
冬の女王は、王様に申し出て少女が貰い受けるはずだった褒美を、少女の母親に渡るようにしました。
その褒美で母親は、良い医者に診てもらうことができるようになり、良い薬も買えるようになったため、元気になることができました。
その後も、少女は春を巡らせながら、母親と幸せに暮らしました。
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冬の女王視点の作品をハイファンタジーのジャンルで投稿しました。
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