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『黄昏』  作者: 花浅葱
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第一話

四年前に執筆した作品で、途中ですが残しておきたいと思い、投稿しました。

正直続きが書けるかどうか、分かりません。

もし、どなたか続きを書きたいと言う方がいらっしゃいましたら、書いて頂いても構いません。

「チッ…」


軽く舌打ちすると、直哉は着かなくなったライターを投げやりに放り投げた。


「どっかにマッチがあったはずなんだけどな…」


誰もいない部屋で小さく呟いた。


(最近独り言増えたな…)


今度は声に出さず心の中で呟いた。


「おっ!あったあった♪」


居酒屋の薄っぺらいマッチを一本もぎ取ると、指で挟んで勢いよく横に滑らす。

シュッ!という音と共に一瞬小さく、次の瞬間には大きくなったオレンジ色の炎が直哉の顔を照らした。

煙草の先に火を点けると大きく吸い込み、肺に行き渡るのを確認するかの様に僅かな煙りを吐いた。


「フゥー…」


目覚めの一服を堪能しつつ、少しずつボーッとした頭を起こしていく。

これが直哉の毎朝の恒例行事だ。


(煙草値上がりしたらどうすっかな?)


さすがに千円は出せねーよな…とか考えているところに携帯から、無機質な電子音が響く。

受信音は初期設定のままだ。

携帯を広げて見ると、


『今日の夜暇?』


と淡白な一言。

大学の友人の正彦からだ。

短くなった煙草を無造作に灰皿にねじ込むと、携帯の画面を見ながら顎に手をやった。


(何て返すかな…?)


実の所、直哉は正彦があまり好きではない。

正彦はいわゆる“チャラ男”ってヤツだ。

これだけ躍起になって生殖活動に励んでる男もいないんではなかろうか?と直哉が常日頃呆れている男だ。

彼にはすぐ『デキそう』な女が判るらしく、合コンの後は大概お持ち帰りだ。

そして彼からのメールは、大半がその合コンの誘いなのだ。

別に女に興味がない訳ではないが、直哉はチャラチャラと出会って軽く付き合えるような性格ではない。

従ってこういう誘いは面倒以外の何物でもない。


(しっかし後がめんどくせぇからなぁ…)


前に体調が悪いからと断ったところ、どこが悪いの?病院行ったの?学校来て大丈夫なの?と心配してるんだか嫌味なんだか、しつこく言われてウンザリした事がある。

直哉は渋々メールを返した。


『暇っちゃ暇だけど、何?』


一分もしない内に、正彦から場所と時間とヨロシクの一言が返ってきた。


(やっぱりか…)


溜め息をつきながら、また煙草に手を伸ばした。

煙りを吐くように嫌な事が全部出ていってしまえばいいのに…。

こういうちょっとした事が面倒くさい。

人と付き合う事は煩わしいと思いながらも、一人は寂しいと感じる裏腹な自分。


(俺もめんどくせぇーな…)


そんな事を考えながら直哉はフッと鼻で笑った。

不意にまだ窓を開けていなかった事を思い出し、くわえ煙草で勢い良くガラス窓を開けた。


「カァー!まっぶしぃ!」


微かな心地良い風を感じる、秋晴れの朝だった。


滅多にない一日休みを、直哉はゴロゴロと過ごした。

観てるのか観てないのか、無意識に点けっぱなしのテレビを眺め、お腹が空いたらカップ麺をすすり、呼吸するように煙草を吸った。

夜の予定がなければ出かける事も考えただろうが、何かあると落ち着かない直哉の性格上、無理な話だった。

そうこうしてる間に、合コンの時間が迫ってきた。


黒の長袖のTシャツに深緑のチェックのシャツ。薄いブルーのウォッシャブルジーンズ。

それが直哉の今日のスタイルだ。

おおよそ合コンに着ていく服装ではないだろう。

全くの普段着だ。

髪は短く、サッパリはしてるもののワックスを付ける事もなく、良く言えば無造作ヘアーと言ったところか。


(ま、いっか)


鏡の前で軽く髪をかき上げると、履き古したコンバースを履いて玄関を出た。


駅までの道は歩いて10分程。

細い路地をゆっくりと歩いて行くと、駅まで一直線の道に出る。

車がよく通る道の割にはそれほど大きな店もなく、コンビニや銀行位しか普段利用しない。

だが直哉は、東京でありながらどこか田舎じみたこの街が気に入っている。


(日が短くなったな…)


暮れかかる空を数秒見上げてから、直哉は駅の階段を降りた。


私鉄に乗り込み、20分程でもう目的地の渋谷だ。

この交通の便の良さも気に入っている理由の一つだ。


(ちょっと早過ぎたか…)


気が進まない割には時間はきちんと守る。

直哉はそんな男だった。


(いつ来ても好きになれねーな)


渋谷。

直哉は渋谷が好きではなかった。

いつでも人がごった返す街。

どこからこんなに人が集まったのかと思う程の、スクランブル交差点。

みんなで渡れば怖くないとばかりに、赤になってもノンビリと渡る若者。

人にぶつかっても謝りもしない人々。

ある種の無秩序が集まっているようで、直哉は好きになれないのだ。


ハチ公前で馬鹿デカいオーロラビジョンを見ながらボーッとしていると、ポンと肩を叩かれた。


「相変わらずはえーな」


振り向くと、ニヤリと笑う正彦が立っていた。


「ああ、早く来過ぎたわ」


正彦の顔を見ずにぶっきらぼうにそう言った。


『また気の重い夜が始まる』


直哉はそう思っていた。




〜続く〜


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