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嘲笑の弔鐘

魔法少女連続殺人事件(http://ncode.syosetu.com/n1871de/)

の後日譚にあたります。

本作だけでも楽しめますが前作を読むと主人公、二神進一郎に対する

理解がいっそう深まると思います。

挿絵(By みてみん)


 魔王ルシフェルの葬儀は海の見える教会でしめやかに執り行われた。

 悪魔たちの指導者として永年地獄に貢献し続けた魔王の最期を締めくくるには、いささかそぐわない場所だったが、せめてその魂ぐらいは故郷である天へと還してやりたいというルシフェル第一の配下にして盟友である悪魔バエルの配慮だった。


 美しいパイプオルガンの演奏の中、牧師が先導して遺族たちが入堂する。

 悪魔がこのような葬儀を行うことは前代未聞ではあるが、ルシフェルがかつて神の寵愛を受けた天使であることはこの場にいる誰もが知ることであり、喪主であるバエルの行為を表立って咎める者は誰ひとりとしていなかった。


 かつて大天使として天使たちから敬われていたルシフェルは、思想の違いから神の怒りを買い堕天したとされている。

 堕天使となり地獄へと流れ着いたルシフェルは、現地の悪魔や同じ境遇の堕天使たちと結託し、後の世に邪神と呼ばれる悪魔を御輿とした大軍団を結成。瞬く間に地獄を征服した。


 その目的はただ一つ。自らを追放した神や天使たちに戦争を仕掛けるための戦力を整えるためだった。


『すべては私を捨てた神への復讐のために』


 そう公言してはばからないルシフェルの、神に対する憎しみは暗く深い。天使でありながら誰よりも悪魔らしい悪魔だと当時を知る者は口々に語る。

 しかし、ルシフェルをよく知る盟友バエルだけは、常にそれを否定していた。


『あの御方の憎しみは愛情の裏返しだよ』


 バエルだけは知っていた。ルシフェルが誰よりも深く神を愛していたことを。だからこそ神が許せなかったということを。

 本当は、神と共に天に還りたがっていたということを。


「天にまします我らの父よ。願わくば御名をあがめさせたまえ」


 牧師により聖書が朗読される中、参列者が様々な想いを胸に賛美歌を捧げる。

 ルシフェルの死は極秘にされ、参列者は彼の親類とバエルの側近だけに留められた。

 そのカリスマで数多の悪魔を従えた偉大なる王の死は、いずれは白日の下に晒され、地獄に大きな混乱をもたらすことになるだろう。それを速やかに収束させる体制を整えるために、今は情報を伏せなければならなかったのだ。


「我らを試みにあわせず、悪より救い出したまえ。国と力と栄えとは、限りなく汝のものなればなり。アーメン」


 遺族たちの黙祷の最中、聖歌のオルガン演奏が厳かに鳴り響く。

 その演奏を教会の屋根の上から独り静かに聴く者がいた。


 年齢は四十路にさしかかった頃だろうか。まったく手入れのされていない不潔で伸びきった髪、乾ききりひび割れてかさついた肌。よれよれのシャツに汚れたジーンズを穿いた、まるで浮浪者のような格好をした中年男性だった。

 その男が他の浮浪者たちと異なるところがあるとすれば、それは首にかけられた十字架のネックレスと背中に生えた十三枚の純白の翼だけだろう。



 男は『神』だった。



 献花と共に遺族たちが故人に最期の別れを告げる最中、死者を弔う鐘が鳴り響く。

 その弔鐘ちょうしょうを聞きながら、神は――嘲笑わらっていた。

 正義も悪も、生も死も、この世のすべての事象がくだらないことだと言わんばかりに、ただ嘲笑っていた。

魔法少女連続殺人事件の反響を受け急遽プロローグのみ公開します。

前作での反省を生かしつつ更なるクオリティアップを目指しています。

主人公、二神進一郎の視点から不可能犯罪の謎を、前作を超えるスケールでお送りします。

不定期連載になりますが更新予定につきましてはブログにてご連絡いたします。

http://blog.fox.boy.jp/

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