日本語を学んで、頭が痛いこと
日本語。
アジア圏の黄色猿共が使う言語。メチャクチャ、覚え辛い。
「私はともかく、お2人がどうやって日本語を身につけたのかが気になります」
伊賀吉峰。この名は偽名であり、彼は中国出身のマフィアのボスを務めている。日本にも在籍しており、日本語は堪能である。
伊賀がこの言葉を覚えたのは仕事のためであった。その彼が尋ねた2人は、仕事とは思えないからだった。
「ふははは、それはもちろんアニメをより詳しく楽しむためじゃ!」
「完全な趣味ですか」
その1人は、キルメイバ・フレッシュマン博士。ロシアが誇る最高の科学者であり、”巨大化”の研究においては第一人者。
「…………」
「聴こえないフリですか?それとも、理解できなかったフリですか?」
くだらん、それが彼の回答でもある。だが、興味を持たれる質問に答えてくれる。
「あいつとの戦いを振り返るためだ」
「そうですか、そうですか。慈我に敗北した記録を保管するためですね」
もう1人は、ダーリヤ・レジリフト=アッガイマン。ロシア最強の”超人”。”魔天”と称される、世界最強の武人と謳われる人物。
彼の敗北を辿るには映像記憶だけでなく、言葉もまた必要となる。
ちょっとした過去の振り返り、言葉が少なくなるダーリヤをよそに。フレッシュマン博士は、科学者の欠片もない言葉を吐く。
「そうじゃ!ロボットアニメの再放送がそろそろ始まる頃じゃ!実験場でラジオ気分に流すぞぃ!」
”巨大化”の研究に深い興味を持ったのは、ロボットアニメや漫画による物が大きかった。空想の中に留まっていないと、子供の頃は夢に見ていた。そして今は、この現実に実在できると、証明するよう尽くしている。
一度、アニメの事になると、とにかく熱が入ってしまう。休息タイムのほとんどはロボット物の娯楽をしている。
「言葉が分かると楽しいのぅ。話し相手はやっぱり必要じゃのぅ」
「私とかですね?」
「それはない」
フレッシュマン博士の断然とする拒否。それに、あららっと、残念がる伊賀。
話を纏めると。
「日本語は理解すると娯楽が千倍楽しめるのぅ!アニメや漫画をよく楽しめる!!また、アキバでフィギュアを手に入れたいの!」
「言葉の通じ合いなんてどうでもいいんですか?」
「どうでもいいわい!なんで、クズ共の言葉を理解しちまう知恵に、カロリーを消費しなきゃならんのだ!!」
耳に届いた音、脳は無意識に翻訳してしまうだろう。言葉を理解すると、単なる雑音にしか聴こえなかった外国語も分かること。
「『爺、うるせぇ』『アニソンの音量を下げろ』『口ずさむの止めろ』……まったく、ふざけた事をほざく若者が多い。これらの言葉は翻訳できん方が良い」
「お前が悪いんじゃねぇか!!」
ついタメ口でツッコミを入れる伊賀。学ぶことで知りたい言葉が分かれば、聞きたくはない事も拾ってしまう。
「日本語が通じないと勘違いし、ワシに対して生意気にも、似非英語で注意する。『STOP、MUSIC』などと、下手くそな発音かつ文法もテキトーにほざきおる。日本語で言えっつーの。分かってなきゃアニソンなんて聴けんじゃろ。音楽でもつけるか」
「言われても守ってないんですけどー……音量くらい落としなさい」
この我欲。彼にとっては、自分以外の人間などゴミ同然なのだろう。どんなところでも自分のルールで生きる。
「やれやれ、ダーリヤさんは大変ですね。このバカ爺を右腕として雇っているのですから」
「この世は力と勝利、強さだろう」
「百利あります」
「こんな調子でも構わない。フレッシュマン博士はこの先の人類に到達している」
生真面目で軍人気質の強いダーリヤ。それとは変わった、デカイ事が何よりも好きなフレッシュマン博士。
ロシアの恐ろしさを語るにこの2人の存在はまず外れない。
ズンチャンズンチャン
「ふんふんふーん」
「……………」
「あの、フレッシュマン博士。なんでヘッドホンじゃなく、スピーカーなんですかね?」
自分の世界に入ると何も聴こえないらしいが、そんな状態に入れるのは実験中だけとフレッシュマン博士は思っている。
人との会話に飽きたら、トロピカルでエキセントリック、アンタッチャブルな奇奇怪怪なアニソンに耳を傾ける。ウザイ。
「そりゃ怒られるでしょ!?マナーぐらい学びなさい!」
「ふんっ、はっ、はっ!」
「無駄だ。伊賀。こーなったフレッシュマン博士は絶対に誰の言葉も聴かない」
ドン引きするような、あまりにも理解し難い2次元ソングを理解しちまう脳に、伊賀もダーリヤも溜め息をもらす。日本人は何を考えて、こんな言葉とこんな歌詞、こんなリズムを生み出すのだろうか。なぜ、作ったしが来る。
こーゆうのに嵌れるフレッシュマン博士が、下位に思えるくらいだ。
「多くの人間は好きじゃない」
「でしょうね」
好き放題にやるフレッシュマン博士に、溜め息がもれる2人。ヘッドホンにしないのも、寄ってくるなというキモチが多いのだろう。
「スピーカー、壊してくれません?」
「どうでも良い。そもそも、伊賀がくだらん話を仕掛けたのが悪いだろう?」
「困りますねー。日本語って、というか、日本人ってホントになんなんですか?バカなんですか?」
フレッシュマン博士の、話し合いを完璧に妨害する曲。この時ばかり、日本語を忘れたいと思ったことはない。そう感じる伊賀であった。
そして、フレッシュマン博士は音楽に合わせて踊り始める。
さすがにこれにはダーリヤも苛立ち、さっさとこの場から離れた。伊賀も、ダーリヤに付いて行った。
「あー、ようやく。行ったかのー。戦争を終えた後の事なんて、ワシにとってはどうでも良い事。戦争が始まってからにせぃ」
フレッシュマン博士は、実験室に足を運ぶのであった。無論、アニソンに合わせて踊りながら向かうのだった。
伊賀とダーリヤがからむと、あまりにもダーティな話になる事が多いので、フレッシュマン博士に清涼剤の役割を担ってもらいました。
彼等のほのぼのとした話は、こちらとしても新鮮ですねぇ。