出会い
宜しくお願いします
春は出会いの季節とはよくいったもので、僕が彼女と初めて会ったのは四月のことだった。
学校からの帰り道に普段なら寄らないような雑貨屋に気まぐれに入り、似合いもしないブレスレットを腕にはめ、悦に入っていた時、その子は現れた。
「‥‥可愛い‥。」
思わず口から出た言葉を慌てて拾い集め、もう一度彼女を見た。
黒色ショートで艷やかな髪、少し吊り目で泣きぼくろ、身長は僕と同じくらい、透き通るような白い肌のスレンダーな女の子。僕は一気に目だけでなく心を奪われた。
まるで芸術作品のような女の子。
脳内補完や過大評価ではなく、天使のようだった。
「何かお探しですか?」
「へ?はい?」
すぐ横には営業スマイル全開の女性が立っていた。
僕は一気に現実に引き戻された。
「あぁ‥。はい。このブレスレットいいなぁって‥思って‥」
「とってもお似合いですよ?」
「あぁ‥‥あ、ありがとうございます‥‥。」
「ブレスレットでしたらこちらのモノも今凄い人気で‥‥。」
店員さんの話を横目に僕は彼女を見ていた。
「‥‥彼女さんですか?」
「はい?」
「あちらの女の子、お客様の彼女さんですか?」
「ち、違いますよ!」
「あ、すみません。さっきから見られていたのでてっきり‥。」
最悪だ‥。なんという羞恥プレイだ。
「‥‥。」
女の子はこちらをチラチラ見ていた。気持ち悪がられたに違いない。もし訴えられたら勝ち目はない。この歳で前科持ちは嫌だ。そんなことを考えていたら
「‥‥あの」
気づいたらその子は目の前に居た。
「うえええぇぇえぇっぇ!」
取り乱した僕は思わず彼女から離れてしまった。
「‥‥えっと、会話の内容聞こえてました?」
口から飛び出しそうな心臓を必死で抑え、手汗を隠すためバックを両手で持ち、背中を流れる大量の汗を必死で堪えていた。
「会話?聞いてませんけど‥‥」
(良かったぁぁぁ!)
「すみません、変なこと言って‥」
「いえ、そんな事より少しいいですか?」
「ぁぁはぃ、どぅぞ‥」
「そのブレスレットお好きなんですか?」
「え!あぁはい、いいなぁって」
「私もそのブレスレット持ってるんですよ」
「え!偶然ですね!」
「というか丸井君だよね?」
「え?」
何でこの子僕の名前知ってるんだろう、しかし一瞬感じた恐怖心はすぐに吹き飛んだ。
「私、覚えてないかな?乾なんだけど‥‥」
「‥‥。」
事故に遭う一瞬脳が様々な事を考えるかのように、僕は今までの人生で「乾」とい単語の付く事柄をフラッシュバックさせた。そして思い出された。中学時代の同級生だ。
「‥‥乾‥佳代?」
「あ、覚えていてくれたんだ‥。」
僕の記憶の中に乾性の名前は一人しか居ない。中学時代の同級生で、陸上部だった。目立つ子ではなく、運動神経も良くはなかったと思う。
「え‥乾なの?」
「うん‥そうだけど‥。」
「何か‥‥分かんなかった。」
「え?覚えていたよね?」
「あぁー、そういう意味じゃなくて‥‥」
「?」
「雰囲気変わったよね‥‥」
「そうかな?」
「うん‥何か‥大人っぽくなった‥かな?」
「まぁもう二十歳越えてるからね」
「俺も超えてるよ」
「同級生だから当たり前だよー」
口に手を当てて息が漏れるように笑う彼女は本当に可愛かった。
小刻みに震える肩も女の子らしいなで肩で、とても繊細に見えた。
「あ、そうそう、ブレスレット。乾さんこれ持ってるんだっけ?」
「うん。それ、とっても綺麗だから気に入ってるんだ。」
「へぇ〜、俺も買おっかなぁ」
「きっと気に入ると思うよ」
優しく微笑む彼女があまりにも可愛くて、僕はブレスレットを購入した。
「ありがとうございましたー。またお越し下さいませー。」
お店から出ると夕方から夜に差し掛かっていた。
「ごめんね、何かブレスレット買わせたみたいになって‥‥」
「いいよ全然、乾と遭う前にこのブレスレット気に入ってたし」
「そっか、良かった」
「でも乾もこのブレスレット持ってるの?」
「え?あぁうん‥持ってるよ‥」
「そっかぁ、乾はセンス良いな」
「それ、遠まわしに自分のセンスも良いって言ってない?」
「バレたか」
「もー」
夕暮れのひと時をこんな幸せに過ごせるなんて思ってもみなかった。
彼女と駅で別れ、駐輪場で携帯が鳴った。
『今日はありがとう。楽しかった』
たった一行だが、僕は彼女からのメールを保護した。
以下 乾視点
「じゃあまたね丸井君」
「おう、気をつけてね」
「うん。ありがとう。」
「あ、そうだ」
「ん?」
「メアド‥教えてくれない?」
「おー、交換しとこっか?」
ピロリロリン
「ありがとう」
「じゃあ、今度こそ」
「うん、またね」
そう言って改札を通り抜ける彼を見送った後、私はさっきの雑貨屋に向かった。
少し小走りにお店に向かう。
お店の目の前に着いたら、もう店じまいの雰囲気だった
「あの、すみません、まだやってますか?」
「はい、大丈夫ですよ。あれ?先程来られましたよね?」
「はい‥」
「何か忘れ物ですか?」
「いえ、あの‥」
「?」
「これ‥ください。」
私は乾君と同じブレスレットを手に取って店員さんに見せた。
「あぁ‥ありがとうございます。1500円になります」
「じゃあ‥これで」
「はい‥五百円のお返しです」
私は邪魔にならないように直ぐお店を出た。
「ハァ‥ハァ‥」
息を切らし駅まで行き、電車を待つためにホームのベンチに座った。
「‥‥。」
茶色の小袋を開け、中のブレスレットを腕にはめた。
「丸井くんも‥つけてるかな‥。」
私はブレスレットを眺めながら電車を待った。
有難うございます